二十五話
寝過ごしそうになった! 魔本をゆっくりと言いつつも解読してたら楽しくなってきて、ついつい遅くまで起きていてしまった。まぁそれでも解読終わってないんだけどね。
「お兄ちゃんおはよう! なんだかおねむさんだね? 大丈夫?」
「ゆいおはよう。うん大丈夫だよ、少し寝なかっただけだから」
「ちゃんとおねんねしないといけないんだよ!」
「そうだね、次から気をつけようかな」
「むー……何だか次もやらかしそうな気がするんだよ?」
疑われてる……まぁ仕方ない。魔本解読以外にも本を読み出したら止まらないからな……いつの間にかに朝になるなんて良くある事だ。
「二人ともおはよう。ゆー坊は……まったくしかたないのう」
「あはは、爺様おはよう」
「お爺ちゃんおはよう! お兄ちゃん全く直す気がなさそうなんだよ!」
「まぁまてゆい、僕にも色々やる事があるから」
「体調さん崩したらだめなんだからね!」
まぁ心配かけるのは良くないんだけどね。魔本に限っては生死に直結するから……と言えないのが何とも。
さてはて、使えるカードが増えてくれると良いんだけど。
そんな朝だったからか、今日は一日学校で眠たかったな。
まぁそれでも……何時も通り何事も無かったので、そのまま協会に走り込み。だって男子が追いかけて来るから! もう日常になってきたなぁ。
そんな訳で、協会で六層のデータを提供なんだけど……お姉さん顔怖いよ?
「はぁ……六層がこれなら白河君が言ったように今の状態は危険ね」
「でしょ? 制限が無くなったフィールドでの探索ですからね」
「支部長どうしましょう? 方向感覚が狂い地図が通用しない場所です、ストレスを起こしたりして人同士の争いにでも発展したら……」
「ふむ、問題は探索するのが一般人と言う事だな。これが自衛隊や警察であれば規律なりなんなりで縛れるのだがな」
「一般人ですからね、五層で言い合ってる彼等に、話し合いが出来る場でもつくりましょうか?」
「本人達に解決させるしかないか……品川君、会議室のキープをしておいてくれ」
「はい、全員に聞き取りをして丁度良さそうな日を見繕っておきます」
まぁ組織が仲裁するような事じゃないんだろうけど、まどろっこしいと感じるのは僕がまだ高校生だからかな? まぁ口を出す事じゃないか。
「しかし六層は……人型か、下手をしたらダンジョンを潜る人が減るな」
「白河君も潜った初日は特に白い顔してましたからね」
「想像以上に辛かったですね。今も慣れた訳じゃないんですが、ゴブリンはモンスターだと割り切れるようにはなりました」
「普通に生活していれば、対人訓練や教育を受ける事は無いからな」
「支部長……如何しましょうか?」
まぁ問題だよな、対人訓練を受けたりしていた人たちですら止める人が居たんだから。
「計画だけは色々と考えておいて……最初は様子を見るしかあるまい」
「後はカウンセラーの準備でしょうか?」
「あぁそれも必要だな、対策チームを今から作っておくか」
「では、そのように」
目の前で次々と決まっていくなぁ……この判断力が無いと支部長なんて出来ないんだろうな。まだダンジョンを一般公開して一年も経ってないのにね。
「さて次の話だが、二桁それも二十五匹のゴブリンの群れがこの階層のボスであり、全部倒さないと行けないという事だが」
「はい、僕が戦ったのは二十五匹でした」
「ふむ、確定ではないのだね?」
「まだ一度しか戦ってませんし、正確に数えたのもその時でしたので」
「なるほど……であれば、もっと人数が多い可能性もあるわけか」
「それはなんとも……ただ、普通に出てくる敵にしても二~八匹とかなりランダム性があったので」
此の場合、僕が戦った二十五が何処に当てはまるかで変る……八匹とイコールであれば問題ないが、二や三だとしたら……その上限はどうなるんだろうか?
「先ずは野鳥の会ではないが、そういった感じで人数調査からやらねばならんな」
「双眼鏡は使えるので、但し入り口から百メートルほど離れないとモンスターは確認できません」
「資料にも書いてあるが……双眼鏡か。望遠鏡でも大丈夫だろうか?」
「その当たりは何とも、大荷物になりますし」
「白河君はソロで潜ってますからね。支部長、彼に頼むのは無理ですよ?」
「解ってる。それよりも彼には七層を調べてもらった方が良いだろう?」
できれば早くその立ち位置から解放してください。今五層でごちゃごちゃやってるメンバーをどんどん奥に! 願いよ支部長に届け!
「その様な熱の篭った目線で見なくても、君には七層をお願いするから安心したまえ」
ちっがーーーーーーーう! そんな目線じゃないよ! でも口に出来ないこのもどかしさ! まさに、ぐぬぬってやつだよ。
「後はウルフモンスターに気をつけろ……か」
「あ、はい。そうですね、あいつ等どうも血の匂いを嗅ぎつけるみたいで」
「思わぬ不意打ちを喰らう可能性が在ると言う事か」
「もしくは連続での戦闘ですかね」
「下手をすれば休む暇もないのね……白河君は如何してるの?」
「僕の場合はソロなので気が楽ですよ? 匂い玉を投げるとか、最初から遭遇しなさそうな位置で戦うとか、罠を張っておくとか、如何とでもできますし」
「なるほど……それが単独の強みか」
「自分とモンスター以外気にする必要がないですからね、良いのか悪いのか解りませんが潜ってる場所も他に人居ませんし」
「単独もデメリットしか無いと思っていたら、金銭以外のメリットも大きかったのね」
「全てが自己責任ですけどね、怪我したら救助してもらうなんて出来ませんし」
まぁ六層で重要な事は説明できたかな? 後は資料を見ながら会議してもらって……うん、協会側がやっていく事だな。
「今回も助かった。はぁ……五層の連中もさっさと奥に進んでくれれば良いものを」
「連合組んだそうですけど……組んだパーティーが多すぎるのでは?」
「あぁその可能性もあるな。分配やボスアタックの順番で揉めているからな」
まぁ狭い部屋にぎゅうぎゅうと詰めている様な物だろうな……息が詰まりそうだな。
「さてこの辺でいいだろう。また何かあれば」
「はい、此方も何かあればお姉さんに声を掛けますね」
「あら? 別に何もなくても声ぐらいかけて良いのよ?」
「……お仕事の邪魔に成ると思いますが?」
「挨拶ぐらい良いじゃない。ねぇ支部長」
「んー……まぁそうだな」
なんだか解らないけど、許可を得たようだ。ダンジョン協会支部ではアットホームな職場を目指しています! って事なのかな? 大抵そういう謳い文句をする所はブラックだって話も聞くけど。
支部を出ると日が沈みかけている。やっぱりこういった報告は時間が掛かるね。高校生のやる事じゃない気がするんだけど。
さて、今日はダンジョンに潜ってないけど帰りが遅いからお土産だ。目の前にカリカリふわふわのメロンパンを販売してる車が来てるからそれにしよう。出来立てで大きいメロンパンは正義である。
「ただいまー、っと誰も居ない?」
うん、何時も元気に出てくるゆいが居ない。学校の帰りが遅くなってるのかな? とりあえず荷物を置いて居間にでも行くか。
よし、誰も居ないなら邪道をしよう。あつあつのメロンパンにアイスクリームと生クリームをのせのせだ! ふふふ……きっと美味しいぞ! っと、あれ? 居間に誰か居る?
「あ、お兄ちゃんお帰りなさい」
「ゆー坊おかえり」
「結弥おかえり、お邪魔してるよ」
ふむ……ゆいと爺様と父さんか、なるほど居間で三人そろって話をしてたのか。くそぅ……邪道が出来ないな。贅沢さんすぎるってゆいが怒るからな。片方ずつなら問題ないんだけど。
「うん、ただいま。父さんもいらっしゃい」
「お兄ちゃんその袋は何?」
「あぁこれ? メロンパンだぞー! 皆が良いなら話をしながら食べる?」
「メロンパンさん! たべるたべる!」
「まぁ食べながらでも問題はないが」
「あぁ心配しなくても数はあるから、父さんもお一つどーぞ?」
「ゆー坊は何時も余分に買ってくるからの」
和気藹々と? 皆でメロンパンを食べる。僕とゆいは生クリーム乗せだ! うまし!
「で、父さん今日はどうしたの?」
「あぁそうだったな。前に言ってたゆりの件だ」
「あぁ、何か問題でも起きた? 別に僕としては急がなくても良いんだけど?」
そういいつつもチラリとゆいを見る。一番ゆりに会いたがってるのはゆいだ。離れ離れになるまでゆいは、僕とゆりの周りをぐるぐると回りながら、話しかけるのが日常だったからな。
「あ、問題は無いぞ。寧ろゆりが乗り気でな、私達としては一安心と言ったところだ」
「そうなんだ、なら日時の問題?」
「そうだな、お義父さんとも会いたがっていたしな。場所と日時全員が良い時を決めようと思ってな」
「ゆいはいつでもいいよ!」
ゆいが満面の笑みだ……余程嬉しいんだろうな。もう少し僕が早く決断していたら……いや、今それは横に置いておこう。
「土日かな? そっちの方が時間も取れるだろうし、爺様はどう?」
「こちらも何時でも良いぞい。まぁゆー坊の言う土日がベストじゃとは思うが?」
「そうですね、私達としても其の方が色々調整が楽ですし助かります」
「じゃぁじゃぁ土曜日さんにあって、お泊りして、日曜日さんに……」
あらら、自分で言っててお別れって言葉で詰まっちゃったか。悲しそうな顔してるな。
「大丈夫だぞ? ゆいが良い子にしてれば何時でもまた会えるんだから」
「うー、ちょっとお胸さんがぽっかりしただけだもん」
「前にも言ったけど、ゆりは怪我して大変だからね。たまに会う程度の距離が丁度いいんだよ」
「……うん」
頭撫でておこう。こういった時は頭撫でつつ、確り目を見て話をするのがゆいには一番良い。
「ふむ……考えさせられるな」
「父さん如何したの?」
「いやなに、少し思うところがあっただけだ」
「ふむ、まぁゆー坊は解らなくてもよい。大人になり子供が出来れば解る話じゃ」
「むむ……何か話を逸らされた気分だなぁ」
一体父さんは何を思ったんだろうね? 僕とゆいのやり取りを見てただけのはずなんだけど……別に前と態度は変ってないよ? 環境は変ったけどさ。
「で、父さん時間は大丈夫なの?」
「あぁ、一応今日はこっちに寄って行くと伝えてあるからな。多少は大丈夫だ」
「そっか、夕飯は?」
「それは帰ってから食べるさ。夕飯時は三人で会話できる時間だしな」
「ゆいも! ご飯食べながらお兄ちゃんやお爺ちゃんと、学校であった事とか話すの好きだよ」
「そうか、今度お父さんにも聞かせて欲しいな」
「うん! 皆でお話しようね!」
良い子だ! かわいい! うん、暴走しそうになった。しかし父さんもなにやらデレデレだな。まぁ少し時間があるなら……色々話をしておこう、他愛の無い話でも。
「そろそろ時間だな」
「そっか、お父さん帰るお時間なんだ」
「帰らないと夕飯に間に合わないからね」
「うん……お父さんまたきてね?」
「もちろん、ゆいに会いにくるよ。今度は母さんとゆりも一緒にだな」
うんうん、ゆいの顔が百面相だな。寂しかったり嬉しかったりと、感情が激しく動いてるんだろう。
「父さん、これメロンパン。ゆりと母さんに持って行ってよ」
「あぁ、ありがとうな」
「いいよいいよ。別にこれぐらい」
「そうか……しかし大丈夫か? 物価あがってるだろ」
「まぁその辺はちょちょいっとね?」
ゆいをチラッと見ながら言葉を濁しておく。まぁ父さんは解ってるみたいだけど。
「大丈夫か……そうか、ならいいんだがな」
「ま、気にしないで?」
「解った私からは何か言う事はない。何かあればお義父さんからあるだろうしな。ただあれだ……気をつけるんだぞ」
「うん、解った」
うん、やっぱり理解してるな。お金の出所がダンジョンだって、其の上で黙認してくれたって事は……目的も理解してるんだろうなぁ。
「さて、ではそろそろ行くよ。二人とも体に気をつけてな。お義父さん二人をよろしくお願いします」
「大丈夫じゃて、確りと見ておくからの、無茶や無謀はさせまいて」
「うん! お父さんも気をつけてね! ばいばい!」
「父さんもまた今度」
まぁ何はともあれ、ゆりについても大丈夫そうでよかったよ。父さんの顔色も悪くなかったし。
思ったよりも話が早く進んだみたいでよかった。うん……後は上級ポーションか、道のりは長いなぁ……二十層越えだったね。
まだ七層だよ……このペースだと何年かかるのかな? 無茶や無謀はしないけど多少の無理は……いや駄目だな、誰が他に取りに行ってくれるって言うんだ? 誰かが手に入れて売りにでてもそれはどれだけの値になる? うん、やっぱり自分で取りに行った方が良い。そういった意味で早く情報が回ってくれると助かるんだけど、別に一番乗りじゃなくても良いから。五層のメンバー……本当なんとかしてくれないかな?
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