百八十六話
ダンジョンを出てから協会へと足を運び、何時もの様に受付でダンジョン攻略の情報に関する話をする。
そして当然のように、奥の会議室へと案内された。「攻略についての話ですが」と一言告げただけで、内容を詳しく聞かれること無く、奥まで案内されるようになっている。まぁ、楽と言うか時間が短縮できて良いけど、それで良いのだろうか?
そんな疑問を考えながらも、会議室へと入る。まぁ、何時もの二人がにこやかに待っているのも恒例だ。
「さて白河君、今日はどんな爆弾を持ってきたんですか?」
「いやいや、爆弾じゃなくてダンジョン攻略状況の報告ですよ」
「これまでの事を考えたらなぁ……まずは、独自に解体と採掘に採取に行きついた事だろ? 更にはモンスターの変質に、モンスターの大群の出し方っと……他にもあるが、これだけでも十分爆弾だろう」
む……そもそも、解体に採掘や採取は何故思いつかなかったのか? と言う疑問しかない。国や組織としては、気がついてたみたいだけど。秘匿してたみたいだからなぁ。
まぁ、秘匿してた理由としては、どんな影響が有るか解らないから調査中。そんな感じだったみたいだけど。
後、モンスターの変質も、大量のモンスターに襲撃を受けたのも、意図してやった事じゃないんだけどな。
とは言え傍から見れば、まるで俺が引き寄せてるか、俺が意図的にやってるように見える。まぁ、苦笑いをして否定するぐらいしか出来ないな。
「あはは……今回は普通の内容ですよ」
そう一言告げて、メモを提出し確認して貰う。まぁ、後は質疑応答だ。
因みにだけど、会議室の隅に実はもう一人居たりする。ただ、その人は話に混ざる事は無く、黙々と会話の内容を記録して行く書記の人だ。
この人のお陰で、俺はダンジョン攻略情報を纏める必要が無くなった。メモを三人で確認しながら、ダンジョン内の事を思い出して会話してるだけで、正確なダンジョン情報を文章にしてくれるからな。
そんな書記さんにも軽く会釈をしてから、本題に入る。
「さて、ニ十四層ですが山羊型モンスターで、魔力探査に優れていると」
「アイツだな。他のダンジョンで出会った事があったな。面倒な奴で、あの山羊は此方のやる事なすこと、全てを予測でもしたかのように行動していたんだが……なるほど、こんな理由だったのか」
「おや? 原因を追究して居なかったのですか? 珍しいですね」
「出会ったフィールドも、広いだけのダンジョンだったからな。面倒だから逃げ道も無いぐらい爆破してしまえ! って方針で、攻略重視に行動してたんだよ。山羊が出る階層的にもリターンを考えた際、さっさと次へと移動した方が良かったしな」
ん? 雷を撃つモンスターの魔石だ。かなりリターンは大きいと思うけど、何故リターンが少ないと感じたんだろうか。
もしかして全く違うドロップが出るダンジョンだったのかな。
「ん? その顔はスルーするには勿体無い相手だろうって顔をしてるな。まぁ、魔石の利用方法が爆弾として使ってたからな。使用する魔石の量とドロップする量が割に合ってなかったのと、そのダンジョンのメインドロップ品がな……茸だったんだよ。で、山羊のドロップする茸がなぁ……カエンタケだ」
カエンタケって……触れただけでも皮膚炎を起こすんじゃなかったっけ? ドロップしておいて拾うなって事か。てか、なんでそんな物をドロップ品として扱ってるんだ! 誰かを毒殺しろってか? まぁ、対モンスター用の毒として使えるのかもしれないけど。
いやいや、まてまて、ドロップしたのはダンジョンだ。と言う事は見た目がカエンタケであって、実は違う代物かも知れない。っと、思いたいけど、まぁ調べて結論を出してるんだろうなぁ。
「面白いほど思考をめぐらせてるみたいだな。まぁ、お察しの通りだ。俺達ももしかしたら見た目だけでは? と思って、研究機関で調査したわけさ。結果……カエンタケよりも毒性が強い可能性があると調査報告書には書かれてたな」
「なるほど、使い道が難しいから回収せずに、先に進んだ方が良いと判断したわけですね」
「そう言うことだな。そして、運が良いのか悪いのは解らないが、俺達自衛官が山羊と戦ったのも、その場所のみだったのでな。山羊の特性を調べる事はなかった訳だ」
解体をしていれば、素材は丸儲け出来た。まぁ、その場合はドロップ品は手に入らないのだけど。ただ、カエンタケと山羊型モンスター一匹を天秤にかけたら……山羊を手に入れたほうが良いよな。……村の研究者なら嬉々としてカエンタケを対モンスター兵器にしそうだけど。
「しかし解体をする事や、ここのダンジョンのドロップが魔石を確実に落すと言う事から考えて、当時とは山羊を倒す価値が全く違うからな」
「魔石の利用方法も違いますしね。ただ……電撃を出すモンスターともなれば、その魔石の属性は恐らく雷でしょうね」
「研究者共が目の色を変えるだろうな。利用価値がとんでもないからな……って、やはり情報爆弾じゃねーか!」
心外な! 山羊の魔石はまだ属性は解ってない。まぁ、ほぼほぼ雷属性だろうけど。
それに雷属性なら、今まで以上に魔法と科学のあわせ技が可能になると言うのに! そして、その魔石の獲得方法も調べてきてるんだぞ。……まぁ、この階層まで来てる人が他には居ないけど。
「研究所に送ったとして、この魔石の属性が雷ならば、山羊の魔石を求める声が増えるでしょうねぇ……」
「探索者が足りんぞ……ニ十四層なら、ウチの奴等が一気に進めば問題ないだろうが……他の素材回収もあるからな」
「今、鉱石の採掘やゴーレム狩りをして居る人達は、人数的にぎりぎりでしたっけ」
「そうだな。後続が少しずつ育ってきてはいるが……村や街の防衛もあるからな」
うわぁ……人手不足か。なんと言うか、一気に生活レベルを上げているから、素材が足らないというのは仕方ない。その素材回収をする人が足らないのは、今の状況的にどうしようもない。
入谷さん達が話し合いをし、計画を進めているもう一つの街への進出をしたとしても、そちらの街の発展やら、人の育成もあるから直に解決する問題でもない。むしろ、最初は負担が激しいはずだ。
「まぁ、雷属性の魔石が手に入れば、エネルギー革命が起きて今まで以上に、色々と楽になったり出来ることは増えるんですけどね」
「あー……今だと発電効率も悪いんだったな」
もし、電気代と言う概念が存在していれば……一日電気を使った時点で一家に一つ以上の魔石を……それも、オーク以上の物を使う事になる。
毎日ダンジョンに潜り、大量の魔石を回収出来ているからこそ、今の所問題無く村と街の電力は確保出来ているが……これが、さらに街を一つ増やしたり、もしこのダンジョンのドロップが魔石出なかったら……間違いなく破綻している。
何せ、解体をせずモンスターを討伐して、ドロップ品を回収しているだけの人だって居る。むしろ、どんどんダンジョンを進めるのであれば、其方の方が効率が良い。
なので、そのドロップ品が確実に落ちる魔石と言うのは、かなり大きかったりする。
「まずは、山羊が居る所まで行ける探索者よりも、ゴーレムの所に行ける探索者の育成だな。そこが増えれば、必然的にゴーレムを倒してる探索者が繰り上げになって、山羊の所まで進めれるだろ」
「そうですね。確かに雷の魔石は魅力的ですが、代用品が無い訳じゃないです。まぁ、燃費は悪いですけど。逆に鉱石関連は代用品が無いとなれば、優先するべきは鉱石ですね」
黒鉄にミスリルにと……確かに代用品が無い。武器に家具に拠点防衛装備にと色々と需要が高いからな。
とは言え……研究所からの要請が大変だろうな。まぁ、そこら辺は入谷さん達に防波堤になって貰うしかないか。
「まぁ、山羊の所まで行ければ、討伐方法は確立して居るみたいだからな。魔石回収は割りと楽かもしれんな」
「スタングレネードに原始的なトラップですか……たしか、スタングレネードは試作品でしたよね」
「はい。ニ十四層に潜る前に、試してみてくれと研究所から送られてきた物ですね」
「そして、いきなりこの成果か……白河は正規採用し量産化を推すんだな」
「えぇ、調整は必要でしょうけど、成果が出ましたからね」
ボス山羊には如何いう手段か解らないが、防がれてしまったけど……まぁ、その防いだのも目潰しだけだったからな。全く使えない訳じゃなかった。むしろ魔力探査を妨害できるという点が大きい。
だた、気をつけないといけないのは、自分達も妨害されると言う点だろうな。
「魔石爆弾よりも安価かつ効果はでかいか……試してみたい物だな」
「ハンドガンと同じで、ある程度の方向性が決まったら、此方に意見を求める為に試作品を送ってくるでしょう?」
「ふむ……それまでに山羊の階層まで行けるようにしないとな」
さて、ニ十四層についてはこんな物だろうな。他に大きなことと言っても、ボスが他の山羊よりも大きかったって事ぐらいだし。
あれで、群れていたり鳥も一緒に存在してたら、難易度は跳ね上がっただろうけどな。所詮は一匹だけの状態だから、数匹群れられてた通常山羊の方が面倒だった。
「それはそうと、白河君は次に二十五層ですね」
「そうですね、上級ポーション欲しさに此処まで来ましたけど、そう言えば研究所に調査して貰ってるポーションみたいなのは、上級だったんですかね?」
「此方にはまだ報告が来てませんね。とは言え上級が出たらどうしますか?」
「どうするとは?」
「手に入れば目的は達成した……と言う事になりますよね? ダンジョン探索続けますか? まぁ、私達としては続けて欲しいのですけど」
「あー……そうですね。当初の目的を達成と言う事にはなりますか。まぁ、個人的な物が終るだけで、次は……村の防衛強化とか有りますから、今しばらくは潜った方が良いかなとは思ってます」
そうなんだよな。これが崩壊前だったら……ここで、ダンジョン探索を止めると言う手段があった。と言うか、恐らくやめていた。
だけど、今の状況下だと……せめて家族や知り合いの自衛手段として、魔本や予備のポーションなどを手に入れておきたい。
何せ何時、俺達の村にモンスターが押し寄せてくるか解らないからな。
「一度、全てのダンジョンからモンスターが溢れたなんて前例が有りますからね。抵抗と言うか自衛できる手段は増やしておきたいですし」
「……そうですね。では、白河君はダンジョン探索の方向でお願いします」
「ん? その言い方だと、他に何か考えてました?」
「あー……ほらあれだ、他の街に遠征するチームとか、未探索ゾーンの調査とかもあるからな」
「それに白河君は以前に、もう一つの街まで行ってますからね」
「あの街ですか。まぁ、ここのダンジョンから真直ぐ進めば、たどり着けますよ」
「おや? それはなんとも楽な話ですね」
なるほど、そろそろ本格的に周辺の調査と街への遠征を再開するつもりか。
まぁ、人手が足らなくなる原因ではあるのだけど……やっておかないと、それだけ脅威の対処が遅れるからな。
その脅威が、街なのかモンスターなのか……そこら辺は調べた結果次第だけど。できるなら、街が脅威と言うのは止めて頂きたい。
まぁ、あの街までであれば、モンスターの脅威は低いだろう。なにせ片方が〝神樹の森〟で、もう片方はオーク達が居た場所だ。
今の戦力ならば、何の問題も無く進めるはず。
「なるほどな。たしかにオークぐらいなら問題は無いが、生態系が変わってる可能性はあると思うか?」
「ダンジョン外にでたモンスターからして、オークは弱く無い方ですし、繁殖力も高いですから勢力図自体は、人間が殲滅してない限り変わってないのでは?」
もし、勢力図が変わってる可能性があるとすれば、人間以外だと……あのオーガみたいな奴が居た場合。だけど、あのオーガは瘴気で強化されたモンスターのはずだから、そうそうオーガがダンジョン外に居るとも思えない。
であれば……あの街に続く道で一番脅威のモンスターは、今もまだオークのはずだ。
さて、入谷さん達は遠征計画を本格的に進めているみたいだな。
しかし、ダンジョンに潜る理由か……正直、潜る理由が変わってきているのは確かだな。正直、上級ポーションさえ手に入れば良かったのにな。
兎に角、当面の目標はポーションのストックに魔本だ。……レアドロップと言える魔本はどれだけ頑張ったら、必要数手に入るのやら。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!!




