百八十二話
こそこそと移動しつつ良さそうなポジションを探すが、そういった場所は基本的に山羊が陣取っているか、その場所に行くルートに山羊が居た。
こうなると、鳥型モンスターを捕獲して餌にする作戦は実行が難しい。
別のポジションでも鳥が襲ってくる可能性はあるが、どこのポジションでも先に山羊が視線に入るだろうから、そちらを襲う可能性が高い。
ならば、二十一層に戻り鳥を確保しようとしても、二十四層より手に入る量は少ないだろう。
そして、乱獲できる二十三層のボス部屋という手があるのだが……。
「二十一層も二十三層もだけど、その場合手に入れれるのは倒した後の鳥肉だよなぁ。生きた状態での捕獲は難しいよな」
地面に電撃で倒しておいた肉を食うかどうか、その検証は出来るけどな。
まぁ、色々試してみたいし、まずは二十三層で少し肉狩りでもして来るか。
そんな訳で、鳥肉だけでなくカエルも確保したので二十四層に戻る。
ついでにという訳でもないが、カエルの横穴防戦をせずに、ボス部屋に一直線で進んだらどうなるのか? と言うのも検証したが……うん、あの努力はなんだったのだろう? と思わずには居られないレベルの難易度だった。
数十匹の鳥を撃ち落したら、二十四層へと進む階段が出たからな……掛かった時間も十数分とあっけない程の速さだった。
安全を考えた結果が横着だったなんて、実に本末転倒な話である。
閑話休題
十分と言える肉の量を確保したので、早速ちょっとした仕掛けを幾つか施してから、山羊相手に検証を開始。
検証の内容だが、鳥以外にもカエルも食べるのか? という事と、それらの死肉を貪るのだろうか? になる。
まぁ、手に入れた素材は全て死肉だからな。それ以外の検証は其処からの派生でしかない。
そして、その派生についてだけど、転がっている肉を食べるかどうか? そして、その転がっている肉の中に何か仕込まれていた場合。そして、その肉に仕込んだものの違いでどうなるかなどがある。
後は地面に置くだけでなく、山羊に投げつける。釣りの時みたいに、何かで操作しながら生きているように見せる。そういった方法も試すべき内容だろうな。
「それじゃ、まずは肉を別々の位置に置いておくか」
肉を置く場所も、山羊が通る道や、少し離れた場所など少し工夫も必要だろうな。
とは言え、こうして肉を放置した場合だと、此処はダンジョンなのでその内消えてしまう。
山羊に見つからないようにしながら、山羊が肉を発見するように仕掛けるのは、難易度が高すぎる話。なので、この方法には余り期待はしていない。念のために調べる様なモノだ。
まぁ、一度手を加えた物なので、武器や道具と判断された場合なら、消えるまでの時間が増える。まさにダンジョンマジックだ。まぁ、武器や道具まで直に消えてしまえば、設置系のトラップやら落した武器などの回収が出来ないからな。もしそんな仕様ならダンジョンに潜る奴がかなり減るんじゃないかな。
次は肉に色々と仕込んでいく。食べる事で麻痺を起こす毒・マキビシ・麻痺毒を塗った針・釣り針のように返しが有る針とそれに繋がったワイヤー。
現状で手持ちで仕込めるのはこれぐらいだろう。
周囲を利用して、肉をそのまま利用する罠も準備しておく。まぁ、肉に釣られて近くに寄れば、逆さ吊りにされたりするタイプのトラップだ。
この手のトラップならば中身に何か仕込まれていて、それに気がついて回避出来るモンスターでも引っ掛かる可能性はある。まぁ、逆にこういうトラップ系のみ回避出来る奴も居そうだけど。
準備が出来たので、色々と仕掛けておく。まぁ、設置系は基本的に放置して後で見に行くだけ。なので今は、設置系の場所から移動してから、山羊相手に直接ちょっかいをかける方の検証を進めて行く。
移動して直に山羊がニ匹ほど居るのを発見。場所的にも、此処から肉を地面に置いて検証している場所へは、この山羊達も行かないであろう場所。まぁ、丁度良い相手と言う訳である。
まずは、カエルの生肉を投げ込んでみる。これで捕食しなかった場合は、カエルの仕込みを投げる必要も無い。
逆に、この生肉だけを食べるのであれば、それを投げまくり此方が張った罠へ誘導する事もできる。なので、まずは何も仕込んでない肉から検証。
「それじゃ、投げ入れるぞ。双葉は周囲をしっかりと見ておいてくれ」
「ん!」
しっかりと動向を見守っていると、どうしても周囲の警戒は薄くなりやすい、そして、検証中に襲われでもしたら面倒なので、周囲の警戒を双葉に任せ、カエルの生肉を山羊の方へと向かって投げつけてみる。
投げつけたカエルの肉を、山羊は一瞬確認した。だが、カエルは山羊にとって餌じゃなかったのか、それとも何かを察知したのか、そのカエルの肉を蹴り飛ばしてしまった。
「おー……ホームラン? かなり遠くまで飛んでいったな」
しかし食べない処か、蹴り飛ばすとは……常に回避行動を取っていた山羊が蹴り飛ばす。何故食べないや避けないじゃ駄目だったのだろうか? わざわざ蹴り飛ばす必要性が何処にあったのか疑問があるけど、とりあえず、カエルの肉を投げつける。この行為は通用しないって事だな。
「……いや、蹴り飛ばしたからな。もしかしたら何か足にダメージを与えるものか、縛り上げる用に何か仕込むのも有りか?」
まぁ、何かを察知しての蹴りだった場合なら、今度は蹴らずに避けられるだろうけどな。
とりあえず、メモにカエルの生肉を投げるのは駄目と印をつけておこう。次だ次……とは言え、鳥肉を投げつける前に、今思った事を試しておこう。
ただ、カエルの肉の中に仕込むものは選ばないといけない。毒入りは無意味だし、毒針やマキビシであっても、カエルを蹴る時に当たるのは蹄だ。当然だが、山羊の肉に刺さったりする訳がない。ワイヤーを仕込んだとしても、足に絡まる可能性は低いかな。
「となると、双葉の出番だな」
「んー!」
カエルの肉に蔦を仕込み、投げる際その蔦が見えないようにする。そして、カエルに対して蹴りが来た瞬間に、双葉が蔦を操作して山羊の足に蔦を絡める。手順としてはこんな物だろうか。
双葉もやる気いっぱいみたいなので、少しは期待が出来るだろう。
そして、準備も出来たので、早速カエルの肉を山羊に向かって再投擲。まぁ、狙う山羊は別の奴だけどな。
山羊へと向かって投げつけた、蔦仕込みのカエル。これを山羊が蹴ればミッションコンプリート……となるのだが、まぁ、簡単に物事が進むはずも無いようで、飛んで来たカエルを山羊は、ひょいっと軽やかに飛びながら避けた。
となると、間違いなく何かを感じとって蹴るか避ける判断をして居る? 個体差だからと言う可能性もあるけど、それに賭けるのは少し問題だろう。
察知しているにしても、個体差だとしても、カエルの肉を投げつける手法は、駄目という判断で良さそうだな。まぁ、別固体にも数回試してみて結論は決めるけど、あんまり期待は出来なさそうだ。
「ただ、察知系となると鳥肉の方でも、同じ結果になりそうだよな」
まぁ、その可能性が一番高そうでは有る。それを確定させる為にも、色々と試して行かないと。
肉を投げてはメモ帳に印を入れて、時間を確認し一時間置きぐらいに、トラップを設置した場所の確認する。
それを繰り返して見た結果。
あの山羊は、間違いなく察知系の何かを持っていて、アンチモンスターライフルの狙撃弾を避けたのと同じく、回避と迎撃をしっかりと選んでいるだろうと言う判断に至った。
山羊達が電撃で迎撃し咀嚼していた鳥肉ですら、蹴りと回避をしっかりと選んでやっていたから、間違いが無いはずだ。
電撃で焼いた肉ですら、同じ対応をしたので間違いが無いはず。
そして、釣りのように生きているように見せる方法も、当然だが無意味に終った。
「本命の釣りやら投げつけは駄目だったな……しかし、本当に察知能力が高い」
「んー……」
双葉と一緒に、実に残念だなっと話をしながら、トラップゾーンへと足を進める。
何かを仕込んでおいた肉は、全て見向きもされずに地面を転がったままだ。ただまぁ、この検証でモンスターの肉はトラップ用に加工した物なら、すぐに消えない事が解っただけでも収穫ではあったかな。
とは言え、トラップやら仕込み狩りが出来ないとなると、戦闘方法がどう考えても直接戦闘しかない。
さて、どうやって戦えばいいだろうか。まぁ、可能性が有るだろう戦い方は一つだけは思いつくが……そのチャンスを狙うのは中々シビアだ。
「検証用の肉は……まぁ、放置しておいてもダンジョンが取り込むから良いとして、一つ狙ってみるか」
「ん?」
「あぁ、山羊を狩る方法だよ。とは言っても漁夫の利を狙うだけなんだけどな」
シビアなチャンスを狙う。まぁ、簡単にいうと鳥型モンスターが山羊を襲った時、山羊は確実に迎撃をする。そのタイミングを狙って、ハンドガンなり散弾魔法なりをぶち込む。
タイミングを間違えて、少しでも遅ければ俺も迎撃される可能性があるし、攻撃のタイミングが早ければ、鳥の襲撃と俺の攻撃、両方を避ける選択をするだろう。そうなれば、三つ巴になるかもな。
「んー!」
双葉は自分も参戦するから、三つ巴になった場合は有利だ! と言いたいみたいだ。ただなぁ……この場合、鳥と山羊が共闘しだしたら不利になりかねない。
なので、失敗した場合は……さっさと撤退するべきだろうな。まぁ、相手の方が足は速いけどな。その場合は撤退しならが迎撃をしていれば良いかな。
「おっと、忘れる前に最後のトラップをしっかりと元に戻さないと」
生肉トラップは周囲の環境を利用したトラップなので、放置すれば逃げる時自分が引っ掛かったりしかねない。
自分のトラップに引っ掛かって、逆さ吊りになるとか目も当てられない話だ。
そう言う訳で、トラップの解除を……。
「……これってどうなんだ?」
目に入ってきた光景。それは一番期待して居なかったトラップに、山羊型モンスターが引っ掛かっていた。
落石を利用したトラップで、綺麗に山羊の頭が岩によって潰されている。
「……なんで他のトラップは引っ掛からず、これには引っ掛かったんだ?」
盛大な疑問が残る訳だが、とりあえず山羊をゲット! という事で、消えてしまう前に回収をして片付けもしておかないとな。
しかし、俺が来る少し前にトラップを踏んだのだろうか? その割には岩が落ちる音は聞こえなかったけど。
まぁ、この設置系トラップが成功した場合、収穫が魔石だけだと思ってたので随分とありがたい話では有る。
「まぁ、思わぬ収穫って事で、さっさと片付けをして行こう」
そんな訳で、他のトラップの片付けをする為に手際よく作業をこなし、次の場所へ。
「って、ここもかよ!」
目の前には吊るされた山羊。もはや、何が何だかである。
ただ、この山羊はまだ生きているようで、ジタバタと暴れまわっている。
なぜ魔法を使わないのだろうか? と思わなくも無いが、恐らくあの電撃魔法は角から出すのが前提なのだろう。
そして、その角が地面へと向かっている。というか、地面に突き刺さっている。逆さ吊りになり、慌てて暴れ、地面に角を突き刺してしまったんだろうな。
「これは、落石もラッキーじゃない可能性がある? まぁ、とりあえず目の前の山羊も楽にしてやって回収して置こう」
さくっと止めを刺して山羊を回収。
しかし、トラップにより即死でない場合も有るか。となると、あの落石による山羊は岩の下で、結構な時間生きてたという事だろうか。
たしか、一時間置きに確認はしていたから、トラップに掛かったのは一時間以内の話だろう。
「まぁ、なんというか検証するべき内容が増えたか」
鳥を使ったトラップでもカエルを使ったトラップでも、この方法では引っ掛かっていたからな。
ただ、偶然で引っ掛かったのか、それとも餌を獲ろうとして掛かったのか、色々と調べてみるとするか。
後、漁夫の利作戦もあったか。となると、トラップを仕掛けてその合間にやるのが良さそうだ。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!!
一番期待して無い物が成功する……割とあるあるですよね。
ゲーム中とかで、何度そう言う経験をした事かw




