二十二話
予定があるので少し早めに投稿です
六層の二桁部隊に対して、幾ら考えても纏らないなら始めから考えてみよう。武器はスコップ・剣鉈・鉄串・調味料パウダーシリーズの爆弾(威力は無しのデバフ武器)・魔法(風と水)・鉄板仕込みの防具による打撃っとこんな所か。
銃等が効かないとなると、物理的な運動エネルギーの意味がない世界がダンジョンだ、魔力にキーが有るんだろうけど……魔力の効率化? 純粋に武器を巨大化すればいいって話じゃないんだろうな。
「ゆー坊悩んどるのう?」
「うん、爺様……魔力って何なんだろうね?」
「それが解れば苦労せんのう、人や動植物に魔物以外にも空気中にもある〝なにか〟なのじゃろう?」
「モノクルを通してみれば観測は出来るんだけどね……何処にでもあるエネルギーって事しか解らないんだよなぁ」
「石川の婆さんはなんと言っているのじゃ?」
「婆様も謎だって。地面から出ていて、宇宙からも降りてきていて、木々とかからも放出されてる。まさに謎エネルギーみたい。婆様は「もしかしたら空間に使われるエネルギーの余剰分か、残りカスの可能性もあるかのう?」とか言ってた」
「なにかしらの生命エネルギー的な物ということかの?」
「謎だよね」
まぁそれでも、研究の為にモノクルを何処かに提出する心算は無いけど。モノクルが無いと魔法が覚えれないし色々と研究もできない。
「しかし何故そんな思考をしておるのじゃ?」
「あー、六層だよ……あそこ二桁単位で徒党組んでる時があるんだ」
「それはまた……此処に居ると言う事は大丈夫だったのじゃろうが、挑戦するつもりかの?」
「徹底的に対策を用意したらね。今は無理だよ、決め手が一切無い」
「なるほどのう、じゃから魔力か。武器ではものたらんのかの?」
「そうだね、質量を上げれば良いわけでもなさそうだし。かといって大げさな道具は持っていけないし」
「もてる量が限られておるからのう……そういえばバックパックの謎はどうなったのじゃ?」
「あー……あれね。ダンジョン潜るようになってから入れれる容量が増えてるよ」
「原因はわかっておるのかの?」
「ポケットの容量は増えてなかったり、武器防具に変化が無いって事を見ると……魔石いれて運んでたから、何らかの変化でもおきたのかな? まぁでも微々たる差だよ。例えるなら魔石十個入れれるのが十一個になった程度」
なんらかの変化を起こしたバックパックでも、容量が足らないから大きな荷物は持っていけない。まったく某猫な機械の機能をもったポーチが欲しいよ。
ただ、将来的には作れる様になるのか? 婆様も「チームを組んで其のうち作るぞぃ!」とか言ってたな。期待しておこう。
「お兄ちゃん、そろそろ時間だよ! 学校さんにいくよ」
「そんな時間か、じゃ爺様行って来るね」
「二人とも気をつけて行くのじゃぞ」
そんな訳で学校なんだけど、授業が頭に入ってこなかった。六層についての思考が脳内を占領している……お陰で先生に上の空じゃないか! と怒られたよ。女子はにやにやしてるし……男子は刺々してるし。何故六層の思考をしていて、そんな目で見てくるんだ……理不尽だよ。
「結弥君、今日は散々だったね」
美咲さん……天使のような笑顔で悪魔的行動をしてくるだと! もっと周りの反応に気が付いて!
「あー、ちょっと考え事してた」
「ふーん、あの事?」
「そうそう、ちょっと行き詰っててね。如何した物かと考えてたら、抜け出せずに先生に授業聞いてないってバレた」
「そんなに厳しいんだ?」
「まぁね、とりあえずは手持ちのカードを増やす方向で考えてるんだけど、中々ね」
ダンジョンのDの字すら使わずに会話を進める。周りから見れば何の話か解らないだろうな……クラスメイト達が何の話だ? って感じでこっちを窺ってるよ。よもやダンジョンだとは思うまい。
高校ではダンジョンが腫れ物扱いが変わる事は無いだろうな、それこそ何十年と経ってやっと切っ掛けが出来るかどうかじゃないだろうか? まぁそれでも黙ってダンジョンに行っている高校生は、僕や美咲さん以外にもいる。大抵が家庭の事情みたいだけど。
そんな訳で学校で思考しても、問題の解決方法が閃く訳でもなく放課後に。
「今日は一緒に行っても良いかな?」
ちょっとまて! 学校でそんなセリフを! ほらまた周囲が過剰反応しだしてる!
「えっと、どっち?」
「ん? あーそうだね、お勧めのほうで」
お勧めって! まぁ言わないのは解るけど、何故学校を出てからにしなかった!
「さて、男子諸君。なにやら裏切り者が居るようだが如何するべきかね?」
眼鏡をくいっとしながら男子Aの一人がそんな事をのたまう。こいつ学級委員長だろ、なぜ扇動するような事を!
「あぁ……もちろん、裁判じゃないか? 内容は魔女狩りだが」
レスリング部に入ってる男子Bがそんな事を言い出すだと……お前の魔女狩りはアッー! 的要素がありそうで怖いんだよ!
あぁ……女子が黄色い声でキャーキャー言ってるよ。お腐れ様なのかな? あ……数名の女子に睨まれた。さりげなーく目線を逸らしておこう。
「皆の者、宜しいな? では……突撃ぃぃぃぃ!」
突撃の合図と共に突っ込んでくる、まぁ廊下をダッシュ! 人並に押さえた走りだけど、クラスメイトの誰にも追いつけない距離を保ったまま……敢えて教師の側を通る!
「貴様ら! 廊下を走るな!」
よし! 数名教師に捕まった! 次は……階段を数段飛びで飛び降りる! 踊り場をU字ターンして少し速度を上げていく。まぁ見えないなら少しぐらいは人並から外れても良いじゃない?
追いつかれる前に、靴を履き替えてから校舎を飛び出す……よし、校門まで速度を落さず全速……ではないけど前進!
「よし、抜けた。後は協会まで……走れば良いか。どうせ行き先なんて図書館だと思って、あいつらはそっちに行くだろ」
そうして協会で美咲さんを十数分程待っていると、何が嬉しいのかにっこにこで近寄ってくるなぁ。
「大変だったね。でもすごい逃走だったよ」
「あー……まぁね。あいつ等も何であーなるかなぁ?」
何だか毒気を抜かれた気分だ。まぁそれにクラスメイトも今まで無視してた結果、どういう風に接したら良いか解らないから、あーいうノリで行動してるんじゃないかな? 美咲さんもそれ狙って態とやってる? いやいやまさかなぁ……まぁあいつらに関しては、追われてる時とかに、さり気無くチラ見して理解できたんだけど、悪意が全く無い。なんだか楽しそうに追いかけてきてるんだよなぁ……学校が始まった当初の様に、全員で話したりする空気に戻したいんじゃないだろうか?
「まぁ良いけど……とりあえず今日は二層で?」
「うん、お願いします」
そういって頭を下げる彼女。まぁ本当どうしたものかね? とりあえず怪我が無い様に確りと見守れば良いんだろう。
二層での戦闘は基本的に美咲さんが単独で戦い、その後アドバイスする形を取った。問題は三匹出た時だけど、その時は一匹だけ僕が対処してから美咲さんが戦う。
まずは、一対ニで複数と戦うのを慣れる所から進めて行く方針。
「足を止めない! 後、二匹とも視界の中に入れるよう行動する事。まだまだ出来てないよ」
「はい! コーチ!」
「コーチは良いから! 兎にも角にもポジションの選択はベストが取れなくても、ベターな所を瞬時に判断して!」
今までは彼女の父と叔父にガードされて動いてたわけだから……ポジション選択は当然奇襲スタイル。まぁ今は未だソレでも良いかもしれないけど、五層や六層になれば別問題。自衛ぐらい出来なければ……行方不明扱いになる。
「はい水。少し休憩だね、警戒はするから確りと休んで」
「はーい……しかし前衛ってきついね。はぁ……お父さんや叔父さんはやってたんだよね」
「まぁ、ガードするって事はそういうことだよ。華は無いけど、徹底的に相手を挑発して、誘導して、味方が攻撃しやすいように持って行くんだからね」
「ゲームとかアタッカーを皆選ぶのにね」
「爽快感が違うからね、でも現実のダンジョンだと死ねないからパーティー戦にタンクは必須だよ」
「あれ? 結弥君はソロだよね? ソロだとどうなの?」
「ん? 隠密と火力」
「うわぁ……完全なアタッカーじゃない」
こそこそといってドッカーンしか手がないからなぁ。まぁそれは攻撃する時及び止めを刺すときだけど。
「それだけじゃないよ? トラップにトラップに……えーっとデバフ道具?」
「なんだか陰湿だよ!」
「いやぁ、勝てば官軍ってやつだよ。命あっての物種ともいうかな?」
「そうなんだけど、それならパーティー組めば良いんじゃない?」
「前にも言ったと思うけど目的が違うから」
「あ……そうだったね、ごめん忘れてた」
休憩を終えて戦闘を再開、少しずつ美咲さんの動きが変わっていくのを見ると教えていて楽しい気分になるな。
おっと危ない、横とられてるじゃん。
「シュート!」
即座に鉄串をダンジョンウルフにぶち込む。ヘッドショットを狙うのも随分と慣れたな。
「あ、あれ? ありがとう」
「気が抜けてたよ? 大分慣れてきて慢心でもした?」
少し強めに嗜める。危険だからね、注意一秒怪我一生だ。
「あ……うん、ごめんなさい」
「よし、次注意を逸らしたら……そうだね、罰ゲームでも考えようか何が良いかな?」
「えっと、例えばなんだけど何をする気?」
怯えてらっしゃる……まぁ安心していいよ、同人みたいな事はしないから。
「そうだね……激辛パウダーを喰らってもらうとか? あー他にも、マーマイトをたっぷり付けたパンを食べてもらうとか、星を見上げるなんちゃらと見つめてもらうとか?」
ほっとしたのも束の間、青い顔でなきそうになってる美咲さん。うんとっても効果的だったようだ。
「大丈夫大丈夫、注意を怠らなければ良いだけだから」
「そ……そうだよね! うん、大丈夫。敵から少しも目を離さなければ良いだけだから」
半ば自己暗示をかけてるなぁ……一体どれが嫌なんだろう? わざと注意逸らさせてみるか? まぁ未だ早いか。それの訓練をするのは五層前ぐらいでいいだろうな。
「んー……結弥君がなんだか悪そう事を考えてる顔してるよ?」
「気のせいだよ気のせい。それよりもほら、狼さんたちがこっちに来てるよ」
「うん、次はポジション間違えないよ!」
うん、やる気は十分だな。罰ゲームで発破をかけたのは正解だったか、それでやる気が無くなる人もいるから。まぁ美咲さんと係わってて、やる気を出す方が高いと思ってたんだけどね。
「よっと!」
うん、敵の動きを限定させての一撃から即離脱か、丁寧な動きだな。萎縮もしてないみたいだし十分といえるか……成長はやいなぁ。そろそろ一対三を混ぜても大丈夫か? いやいや、未だ早いか。こうも成長が早いとつい次へって思ってしまうな。もう少し様子を見よう。
「どうしたの? 何か悪い所でもあった?」
「いやいや、十点満点中七点か八点ぐらいかな? 良かったと思うよ。まぁあれだ罰ゲームじゃなくて残念だなっと」
「なにそれひどい! 結弥君は罰ゲームに期待してたの!?」
「冗談だよ冗談。まぁ今日何処までやるかな? って思っただけだよ」
「……むぅ、釈然としないよ? でも何かこう、随分と倒しやすくなった気がするよ」
「自分の位置、敵の位置、其処からどう動くかってのを理解できたからじゃないかな?」
「なるほど……あーお父さん達はダンジョンに入る前からそれを理解したのかな?」
「そうだね、あのお二人は予想以上に一対多や多対多に慣れてる気がするんだけどね」
クールタイムにはそんな会話をしながらだ。常に張り詰めるのは育成には良くないから。クールタイム時の警戒は僕がする、戦闘中以外の警戒訓練はまだ先の話。一気になんでも求めたり詰め込んだりしない様にしないと。
「よし! 次行こう」
「まったまった、今動いたらハイペース過ぎる。後二分は休憩です」
「えー、もう大丈夫だよ?」
「大丈夫と思っててもだめ、決められたサイクルを守ってもらいます。今は興奮状態で行けると思ってる状態の可能性が高いからね。そういう時に動けば大怪我するよ?」
「……はぁーい」
ぷーと膨れてる……なんだろう妹みたい行動だな、撫でちゃろ。
「……なんで撫でるかな?」
「あ……ごめん、なんだか妹みたいな行動されたからつい?」
「つい、で女の子の頭を簡単になでちゃいけません! まぁ妹さんや私だからいいけど」
「あーうん、以後気をつけます?」
なんだか怒られた。まぁ確かに配慮に欠けた行動だったか、妹みたいな行動をとられるとつい条件反射で動くな、手と気持ちが動いてしまうのは……がんばって落ち着かせよう?
そんなこんなで今日の訓練は良い感じに進んで終わり……こういう時ってご褒美用意した方が良いのかな?
「さて、お土産買って帰るか」
「何を買って行くの?」
「其処にあるお店のシュークリーム」
「あーあそこのシュークリームって女子に人気だよ! かなり高いけど……」
ふむ……ご褒美に丁度よさそうだ? うちの分は十二個買って、其のうち六個をゆり達に宅配してもらう。後は……
「ほら、今日は随分と良いペースで動きがよくなったからね」
そんな事を言いつつ、さらに購入したシュークリームを四個ほど渡す。
「あれ? いいの?」
「ご褒美ってやつだよ。見ていて気持ち良いほど動きが変わっていったからね。まぁ今回だけかも知れないから」
「うん……ありがとう!」
うん、クラスの男子が見たら卒倒するような笑顔頂きました。おもわずパシャリ。
「……なんでスマホだしたのかな? パシャって言わなかった?」
「藤野さん達に報告する為の写真、結構撮ってたよ? 頼まれてたし」
「ちょっと初耳なんですけど! 後でお父さん達を問いたださなきゃ……」
まぁ笑顔写真と共に既に送信済みである。
「……消してね?」
「あ、もう送った後だよ」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
まぁそんな美咲さんの叫びが何処まで届いたかは解らないけど、一日無事に終わってよかったよ。僕への美咲さんからの言及と、六層如何するかってのを横に置いておけばだけどね。
誤字報告・ブクマ・評価本当にありがとうございます!




