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十八話

 今僕は、Dウルフ一匹に対して悪戦苦闘中だ。何故こんなに苦戦しているのだろうと言われると……事の発端は美咲さんとのSNSでのやり取りにある。


『そういえば、よくテイムモンスターとかって言うのがあるけど、何で誰もテイムしてないの?』


 其れを聞いた時、雷に打たれた気分だったよ……まぁ打たれた事無いけど。

 それもそう、ダンジョンアタック以外にもサブカル的な物で、ソロのお供と言えばテイムモンスターじゃないか。何でその様な重要な事を忘れていたのか……しかしテイムなんてどうやってやるんだろうか? とりあえず一般的に犬が好きそうな物を大量に持ち込んで実験……の結果が悪戦苦闘である。


「むぅ……ボールも骨もフライングディスクにも見向きもしないな。ドックフードをばら撒いても駄目かぁ……一旦逃げて戻ってみたら食べられた後みたいなんだけど」


 テイムどころか友好的にすら為らない。高級な缶詰もチューブ的なおやつも駄目……あれーお約束のお供化はどこだー? きびだんごも通用しないぞ。


「なんてしぶといんだ! こうなったら最終手段だ!」


 何かの漫画にあった、自分の持ち馬にする為にその馬に跨って勝負をし、GETしたなんて物があった。相手は狼ならば……


「なら、前足を脚で押さえて顔を取り押さえて、にらめっこだ!」


 じーーーーーーーーっと見る、見つめる、見つめられる、前足を動かそうとしてるし唸ってもいる。傍から見たられたら、凄く変な光景だろうなこれ。

 目を逸らさない、狼も睨むのを止めない。どれだけ続いたのか解らないが……これ駄目だ。一時間ほどやってる気がするんだけど。


 結論だ、モンスターをテイムするのは現状無理である! くそぅ……折角良いヒント貰ったからお供GETして六層が少しは楽になるかなと思ったのに、実に残念だよ。

 そんな訳で、彼女にはSNSで『モンスターのお供化は現状無理でした』と送っておく。さぁ残念に思い落ち込むがいいと思っていると、『そっか、白河君もふもふ残念だったね』と返信が……何故に美咲さんは僕がもふもふしたものが好きだと知っているんだろう?


 そうして思い出す、ダンジョンで戦闘してないじゃん! 勘を取り戻す所か、テイムならずと絶望に打ちひしがれただけだったよ! 明日は戦闘をこなそう、そうしよう。

 帰りは何も換金する物が無かったからか、お姉さんから心配した目で見られた……うん、今日は実験をしただけで終わっちゃったんだ。しかしその実験内容は言わないし言えない! なんか報告するなら、成功してからじゃないと恥ずかしいじゃん。


 六層には向かわず四層で戦闘をこなし感覚を鋭くしていく。何故六層じゃないのかと聞かれたら、安全策だという事で、まだどんな敵が居るのか? 編成はどのような物か? フィールドに何か有ったりするのか? など調べてない。その様な場所で勘を取り戻す為に使うのは、実に無謀だと思う。なら五層は? と聞かれると、純粋に行きたくないから。




 そんな訳で迎える土曜日。予定された時間より十分程前に協会内へ入っていく。あら? 三人組はもう来ている様だ。


「あれ? 時間を間違えましたか?」

「いや、大丈夫だよきっちり十分前じゃないか」

「ふむ、最低限の礼儀は知っているようだな、だが……」

「はいはい、お父さんストップ。こんにちは結弥君今日はよろしくね!」


 挨拶を済ませて、最後の持ち物チェックをする。忘れ物は無い様だ。


「それでは、ダンジョンに入っていくか」


 藤野さんの号令と共にダンジョン内へ潜る。さてはて、どれだけ腕前を上げたのかな?


「それじゃ、何時も通りね。叔父さんが前で私が真ん中、お父さんは後ろね。結弥君は……自由?」

「まぁ其処は藤野さんの横か少し後を着いていくよ」

「まぁ妥当だな。さて、信久君前衛は任せた、私は美咲を魔の手から守らねばならないからな」


 さり気無く此方をちら見しないでください。僕は魔の手じゃなくて、猫の手もとい助っ人です。間違えないように!


 一層は出てくるモンスターが一匹だ。三対一と言うある意味王道の戦い方でDウルフを仕留めて行く。卑怯と思うなかれ、あの新撰組も基本戦術だと言った戦い方だ。しかし正面から正々堂々が好きだと言った割りに、こういった戦法に反感は無いようだ少し聞いてみるか?


「そういえば、藤野さんも桜井さんも正面突破が好きみたいでしたが、多対一の戦闘には何も思わないんですか?」

「ん? 確かに君からしたら不思議に感じるか。純粋な戦力での戦術だから気にならないって感じかな?」


 桜井さんの言である。なるほど数は力であると、道具や陰からという行動で隙を突くのとは別と言う事なんだろう……難儀な人達だ。


「……出来れば熱くなる戦闘がしたい気もするがな」


 ぼそっと言った様だけど聞こえちゃったよ、藤野父! 根っからの戦闘狂だよ此の人!


 そんな訳で、危ない行動も無く戦闘が繰り広げられていく。桜井さんが飛び出し攻撃をしたら、美咲さんがフォローをして、藤野さんが止めを刺す。桜井さんがガードをしたら、美咲さんが牽制攻撃をして、藤野さんが止めを刺す。……あれ? 藤野さん止め役!? まぁ上手く回っているから良いんだろうな。


「さて、君から見て私達の連携はどうかな?」

「そうですね、隙が無くて上手く回ってると思います。……自分はパーティープレイしてないので、其れぐらいしか解りませんが」

「結弥君は誰かと組まないの?」

「今の所は誰かという考えが無いかな? 目的が目的だから……いよいよもって如何しようも無くなった時に考えようかと」

「それでは、遅いのではないか? 後になればなる程に誰かと組むのは大変になるのではないか?」

「確かにそうなんですけど……歩調を合わせれる人物、僕の目的の物が物だから色々問題をはらんでると言う事、学生だと言う事等色々あってパーティーを組める相手なんて居なさそうでして」

「そうか、白河君は白河君で色々とあるんだねぇ」


 藤野さんと桜井さんが難しい顔をしているな。やはり大人から見たら学生が単独行動で潜ってるのは、気になるんだろうな。


「……まぁ、単独で潜って一対多数を捌くのも面白そうだが」


 藤野父……さり気無く聞こえてるぞ。


「と、とりあえず、ボス部屋はDウルフが二匹出てくるので、今のうちに最終確認をしたらどうですか? もうボス部屋前ですし」

「おっと、そうだね。義兄さんと自分が前に美咲ちゃんは遊撃でいいかな?」

「私は問題ないよ!」

「まぁ、ベターではあるな。美咲、先ずは信久君のフォローをするといい。後、白河君は美咲を重点的に見ておいてくれ」

「はい、了解しました」

「ちょっとまって、義兄さん! そんな事言いつつ一対一を楽しむ心算でしょ!」

「……いや? そんな事は無いぞ? たぶん」


 たぶんって言ったよ! 絶対楽しむ心算だ! 本当戦闘が好きなんだな。


「とりあえず行くぞ! 一番槍は貰った!」


 扉を開けると同時に飛び出す藤野さん。一気にトップスピードに達して突っ込んでいく。桜井さんが少し遅れたが、負けじと着いていく。僕と美咲さんは置いてけぼりだ。慌ててボス部屋に二人で入っていく。

 突入のスピードとは打って変わって、僕等が入った時には堅実な戦いになっている。上手い事互いの距離を離して、二対ニで無く一対一が二つの構造になっている。此の人たち昔何してたんだ? って疑問に思う程センスが良いな。

 美咲さんはゆっくり動いているな、音を立てずにじわじわとだが。奇襲がお嫌いな二人だが美咲さんに其れを強要はしていない。寧ろ道具や奇襲をやれと言わんばかりで話をする。ポジショニングを考えても、徹底的にモンスターに近づけさせないようにしている。本当は潜る事を止めさせたいんだろうけど。

 そんな考えをめぐらせてる間に、美咲さんが桜井さんと戦ってるDウルフの後ろを取っている。タイミングを合わせる為だろう、桜井さんの動きが微妙に変わってきているな。


「ほいほい、わんちゃんこっちだよ!」


 桜井さんが挑発してる……あんな行動もするんだ。まぁ挑発しつつガード主体に……あ、体勢崩させた! 美咲さんが間合いを一気に詰めて……スコップで殴り飛ばした!? てか殴る時に「えい!」って、しかも今更だけど美咲さんもスコップなのか。桜井さんは盾と短槍、藤野さんは……消防用の斧を二つもってる。こっちの戦闘は終わりか……さて藤野さんはっと。


「ははは! この程度なら一人で如何とでもなるぞ!」


 テンションがマックスのようだ……あれは、支援だろうが戦闘に参加したら後から色々言われそうだな。


「義兄さんは絶好調だね。これは満足するまで観戦かな? 問題も無さそうだし」

「そうですね。あれは今参加すると後が怖そうです」


 戦闘を終えてドロップ品を回収した桜井さんと美咲さんが接近してきた。まぁ同じ意見になったな。


「もう……お父さんったらあんなにもはしゃいで、少し恥ずかしいよ」

「日ごろの鬱憤でもぶつけてるのかなぁ? 例えば、娘に接近する男子の影とか」


 桜井さん此方を見ないでください。ほら! 聞こえてないはずなのに何だか反応した藤野さんが猛ラッシュしてらっしゃる! あぁ哀れにもDウルフさんは討伐されてしまったようだ。うん目出度いのになんだろうね此の気分。


「ふぅ……終わったぞ? そっちはっと、終わってたか私のほうが少し遅かったか」

「そりゃ、義兄さんはソロだったから。こっちは美咲ちゃんのお陰で楽ができたよ」

「それはよかった」


 戦闘も終わり健闘を称え合い、二層を開放する。しかしやっぱりというか、魔本は無いようだな……ソロ前提なのだろう。

 二層に入ったが、其のままダンジョンアタックはせず帰ることに。ここら辺はやはり武道をやってたからなのか、退際を弁えているようだ。ダンジョン協会調べだと、其のまま突入して軽い怪我をしたりする人が多いらしい。


 ダンジョンから出て、換金してもらいつつ美咲さんが着替えに行ってる間に少し話を振る。


「お二人は本当は美咲さんのダンジョンアタック止めさせたいのではないですか?」

「あー……そうなんだけどね、美咲ちゃん言い出したら聞かないから」

「今の状況も、徹底的に話をして妥協した結果だ」


 やっぱり止めさせたいらしい、まぁ最初にリタイアして良いって何度も振ってたからな。


「信頼できる相手がいればとも思ったのだがな。まぁそんな相手を見つけるよりも、我々が着いていけば良いと判断したんだ」

「そうそう、それなら美咲ちゃんの安全も自分達次第だしね」

「否と言い続ければ、美咲はこっそりと勝手に潜りかねないからな」

「最初の時にリタイアしてくれたら良かったんだけどねぇ」

「それはまた……なんとも言えないですね」

「まぁ希望的観測ってやつだったから、続ける方が割合高いと思ってたよ。まぁ私の娘の為にやってるみたいだし、それで怪我はして欲しくないんだけどね」


 大人は止めれない、彼女は止まれない、そういう事なんだろうな。怪我をしないように細心の注意を払うしかないって事か。


「まぁそんな美咲だが。どうも焦ってる様だな」

「確かにそんな感じだねぇ。義兄さんどうするの? あの焦りは少し危険じゃない?」

「うむ……其処でだ白河君、とても……とっっっても遺憾な話だが。余裕がある時にダンジョンに付いていってやってくれないか? 君のその強さだけは信頼できる。強さだけはな」

「……義兄さん、もう少し言い方が」

「えっと……どうしてそういう判断に?」

「美咲はどうも、我々との強さの違いに焦ってるんだよ。一緒にダンジョンに潜り出したのにどうして私だけっとな」

「そうなんだよねぇ、そこは大人だし経験の違いとかあるからと思ってくれれば良いんだけど……其れに気がつくには若いからねぇ」


 焦ってる? 焦ってたか? 僕には解らなかったが……二人にはそう見えたようだ。


「君に頼むのはボディーガードみたいなものだ。出来るだろう? 出来るよな?」

「え……えっと、はい?」

「よし、許可したな、言質は取ったぞ。但し違う意味で手は出すなよ? だしたらちょっきん刑も辞さないからな」


 ちょっきんって何をちょっきんですかぁぁぁぁぁ! てか手を出しませんよ! しかも、許可取ったことになってるし。はぁ、まぁ危ないって言うなら見れる範囲で見ないとなぁ。


「そういう訳で、君が大丈夫な時で我々が供に行けない時は任せたぞ。まぁ平日の学校が終わってからとかが多そうだがな」


 そんな風に言いながらHAHAHAとアメリカンな笑いをする藤野さん。桜井さんは……あぁ微妙に申し訳無さそうだな、てか此の人も最初に比べたら随分と砕けたよなぁ……喋り方とか。


「着替えてきたよーって、何はなしてたの? そんな笑い方して」

「なぁにちょっと男同士の会話だよ。な! 白河君」

「えっと……ハイソウデス」

「うーん、微妙に片言な気がするけど……まぁ仲良く話してたみたいでよかったよ。お父さんすぐ噛み付くから」

「なんだと? そんなことは無いぞ。こんなにも仲がいいじゃないか! HAHAHA」


 そう言いつつ肩を組んでくる。さり気無く後ろ手で抓らないでください! はぁ……まぁ、何だかずるずると引き込まれてる気がするけど、之も縁と言う事で二人の心配が少しでも解消できるよう手伝いますかね。

誤字報告やブクマに評価ありがとうございます!

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新しい話をアップしていきますよヾ(*´∀`*)ノ:孤島で錬金術師~修学旅行中に孤島に飛ばされたから、錬金術師になって生活環境を整えていく~
― 新着の感想 ―
[良い点] 親父回だけは飛ばした方が良さそう
[一言] やべー主人公1人のときめっちゃ面白いのに おっさんやらクラスメイトいるとマジで苦痛やわ
[一言] 野生と違いダンジョンモンスに飯が必要か否かは知らんが、旨味がなけりゃ餌付けできなくね?まぁ人間が食ってる物を与えても懐かないなら何やっても無理だと思うけど、生まれた瞬間に摺りこみするしかない…
2021/02/07 19:54 退会済み
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