百八十四話
息を潜めて状況を見守る。
今まさに鳥が山羊を襲撃しようとしているが、山羊はその動向を既に察知していて、鳥が襲おうとすると迎撃する為の態勢をとる。そして、それに気がついた鳥が襲撃をキャンセルする。
更に鳥側が気がつかれているならと、襲撃するぞ! フェイントをかけながら山羊を揺さぶったりするという、モンスター同士の心理戦が始まりだした。
急降下を開始して途中で上空に戻る鳥、迎撃しようとして角に魔力を溜め、上空に戻る鳥をみて魔法の発動をキャンセルする山羊。
こんな行為が数回ほど目の前で起きた訳だが……いい加減、進展してくれませんかね? とは思うものの、これは長引きそうである。
鳥側も三匹居る山羊に対して、どれを襲うか決めかねているのか、全ての山羊に攻撃するそぶりを見せ、山羊側も迎撃するのは自分だ! と言う感じで、お互いを牽制している。
この牽制行為。恐らくだが迎撃した山羊が、獲物を全て食べれる、もしくは優先権があるのだろう。なので同じ種族の仲間同士だが、食料の争奪戦という事でお互いライバル視でもして居ると言った所だろうな。
ただ、この状況は漁夫の利を狙う俺からして、喜ぶべき事じゃないだろうか。
山羊達は上空とお互いに注意をしている状況だ。だとすれば、地上で隠れている俺に気づく可能性は一気に減っている。もし、今すぐ俺が攻撃をしても、反撃に出るタイミングがワンテンポ遅れるぐらいには。
それなら鳥が襲撃をした瞬間ならば、更に反応が遅れるはずだ。……これなら、上手くやれば三匹全て倒せるかもな。
少しだけ作戦を変更して、山羊が鳥を迎撃するタイミングを待つ。
まぁ、どの山羊を鳥が襲うかが割りと運要素だけど、出来るなら此方に顔を向けておらず、一番遠くに居る山羊以外を狙って欲しい所だ。
それと、保険程度ではあるが双葉にも指示を出しておく。
「双葉は戦闘が開始されたら、俺達と山羊の間に蔦を張り巡らせて置いてくれ」
「ん!」
蔦を張り巡らせる。これをやっておけば少しは、山羊の移動を遅延する事が出来たら良いだろう。山羊の足が蔦に絡まり転んでくれれば完璧だけどな。
後、今すぐやらないのは、もし山羊が魔法の使用に気が着いたら面倒だという事から。危機察知能力が高いからな、ぎりぎりのタイミングまでは、一切行動をせず気がつかれる要素を減らしておきたい。
鳥の牽制に山羊達が苛立ちを覚え出している。ちなみに俺と双葉も早くしろよ! と、鳥が気がつかない程度で睨みつけている。
そんな中、鳥がやっとターゲットを決めたのか、それとも山羊の苛立ちを待っていたからなのか、どちらか解らないが、一匹に狙いを付けて急降下を開始した。
狙われた山羊は俺から見て、三匹の居る中で丁度真ん中に居る山羊。そして、その山羊は一応迎撃態勢を取っているが、どうせまた上に戻るんだろう? といった態度を見せている。
「何度も戻ったから、今回もと思ってるんだろうな……でもあの鳥戻る気配ないぞ」
毎回上空へと戻っていたタイミングでも戻らなかったからか、山羊もこれはパターンが違う! と判断し、すぐさま迎撃のために魔法を発動させようとする。
だが、少しタイミングが遅かったのだろう。鳥の襲撃と山羊の迎撃は、その両方が同時という奇妙な状況。
普通なら、相打ちなのだろう。だが、こんなタイミングを見逃す訳にはいかない。
お互いの攻撃がお互いに入るだろう瞬間を狙って、散弾魔法を襲われた山羊に向かって発動。それと同時に、一番近い山羊に向かってハンドガンを全弾乱射しておく。
「双葉今だ!!」
「んー!」
更に双葉に声をかけて、作戦通りに蔦による足場の悪化を狙う。
一連の行動による結果だが、散弾魔法を撃ち込んだ山羊は、予想通り此方に一切気が着く事が無かったのか、綺麗にハチの巣になった為に討伐完了。
次にハンドガンで連射した山羊は、攻撃に直気がついたのか華麗なステップで銃弾を全て回避した。実に残念な結果だ。
そして、一匹何もせずに放置した山羊だが、これは反対側を向いていた上に、一番遠かったから放置したのだが、なぜか俺が他の山羊を攻撃したタイミングで振り返り、角に魔力を溜めて魔法を撃って来た。
まぁ、それでも此方の攻撃は既に終った後だったので、盾を使ってガードをする事に成功し、無傷で魔法を防ぐ事ができた。
「ただ、なんであのタイミングで気がついたんだ?」
目視出来ずない状態だった上に、あの山羊を狙っても居ない。気がつくタイミングも、攻撃してくるタイミングももう少し遅いと予想してたんだけど……思った以上の速さで行動して来た。
それこそ、俺が魔法を発動させたタイミングで気づいていないと無理なタイミングだ。……って、もしかして魔力を察知して反応するタイプか。
となると、奴等が察知してたのは、アンチモンスターライフルにしろ、肉に仕込んだ毒やらマキビシなどにしても、魔力を感じ取っていた? そういえば、全ての武器には魔粉やモンスター素材を混ぜてたな……もしかしたら、それが山羊にとって異常な気配でも出してたんだろうか。
「っと、今は戦闘中だったな。とりあえず、魔力を察知してるようなら、やり方は他にもあるか」
「ん?」
「見てからのお楽しみって事で、双葉は注意しておけよ」
双葉はそのやり方が気になっているようだけど、今は説明するより行動が先。
まぁ、現状だと山羊達は、此方に来る為には遠回りしないといけない。双葉の張り巡らせた蔦があるからな。ただ、その蔦を張り巡らせるのに魔法を使った。なので、山羊達は足場の蔦にしっかりと気がついてる。
気がついているからこそ、山羊達は蔦ゾーンを避ける為に遠回りを開始。お陰で次の手を使うまでの時間が稼げた。
「試作品だけど、効果はあるだろ!」
元・自衛官監修の元に作り出されたスタングレネード(魔粉使用)を取り出し、山羊達に向かって投げつける。
このスタングレネード、魔粉を使用して居る訳だが、普通に魔石を爆破させるよりも粉にして使う為に、はるかにコストが良い。まぁ、殺傷能力が無いのは仕方ないが、目や耳を多用するタイプのモンスターには効果的だ。
そして、副産物として魔粉を爆破に使う為に、周囲の魔力が乱れるためなのか、魔力探査がしにくくなるという効果もある。
当然そんな物を投げられた山羊は、魔力探査を基準とした危機察知能力が一気に低下。目も耳も同時にやられた為か、かなり行動に不具合が出ている。
これならばハンドガンでも外れる事は無いのでは? という事で、リロードしたハンドガンを山羊の頭に向かって射撃。
バン! と撃ち出された銃弾が、山羊の頭部へと吸い込まれていく。
どうやら、魔力探査がベースと言うのは間違いが無さそうだな。頭を撃ちぬかれた山羊が、ドサリと倒れ、予想が正しかった事を裏付けたので、残っていて今だスタン状態の山羊に向かっても射撃。
「……思わぬ弱点が発覚したな。なるほど、場の魔力を乱せば良かったのか」
遠距離射撃じゃ無理な方法だな。それに、最後射撃が簡単に行ったのもスタンをしていたからだ。もし、これが魔力を乱した状態と言うだけなら、銃弾が命中しなかった可能性も無いわけじゃない。動体視力や聴覚が悪い訳じゃないだろうし。
まぁスタングレネードが、かなり使える道具だと言う事も解った。山羊を一匹狩るのにスタングレネードを一個使う……と考えても、費用に対してリターンは大きそうだし、これは正式に量産する事を進めて良さそうだ。
ただ、接近戦に自信があるならばスタングレネードを使わずとも、何らかの魔法などで魔力探査をかき乱してから戦っても良いだろうな。時間は掛かるが道具を使わない分、リターンは多いしな。
「さて、それじゃトラップはどうなったかを見てから、ボス部屋探しでもしますか」
「んー!」
スタングレネードや魔力を乱す方法が解ったが、トラップ狩りの有用性は変わらない。何せ作って放置しておくだけで良いからな。
山羊狩りの効率的に、トラップを山羊が使う道に作ってから、違う場所にいる山羊を狩り、帰宅する時にトラップを見る。トラップに掛かっている山羊が居れば、儲けものという訳だ。
そしてトラップ狩りの結果は。まぁ、魔力探査を使用している山羊という訳で、その手の物を使ったトラップは全滅。
だが、最初に作った物と同じ、場にある素材と何の仕掛けも無い肉を使ったトラップには、山羊がしっかりと掛かっていた。
もう、これは確定でいいだろうな。奴等は魔力探査を使い危機を回避している。それは、攻撃してくるモノ以外にも、毒やら仕込まれた何かを調べる事にも使用して居る。
「よし、山羊の特性がほぼ丸裸になったと言っても良さそうだな。この情報が行き渡れば、山羊の魔石が量産できそうだ」
電撃を使うモンスターの魔石だ。当然その属性が雷だろうという期待は高い。そして、山羊の角にも夢がいっぱいと言った所だ。
正直、今すぐこの素材をもって地上に戻りたい気はするけど、まずはボス部屋を探して攻略だな。
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