百七十九話
鳥型モンスターの群れが、次々と上空で集合して来ている。空が黒くなる程のと言ってもいい位だな。
そして、一定距離を置いて此方を覗っている。そんな感じの行動を取っている。
「実に厄介だな。今ハンドガンや魔法を撃っても、命中しない距離だしな」
「んー!」
双葉も不満が溜まっている様だ。何せ、結構な時間こうして睨み合いを続けているからな。しかも、相手はその数を増やしている訳だし。
そして、集まっている位置も愚痴った内容通りの魔法の射程範囲外。アンチモンスターライフルなら届くだろうけど、この足場でライフルを撃てば……崖下に落ちかねない。
つまりは、手詰まりと言う状態な訳だ。
「さて、どうしたものか……」
頭上をキープされるのは辛い。まぁ、鳥型を見下ろす位置に行くのは飛行魔法とか、空を飛ぶ魔道具でも無い限り無理だ。
とりあえず状況を再確認しよう。
上空には鳥の群れ。足場は悪く、崖を登っても上限がある。下がった所で足場が良くなる場所など無い。そして、側面は片方がそり立つ壁で、片方が真っ逆さまに落ちる崖。
進むにしても、視界に入る光景は延々と変わらない環境……かと思いきや、途中で足場が無くなっている。つまりは行く道が無い状態。
そして、使える武器も射程が届くのはアンチモンスターライフルのみ。
もう少し高度を下げて貰えればハンドガンなら届く可能性はあるが、一直線に飛ぶ弾道だ。避けられるだけだろうな……まぁ、群れてるから命中する間抜けが居る可能性もあるかもだけど。
「うん、現状を再確認した所で、何も出来ない事が解った。そしたら、何時も通り横穴破りの方法を考えてみるか」
「ん!」
むしろ、考えないと駄目だろうな。いくら魔法や武器に双葉が居るとはいえ、あの数の鳥型モンスターが一斉に飛び掛ってきたら、対処するのは困難だ。いや、無理かもしれない。
なので何時も通りに、正面からぶつかる方法以外を考えてみるか。……割と正面衝突もやってる気はするけど。
「てか、考えると言うより、横穴破りって言葉通りで良いんじゃないか? ……あれ? 横紙だったっけ? まぁ、考える事は横穴についてなんだけどさ」
「ん?」
「ほら、カエルが出てきてた横穴あるだろ? アレ、利用すれば良いじゃん。中には一メートルサイズの奴も在ったしな」
「……んー!」
双葉が全力で首を縦に振りながら納得した。
まぁ、横穴の利用に関してのデメリットは、一本道なので逃げ道が無いと言う事だが……現状の足場の状況を見れば解るように、逃げ道なんて何処にも無いと言っても良い。それなら、足場としてはマシと言える横穴でも問題は無い。
逆にメリットの方が多いだろう。何せ横穴だから、上空から一斉に襲って来る状況を防ぐ事ができる。更に、直線系のハンドガンも避けるのが困難になりやすい。
「それに、姿勢が伏せの状態だからアンチモンスターライフルも使えるし、双葉の蔦で絡め獲るのも楽だろうな」
「んー!!」
まぁ、モンスターのリポップが在るかどうかが気になる処ではあるが、それに関しては、双葉の蔦や土魔法で後方に蓋でもしておけば良いだろう。
となれば、あいつ等が動き出す前にカエルの横穴へ侵入するとしようか。
直径が一メートルより少し大きいぐらいの横穴なので、屈みながら入って行く。
うん……カエルが居たという場所だ。微妙にヌメヌメしていて気持ち悪い。なので、水魔法でさくっと横穴の中をながしてから、予定通り後方に蓋をして、伏せの姿勢に入る。
「……あー少し奥に来すぎたか? 此処からだと鳥達が全く見えないな」
伏せた姿勢と天井の角度の都合上、上空が見えない位置になってしまったようだ。となると、少し前に出ないと行けない訳だが……前に出すぎると、今度は鳥の襲撃時に迎撃行動が慌しくなる訳で、少しでも余裕を持たせたいなら奥の方が良い。
「そうだな……最初の一発だけをアンチモンスターライフルで撃ち込んで、後は奥でガン待ち姿勢で良いか」
「ん!」
双葉も待ちの姿勢に賛成みたいだな。とは言え、先ずは最初の一発を撃ち込んでおく。これは色々な意味で必要だ。
まず、これは仮定だが此方が先に攻撃しないと動かないパターン。まぁ、あの距離の敵にどうやって攻撃をしろという話になるのだが……空振りでも良いから先制攻撃をしろという可能性は無い訳じゃない。
それと、届く攻撃があるのならば撃ち込んでおいて、敵の頭数を少しでも減らしておきたいと言うのもある。
「それに、このまま待ち続けて敵が増えていく一方ってのも防ぎたいしな」
アンチモンスターライフルの残弾は其処まである訳じゃない。この場で使うとすれば一発がベストで、多くても三発ぐらいまでにしておきたい。
一発目でモンスター達が動き出せば……後は横穴の奥で襲撃を防ぐだけのお仕事だけどな。
「ま、それは撃ってみないと解らないか。それじゃ、双葉準備は良いか?」
「んー!」
そんな訳で、伏せ撃ちの姿勢でアンチモンスターライフルを、鳥型モンスターが集まってる場所へと向け……別に狙う必要も無い状況なので、何も気にせずトリガーを引く。
ドォォン! とライフルが火を噴き、鳥の群れを一瞬にして襲うと、発射された銃弾が通り過ぎた後は、鳥型モンスターが大量に崖下へと落ちて行く状況を確認。
そのまま群れの様子を見ていると、少しだけ動きに変化が起きてきたが、直に襲ってくる気配も無かったので、そのまま第二射目を開始。
再び、銃弾が鳥型モンスター達の居る場所を横切り、大量の鳥達が落下して行った。
「まぁ、大量に落ちてるけど、空を黒くするほど居るからな……一割にも満たない数だろうけど」
それに、鳥型モンスターも何処からか補充されるかのように増えて行く。
だが、攻撃が二度も届いた事に苛立ちを覚えたのか、鳥達の動きが一斉にして変化を見せる。
此方の位置を的確に認識し、飛び込もうかとする姿勢を取り出した。
「よし、一気に奥に戻りつつ双葉準備だ!」
「ん!」
任せて! と言う感じで、力強く返事をする双葉。
それを聞き、アンチモンスターライフルを仕舞った後、一気に後ろに下がりつつハンドガンを準備。
双葉は双葉で、蔦をネット上にしながら横穴内に張り巡らせ始めた。これで、鳥の奇襲は遅延できる予定。
俺もまた横穴を土魔法で弄り、群れで飛び込んできた場合に、群れの外周部に居る奴等がダメージを受けるように、壁沿いにスパイクを大量に生成しておいた。
「それじゃ、後は襲撃が終わるまで作業だな」
横穴に飛び込んでくる鳥の群れを、ハンドガンの射撃で、銃撃魔法の散弾で、双葉の蔦による鞭で反撃しながら防いで行く。
戦果が割りと凄いのは、念のためにと作った壁沿いのスパイク。暗いからなのか、勢い良く群れで飛び込んで来ているからなのか、割とこのスパイクに突き刺さるモンスターが多い。
入り口付近に張った双葉の蔦によるネットに引っ掛かり、抜けれなく為りつつ、後続に押されて撃墜されるやつらも居る。
そして、ハンドガンによる銃撃もまた正面の鳥は避けるのだが、後続に続く奴等を撃ち落す。しかも通常弾で良いのがありがたい話。
それらを抜けて来た処に、散弾魔法を打ち込むっと……大抵これで片がついて行く。それでも上手く抜けてくるツワモノが、双葉による蔦の鞭で叩き落される。
こうして迎撃していると、鳥の死骸で埋め尽くされるんじゃないか? そして、それによる酸欠が起こるのでは無いだろうか。と言う疑問もあったが。
此処はダンジョンで、敵はダンジョンのモンスターと言う事が有利に働いた。
討伐したモンスターは少し時間が経つと……魔石を残して消えてしまう。此方の方に魔石が転がってくるだけの状態が続いている。
「……予想外だけど、魔石の回収も楽だな。ただ……これはどれだけ続くんだ?」
「んー?」
どれぐらい迎撃したんだろう? 魔石の量もかなりの数が溜まっている。だと言うのに、鳥の襲撃が一向に終らない。
外を見に行ける状態でも無いので、残りがどのような状況なのかも解らない。
もし、延々と補給されている状態だとすれば……ゾッとする話になるが、別にそれならそれで問題が無かったりする。
対処は簡単だ。突入してくる横穴の入り口を防いでしまえば良い。
そして、違うカエルの横穴に道を作り移動。そこから、この階層の入り口に向かって撤退すれば良いだけだからな。
「まぁ、そんな事には為らないだろうけどな」
復活するまでの時間的なサイクルがある。これはダンジョンを調べた結果解った事だ。
地面も壁も宝箱もモンスターも、全てその法則で成り立っている。まぁ、その時間サイクルはモノによって違うと言う点はあるけれど。
そうである以上、この鳥の襲撃も何時かは止むはず。
「……ただ、討伐する方法を間違えた気はしなくも無いよな」
安全第一を考えて横穴を利用したけど、本来であれば別の方法が有ったのじゃなかろうか?
何せ、これだけの数を外の足場で相手するとなると……無理ゲーすぎるよな。きっと、何か別の手段が有ったに違いない。
まぁ、やってしまった以上仕方ないので、徹底的に迎撃をしていくしか無いだろうな。むしろ、このパターンで戦ったらどうなるか? と言う情報にはなる。
「しかし、これは精神的疲労の方がきついな。魔力的余裕もまだあるけど」
「んー……」
双葉にも結構な疲労が見える。まぁ、突入してきている鳥の大半が、蔦ネットとスパイクでお亡くなりになっているので、銃弾も魔力も温存出来ているが……それでも、結構な量を消費した。
これは、ハンドガンの通常弾も補給しないと、当分の間は使えない数になりそうだ。
そんな事を考えながら迎撃していると、鳥の襲撃数が随分と減ってきた。
「お? そろそろ終りかな」
随分と時間が掛かったな……二時間近くは横穴で迎撃していた気がする。
しかし、この鳥達はリーダー的な存在が無いのだろうか? 横穴の外を魔力探索してみるが、目立ったモンスターが一切いない。全てがほぼ同じ魔力の量と質だ。
双葉にも違和感が無いかを訪ねるが、一切無いという感じで首を横に振ったところを見ると、突出したモンスターは居ないと言う事だな。
と言う事は、この群れ……本当に数だけで攻めて来たって事なんだろう。
「おっと、襲撃がとまった? 外にモンスターの反応も無いし……終ったかな」
「んー……」
やっとか……といった感じで、双葉と頷きあう。外傷は無いけど、色々と消耗したからな。
大量の魔石を回収し、地形を直してから、念のために周囲を警戒しつつ外へと出てみる。
「敵の奇襲は無しっと。お、次への階層の階段やらドロップ品が出てるな」
最初に確認した時の、あのまま進んでいたら足場が無くなる場所。
その位置に、階段やショートカットキーにソロボーナスアイテムが落ちている。
そうなるとだ……もしかして、ボス部屋に入ってない状態でボスと戦ったって状況か? だからこそ、ゲーム的に言うならバグが起きて、異常な鳥の数になったとかそう言うことだろうか。
「……何と言うか、ボス攻略が認められて良かったって話だな」
そんな感想と共に、ショートカットキーとソロボーナスを回収。
ショートカットを開通させてから、どんなアイテムかをまず確認しておく。
「これは……カップ?」
何かの優勝カップみたいな形をしたアイテムで中身は空だ。
一体なんだろう? 聖杯で願いが叶う! なんて訳は無いよな。とりあえずこれも羽ペンと一緒に、調査して貰うとしよう。
さて……かなり時間が掛かってしまったな。ダンジョンを出る頃には、もう夕飯時になるかもしれないな。
まぁ、銃弾の補充などもしないといけないから、明日はダンジョンに潜らないでおくか。なので、ダンジョンについての報告も明日にしよう。
それじゃ、地上へと戻るとするか。
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はい、主人公である結弥は単純に判断ミスをしたと言う事になります。
本来あのまま真直ぐ進めばボス部屋の戦闘となり、鳥型モンスターの数も次々と沸く……何て事はありませんでした。何せ、本来なら攻撃が届かない距離にいるモンスターですからね。
しかし、アンチモンスターライフルという、化物武器のお陰で? 攻撃が届いてしまった為に、エラーを起こしたと言う事に……減らされた分のモンスターが次々に供給される。ゲームでいうなら悪夢ですね。運営側もプレイヤー側もw
因みに定位置まで進んだ場合ですと、鳥型モンスターとの戦闘は数十匹で済みました。今の主人公なら……十分から二十分ぐらいで終る数です。




