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十九話

 三人の保険で一層クリアを見届け、おっさん二人と密談してから数日たったんだけど……なんだこの山盛りの林檎!


「ゆー坊、これ誰かわかるかの? 藤野さんと桜井さんという方から送られてきたみたいなんじゃが」

「あー……ダンジョンで頼まれて手を貸したって話したよね? その人たちだよ」

「ほう、ゆー坊が学生だから金銭じゃなくて物を送って来たんじゃろうなぁ、手紙も入っておったぞ」


 手紙を受け取り、中身を読んでみる………………うん、藤野父は藤野父だったし、桜井さんは……手紙でも煽るのか……まぁお礼なんだろうな。


「しかし、今のご時勢これだけの数を用意しようと思ったら大変じゃろうに」

「手間を考えたらね、ダンボール三箱分とか」

「あれ? りんごさんだー! これ食べて良いの?」


 ゆいが来た、甘い香りでもしたのかな?


「林檎は紅玉だから、お菓子とかにすると良いって書いてあったよ」

「お菓子! りんごさんでお菓子……ゆい、りんご飴さんがいい!」

「お祭りかな?」


 まぁ沢山あるから、色々作れるだろうな……定番はパイかタルトあたりかな?




 学校では少し人が戻ってきた、怪我をした人が戻ってきたんだろうな。トラウマ持ちは……まだ無理だろうな。

 とはいえそれで何かが変るわけでもなく、何時もの様に……刺々しい視線の中を歩いて自分の席に着くんだけど……何時まで続くの? まぁダンジョンの事のみ隠して、美咲さんが全力投球で話かけて来るからだが……どうして此処まで構ってくるのだろうか? 戻ってきた学生は頭にはてなを浮かべてらっしゃる、うんわかるよ、何で僕に話しかけてるんだろう? って疑問だよね、君達と最後にあった時は僕全力で空気だったからね!? 何の為に連絡先の交換をってダンジョンについての為か……まぁ今は怪我から復活した学生を祝っておこう。


 放課後は何時も通りにダンジョンへ向かってダッシュ。クラスは落ち着いたけど、違う学年やクラスの人たちは捕まえて話を聞こうとしてくるから……実に鬱陶しい。だから僕は空気になる! あ……空気化のスキル無くなったんだった。まぁダンジョンへ向かおう。




 さて六層だ。何気なく六層に脚を運んだのは五層クリア以来……何してたんだって言われたら、とりあえず話し合いやら監修やら色々あり、少しだけしか時間が取れないと言う事もあって、四層で勘がなくならないようにする程度。

 しかし六層……どうしたものかねぇ、この眼前に広がる一面の草原……思わず写真を取りたくなる。うーんどうしよう……先ずは……スコップで掘ってみる? さくさくと掘ってみる、うん身体能力上がってるからかすっごい早いよ!

 掘り続けて数分、どうやら二メートル程掘った所で某ゲームの岩盤的な感じに。スコップで掘ろうとしようがハンマーで殴ろうが、高い音でガン! と音がするだけで、傷一つ付かない。

 メモだメモ……落とし穴には使えるかもだけど、其処まで高くないから即死性は無いだろうし。労力を使って二メートルの落とし穴を作る? それなら躓かせる程度にした方がよさそうだ。っと埋め戻しておこう。


 次は……草に向かって火を着けてみる……燃え広がらない。まぁ枯葉じゃないからなぁ……実に青々しい景色だし? 除草剤は……なんだかとってもあれなので止めておこう、持ってないし……持ってきてもどれだけ必要なんだって話でもある。

 あ……そうだ持って帰れるかな? 土と草をそれぞれ確保してから真空パックに入れてバックパックに仕舞っておこう。


 ……あれ? 横道的な検証しかしてない! モンスター探さなきゃ。って事で他に無いか脳内で色々と無意識に探っているけど、前に進もうか。


 少し遠くから音が聞こえる……双眼鏡を取り出して周囲を確認……よし! 敵は目視できる範囲に居ないな、って事でいざ!

 ……うわぁ、双眼鏡で見たのは良いんだけど、犬じゃない狼でもない……あれ、所謂ゴブリンってやつだ。人型かぁ……とりあえずメモしておこう。っと其の前に人数確認だな。

 周辺には居ない……双眼鏡で確認できる範囲だと三体か、万が一の為に自分の周囲をぐるっと一周確認しておこう。五層でバックアタックがあったし。


 三体か……しかも試練であるズーフと違って、狩るか狩られるかになる……あー手が震えるな、狼は慣れたけど、どう見ても人型だから……やろうとしている事に嫌悪感を感じる。

 とりあえず深呼吸しつつ、ゴブリン達が居る方向からは目を離さない。


「出来る? 出来る……、やるしかない、やれる……よし行こう!」


 半ば暗示を自分にかけてから行動。うん気が弱いとか言わないように! って僕以外に誰も居ないけど。

 少しずつ前進し射程範囲内に向かう、因みにスリングショットは引退です。投擲の方が射程威力共に上になってしまった。軽く人間の枠組みを越えてる? まぁダンジョンブーストって事なんだろうね。

 ヘッドショットが狙える範囲より少し外の二百五十メートル程まで接近、こっそりと足元に穴を幾つか用意しておく。投擲用の鉄串も専用のホルダーを作ってあるので何時でも取り出せる。


「……よし、先制攻撃は取れそうだな」


 再度深呼吸をして、ホルダーから鉄串を抜く、両手に一本ずつだ。あぁ心臓が煩い。

 一番右側にいるゴブリンに狙いをつけて右手を引く……風魔法を使って。


「シュート!」


 すぐさま左手で同じ動作をする、狙いは左側のゴブリン。


「追加!」


 同じように風魔法で勢いと回転を加えて放つ。……よし! 左のゴブリンはヘッドショットだ。コレで一匹、右側は……ちっ肩に当たったのか、まぁ怪我を負わせたからよし!


「さて、僕が此処にいるとばれたな……先ずは下がろう」


 ゴブリン達が奇襲を受けた事に激怒し、此方へ向かってくるんだけど、予定通りに行動する。ある程度下がってから反転し相手を迎える準備。


「さてはて……鬼さんこちらっと!」


 ゴブリンにこれは正しいな、通じてるかどうか解らないけど。漢字で書いたら小鬼だし? 馬鹿にしたのが解ったのかな? 更に激昂して突撃してくるか。よしよし、其のまままっすぐだぞー! かかった!


「うん、其処まで激高してたら足元なんて見ないよね? 二匹とも躓いて転んだよ」


 狙ったとはいえ、こうも綺麗に嵌るとは……まぁ止めか。


 一匹は先ほどと同じように鉄串でヘッドショット。


「……ふぅ、いざ!」


 そしてもう一匹のゴブリンはスコップで直接首を狩る……此処がラインだ。この先やっていけるかどうかの。

 ザン!

 首が転がる。その瞬間、胃から込み上げてくる。


「……うっ」


 これはキツイ……Dウルフを最初にやった時とは比べ物にならないか。大丈夫これは人間じゃない、大丈夫コレは人間じゃない、ダイジョウブこいつは人間ジャナイ…………よし、大丈夫……じゃない! うぇ……


 口を水で漱いだ後、周囲を確認する。まぁ奇襲を受けなくて良かったな。あの調子じゃまともに防衛も出来なかった。

 さて……どうするか、少し良くなったとは言え、スコップを握る左手の力が抜けないし、すっごい震えて、口を漱いだ時も水が暴れて大変だった。

 さて魔石を回収して帰るか……今日寝れるかな?


 入り口まで敵に合う事も無くたどり着いたか……ふぅ、こいつはラノベとかの主人公ってこれが平気とかどんな心臓してるんだろう? 僕と同じ高校生とかもいるよね? まぁ、其れよりも自衛隊や警察の人達……一時期辞めた人が多かったりしたのは、人型が原因だったのかな?


 ダンジョンを出ると……其処には心配そうな顔をしたお兄さん。


「どうしたんだい? 顔色がすごく悪いじゃないか。今日は潜った時間短いし体調悪かったの?」

「いえいえ大丈夫ですよ。ちょっと予想外の事がありまして、まぁ休めばばっちりです」

「そうかい? まぁ君がそういうなら良いんだけど……」


 はい、多分大丈夫になりたいと思います。しかしそんなに顔色良くないのか……リバースしすぎたか? とりあえず魔石を換金しておかないと……お姉さん達まで心配しかねないか。そのまま帰ろうと思ったんだけどな。


「今日もお願いします」

「はーい……って大丈夫? 顔が悪いわよ?」

「色じゃなくて顔悪いですか?」

「えぇ、すっごく辛そうな顔してる。医務室で休んできたら?」

「あー……もう帰ろうと思ってるので、とりあえず魔石お願いします」


 精神的なのか体調的なのか探ってきたのかな? 何時もとは違うタイプの微妙な軽口だったし。まぁ僕が先に仕掛けてないからってのもあるんだろうけど。


「えっとこの魔石……ウルフじゃないわね。ちょっと待ってねデータベースを調べるから」


 モンスターのデータは基本的に自衛隊や警察と共有している。お姉さん曰く、魔石の値段も其れで決まっているらしい。他の情報も共有してくれれば良いのにね。


「ってこの魔石ゴブリンじゃない……もしかして六層って」

「はい、ゴブでした」

「あー……それで顔色が悪いのね、大丈夫? 続けれそう?」

「今は何とか、後は今日明日と休んで様子見でしょうか?」

「そうね、何か有ったらカウンセラーにでも通うのよ? 警察や自衛隊も其れで減ったって話も聞くぐらいだし」

「はい、ありがとうございます」


 まぁ目的が有る以上……乗り越えるしかない訳だけどね。


「さて……ゴブリンの魔石は一個四千円ね、ボスウルフより魔石の質が悪いみたいで此の値段みたい」

「そうですか、いろんな意味でボスウルフの方がいいですね」

「そうね、まぁでもゴブリンを嬉々として狩れる様な精神じゃなくてよかったわよ? 噂話じゃ何処かの国でゴブリンを、嬉々として討伐した人が人を襲うようになったって話もあるぐらいだし」

「それはなんとも……嫌な話ですね」

「えぇそうね、まぁ白河君は狩る事には慣れても殺す事には慣れないようにね?」

「はい、そこ等辺は周囲の皆さんからよく聞いてますから」


 よく言ってるからなぁあの人達、狩りと殺しは違うって。狩りは衣食のために相手に敬意を持って行う物、ゲームハントとかゲームフィッシュは狩りじゃなくて殺しだって。狩った相手に敬意を持ち、素材の全てを余すことなく使うべきだと。まぁ誤魔化しだったり、理想論だけどなって言ってるけど。


「それじゃ、白河君お疲れ様。気をつけて帰ってね?」

「はい、ありがとうございました」


 こんな時でもお土産は忘れないとはいえ、色々辛いので今日は手を抜いてコンビニデザート。




「ただいまー」

「おかえりー……って、お兄ちゃん大丈夫なの!?」

「あー、うん大丈夫だよ、少し疲れただけだから」

「そうなの? お疲れさんなの? 居間でちょっとまっててね!」


 ぴゅーと何処かに走っていくゆい……どうしたんだろう? まぁ爺様は居間に居るだろうしそっちに向かうか。


「ゆー坊かえったか。ふむ、何時もより早い帰宅とは思ったが、ダンジョンには行ったのかの?」

「うん、行ってきたよ」

「ダンジョンに行って……誰か大怪我でもしたのか? それとも人型とでもやりあったのかの?」

「あーさすが爺様……うん、人型が出たよ」

「そうか……ならば今日明日と確り休むべきじゃな」

「うん、解ってる」


 ダンジョンと顔色だけで予測しちゃうか、はぁ爺様には追いつけそうに無いなぁ。


「お兄ちゃんこれ! ゆいとお爺ちゃんが今日つくったりんごさんの飴だよ!」


 うん、丸ごとじゃなくて、カットされた林檎を飴にしてある。ゆいが食べやすいようにしたんだろうか?


「うん、ありがとう」


 お礼を言って頭を撫でる。うん、いい笑顔だ。かわいい!


「お疲れさんの時には甘い物が良いって聞いたから!」


 あー……うん、もう大丈夫だ。可愛いは正義である。


「そうだね、ゆい明日は一緒にアップルパイでも作ろうか? ゆりの分も作ってあげよう」

「アップルパイさん! 作る! お姉ちゃんよろこぶかなぁ?」

「きっと喜ぶよ。うん、明日は楽しいクッキングだ」


 目標は変わらない、上位ポーションだ。たかが人型を狩っただけじゃないか? 何時も通り両手を合わせて敬意を表そう。うん……休んだら、また六層に行こう。

誤字報告・ブクマ・評価ありがとうございます!

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