二十四話
地上に戻る前に七層で少々の情報収集。川があること以外は六層と大差が無いみたい? まぁ川が一番の変化と言えるが……ワニ系やピラニア系のモンスターが居たら嫌だなぁ。
それ以外にも川といえば生き物に必須で、モンスター……この場合、ゴブリンや狼系に七層で新規さんが居たら其れらとの遭遇率が格段と上がるだろうな。
中立地帯的な場所になってくれてれば良いが……期待はできないだろうな。
「まずは、入り口の大岩から石を削り取って……」
何時もの様に環境チェック。大岩削りの後は穴掘りをする……うん、六層と変らないな。修復時間は少し見ないと解らないだろう。
「さて、この削り取った石を……川に向かってシューーーート!」
全力で川に石を投げつける。おー……まるで水の中で爆破が起きたように水柱が上がったな。
ただ、水柱が上がっただけでモンスターの存在は確認できなかった。やはりある程度入り口に距離が近いと駄目なのだろうか?
「まぁでも、あの川に石が到達したって事は……僕も川に行けるって事だよね」
寧ろ川が主戦場になるかもしれない。足元系の防具の強化が必要だろうか? 今でも魔粉強化型鉄板仕込みのブーツなんだけど。
双眼鏡でも周囲をチェックするが……やはり見えないか。六層のときは入り口から百メートルぐらいは離れないと、敵を確認できなかったんだよな。
「少し確認するか」
さてはて移動してみたはいいけど、敵の気配は周囲に無しっと……先ずは双眼鏡かな? あー……距離は解らないけど、双眼鏡で見れる範囲内にモンスターが居るな。
「やっぱり、モンスターが確認できるのは入り口から百メートルほど移動してからって事かな」
次に入り口で回収した石を川に再度投擲! おーまた水柱がさっきよりも……って! 水柱から魚がぽろぽろと落ちてくる……やっぱり川の中に魚いたんだ、あれピラニア系じゃないと良いんだけどなぁ。
幾つか石持ってきてるし、今のは川の中央辺りにぶち込んだから、次は手前と奥側……後はランダムで適当に打ち込んでおこう。
ドパーン! ドパーン! ドパパパーン!
まるで爆雷だなぁ……っと、あーやっぱりワニ居るんだ。しかも投石を鱗が弾いたみたいだな、そういう事ならあの鱗かなり硬いか。スコップや剣鉈って通るかな? セオリー通り考えるなら、目か口の中に鉄串を打ち込むとか、目隠ししてから口を縛る? 接近は怖いんだけど……さてどうしようかね。
「とりあえず、ある程度確認できたし、今日は戻るかメモに記入はしたしね」
ダンジョンから出て一息つける、お兄さんがお疲れモードの様子だ。
「あれ? お兄さんどうしたんですか?」
「あぁ君か……白河君もお疲れ様。そうだね……五層に行ってるパーティーの連合が色々揉めててね
」
「ダンジョン入り口でも言い合ってたりしたんです?」
「そうだね。まったく他にも潜っていく人たちが居るってのにね」
「それはまた……潜らず戻っていった人も多かったり?」
「何人かは戻って行ったね。験が悪いって言ってたね」
命を張ってるからな、割と験を担ぐ人は多い。今からダンジョンだ! って言う時に入り口で喧嘩なんて見たらなぁ……悪いに決まってるじゃないか。迷信とかそういうの関係無しに気分も悪いって話だ。
「さて、何時までも疲れた顔してても良くないよね。白河君も気をつけて帰るんだよ」
「はい、お疲れ様でした」
しかしまぁ、良い感じに五層攻略が進むと思ったら人間関係でストップするとはね。一体如何するんだろう?
とりあえずお姉さんにお話しよう。
「お姉さん、魔石の換金お願いします」
「はい、今日もお疲れ様です」
魔石を何時もの様にゴロゴロと提出。うん、慣れた遠い目で魔石を回収して査定に入ってるな。
「そうそう、六層ですが近々纏めれそうなんですけど……入り口のお兄さんに話きいたんですけど、今日も揉めてたようで? 大丈夫なんです?」
「あら、入谷さんが言ってたのね。まぁどうかしらね? 最悪支部長が動くと思うけど」
「五層でそんな感じだと、六層やっていけないと思うんだけどなぁ」
「あら? 六層ってそんなに酷いのかしら?」
「それは後日と言う事で、どうも聞き耳立てられてるようですし」
まぁある程度はわざと聞こえるように言ったんだけどね。せっかくパーティー同士の連合を組んだのなら、さっさと階層を潜っていって欲しいよね。そしてゆくゆくは情報を貰う側になりたい。
「まぁ君は一般的には未知の領域を単独で走ってるんだから、無理はしないようにね」
「そうですね上層部は知っていそうですが、まぁ無謀だけは避けてますから。それでも六層は……っと」
「そういう事は口にださない、それにしても気になるところで止めるわねぇ……さて、今日の換金分はこれね」
「はい、確かに受け取りましたっと、ではお疲れ様です!」
「君もお疲れ様、気をつけて帰るのよ」
帰宅する前に石川の婆様に武器についての感想とゴブリンの魔石を渡しておく。婆様が今は一番詳しいんじゃないだろうか? 魔石の第一人者になってたりして。まぁ自衛隊や警察が如何使ってるか解らないからなぁ。
「ふむ……これがゴブリンとやらの魔石じゃな。これも他の魔石と同じように検証しておこうかの」
「ボスウルフの魔石より質は低いそうですけどね。魔石にもそれぞれ特性があるみたいですし……ゴブリンとなるとどんな感じになるんですかね?」
「そうじゃのう……戦った感じはどんなんじゃった?」
「あー……とりあえず連携して戦ってた感じですかね? 人型ってのもあって武器を使いながらでしたし、指揮系統が確りしていればかなり面倒な相手かな?」
「ふむ……人と同じで器用と言う事かの? であれば……手先を細かく使う道具に良いかもしれんのう。まぁ色々試作品を作ってみるかの」
「まぁそこ等辺は婆様に任せます」
家に帰宅すると……うん、何時もの様にゆいが笑顔でお出迎え。
「お兄ちゃんお帰りなさい!」
「ただいま、はいお土産。今日は今川焼きで色々な種類があるぞ」
「え! どんなの?」
「基本の餡子以外にも、カスタード・チョコレート・抹茶・イチゴクリームだな」
「豪華セットさんだ! ゆい抹茶さんがいい!」
「また渋い物を……まぁ幾つか買ってきてあるから被っても大丈夫だぞ」
「わーい! あ、お爺ちゃんが裏庭で呼んでたよ」
「そうか、じゃあ先に食べてて良いから手洗ってきなさい」
「やですー、お兄ちゃんとお爺ちゃんまってるもん」
うん、良い子だ。頭撫でておこう……しかし、爺様の呼び出しか? 一体なんじゃろな?
「爺様、ゆいから聞いて来たけどなんだった?」
「おぉゆー坊おかえり。用件はこれじゃよこれ」
そういって、爺様が一つの武器を渡してくる。凄い形状だなこれ。
「爺様これって?」
「うむ、とりあえず振るってみよ。ゆー坊に合う武器を色々探る為じゃからな。別にそれで決定と言うわけではないぞ」
ふむ……とりあえず武器に合わせて振ってみよう。
長い柄に片方に大きな斧で形が半月状のタイプ、反対側は重量バランスを取りながら打撃も出来るようになってるハンマーぽいもの。柄の先の部分は短いながらも円錐になっていて、突きが出来る。マルチウェポンか……使いこなせないと駄目なタイプだな……判断力も試されるのか。
振り回し出して数十分たったかな? これ通常の身体能力じゃ絶対振り回すなんてできないよ。現状でもかなりその重さで流される。まぁポールウェポンをって言った時点で判りきってた話ではあるけど。
「ふむ、見てた感じじゃと悪くはないのう」
「そう? ただ重いから実戦で使うとなると、もう少し軽くしてもらうか、僕がもっと扱えるようにならないと」
「まぁ当分はそれの練習でもしたらいいじゃろうな」
「何かこいつで決定しそうな勢いだね」
「今までみた中で一番いい動きをしておったからのう。剣槍じゃったか? あれを振ってた時は悲惨なものじゃったろ」
「あー……まぁね」
理由はよく解らないけど、剣槍を使ったときはなぜか足がすべって転ぶとか、剣槍がすっぽぬけるとか……呪いの武器かと思ったよ。うん、どうしても合わない武器ってあるんだねって実感した。
「さてはて……そろそろお終いにするかの? ゆいが壁の影からこっちをみておるぞ?」
「あー……今川焼き買ってきたんだけど、食べるの僕等二人が来るの待つって言ってたから」
「おっと……それはゆいに悪い事をしたのう。急いで片づけて向かうとするか」
「了解だよ爺様」
片づけをした後ちょっと膨れっ面になってるゆいを嗜めつつ。紅茶で今川焼きを楽しんだ……ってなんで紅茶なんだよ!
ゆいの勉強を見ながらメモをノートに写していく。しかし、六層の説明文か……頭が痛いな。完全に一つの世界があったとか、モンスターの出現に法則がないとか、ボス部屋が無くてフィールドにボス部屋が移動しているようなものだとか……完全に今までのダンジョンの流れ無視してるからな。
これはまた……お姉さんも支部長も絶叫ものだろうな、休憩できる安全地帯が入り口付近以外無いし。さてはて、これもっと潜っていったら本当どうなるんだろうね?
後、ボスソロ討伐のドロップ品の確認もしないと……まぁ魔本だろうなこれ、新しい魔法はなんだろうね? 個人的には火を希望します。まぁ、何時も通りなら……解読に時間掛かるんだろうな、ゆっくりやってこう。
――再編された自衛隊の班――
あの自衛隊の一つの班が半壊した後、あの場所は上級ダンジョンと定義された。そして、新たに出来たダンジョンを丁寧かつ安全策を取って調べた結果、全国に似たダンジョンが六つある事が確認された。
「班長、援軍の到着および班の再編が終わりました」
「ご苦労、引き続き援軍との調整を頼む」
「はっ! 了解しました。では行って参ります」
副長だった男は臨時から正式に班長に任命された。そして其のままこのダンジョンの調査の任務に当たる事となった。
「俺が班長か……まぁいいさ、仲間の弔いは自分で出来ると言う事だしな」
副長だった男以外に残った二人のうち一人が自衛隊を去りはしたが、今出て行った男はあの時に男と事後処理に当たっていた者だ。彼もまた、男が今口にした言葉と同じ気持ちである。
「班長殿少し良いか?」
「ん? 何かあったか?」
「補給についてなんだがな。どうも魔石の量が足らん」
「このダンジョンで魔石無しは厳しいぞ?」
少し口が悪い男が入ってくる、彼は補給を担当しているようで、魔石についての相談にきたようだ。
自衛隊の魔石の使い方は完璧な消耗品扱いであり、一度で一つ以上というペースで消費していくものだ。このダンジョンでは其れこそ湯水のように溶けていくだろう。
「魔法の触媒に、魔力を込めて投げつけて爆弾代わりにする……幾つ合っても足らんな」
「他のダンジョンでも使うからか? 其れにしてはこの補給物資についての報告書を見る限り……少なすぎじゃないか?」
「そうなんだがな……どうも上層部の一部がな」
「あぁそういう事か……氾濫が起きた時に切り札として取っておきたいって事か」
「どうも其の様で、さて班長殿どうする?」
「どうもこうもない……まぁ、最悪の中の光明かなのか、このダンジョンでは魔石〝も〟取れるからな。現地調達していくしかないだろ」
「いいんですかい? ダンジョンで手に入れたものは報告と提出の義務があったはずじゃ?」
「その場で緊急事態として使うんだから、手に入れてなどいないだろう? そういうことだ」
「了解しました、隊長殿」
規律が厳しく班を受け持つ人間にしては、柔軟すぎる思考な気もするが、一度あの死地を経験すれば柔軟にもなる。
それに気持ちは解るが一部の人間が問題な話だというのもある。結局はダンジョンを攻めれなければ氾濫する可能性が高くなるのだから。
結果この班長がこういった行動に出るのも当たり前と言える。
「で、援軍の錬度はどんなものだ?」
「悪くは無いですね。彼等もどうやら十層以上は潜っていた班のようですし」
「……十層レベルの部隊じゃ追いつかないと言ったはずなんだがな?」
「これもまた、一部の上層部だそうで」
「まったく……話にならんな、とりあえず今は徹底的に一層で訓練だな、連携も必要か」
「時間がたりませんな」
「せめて、第一線でなくても二線クラスを用意してくれれば良いものの」
人数も多ければ質もピンからキリまで、其れほどまでに上と下では力の差が激しいのもまた自衛隊だ。
この班長たちも、実際は中堅クラスである……十層レベルとはそういうことだ。
しかし、上級ダンジョンについてどうなって行くかはこの中堅クラスに掛かっている状態である。一体どうなって行くのか、それは彼等の頑張り次第だろう。
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