十六話
ネットにてダンジョン系を調べると、『俺氏、新ダンジョン発見する』『等々ゾンビが出た!』等の情報が飛び交っているようだ。ふむ……一体世界はどうなって行くんだろうね? とりあえずは、ゾンビが出た! と言う情報を詳しくみれば、自分の生活圏から凄く遠いようで……他の方々頑張ってください! パンデミックにならないように! まぁこういうタイプのダンジョンは警察か自衛隊が動いてると思うけど。
「お兄ちゃん、そろそろ学校へ行く時間だよー! 早く朝食さんを食べないとー」
「わかった、今行く」
パソコンの電源を落としてから、朝食を食べに居間に行く。ゆいは既にスタンバイ済みだ。
「ゆー坊おはよう、朝食を食べながらでいいから之に目を通しておくと良いぞ」
受け取った紙束に目を通しながら、目玉パンをかじる。いい塩加減だ。
「今朝、石川の婆さんが渡してきてのう、ゆー坊が頼んでおった魔石を粉にした奴のデータじゃな」
「石川の婆様は、毒草や鉱石に詳しいからね。やっぱりPウルフの魔石を粉にした奴は命に危険は無いレベルだけど、微毒性で嘔吐や眩暈がするって事か」
「あの婆さんは何であんな機材を、こんな田舎に用意しておるのかのう?」
「石川のお婆ちゃんが勉強熱心だからじゃないかな! ゆいも見習わなくっちゃいけないけど……勉強つらいよー」
自分で言って涙目になってるな、うん頭を撫でておこう。
Dウルフとボスウルフの魔石を粉に……めんどうだ、魔粉でいいや。魔粉の調査もして貰っているけど、其方は進展がないらしい。余りにも特徴がないそうだ、魔法的なアプローチが必要なのかな? 魔石が元だし。
兎に角次あった時にお礼をするとして、学校に行く時間だな!
「じゃ、爺様いってきまーす!」
「お爺ちゃんいってくるね!」
「おう、気をつけるんじゃよ」
ゆいは他の子達が集まる場所へ、僕は人が通らない道を猛ダッシュ……する事も無く電車で学校へ。今の身体能力なら疲労も殆ど無く出来そうだけど、目立つからやらない!
教室に入って自分の席に座る……やっぱり人少ないよな。まだ復帰出来てない学生が多いようだ。よく職員会議でも話題に上がるみたい。何時になったら学校に通える学生が増えるのか、担当の教師は手を尽くしているのか? って、担任への無茶振りも限度があるよね。トラウマを持った相手にどうやって説得を直ぐにしろとか。カウンセラーに任せて時間を掛けるしかないのにさ。
おはようの挨拶が飛び交うが、何時もながら僕は空気だ。今更接触して如何いうつもりだ? って他の人に思われたくも無いんだろうね。まぁ微妙ながらも平和な空間だからいいんだけど。まさか、この状態をぶち壊すし、学校生活で刺々しい視線を受けるようになるとは……
「結弥君おはよう! あの事について話があるから後で時間いいかな?」
「え……あ、あぁおはよう。うん、時間は大丈夫だと思うよ?」
「うん、なんだか変なお返事だけど、大丈夫なら授業が終わった後で!」
うわぁ……美咲さんが満面の笑みと名前呼びして来たからか、教室内がざわめいてるよ。あぁクラスの男子の視線が痛い! 嫉妬が大量に含まれてる攻撃的な視線だ。お前ら今まで居ない者的な対応してたのに! 女子は何だか興味津々な目……変に輝いてるよ! 今後の学校生活が……学校では話しかけないでって念を送ったのに! ……気がつくわけがないか。何故こうも彼女は爆弾を落すのだろうか、その微笑のボマーは……うん、普通に席に座って他の女子と話してるよ。
そんな事があったけど、授業は問題なく進んでいく。休んでる学生さん達は追いつけるのだろうか? パソコンから授業内容を基にした課題を送信してるらしい。夏休みが終わってもう二ヶ月は経ってるんだけど。
昼食を食べてから、さぁ惰眠を貪るぞ! と思った時に、僕はクラスの男子達に捕まった。だから何で女子が絡むと一気に攻めて来るんだよ!
「なぁ、藤野さんと如何いう関係なんだ?」
「あの事ってどの事だ! デートのお約束か!?」
「何処までヤッたんだ!」
なんでこんなにも元気に掌をクルッと出来るんだろう? 今まで通りの扱いでいいのに。
「……はぁ、如何いうも何もクラスメイトでしょ? み……藤野さんとは何とも無いよ。」
「…………今名前で呼ぼうとしてなかったか? てか名前で呼ばれてたよな?」
「……してないよ。そもそもなんで名前で呼ばれてるのかも知らないよ」
うん、本当は知ってるけど。普通に藤野父とかを出すと……余計変な風に拗れそうだ。
「だったら何であんなに親しげなんだよ」
「偶々数回遭遇したんだよ。図書館とか番号アイス屋とかで」
「なら約束ってなんだ?」
「なんで其れを言わなきゃいけないのさ?」
「別にやましくないなら言えるだろ」
「あのさ……なんで、全てをただの知り合いに話せるの? 君は僕が君のお財布の中身、家族構成、好きな人について、過去関係があった女性について、聞いたら全部話てくれるの?」
「……いや、それは……」
「言わないよね? なら此の話は此処でおしまい。以上解散! 詳しく聞きたいなら藤野さんに聞け」
あーだこーだとまだ言ってる奴も居るけど放置だ。まったく、ダンジョンや神隠しについて話せる訳無いだろ。話が出来るのは美咲さん本人のみだ。僕はお願いされてダンジョンについて教えてるに過ぎないから。
まぁそんな思いも虚しく。放課になる度に男子か女子が話を振ってくる。うん、こんな人気は要らないよ! 美咲さんも係わってる内容を話す心算は無いらしい。笑ってスルーしてらっしゃる。
そんな訳で最後の授業が終わると同時に、ダッシュで学校を出る。無制限に捕まりたくないからな。美咲さんとの話は……協会で良いだろう。学校じゃなきゃ其処だってわかるだろうし。他の奴等は……追いつけないだろうから、まぁ探しに図書館に行ってるだろうな。其処に僕は居ませんお疲れ様です。
協会に入り、ロビーの待機所にて美咲さんを待つ。何を参考にしたのかわからないけど、協会には居酒屋が入っている。まぁ受付や待機所からは隔離されているけど。それでも偶に焼き鳥とかの臭いが漂ってくる。お土産焼き鳥にしようかな? まぁダンジョンの情報がちらほらと聞こえてくるので、聞き耳を立てている人がそこかしこに居る訳で、本当に隠したい事は談話室に行けって事だ。
「やっぱ此処に居た」
うん、美咲さん登場だ。あの状態だと此処以外には、合流して話せる場所ないしね。
「此処以外だと何処か候補が?」
「お土産やさん」
……彼女は僕を何だと思っているのだろうか。とりあえず談話室を使わせてもらい話をする事に。
「お父さん達と話した結果なんだけどね、土曜日の昼を食べた後だから、二時ぐらいに協会集合でいいかな?」
「構わないよ、土曜日の二時ね」
「うん、監修お願いします」
「了解……後、学校で爆弾落さないでくださいお願いします!」
「あー……あれは、うん、ごめんなさい。まさかあんな事になるなんて」
「無自覚爆弾だったのは解ってたけどね」
「……其れ私がアホの子みたいな言い方じゃない?」
「……さぁ?」
「まぁいいよ。其れより如何しようかな……学校では迂闊には話出来ないし。とりあえずアドレス交換しておこう?」
都会伝説にある異性とのアドレス交換!? 何とも不思議な話で、都会には妖怪リアジューと言うのが居て、其れは男女に分かれており、常にアドレス交換という言葉を発しているそうだ。
……うん、何を思考暴走させているんだ僕は、思わず現実逃避してしまったじゃないか。
「まぁ、今日みたいな事にならないようにするには良いかもね」
という事で、アドレスを交換しておく。まぁ用件がある時ぐらいしか使わないだろうしな。
「これでよしっと、それで今日のお土産は何にするの?」
「ん? さっき美味しそうな臭いを漂わせてた焼き鳥……ってなんでお土産を聞くのかなぁ?」
「んっと……お決まりだから? 私も食べようかな! 焼き鳥」
僕=お土産の人という図式なのだろうか? 一度問いただすべきだろうか? 談話室の使用時間は余っているので、ダンジョンの事やお土産の事で会話をする。お土産は特に重要だ! ……これは=にされても仕方ないか?
談話室から出ると、受付のお姉さんから熱い視線……あぁ之は。
「お姉さん、未だデータ纏まってませんよ」
「えぇ! そうなの!? 談話室に密談しに行ってたから、お姉さん情報もらえると思ってドキドキワクワクしてたのに!」
「まぁもう少し掛かりそうなので、疲労が激しかったから寝てしまったんですよ」
「体調的な物は仕方ないわね。なるべく早くにお願いね?」
「わかりました。今日は潜らず帰って纏めようと思います」
あんな期待一杯の目から絶望した目をされてしまったら答えなければ、六層を多少調べたかった気もするけど、昨日の今日で疲労が抜け切ってると言えないから、ダンジョンには潜らず休みながら纏めるのが良いだろうね。
「ねぇ結弥君、情報ってまた新しいのみつけたの?」
「新しいというより、四層と五層についてだよ」
小声で美咲さんが話しかけてくる。こちらも小声で返す。普通に話したければ談話室な内容だと解っている様だ。
「え? 其れって、もう其処まで攻略したの?」
「まぁね、でも警察や自衛隊の人なんて二十層前後でしょ? 未だ其処までだよ」
「えー……なんだか結弥君が可笑しいと思うよ?」
可笑しいとは何事か! 変人扱いは良くないよ!
「とりあえず、お土産買って帰ろうよ! 妹さん待ってるんでしょ?」
「え……あぁうんそうだね」
なんか上手く流された気がするけど……まぁいいか! 焼き鳥を買って帰宅するみちすがら、美咲さんと焼き鳥を食べつつ他愛も無い会話。うん、まぁ実に楽しそうだ。でも、焼き鳥にタレと塩はどっちでも良いと思う、気分で変えれば其れで。
帰宅する前に、石川の婆様に挨拶。
「婆様こんにちは、今朝データを届けて頂いたようで、ありがとうございます!」
「かまわんかまわん、ゆうちゃんのお願い事じゃ、ばぁばが聞かん訳がなかろう?」
「それでもです、ありがとうございました」
「律儀よのう。ばぁばとしては面白いデータが取れるのじゃから、趣味が満たされておるのじゃがのう」
「趣味と実益が重なってるって事で、お礼には少ないですけど、之焼き鳥です、今晩にでも」
「おぉ、酒の摘みになる。馳走になるかの」
受け取ってもらえたようだ。この村の人たちって僕やゆいのお願い事を喜んで受けてくれるからな。ボーダーラインを確りしないと……ね。
「して婆様、あの粉ですけど、魔石から出来た物なので魔粉と呼ばせてもらいますが。毒の奴以外は特に反応がないと?」
「そうなのよな。少々気になっての、昔の伝を使って探りを入れてみたが。魔石の加工自体が行われておらぬそうじゃ。粉になんぞ出来ようも無いと調べ先では検討すらしておらぬ」
「だったら如何いう風に魔石を使ってるんですかね? 協会が金だして買い取ってますし」
「お上のやる事はばぁばには解らんて、してこの魔粉どうするのじゃ?」
「とりあえず……実験地作って土に撒いてみたり、そこで植物でも育ててみます? 後はそうだな、鉄を打つときに混ぜてみたりとか、水に漬けて放置もして置きましょうか」
「そこ等辺から試していくとするかの」
魔粉の利用法を探るための実験を先に進める会話をして帰宅する。まぁどれかが当たればいいかな?
「ただいま!」
「ゆー坊お帰り。婆さんの所には行ったのかの?」
「うん、行ってきたよ。御礼以外にも色々話してきた」
「そうか、ではゆいの所に行って来ると良い。首を長くして待っておるじゃろ」
「はーいっと、之焼き鳥買ってきたから」
「今日の夕飯は焼き鳥で決まりじゃな」
爺様は婆様の所に行ったかどうか気になってたようだ。帰宅した時、ゆいより先に顔を合わせるのは珍しいからな。
「お兄ちゃん、おかえりなさい!」
「ただいま、ゆい学校はどうだった? 休みボケしなかったか?」
「ゆいはぼけてません! 学校は少し疲れちゃったよ」
「ゆい……其れを休みボケって言うんだよ」
「えー……変なの」
「そうそう、今日のお土産は焼き鳥だぞ? 夕飯の時にだすからな」
「やったー! 焼き鳥さんだ! ……あれ? って事は、夕飯がお土産さん? 夕飯とお土産さんは別じゃなくてあれ?」
何か不思議な悩みに至ったようだ。もしかして彼女の中で、お土産はデザートという公式が成り立っていたのだろうか? 其れだと少し申し訳ないな。
まぁ美味しいから良いだろう。きっと食べる頃には満面の笑みで悩みも忘れるはずだ。
さてはて……夕飯までに清書しながらゆいの宿題をみますかね。




