二十七話
石川の婆様にワニの素材について相談。上手く手に入れれたしね、鱗とか防具に良さそうだ。
「ふむふむ、これがそのワニの鱗かの。とりあえず強度や温度変化にどれだけ強いか調べてみておくぞい」
「うん婆様頼むよ。良い感じなら防具に仕込んである鉄板代わりに良さそうだし」
「となると打撃としても使えるか調べるのがよさそうじゃな」
「まぁ全部となると素材数が足らないから、とりあえず研究重視で」
「わかったぞぃ、徹底的に調べてみようぞ……クックック」
何だか楽しげだ……研究好き過ぎるよね婆様とその周囲は。まぁお陰で良い武器や道具を使えるからありがたい話だけどね。
家に帰ってから爺様にワニとピラニアの話をして対策会議。
「やはり数が問題じゃのう」
「爺様もそう思うよね」
問題は数で、しかも水中の敵だ。さらに、川縁にワニというガーディアンが大量に居る。
「投網だとどうなるかのう?」
「良い素材を使えばピラニアは何とかなるかもしれないけど、ワニに潰されるんじゃないかな?」
「ワニに破られるか、であれば川には岩とかそういった足場に出来そうな物は無かったのかの?」
「全くなにも、川縁も土だったし」
「ふむ、普通の川では禁猟のやり方じゃが、大石とかが無いのでは石打漁は出来んという事かの」
石打漁か……確かハンマーで岩やら石やらを叩いて魚を気絶させるんだっけ? 日本の場合殆どの河川が禁止してるって話だったな。……ふむ、石打漁か。
「今解読中の魔本が土というか石とかそれ系だったら、川に石つくってガン! って出来るんだけどなぁ」
「それは少し望みすぎじゃろ。まだ解読中なんじゃろ?」
「まぁねー、どうも火じゃなさそうだなって感じしか」
魔力が途切れるまで火をぶち込んで……ってのもありかな? まぁ火魔法持ってないから言っても仕方ないけど。なら油まいて火をつける? 意味有るのかな? 無いだろうなぁ、没案にしよう。
「とりあえず道具の方は此方で考える、ゆー坊は魔本の解読と魔法の使い方で何か出来るか考えるとよいぞ」
「解ったよ爺様。魔法に関しては僕しか出来ないしね」
「さてと、そろそろ切り上げておくかのう。ゆいがちらちらと此方を気にしだしておるぞ?」
「おっと、もうそんな時間か」
ゆいが期待しながらまってるな、随分と待たせてたみたいだし。接待のお時間だ!
とは言え、何か特別な事をする訳でもない。一緒に夕飯作ったり、デザート食べたり、宿題を見たりと、別に何時も通りの行動なんだけどね。
「お話は終わったの? 今日はね、ゆいね、なぽりさんがいい!」
「うん、ナポリタンな。まぁ材料はあるから作るか」
「わーい、一緒に作るー」
ちなみに材料はたまねぎとウィンナーと粉チーズ。ピーマンは入れない! 異論は知らない! 好き好きでいいじゃない。
……今日狩って来たワニ肉いれたら美味しいかな?
「まったくもー! お兄ちゃんなんて物いれようとしてるの!」
「いやまぁ……ちょっと冒険したくなって?」
「なぽりさんにはわにさんを入れたら駄目なんです!」
「ごめんごめん」
ちょっと美味しいかな? って疑問に思って入れようとしただけなんだけど。
「ゆー坊も時々面白い事をしようとするからのう」
「まぁ、気になるじゃん?」
「ふむ……確かにどんな味がするか気にはなるのじゃが……成分検査して食べれるかどうか調べてからじゃろ」
「あー……確かに其の通りだった」
冒険心が先走りすぎたな、気をつけねば! でも、やっと食べれそうな素材だよ? 狼にゴブリンなんて……食べたくないよ。
楽しく夕飯を終えてからデザートを堪能しつつ、ゆいの宿題を見ながらメモを整理するんだけど……ワニにピラニアの事だ現状整理不能です! って事でピックアップ事項だけを書いて放置。
続けて魔本の解読作業。あーこれ攻撃系じゃないな……支援? 支援系か、そうなると此の文は……身体能力アップか。
……あれ? これって地味すぎるけどかなり当たりなのでは? これは結構楽しみだ。
さて七層に突入。目的は素材集めなんだけど……なにやらワニと狼とゴブリンが三つ巴の戦いをしてる。
「前にゴブリンとウルフを争わせた僕が言うのもなんだけど、ダンジョンって一体何なんだろう……ダンジョン内のモンスターって、お互い争わないってのがラノベとかのお約束だったのになぁ」
まぁ人が作った物語の話だし違いは沢山あるのは解ってるけどさ。それでもこうね思うところが出てきちゃうよね。
「さてはて、あれに介入する気にはならないし……投網でも試して見ますか」
爺様との話の時にワニの存在があるから無理じゃないかって話はしたけど、試さないなんて事は無い。可能性が少なくてもってやつだね。
「って事で……どこからやろう? 下手に川縁に行けばワニがまってるよね。とりあえずチェックか」
双眼鏡で確認した後に石を投げ入れてみる。其処ではたっと気がついたよ!
「風魔法つかえばいいじゃん……空気受けつけてっと」
風魔法で飛ばして、風魔法で網をパラシュートのように広げる。うん、出来ちゃったね。
「よしよし、後は引っ張るだけだ」
じわじわと引っ張ってってかなり重いな……大量なのかな? そんなにピラニアが居るの? って……あれ、中に入ってるのワニもいるじゃん!
予定外だよ。でもまぁ地上に引っ張り込めば! 思いっきり引っ張るぞ。
「一体どれだけ入ってるのさ! 重すぎだよ」
思わず愚痴がでる。あー外からワニが網に喰らいつきだしてるな……中のワニの鱗に網が! 網が!!
あー……破れたかぁ。
「まぁ網が破れるのは予想はしてたけど、予想外の事が起きて予想内の終わり方だったよ」
まぁ投網は駄目って事だね。次は……ピラニア素材も欲しいから一応持ってきた釣り竿! 先ずは組み立ててっと。
でも大丈夫かな? 取り合えずやってみるか、餌はウルフのお肉の欠片をっと……血をべったりとつけて……シュート! ……早いなもう喰らい付いてるけど、針飲み込んだ? まぁリール巻いてみるかって暴れすぎだろ! めっちゃ糸出て行ってるんですけど!
「ぐぬぬぬぬ! これ釣るのもしんどいぞ、竿折れるんじゃないか? って、違うピラニアが糸噛んでるぅ!? やばいやばいって、あーーーーーーーー……千切られた、食い千切られたよ」
こりゃ、投網も釣りも駄目かぁ……研究と素材用にピラニア欲しかったんだけどなぁ。しょうがないからワニを狩ろう、やり方は昨日のやり方だ。
ウルフの肉塊で吊り上げて、窒息させてから口を開けさせて、鉄串で狙撃だ。
オマケにたっぷりと素材を持って帰れるように、折りたたんだ袋を幾つか持ってきたよ!
「ってことで、実に申し訳ないが……ワニ君素材を貰うよ」
とはいってもワニは其れなりに大きいサイズだ、そう大量に狩る必要もない。そういう訳で解体する事も考えて、ニ匹か三匹ぐらいかな? では、レッツ素材回収!
ワニを一匹釣って対処して解体。うんやってる事はハメ技みたいなものだ如何という事は無い。
解体に関しては穴を掘って、其処に血と持って帰らない物を入れてから穴を埋める。少しでもウルフ達に気付かれないようにする為だ。
二匹目も同じ処理をする。よし良い感じに素材がたまった……もう少し爪とか欲しいか。
三匹目……同じ方法で討伐。解体作業もって……ウルフ共が嗅ぎつけたか。
素材を前にウルフとにらみ合う、さて如何するか。こいつらってワニに食われる事はあっても、ワニ食った事ないよな? あるのか? 生存かけて戦ってたやつは見たことあったけど、どちらかと言えば逃げる為に戦ってたよな。
なら……持ち帰れない分の肉と内臓を纏めた物を、スコップですくってから投げつける! うん、食い付きがいいな、ならもう一回! 今度は少し離れた場所に! 良い感じに不要素材を処理できた? まぁ狩っておいて、素材を残すのは気分が悪かったからよかった。敵対するモンスターとは言え食ってくれるなら大歓迎だ。
さてと……今のうちにすたこらさっさと撤退しますかね。
「……白河君お疲れ様。それ凄い荷物だね」
「お兄さんお疲れ様です。これは一応研究素材? です」
まぁ驚くよね、両手に一杯素材を詰め込んだ袋鞄もってるから。
「それ、どうやって持って帰るんだい?」
「爺様が車で来てくれるので大丈夫です」
「ならいいけど……君はかなりの確率で驚かせてくれるね」
「あはは、まぁ色々と気になる事に遭遇したりしますから」
お兄さんと会話を終えてから、爺様と合流して車の荷台に素材を載せておく。
「しかし大量じゃの」
「うん、石川の婆様も喜びそうだよね」
「狂喜乱舞する姿が想像できるわい」
そんな話を爺様とした後は魔石の換金をしてから、ワニの鱗と血を協会にサンプルとして売りつけておく。婆様が調査してるとは言え、それが協会に流れたとしても自分達で調べないと納得しないだろうから。こういったかなり脅威になる敵の特性は、早めにその情報が広がった方が良いからね。
お姉さんも吃驚してたけど。まぁ気にしない方向だ! 後はもう爺様と一緒にお土産を選んで帰宅だ!
――協会本部――
「さて諸君。定例会議を始める」
都心にはダンジョン協会の本部がある。今日は各支部からその長が本部に出向き、現状報告や今後についての方針を話し合う会議の日だ。
「うちの支部では、四層を攻略した者がでてきました。漸くといった所でしょうか」
「我支部においては、五層で少々被害を出してしまいまして、死者は出なかったのですが……怪我人多数で少々攻略が遅れそうです」
「私の所は少し面白い物を見つけたわ、モンスター素材を調査した結果……なんと、高性能な木炭になる事がわかったわ、いえあれは寧ろ石炭に近いだけの火力を出せる物よ!」
「羨ましい限りだな……あぁ俺の所はなんの変わりもないぞ? 前回と一緒で五層攻略で足踏みしてやがる、全く連携のれの字も取りやしねぇ。兵部の旦那の所は連合組んだんだろ? ちょっと詳細を教えてくれよ」
「私の所ですか? まぁ連合は組みましたが逆にそれが問題にもなってまして……」
その様な会議ではあるが、どこも似たような報告ばかりなのは、探索済みの階層状況から見て仕方ない部分だろう。……一部を除いてだが。
「……っと言う訳でして、そろそろ彼の情報に対して報酬を決めるべきだと思いますが?」
「兵部支部長……しかしだな前例が無いのではどうしようもないだろう?」
「ひっひっひ……本部長少々よろしいでしょうか?」
本部長が消極的な対応を取ったところに、実に胡散臭い雰囲気を持つ男が口を挿んできた。兵部からみて、どうしてこの様な男が支部長の座に居るのか理解できないタイプだ。
「石鷹支部長か、何が言いたいのかね?」
「ひひ……いえね、兵部支部長の話には全く意味が無いのではと」
「なんだと?」
「おぉ怖い、その様に睨まないで頂きたい。なに、その少年とやらが持ち込んだ情報など、直ぐにでも手に入れられたと言っているのですよ」
「しかし、最初に話を協会にしたのは彼だ」
「ひっひっひ、自衛隊や警察がはたまた国が情報を落せばすぐだったでしょう? まぁ落す事はありませんでしたが、それを踏まえても協会側で色々調査していたはずです。」
「だからなんだ?」
「彼は何処からかその情報を手に入れたのでは? と言ってるのですよ……ひひ」
まるで何処からか情報を抜いてきたと言わんばかりの言い方だが……その実ただのいちゃもんである。この男は自分の所以外の支部が手柄を上げるのが気に食わないだけだ。さらに此の件は協会全体の利益に繋がる、故に石鷹という男からしてみれば到底許容できる話ではない。
「貴様はこの話が協会にとって、どれだけ利益になるのか解って言ってるのか?」
「ひっひ、理解しているからこそ、その情報の出所を確りと調べるべきだと言っているのですよ。それが出来ないのであれば……本部に頼らず支部で報酬を払えば良いのではないですか?」
「……本当に支部が独自で払っても良いのだな? 本部長どうなんですか?」
「そうだな……決を採るべきだな」
こうして協会本部にて、結弥への報酬がどうなるかの決が取られた。その結果が今後如何響くかは現状では知る余地もないのだが、それでもこの件は協会にとって後の方向性を決める事となる。
「決まったな、報酬に関しては……」
どうなるにせよ、また一つ組織の流れが決まったようだ。
誤字報告にブクマ・評価・感想ありがとうございます!




