百八十三話
トラップについて少々考えてみる。
仕込み型の肉も、落石や吊るし上げ用のトラップも、俺が作ったのは間違いが無い。だとすると、人の手が入っていると駄目という事は無い。当然だが、もしそれが駄目なら岩に潰されたり、逆さ吊りにされた山羊が居るのは可笑しい話になるからな。
となると、肉への異物混入がアウトだろうか? もし、危機察知能力が未来予知みたいな物であれば、これもまた通常のトラップに掛かったのは何故? と言う事になる。となると、異物混入の線で考えた方が良いかもしれないな。
「さて、その異物混入だけど……入れたのは、マキビシ・麻痺毒に漬けた肉・麻痺毒の仕込み針・ワイヤーと釣り針だったっけ」
どれも、村で作った自慢の一品を素材にした物を使っている。まぁ、山羊が掛かる事が無かったから、性能は見れなかったけど。
麻痺毒漬けやワイヤーが出ている物は別としても、しっかりと肉の中に隠した、マキビシや仕込み針に関しては、何故気がついたのか不思議で仕方ない。
隠されたその二つを見つける事が出来ると言う事は、見た目で異物混入を見分けた訳では無いと言う事だろうか。
となると……何を見ている? 何か残っている悪意とかを見る事が出来る……のであれば、通常のトラップに掛かるだろうか? まぁ、個人的な感想だけど、その場合は掛からないと思うけどな。
後、それなりの時間が経ってからトラップに掛かったのは、俺の体臭が残っていたからと言うパターンはあるだろう。動物の世界でも、トラップ狩りをする時は良くある話だかしな。
「んー……毒や金属を察知できるパターンかな?」
可能性の一つとしては、その手の察知能力だろう。実際飛んで来る銃弾を避けた訳だし。しかし、それだけだと、鳥の襲撃を迎撃出来るのが謎になる。もし毒持ちの鳥と言うのであれば、あんな大量に喰わないよな。
微妙に謎が残る……が、検証用のデータ集めの為に、色々と仕掛けてみる必要が有りそうだな。
山羊が通りそうな道に、こつこつとトラップを作り仕掛けておく。トラップに掛かるのであれば、またそれなりに時間が経ってからだろう。
という事で、トラップを仕掛けている場所とは別の位置に移動。
鳥が山羊を襲いやすい位置が目視できる場所かつ、こちらの位置が山羊に気がつかれないだろう場所をキープ。勿論、現在進行形で山羊が居るのを確認出来る上でだ。
「まぁ、そうそうベストなポジションってのは無いけどな」
そこそこ見やすく、隠れるのに最適な場所で、山羊も面倒だけど三匹居る状態。検証の為だし出来るなら一匹が良かったんだけどな。
まぁ、複数居ると言う事は難易度が一気に上がる。山羊が鳥を迎撃してチャンスだとしても、他の山羊が俺に気がつけば、攻撃のチャンスでは無いからな。俺が攻撃をしたとしても、他の山羊による迎撃が待ってるだけだろうな。
となると、山羊の数に合わせて鳥も複数で攻めてくれると良いけど……まぁ、そんな簡単に行く話でも無い。
それを何とかする為に、鳥を釣りだすとしてもだ……カエルの肉を上空に投げる……まぁ、意味が無いだろうな。むしろ鳥がお腹いっぱいになって、山羊を襲わないだろう。
「まぁ、山羊が他事に気を取られた時に、攻撃チャンスとなりえるかを調べたいだけだし、複数居た所で攻撃をして、直逃げるってのも有りだけどな」
山羊の素材や魔石は、研究用にと既に幾つか手に入れてある。
なので、今回欲しいのはデータだ。むしろ複数居た場合でも、奇襲出来るのか? と言う事が解るから、ある意味ラッキーかも知れない。
「まぁ、鳥が攻撃を仕掛けてくれないと、どうしようも無いけどな」
身を潜めつつチャンスを狙って、一体どれぐらい時間が経っただろうと言う気分になる。
実際は、時計を見る限り此処のポジションにきてから、三十分ぐらいだけど……体感は既に数時間待ってる気分だ。
まぁ、焦っても意味が無い。狩猟なんて基本的に待つのが仕事だからな。
とは言え、ただ待つのもあれなので、もし正面から戦闘を仕掛けるとして、どうやって戦うかを考えてみるか。
山羊のスペックは、足が速い・電撃魔法を角の先端から出す・異常なまでに回避能力が高い。と三拍子揃っている。
投げつけたカエルを蹴り飛ばしたのを見た感じ、あの蹴りも相当な威力があるはずだ。
となると、正面と後方から攻めるのは危険だろう。必然的に側面へ周りこむ動きが必要になりそうだ。
「ただなぁ……横からの銃撃を避けた柔軟性と言うか、体の動かし方を見た感じ、簡単に周りこめないよな」
パーティー戦であれば、盾持ちの盾に対魔法素材で防御力を上げて、山羊の正面に立ってもらい、常に山羊に対してプレッシャーを与えてもらい、後は総員で横から攻撃するのが理想だろうか。
俺の場合はどうしたものだろうか? カイトシールドを使って正面に立ち、俺がプレッシャーを与えたとして……攻撃どうするよ? 電撃魔法を防ぐのに手がいっぱいになりかねない。
隙を見て近距離ハンドガンか? 恐らく、魔法を防ぐ為に、零距離戦闘か少し距離を置いた戦いになるかな。となると、長物武器は使えない訳で、距離がある時は盾とハンドガン。盾で山羊の顔を押さえる場合だと……やっぱハンドガンかマナブレードや剣鉈かな。
まぁ、長物は使い物にならないと考えた方が良いだろうな。
ただ、一対一ならそれでも良いだろう。可能性が無い訳じゃない。が、問題は一対多の場合だ。
山羊一匹にプレッシャーを与えたところで、横から魔法を喰らうなり、蹴りを喰らうなり、角で突かれたりするだろう。
双葉が居るとは言え、双葉も基本的には俺と一緒に移動する。なので双葉の事は、俺の手が増えたと考えた方が良い。まぁ、それがかなりありがたい話ではあるけど。
まぁ、基本ではあるけど一対多の時は、全ての敵を視界内に入れつつ、立ち止まらないようにしながら戦う。それしかないけど。
「武器がなぁ……ハンドガンじゃなくてショットガンが欲しくなるな」
片手で扱えるタイプのショットガンにしてもらえれば最高だろう。散弾式の銃撃魔法と一緒に打ち込めば、散弾祭りで実に素晴しい火力になること間違いない。
まぁ、今言っても無いものねだりだし、そもそもライフルを隠れて作り、激怒された開発者が出たばっかりだ。今、ショットガンが欲しい! と、要望を出した所で却下されるのが落ちだろう。まぁ、研究者達は直に作らせろ! と、盛り上がり兼ねないけどな。……下手に口に出来ないな。
兎に角、山羊を複数相手にする時は、移動しながら盾を使いながら、散弾魔法を打ち込む。コレでいいだろうけど、問題は同時に使うハンドガン。
点の直線攻撃な上に装弾数が七発なので、リロードのタイミングが大変だ。隠れるポジションでも有れば良いけど、何か手は無いものだろうか。
「……ん!」
ん? 双葉が何か蔦を使って訴えてる。なんだろうか? えっと……蔦を使って物を持ち上げたりしてるな。
「って、そう言う事か」
「ん!」
どうやら、双葉がリロードの手伝いをしてくれるようだ。双葉が蔦でマガジンを持ってうねうねと……あれ? これって、面白い事が出来そうだよな……これは、次村に戻ったら少し試してみたい事が出来てしまったぞ。
まぁ、それは今度にするとしておいて、今はリロードを双葉が手伝ってくれる事が解った。
後は山羊相手にどう立ち回るかだけど……これは、一戦してみないと解らない事が多いだろうな。
何せ今の所は、山羊が突撃して来るものを、迎撃するか避けるしか見ていない。あぁ、蹴りを入れるのも見たか。ただ、どういった動きをするかを、ほぼ全く見てない訳だ。
「なら、ここで一対一に持ち込めそうなら、それの調査をするのもありだな」
接近戦を複数相手に始めるのは危険だ。まずは、一対一に持ち込むように動く。とは言っても今居るのは三匹で、もし鳥の襲撃を利用し奇襲に成功したところで、倒せるのは一匹だろう。
「……二匹残るんだよなぁ。さてさて、どうしたものか」
まず間違いなく、一対ニだと調べるよりも防戦一方になる。そもそも、防戦や撤退を何とかする為に、情報収集しようって話なのに。
兎に角撤退のタイミングを間違えないように、ニ匹一気に来た場合は即座に逃げる。これで行こう。
「っと、良いタイミングで鳥が上空に来たな」
恐らくあの動きを見るに、山羊を狙っているのは間違い無い。であれば、あの鳥が襲撃をしたら戦闘開始の合図だ。……しかし、なんであの鳥って、迎撃されるのに突っ込んでくるんだろうな? もしかして、襲撃が成功する事もあるのだろうか。もしそうなら、見てみたい。
――村の狼育成施設――
「ガウ!」
「クーン!!」
モンスターの子狼も今は成長し、体格はもう普通の狼と変わらない大きさにまで成長して居る。とは言え、まだまだ遊びたい盛りなのか、狼達は今日も面倒を見てくれている、親代わりの探索者や研究者達が来ると、一斉に駆け寄り遊んで! と、言わんばかりに甘え始めた。
「まてまて。まず、今日は外に出るからな。何時もとは違う環境で遊ぶぞ」
「ワフ!!」
モンスターの狼達は、ヤハリと言うべきか実に賢い。イオと同じで、間違いなく人間の言っている事を理解して居る。
だからこそ、狼達の面倒を見に来た探索者の一言に、楽しみが止らぬ! と言った感じで、尻尾を振りまだかまだかと、お座りをしながら待機している。
「そこで、外で他の人に襲われないようにする為にも、首輪やちょっとした鞄を着けるからな? これは、君等を守る為の目印にもなる」
少し前から、首輪と鞄を着ける訓練をして居た。これについて狼達は解せなかったのだが、今の会話から、人間から襲われないようにする為なのだと理解。
装着作業を邪魔する事無く受け入れる……が、やはり違和感があるのだろう、後ろ足を使いてしてしと首輪やら鞄に蹴りを入れている。ただ、その動きが可愛いのか周りの人は微笑ましく見守っている。
とは言え、これは狼達の訓練だ。
鞄は荷物を運ぶ為に。これは、イオがやっている郵便を狼達にもやってもらう為だったり、狩りに着いて行く時に、荷物の分散という点もある……更に、この鞄は研究者達による作品で、防具としても優れていて、ちょっと良い程度の武器ぐらいなら、逆に武器を破壊仕兼ねない防御力を持っている。
まさしく狼達の安全の為に作られた、鞄であり鎧だ。
そして今回。初めて村の壁の外に出るという事で、一匹につき一人の探索者をつけている。
初めての試みという事で、全ての人が慎重になっている状態だ。人員から考えてニ匹に一人の案も出ていたのだが、あまりにも子狼時代の姿にやられた人が多かったので、確りとした護衛をと言う裏話もあったりする。
そんな訳で、狼達がとうとう野外散歩デビューを飾るという事で、村の人が集まり盛大な見送りが……こういう時に、一種の祭りみたいな感じになっているのは、もはや村の特色になりつつある。
狼達も皆が集まって、自分達に頑張れ! と言ってくれた事で、嬉しそうにしながら士気も上がっているので、見送りは大成功と言っても良いだろう。
「さてさて、彼等にとってのデビューね。一匹も欠けずに帰って来てくれると良いのだけど」
「大丈夫ですよ。狼ちゃん達も探索者の人達も仲良しですから。それに、今回外に出るとは言え、狩りまでする予定は無いですしね」
「まぁ、そうなんだけど……それでも心配にはなるものよ。あなたも良く面倒を見に行ったでしょう?」
「あはは……つい見に行っちゃいますよね」
品川氏と協会員もまた、狼達の出陣を見守りながら無事戻るようにと祈っている。
この、見送りに来た人の大半は同じ気持ちだろう。とは言え、狼達は元々モンスターであるし、優秀な探索者も着いているのだから……彼等が心配知るような状況など、殆ど無いと言っても良い。
とは言え、心配するなと言う方が無理だろう。年長者はそれを理解しているのだろうか、心配しながら見守ってる人達を、優しい目で見ながら、あんな時が私にもあったなぁ等考えているに違い無い。
何はともあれ、狼達や村にしても、モンスターテイムと言う技術の調査という点からしても、新しいステージに入ったのは間違いないだろう。
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