百八十七話
調査して貰うためのアイテムを研究所に送ったが、直に結果が出る訳でもない。
中々楽しみな魔石や素材に、槍という武器のドロップなので早く結果を! そんな気持ちでいっぱいではあるけど。
ただ、結果が出ない物で盛り上がりすぎても、どうしようも無いので、こういう時はダンジョンへと潜るに限る。……まぁ、潜った結果面白そうな物が追加される。そんな事も良くある話ではあるが。
そう言う訳でニ十五層へと突入し、周囲の状況を確認。
どうやらこの階層は山頂付近といった雰囲気で、物凄く見渡しが良い環境だ。足場の悪さだと、二十四層以下だけど、二十三層よりは良い。まぁ、暴れまわらなければ転落する事は恐らくだが無いだろう。
そんな感じで、周囲を確認ししつつ少し前へと進んで行くと、上空に鳥型モンスターの気配が増えていった。
「やはり鳥なんだよなぁ……しかも、この環境だと相手にも確実にばれてるよな」
直に襲ってくる気配は無いものの、間違いなく俺の存在に気がついている。そんな動きを鳥が見せている。
ただ、この状況で一番ありえるのは、二十三層のボス部屋と同じ集団で襲ってくるパターンだろうか。まぁ、環境的には間違いなく此方の方が戦いやすい。だが、そんな単純な話だろうか? 此処は二十五層だ。当然難易度でいうなら、二十三層より高くて当然。
「となると、何かギミックがあるか、他のモンスターが居るか、鳥自体が上位タイプの可能性が上げられるか」
一番嫌なパターンだと、設置型トラップがある上に、二十四層のボス山羊みたいな奴と共闘されるパターンだろう。
となると、一旦足場を再確認しておくべきだろうな。今ならまだ、あの上空に居る鳥は此方を襲う気配が無いからな。
探索のお供である十フィート棒で地面を探りつつ、特殊フィールドでも無いかと周囲のチェックも忘れない。
それにしても、足場は石だらけで結構滑りやすいな。気をつけないと、滑って転ぶなんて事に為りかねない。重心は低くしておかないと、簡単に足をとられそうで……これって、戦闘中に踏ん張るのも大変だろうな。
これは、自分の居る周辺は土魔法で整地した方が良いか。まぁ、その分魔力を使ってしまうけど、やらないよりマシかもしれない。
善は急げでは無いけど、トラップの有無を確認した後に足場の整地をして行く。とは言っても、地面自体が凸凹としていたり、斜めだったりとする。その状況を整地をしてしまえば、ボールが転がっていきそうな斜めの道になってしまうので、滑り止めや階段にするなどの工夫が必要だ。
「ただ、階段だと……戦闘になった時面倒だよな……となると、何らかの方法で滑り止めか」
少しでも斜めにならないようにはしている。だが、石で盛ってない分、どうしてもツルリとした地面になる。なので、地面に切れ込みを入れるなどして、少しでも滑らないようにと変化させて行くのだが……。
「魔力消費量が半端ねぇ! これは駄目かもしれんな」
整地しながら出口を目指す。途中で戦闘も挿むだろうから、間違いなく魔力量が足りていない。となれば、この方法は却下だな。
こうなると、足場の悪さは……目を瞑るしかないか。なるべく戦闘時も近距離戦闘を避けるべきだろうな。
「こう考えると、二十三層と足場の悪さは同じぐらいか? あっちは横幅が狭いだったけど、こっちは傾斜が激しいからな」
地面が波打っているのは変わりが無い。波打ち具合は二十四層の方が激しかった気もするが、二十四層は幅も広く滑り落ちるような傾斜も無かった。
それぞれの階層で特色が違うと言えば聞こえは良いが、対策を取る方法が違いすぎて面倒臭い。
対策としては、スパイクがついた靴でも履けば良いかもしれないが、戦闘の邪魔だったりするんだよなぁ。スライド系の移動が封じられてしまうからな。
「まぁ、遠距離戦メインと言う事にして、後は……踏み外さないように歩くしかないか」
とりあえず足場の悪さについては、しっかりと伝えておかないとな。俺としてはスパイク系の靴は邪魔だけど、盾持ちならば逆だろう。
しっかりと地面を踏み込んで、大盾で敵の攻撃を受け止める。こういう戦い方なら、こういった山岳フィールド以外でも、その手の靴は使えそうな気がする。
必要だろう情報をメモしつつ前へと進んで行くが、見えるモンスターが現状鳥だけだ。しかし、その鳥も大量に集まり出している。うん、二十三層でみたような光景だな。
まぁ、全く同じ……何てことは無いと思うが、気をつけないと、また大量に押し寄せてくるパターンに入りかねない。なので、今は此方から手を出す事はしない。
そんな感じで、周囲のチェックとモンスターの動向に気をつけている訳だが、なにやら遠くの方にちらちらと動く影を発見。
新手のモンスターか! と思わなくも無いが、雰囲気からしてモンスターでは無さそう。何せ、魔力探査に引っ掛からないからな。
となると、何が動いているんだ? と言う話になる。
まず、この階層に居る探索者は俺だけのはずだ。他の探索者だと、二十五層まで来ている者は居ない。まぁ、違うダンジョンと繋がっている。何て事があれば、他の探索者と言う可能性はあるだろうが、そう言った他のダンジョンと合流するなんて話は聞いた事が無い。ゲームやラノベだと稀にある話だけどな。
人でもモンスターでも無いとなると……何かのギミックだろうか。となると、トラップである可能性がかなり高くなる。
ゆらゆらと動くトラップ? あれかな、一本道を通るのに振り子を用いたギミックで、横から殴られて落ちる奴。もしくは、切裂かれるギロチンがついているパターン。
まぁ、その手のギミックならば近くに寄るまでは安全だ。とりあえず前へと進むしかないかな。
ただ、鳥の動向が気になる。あのギミックが見え出してから、動きに多少の変化が見える。まぁ、本当に微妙な違いだが。それこそ、円運動が少し広くなったとかそんな感じ。
「少しだけ面倒な気配をひしひしと感じるなぁ」
「ん?」
「いやさ。もしこの道の先に大量のギミックが有ったとして、更にモンスターが大量に居るとか面倒じゃないか」
ギミックを攻略か破壊しつつ、モンスターと戦うとか大変すぎるよな。しかも足場は悪い訳だし。
まぁ、どちらにしてもだ。まず、あのギミックがある場所まで行かないとな。モンスターも攻めてこないし、さてさて、一体なにが有るんだろうな。
――村の周辺――
「よし、今日の散歩はこれぐらいだな」
「「「ガゥ!」」」
狼達の調教の一環である、防壁の外での散歩。これを行うようになってから数回。今日の分の散歩を終らせて、調教師である探索者が帰宅をすると判断し、その事を狼達に伝えた。
最初の内は、一匹につき一人の探索者がフォローとして着いていたが、今は一人で三匹程の狼を連れている。
「しかし、本当に聞き分けが良い子たちだな」
調教師はそのような事を口にするが、それも当然だろう。なにせ、人間の言葉を既に理解して居るのだから。
言葉が解るという事は、どう動いて欲しいかなども解る。後はそのように狼達は動くだけ。人から見れば聞き分けが良く見えるのは当たり前だ。
勿論だが、ただ命令を聞いているだけじゃない。狼達も餌を貰える、構って貰える、面倒を見てくれているなど、そんな理由があるからしっかりと人の言っている事を聞いている。
狼達にとって、この村の人達は群れの一部で、面倒見の良いリーダーでもあるという事もあり、群れの序列を大切にして居るという点もあるが。
「しかし、そろそろお前達も、狩りや配達の任務に着くようになるんだろうな」
「わふ?」
「あぁ、群れのお仕事って奴だよ。お前達ももう大人になるからな」
「「「がう!」」」
お仕事頑張る! と言いたげに、狼達が返事をする。何せ仕事をもらえるという事は、一人前と認めて貰った事につながるからだ。
モンスターである狼達にとって仕事は、狩りをする事、群れを守る為に警戒探索をする事だ。
そして、今調教師が言った、狩りや配達と言う物のうち、狩りと言う言葉が出た時点で、彼等は一人前直前だという事を理解し、気分は最高潮だ。
ただ、配達と言うものの内容については理解出来なかったのだが……まぁ、それは仕方の無い話だろう。
「その内、色々な仕事内容を教えて貰えるだろうからな。今はこの周辺をしっかりと覚えるんだぞ」
その言葉にやる気を出し、周囲をしっかりと確認しながらマーキングしていく狼達。
近いうちに、街やダンジョン前の拠点に彼等の散歩コースが増える。
そして、それさえ覚えれば、もう彼等は一人前となり仕事に就けるようになる訳だ。
そうなる日を、調教師や協会の人も、そして狼達も今か今かと待ちわびている。
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