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三十一話

 今回も爺様に荷物を取りに来てもらっているので、車の荷台に荷物を載せてから魔石を換金してもらう。

 ついでだけどピラニアを数匹ほど売りつけるよ、貴重なサンプルだからね……また大量に手に入れてるけど。

 受付のお姉さんは驚いてたな、まぁ無理も無いだろう。こんな魚渡されても、ダンジョン産と言わないとなんだこれ? だよね。


「魚出した時はあっちの酒場で焼けって事かと思ったわよ」


 因みにピラニアにも魔石があるんだけど……小さすぎてないのと同じ、子供の小指の爪ぐらいの大きさ? それぐらい小さいから普通に買い取るとしたら微妙になるそうだ。ただ支部で色々研究材料にするからそれなりの金額を出してくれるみたい。

 って事で、ワニの魔石を三匹分を提出。ウルフ系の魔石はボスでもない限り現状安いから、切り札用に取っておく。


「前に売ってもらったワニの鱗を研究班が調べたんだけど、よく倒せたわね? あれ相当硬いでしょ」

「まぁ、色々と手を尽くしてますから」

「スコップ以外の武器も使う様になったみたいだけど……それ?」

「まぁそれもありますね」

「そっか、まぁ君なら大丈夫だと思うけど気をつけるのよ?」

「はい、ありがとうございます」


 どうやらあの鱗を調べた結果をみて結構心配されたようだ。今回も魔石を三個持ってきたしな、まぁ自分用に四個確保してるけど。

 五層について聞いてみたところ、どうやら連合を組んだ三つのパーティーが五層クリアしたようだ。どのパーティーも情報は手に入れたものの……実際その目で六層を見て唖然としたらしい。まぁ行き成りあんな広大な草原を見ればそうなるけど。

 六層はまたパーティー同士で連合を組めば戦いやすいと思うから頑張って欲しい。




 帰宅前に石川の婆様の所にピラニアのお届け。


「ほう……これが言っておったピラニアとやらか、さて弟子二号よ詳細なデータを取る為に研究室に運ぶのじゃ!」

「まぁそれ生け捕り出来なかったんだけどね、小さい魔石を持ってるみたいだから気をつけてね、婆様あとは任せるよ」

「食べれるかどうかも調べた方が良いじゃろう、うむ任せておくが良い」


 一緒にワニの魔石と素材も渡してから帰宅、正直あの研究にどっぷりな空気には馴染めないからね。彼等のお陰で装備やらなにやら充実してるのはありがたいけど……あの調査してる時の目は実に怖い。


 爺様に迎えに来てもらったので、今回も黒木夫妻にゆいの事を頼んである。

 居間では奥さんの真白さんがまったりとテレビ、まぁ僕に気がついたようだけど。


「お帰りなさい、二人はあの部屋よ」


 どうやらまたゆいと小父さんはスーパーボールで遊んでいるようだ。ゆいは解るが小父さん……何故そんなに夢中なのかな? とりあえず二人を呼びに行こう。


 部屋に入ると……飛び狂うスーパーボール、うん前より数増えてない? 数えたら七個も飛び跳ねてるんだけど? 取り合えず止めよう。


「二人共そろそろ止めて居間に来て」

「あ、お兄ちゃんおかえりー」

「お帰りだっと! キャッチ成功」


 やっぱり黒木の小父さんもこの村の住人だなぁ……挨拶に気を取られながらも後ろから来たボールキャッチしたよ。

 それを皮切りに、スーパーボールがどんどんキャッチされていってるな。ゆいは中々取れないか、なんとか一つキャッチできた感じか。


「うースーパーボールさん一つしか捕まえれなかったよ」

「ゆいちゃんもまだまだだな、今度コツを教えてあげよう」


 実に小父さんが得意げだ。ゆいもゆいで膨れっ面だったのに、コツを教えてもらえると解ったら一転して目を輝かせてる。まぁ楽しそうだから良いんだけどさ。


「取り合えず片付けて早く行こうよ?」

「おおそうだった、そうだった」

「はーい! 今行きまーす」


 今回も黒木夫妻を誘っての夕食だ、まぁお礼も兼ねてるからね。ただ流石にピラニアやワニ肉は出さないよ? 真白さんが吃驚しちゃう。


「ほぅ素材は普通だな、てっきりワニの肉とかピラニアが出ると思ったんだがな」


 あえて言いもしなかったのに、なんで声にだすかなこの小父さんは。そもそもまだ検査も終わってないんだから客に出すわけないでしょ。食べようとはしたけど食べてないしね!


「ん? 小父さんワニさんって食べるの?」

「そうだぞゆいちゃん、鳥さんのお肉に似た味がするんだぞ」

「ゆい食べてみたい!」


 うん別に食べてみたいのは良いが、今は出ないぞ? そんな目しても無駄だからな? それに小父さん、真白さんが目を白黒させてるよ? 後で確りとフォローしとこうね? まったく今は目の前のご飯に集中して欲しいよ、実に美味しそうなササミカツさんだよ。


 夕飯が食べ終わったらゆいの宿題のチェックをしながら七層について纏める。

 しかし七層……本当どうやって攻略させる心算なんだろう? いやそもそも、ダンジョンが人に攻略させる心算があると思うのが間違いか。一層ごとに難易度が上がっていくなんて考え捨てた方が良いか、行き成り高難易度なんて事も有るかも知れない。というか既に七層が高難易度だと思うんだけど。

 川にワニとピラニア、更に血の臭いを嗅ぎ付けるウルフと余り見ないけどゴブリンがいる。其処から次の階層に行くには川を渡らなきゃいけない、あのワニが門番の様に居てピラニアが大量に潜んでる川をだ。

 連合を組んでも六層はさっくり行けるかもしれないが、七層で足が止まりそうだな。水中のピラニアを殲滅する方法と川を渡る方法が必要と要注意事項にしておこう。


 さて八層についてだけど、見た感じ草の背丈が足首当たりから膝辺りまで伸びていた……正直これ危険だよね。

 DウルフやPウルフなら隠れようと思ったら隠れるはずだ、さすがにボスウルフは無理だろうけど。ゴブリンはどうだろうか? 伏せれば隠れるけど、銃やボウガンがないからまだマシか。兎にも角にも奇襲注意だな。


 次に七層ソロクリアのドロップ品で手に入れたのは魔本。魔本が二つでたら違う物が二つでて五層で何も無し、其処からまた魔本が二つだ。という事は次からは何かのアイテムが二つかな? まぁどちらにしても解読作業だね、結果は八層と九層をクリアすれば解るから。


「お兄ちゃん小父さんがねスーパーボールさんを殴って跳ね返してたんだよ」

「あー叔父さんなら出来るだろうなぁ」

「こう……びしっ! ってキックでもやってた」

「猪をまわし蹴りで気絶させるような人だしなぁ」


 今日有った事でどう考えてもツッコミを入れたくなるような内容を、笑い話にしながらゆいとまったりする。うん、かわいいので撫でる。相手をする時間が減ったからなんだろうな、こういう時ゆいは全力全開で甘えてくる。おのれダンジョンめ、二人の妹の為にも絶対上級ポーションを手に入れてやる。




 学校は少しずつ活気を取り戻してる、一時期に比べればだけど。一日の授業の内のお昼ぐらいで学校に来たり帰ったりの不規則だけど学生が戻ってきてる。カウンセリングルームも人が居なくなる事がない……が、そういった事を横に置いても学生が戻ってきてはいる。


「今日は昼からなのか?」

「うん、午前中は病院いってたからね」


 そんな会話がちらほらと聞こえるが、皆もなるべく負担にならないように絡んでいるみたいで、休んでいた学生が学校に戻りやすいように全員で環境作りをしている。

 国やら県やらも学生が戻りやすいようにキャンペーンなんてやってるみたい。国を挙げて大々的にやったら逆効果じゃないかな? まぁやらない選択は出来ないんだろうけど。

 何はともあれ、遅れた分の授業の事とか色々とあるけど少しずつ日常が戻ってきたって事だね……あれ? 僕って事件前は無視されてたよね? 今クラスメイトと普通に会話してるけど、これ日常が変化して戻ってきたって事かな? まぁコッソリと謝ってくる人も居るけど、あの時は僕が異端側だったからって事で水に流したよ。


「結弥君は随分と馴染んだね?」

「美咲さんがそう仕向けたんでしょ?」

「何のことかなー?」


 今では彼女も教室内で普通に会話に混ざってくる、そうすると女子がわらわらときて……男子が空回りの努力をしだして、うん涙が出そうだよ……その頑張りは逆効果だよ、なんで盆栽の大会で優勝したって自慢してるのさ! ってそこの女子さんは興味があるの、あぁそうなんだ。


「盆栽カップルが出来そうだな」

「ぐぬぬ……ウラギリ者メ」

「あの娘可愛いのに不思議な感覚だったのよねぇ」


 まぁでもこういう空気も悪くないよね? 失ったものが復活しだしたんだから。この調子で色々と戻れるものが戻れば良いんだけどな。


 学校から帰る途中で美咲さんに聞いた話。どうやら三人で二層ボスの部屋をクリアしたそうだ、まぁ元々一層のボス部屋だけ付き合う話だったしね。


「それじゃ、監修はお役目終了かな?」

「うんありがとうね? ただ偶にでいいから付き合ってもらって良い?」

「えっと……なんで?」

「ほら! あれだよあれ! 結弥君の戦い方って人がやらない事やるから参考になるというか、それを教えてほしいなと言うか!」

「あー……前にもおじさん達が言ってたからねぇ、「自分達の戦い方は美咲と合わない」って」

「そうそう、だからね特訓して欲しいというか感じかな!」


 ふむ……弾丸トークではあるが筋は通ってるか? 以前であれば面倒だと切り捨てた、最初の時はあの事件の後だったし、おじさん二人の勢いに押されたのもある。でも今は……係わりすぎたか、それに美咲さんのお陰でクラスメイトとの関係が改善されたってのもあるし。


「はぁ……ごく稀にでいいなら?」

「ありがとう!」


 前なら身内だけでよかったのにな? 何なんだろうね。取り合えず撫でておこうかな?


「って、自然に手が頭に行ってたよ!」

「色んな意味で、魔の手だね。まぁ不思議と心地良いから別に良いんだけど」


 うん、問題に為らないようで、お咎めはないそうだ……よかったのかな?




――おっさん(藤野父)――


 娘がダンジョンに潜ると言い出して私は大いに焦った、あの事件を知ってて言ってるのだから性質が悪い。

 娘が言うには「きっとダンジョンには従姉妹の行方を捜すヒントがあるかもしれない!」と、確かに時期を見れば関連性を疑ってしまうだろう。だがそれは確実と言うわけじゃない、何一つ時期というもの以外では判断できる物が出ていない。

 そこで私は義理の弟である信久君と娘の説得をし続けたのだが……一切引く事がなかった。

 結局は我々が着いていく事を条件にダンジョンに向かう事になったのだが。


 そしてダンジョンで娘に紹介された男子、白河君を見た時に気がついてしまった。

 

 私は白河君に絶対勝てない。


 その時から一気に私の中で彼を引き入れるべきだと考え動きだしたのだが……全てが空回りしていたのは事実だろう。

 娘の事、信久君の娘の事、ダンジョンにおける大事件の事。

 脳内に描かれるのは娘や姪がダンジョンで無残な姿になる光景だ。それが更に私を何時もと違う行動をさせる事に。

 ただただ彼との繋がりを持つためだけに行動する私の姿は、周りから見たらどうだったのだろうか? 信久君に聞いたら「最初は自分もそんな風だったけど、義兄さんが同じ行動をするからからかう側になっちゃったよ」などと言うではないか、そんなに滑稽だったか?


 まぁ彼には悪いが、私には美咲に教えてやれない部分を教えてやって欲しいと、半ば罠に嵌めた感じではあったが約束を取り付けられたので一安心した。

 一安心したら今度は羞恥心と罪悪感に襲われ、彼と再会した約束のボス部屋に行く機会では大暴走してしまった。普段はあんなに戦闘狂ではないのだがな、戦わないとやってられない思考に囚われていた。

 その後は信久君と相談して季節の贈り物を贈ったり果物を送ったり、少しでも礼が伝わると良いんだが。


 しかし白河君は何者なのだろうか? あの年であのような思考や戦闘ができる人は居ないと思う。もしかしたら、ダンジョンの対策の為に用意された何者かなのでは? などと思ってしまうのは少し疲れているからだろうか?

 まぁファーストコンタクトは色々暴走して失敗したので少し私は距離を置くが、娘はまだまだだから色々教えてやってほしい。とりあえず、今回は信久君の親戚が作っているイチゴでも送っておこう。

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