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二十八話

 爺様と帰宅する途中で石川の婆様に素材を渡したんだけど……弟子と一緒に狂ったように踊っていたよ。研究に開発が一気に捗るそうだ、前回の量では足らなかったみたい。

 まぁ今回渡した分でそれこそ実用化まで一気にいけるのかな? 行ってくれると良いなぁ。


 帰宅して家に入ると、黒木の小父さんの嫁の真白さんが迎えてくれた。


「おかえりなさい。お邪魔してるわよ」

「いえいえ、ゆいの事を頼みましたから、今日はありがとうございます」

「そうじゃのう、助かったわい」

「いいのよ、あーそうそう今ゆいちゃんね、あの防音機能がついた訓練室? で遊んでるわよ」


 ほう? 訓練室で遊んでる?


「うちの旦那も一緒になってはしゃいじゃって……まったく良い大人が楽しそうに遊んでるのよ?」

「それはそれは、一体何してるんです?」

「部屋にあったスーパーボールを避けたり打ち返したりしてるわね」


 あー……美咲さんから聞いて物は試しだと買ってきたやつか。障害物置いたりすると途端に難易度あがるんだよなあれは……まぁ呼びに行きますか。


「じゃぁ僕は二人を呼んできますね」

「あの人の事もよろしくね」


 二人を呼ぶために訓練室に入ると……すっごい楽しげだなぁ。


「ゆいちゃん右だ! 次は上から来るぞ!」

「はいおじさん! あー変なところではねたよ!」


 うわぁ、スーパーボールが四つほど飛び跳ねてるよ。


「……楽しそうだね」

「あ! お兄ちゃんおかえっ痛い!」


 あらま……スーパーボールが肩にヒットしたな、なんかすまん。


「おう、帰ったか。中々懐かしい遊び場を用意したんだな、童心に返った気分で楽しんでしまったよ」

「いえいえ、ゆいを見ていて貰いましたし、楽しんでもらったようで何よりです」


 うん、それはもうすっごく楽しんでたよね。


「じゃぁ爺様と真白さんが上で待ってるからここら辺で止めて貰って良い?」

「うん、お爺ちゃんにお帰りって言わなきゃ!」


 其の後はまぁお世話になったという事で、黒木夫妻を夕飯に誘って晩餐を楽しんだよ。

 話を聞くと真白さんのはそろそろ出産の準備にはいるそうで、ダンジョンが発生して以来だと命に関する話ではやっと明るい話を聞いたきがする。うん目出度い。




 そして今日はとうとうゆりが来る。ゆいは昨日の夜からそわそわしていた……多分スーパーボールを使い動き回って遊んでたのも気を紛らわす為だったんだろうな。

 今日も朝早くから起きてあっちへこっちへとうろうろしている。僕も少し落ち着けそうに無いな、うんこういう時こそ……爺様と裏庭で武器訓練だ! ……ゆいの事言えないなこれは。


 ゆいが見てる中爺様に指摘されながら武器を振るう……ん? 車がこっちに向かってくる音が聞こえるな。どうやら来たみたいだから、ここら辺でやめて置くか。


「来たみたいだね」

「ゆ、ゆいお手洗いいってくる!」


 緊張しすぎじゃね? まぁ汗拭いて玄関まで行こう。うんタイミングは良いみたいだ、丁度車から降りてきたな。


「おじゃまします義父さん。結弥も久しぶり」

「お父さんお久しぶりです、結弥も元気そうでよかったわ」

「ようきたの、道中何事も無く着いてよかったわい」

「久しぶり、二人も前見たときより調子がよくなったみたいで」


 うん、ゆりは……まぁ何を話したら良いのか解らないんだろうな。母さんの後ろに隠れてるよ。


「それにしても、ゆいは如何したんだい?」

「ああ……もう少ししたら来るんじゃないかな?」


 流石に緊張しすぎてお手洗いなんて言えないよね。


「ま、居間におればくるじゃろ、先ずは上がるといい」

「はい、おじゃまします。ほら、ゆり」

「えっと、お、おじゃまします」


 こっちもがっちがちに緊張してるな。こういう時ゆいが居たら一気に雰囲気変えてくれるんだけど。とりあえず、僕は少し逃げよう! お茶とお菓子を持ってくるって建前で! 多分だけどゆりに関しては、僕が居るから話の切っ掛けが掴みづらいみたいだし。


「じゃぁ僕は、少し台所行って来るよ」

「あら? なら私も行くわ」


 ふむ、母さんが着いてくるのか。まぁ前回の時には話せなかったから丁度いいのかもしれない、どうやら母さんもその心算みたいだし。


「結弥……あの時はごめんね。感情的になってしまって」

「いや、僕も結構色々言っちゃったし」


 結局あの時は僕も母さんもゆりの怪我を見たことによって感情をぶつけ合ったんだ。僕はもっと話を聞けよと言う思いで、母さんはもっと強く説得してよっとあの時はそんな思いで反発しあった。

 逆に言えば、僕は説得できるだけの言葉を持てず、母さんは他で聞いた言葉を信じてしまった。

 その事に関してお互い受け止めた、それなら後は如何するか……ダンジョン発生以前の態度で普通に会話だな、それが一番重要だと思う。


「取り合えず、お湯沸いたからお茶入れておやつと一緒に持って行こうか」

「そうね。お茶請けはなにがあるかしら?」

「羊羹かな、昨日の内に買ってきたから」

「そうね……なら紅茶かココアかしら?」

「いや……そこは抹茶か緑茶じゃ?」


 うん、この独特の感性をゆいは受け継いだんだな、今川焼きに紅茶だったし。

 まぁ、幾つかお茶の種類用意したし持っていこう。


「お茶もってきたよ」

「あ、お兄ちゃんお帰り! おやつさんはなに?」

「羊羹だよ、お茶はどれが良い?」


 まぁ選んだのは母さんと妹二人は同じ物を選んだとだけ、うん僕は普通に緑茶だよ。


「お兄ちゃん、お母さんとお話した?」

「うん、一緒にお茶入れた時にね」

「じゃぁ次はゆいがお母さんとお話するー」


 そういいながら母さんに突っ込んで行ったか……さて父さんは爺様と話をするみたいだし、ゆりと会話か、さて何から話をするかな?


「兄さんいいかな?」


 あら? ゆりから話かけてきたか、さてどうなるやら。


「いいよ、何かな?」

「あの時さ……兄さんの話を聞かなくてごめん」

「あぁあの時はなぁ……一般的に見て僕の方が普通じゃない、そんな判断されるような状況だったしね」


 右向け右で左だ! って言ってたようなものだしな。それに……ゆりはその身で代償を払う事となったんだ、妹自身が一番理解してる。


「それでもだよ」

「そっか、まぁ僕が付いて行ってあげたら良かったんだけどな」

「それは……無理だよ。今なら解るけどあの時の私が兄さんと同行なんてしたら、二人とも行方不明扱いになってた。きっと私が話を聞かずに反発心で勝手に行動してたからね……兄さんもそれを危惧してたんでしょ?」


 ばれてーら。まぁだからこそのデータ収集だったからな、話は聞かないけど何処かで冷静になって、ノートに少しでも目を通してくれればって思ったから。


「あのノート。ダンジョンの事が書いてあったんじゃない?」

「まぁね」

「そっかぁ……今度読ませてもらっても良い?」

「潜る気か?」

「いやそれは無いかな、ただ読んで見たいなって思っただけ」

「まぁそれなら良いけど、後で持ってくるよ」


 少し昔のゆりと居る気分になるな……はっ! つい手がゆりの頭に! ふむ? 嫌がってるそぶりないからまぁいいか。


「こういうの、なんだかすっごい懐かしいね」

「だな」


 後は当たり障り無く、日常的な話をしつつ全員集合。ダンジョン発生以前にあった当たり前の光景をまた見れてよかったな。うん、ゆいとゆりが楽しげだ。


 今日はお泊りをして明日に三人は帰るみたいなんだけど、特にハプニングも……なんで、親子四人がスーパーボールルームで遊んでるんですかね? ゆり大丈夫なのか? それがリハビリの成果? 寧ろ修行してたんじゃないのか?


「こういうのも懐かしいな!」

「えぇ、子供の頃にアナタとよくやってましたね」


 やってたんだ……娯楽少なかったのかな?


「お姉ちゃん下だよ!」

「ゆいありがとう!」


 姉妹の協力プレイが異常です……僕はなんでスーパーボールを投げて壁にぶつける役をやってるんだろうか?


「爺様……如何いう光景だろうねこれ?」

「まぁ離れておった時間を埋めるには良いんじゃないかの? ゆりにも適度な運動で……適度かのう?」


 爺様と二人で疑問を浮かべる時間だけど、まぁ楽しんでるならいいか。しかしこういう光景をみると……早いこと上級ポーションを取りに行きたいって焦ってしまうな。うん、脳内のクールダウンしなければ。

 夜は夜で、ゆいとゆりが一緒に寝るみたい。父さんと母さんは一緒。僕は? もちろん一人ですよ、いくら妹が可愛いからって挟まれて寝るような真似はしません! って誰に言ってるんだろ。



 

 朝起きて身支度をしてから挨拶をしに行くと……ゆいとゆりが既にスーパーボールで遊んでいた。朝から元気だな! 気に入ったの!?


「なんだろう……おはよう? 無理するなよ?」

「「おはよう! って危ない!」」


 うん、二人共挨拶に気を取られてぶつかりそうになったね……スーパーボールじゃなくてお互いに。


「ねぇ父さん。あれいいの?」

「まぁいいだろ、偶にはな」


 そんな風に理解ある感じでいっても、顔が結構呆れながらも楽しそうな表情だよ? ほら母さんも、朝から良いもの見てるわぁって顔しないで、朝食があるから止めようよ?

 うん、結局僕が途中で止めてからご飯だよ、妹二人は物足りないと言わんばかりのお顔だったけど。


「まったく……程々にするんじゃぞ?」


 そんな爺様のお言葉により謎の盛り上がりは落ち着いたけどね。そして、食後はゆいとゆりが母さんを連れまわして遊んでいる。なら父さんはといえば……。


「(ダンジョンの)調子はどうなんだい?」

「問題ないよ。今は次の対策を考えてる最中かな」

「目当ての(上級ポーション)は手に入りそうなのか?」

「それは解らないかな。まだまだ先の事だし、あれを見てもっと早くって思っちゃったけど」

「すまんな、私には出来る事が無くて。まかせっきりになっている」

「しかたないよ、三人で生活しながらゆりの病院費とかいるんだし。父さんが動いたら家計簿が火の車になるでしょ?」


 ダンジョンの事を話しつつ何故か重要なキーワードに触れない。なんだかそんな感じで話すようになっちゃったんだよなぁ……なんでだろ? やっぱお互いが最初に言わなかったからかな?

 そんな感じで時間が過ぎていき……帰宅の時間になると、ゆいとゆりがわんわん泣いてる。


「まぁまぁ二人共、今日で最後じゃないんだから」

「やだ! お姉ちゃんは今日も泊まるの!」

「私もゆいと離れたくない!」


 ……なんとも美しい光景とでも言えば良いのか? まぁ離さないといけないんだけど、なんだか悪役の気分になるなこれは!


「ほら、また会いに行ったり来たりすれば良いんだから」

「うー!」

「ほら、うーじゃないでしょ」


 うん、説得に少し時間がかかったけど。なんとか落ち着かせたよ? 落ち着いたよね? 涙目で睨まないでほしいなぁ。


「ほらゆい挨拶は? 三人とも気をつけて帰ってね」

「また来るのじゃぞ」

「……ゆい待ってるからね」

「あぁ、お義父さんも二人も怪我や病気に気をつけるんだぞ?」

「また来ますね」

「……ゆいー! お姉ちゃんがんばるから! 今度はボールの数増やすわよ!」

「……うん! ゆいも沢山とっくんしておくね!」


 ……ゆり、それは別れ際にどうなんだ? ゆいにしても、まだボール増やす気なのか。

 ちなみにノートはゆりが持って帰るようだ。ゆっくり読みたいらしい。


 三人が帰って家の中が静かになった。うん、ゆいもしょんぼりしてる。


「ゆい特訓するんだろ? そんな風じゃ次あった時お姉ちゃんに付いていけないぞ?」

「うん……ゆいちょっと行ってくる!」


 少し強引だけど、まぁ今はこれでいいかな? 落ち込みすぎてても良くないしね。


「それにしても、予想以上に上手くいったのう」

「そうだね。はぁ……本当、僕は考えすぎてたのかな?」

「それだけ時間が必要だったと言うことじゃよ」

「そういうものか……」

「そういうもんじゃよ」


 爺様は時間が必要だって言うけどどうしてなんだろうって思ってしまう。はぁ……本当色々と足らないなぁ、何時になったら爺様に追いつけるんだろ? 追いつけるのか?

 取り合えず僕も特訓かなぁ、取り合えず武器を振ってこよう。


 わぉ……なんだろう? 調子が良い感じなのかな? 武器を振るう感覚が嵌ってるよ、今までと違ってスムーズに動けるな。

 爺様曰く「三人と話をして精神的な壁を一つぶち壊したんじゃろ」との事だ。魔本も何だかすらすら解読できるし……こんなにも精神的な壁の有無って違うんだ。よーし! 次のダンジョンを潜るまでに、武器も魔本も身につけるぞ!




 その日は余りにも寂しがるゆいをじいさまと僕とで川の字になって寝たよ。爺様が提案したから問題はないよ!

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