百七十五話
カエル型のモンスターを捕食するオオトカゲ。その行動はやはりモンスターなのだと再認識できるモノだった。
まずは、麻痺毒らしいブレスを吐いている。ブレスとは言え光線的な物では無く、周囲に広がる臭い息みたいな感じのタイプ。
実際臭そうな色をした靄が広がり、ソレに触れたカエルが麻痺を起こして、ピクピクと地面に転がるのだから、実は臭い息でやられたんじゃね? と思わなくも無い。
次に、見た目の重さを無視するかの様な身体能力だろうか。最大まで飛び跳ねたカエルに、飛び掛って噛み付くのだから、重さにスピードを兼ね備えていると見た方が良いかもしれない。
「それに、あの尻尾も脅威だよなぁ」
「んー……」
オオトカゲの背後に陣取ったカエル達は、オオトカゲの尻尾が鞭のような軌道を描きながら一撃で叩き落されている。
実に鮮やかな鞭……尻尾捌きに、同じ様に蔦を鞭のように使う双葉が何かを感じているようだ。今も、叩き落されているカエルを見て唸っている。
ブレス・跳躍力・牙・尻尾とオオトカゲが見せた能力は、接近戦は危険だと判断出来る。
それに、戦闘では使って無かったが、前足の爪も相当な物だろうな。あの爪で地面を掴んで駆ければ、先ほどの跳躍力と合さって一足飛びで、かなりの距離を縮めてきそうだ。
武器として使っても、カイトシールドに爪跡が残りそうな鋭さである。下手をしたら爪跡どころか分解されるんじゃないか?
そんな分析の結果……あのオオトカゲの正面に立つのは愚策だろう。後ろも、あの尻尾の鞭を思えばアウトだ。まぁ、正面よりも対処は出来ると思う。盾で尻尾の鞭は防ぐ事は出来るだろうから。
となると、側面だろうか? 柔軟性はあるから、側面でも尻尾による鞭攻撃は飛んでくるだろうな。ブレスも……横を向けば吐く事は出来るだろう……あれ? 後ろよりも危険だな。
そうなるとだ、遠距離攻撃って事になりやすいんだけど、これまた問題がある。
あのオオトカゲ……カエル共の体当たりを何食わぬ顔で受け止めている。あのカエルの体当たりは、石壁に衝突した際に粉砕するレベルだぞ。それを、無傷で受け止めているとなれば……生半可な遠距離攻撃は通用しないだろう。
「まぁ、幸運な事に此処には石が大量に落ちてるからな……投擲系には困らないんだけど」
アンチモンスターライフルなら倒せるだろう。だが、あれがボスじゃない場合と言うか、雑魚敵の部類だとしたら、毎回ライフルに頼るわけにも行かない。
ハンドガンはどうだろうか? ゴーレムすら撃ち抜ける黒弾なら可能性はありそうだが、通常弾だと目や口内を狙わないと駄目だろうな。まぁ、目も口も閉じられたら、開くのを待って撃つタイミング系の攻略になりそうだ。まぁ、選択肢としては有りだな。
鉄串投擲。魔法を併用すれば、ハンドガンの通常弾よりは可能性が有りそう。でも狙うなら通常弾と同じ戦い方が一番だろうな。
状態異常系の鉄串だと……貫通はしないだろう、それに毒自体があまり通用しない気がする。
毒攻撃持ちは毒耐性持ちと言うのは、モンスターあるあるだ。まぁ、耐性以上毒攻撃を与えれば良いのだけど、今使ってる毒だけ考えるなら、あのオオトカゲと比べて、あきらかにランクが低すぎる。
転がってる石による投擲は……まぁ、魔法を併用すればカエルの体当たりよりも威力は出るだろう。
投石なので銃や鉄串の貫通と違い打撃攻撃になる。……まぁ、打撃が通用しない様に見えてしまうけどな。
現在使える遠距離武器について考えてみたけど、丁度良さそうなのが無いな。
威力だけで言うなら、ハンドガンの黒弾クラスが良いと思う。ただ、黒弾はその素材からか、アンチモンスターライフルの弾と同じで、量産数が少ない。使いどころが難しい弾だ。
それなら、武器以外はと言うと。
使い捨ての道具たる魔石の爆弾化。カエルの魔石があるので出来なくは無いが、モンスターの素材回収という点から見ると、あまりやりたくない方法だ。
それに、この峡谷で爆破を起こしたらどうなる? 頭上から大量の石やら岩が転がってくるんじゃないか? という訳で、安全面から見ても却下。
「となると魔法かな」
さてさて、一体どんな魔法を試すべきか。爬虫類だから寒さに弱いかな? と思わなくも無いが、こんな場所に住むぐらいだし、モンスターだからな。むしろ、寒い場所を選んで動き回る爬虫類の可能性だってある。
「いや、魔法で倒す必要も無いか」
補助に使えば良い。別に戦うんじゃなくて、狩猟だと思えば良い話だ。うん、魔法で罠を作ってから、相手を陥れる。隙を無理矢理作れば良い訳だからな。
状況を整えたので、オオトカゲに攻撃を仕掛ける。とは言え、いきなり攻撃を仕掛ける訳じゃない。
まずは、そこら辺で捕まえたカエルをオオトカゲの前へと放り投げる。そうすると、オオトカゲから、ぎりぎり届かない位置に落ちたカエルに対して、捕食の為に飛び掛るオオトカゲ。これで、一歩進んだな。
数回同じ行動を繰り返し、オオトカゲが居る位置をずらして行く。
そして、最後に蔦を括りつけたカエルを飛ばして……。
「フィッシュ!! 引っ張れ!」
カエルを食らったオオトカゲは、蔦ごとくらい付いた状態。そして、蔦には釣り針のように返しが付いているので、当然だが口から抜ける事が無い。
ただ……相手はオオトカゲだ。簡単に引っ張れる訳も無く。
「やっぱこっちが引っ張られるか! 双葉大丈夫か!?」
「んー!!」
直接引っ張る俺と、魔法で蔦を操作して引っ張る双葉。それを合わせても、オオトカゲの筋力に負けている状態だ。
ある程度は予想はしていたが、これは失敗したか? 思った以上にオオトカゲの抵抗が強い。
「仕方ない! 怯ませないとな!」
とは言え、ハンドガンや鉄串といった手段を取ろうと思ったら、蔦から片手を離さないといけない。そうすれば、当然だが一気にオオトカゲに蔦ごと持っていかれる。
なので、両手で蔦引きをしたまま使える魔法を選んでオオトカゲに向かって打ち込む。
「目くらまし位にはなるだろ!」
粘度の高い水をオオトカゲの顔に張り付かせる。べっとりと目や鼻の周りにだ。
張り付いた瞬間。その一瞬だが。目や鼻に粘度の高い水が入り込んだからか、オオトカゲの抵抗力が少しだけ緩んだ。
「双葉! いまだ一気に行くぞ!」
その隙を見逃さないように、双葉に声を掛けて一気に蔦を引き寄せる。
ズズッとオオトカゲが引きずられながら、目的の場所へと引っ張り込む。そして、目的地へとたどり着いてしまったオオトカゲは、其処にあった落とし穴のトラップに(無理矢理)引っ掛かり、その身を吊るされながら落していった。
「……何と言うか、失敗したけど最終的には成功って感じだな」
オオトカゲに察知されないよう、結構遠くの位置にトラップを作成した。したのだが、オオトカゲは基本動き回らないようで、移動させる事がネックとなった。
そこで、カエルを使いおびき寄せたのだが……一匹ではあまり距離が稼げないのと、少ししたら元居た位置に戻ろうとするので、途中から無理矢理引っ張り込む事にした。
「まぁ、この方法は今後このオオトカゲに使う事は無しだな。時間と労力が掛かりすぎる」
「んー」
蔦引きがかなり疲れた。正直負けるんじゃないか? と思ったし。いや、実質妨害しなければ負けだったけど。
とは言え、この方法が使えないとなれば、別の方法を考えないとな。
穴の下には、鉱魔法で作った太いニードルトラップに突き刺され、蔦により締め上げられた状態のオオトカゲ。だが、そのニードルトラップも何本かへし折られている。落ちた後暴れて、折ったのだろうけどとんでもないパワーだな。
その点、双葉の作った蔦の頑丈さは異常だ。引っ張り合いをしても千切れる事が無く、今もまたオオトカゲを吊るした状態。まぁ、下から串刺しにされてるから、全ての体重を支えている訳じゃないけど。
まぁ、この感じなら普通に弱点を狙った、ハンドガンか鉄串による狙撃の方が良いだろう。
トラップ狩りも儘ならない場合も有るって事だな。動き回る相手なら楽だと言うのに。
兎に角、このオオトカゲを回収したら、少し試してみるか。オオトカゲの肌? 鱗? がどれほどの強度なのかを。
何か少しでも解れば、討伐は楽になるからな……さて、何か弱点でもないかな。
――最近のイオについて――
ダンジョンに潜れるようになってから、イオの生活は一変した。
今までは、結弥や美咲と共に森を駆けたり、狩りをしたり、遠出というなの探検をしていたのだが、そういった行動が殆ど無くなってしまった。
そして今は、村・街・拠点を行き来しながら荷物や手紙を運び、道中にいるモンスターを狩る。
「……みゃん」
何と無く鳴いてみるが、前までならすぐさま反応してくれた相手が側に居ないので、少し寂しさを覚えるイオ。
だが、今の仕事に不満がある訳じゃない。なぜなら皆が嬉しそうにしてくれるから。
村に行けば村中から笑顔で迎えてくれ、おやつを貰う。街に行けば、ちょっと距離を取られはするものの、遠くからお礼と同時におやつを貰う。ダンジョン前の拠点へと戻れば、大好きな結弥や美咲が居て、ちょくちょく顔を見に来てはおやつとブラッシング。
だからこの生活に不満は無い。ただ、たまには二人とお散歩と言う名の狩りをしたいな……なんて思いながら、つい鳴いてしまう。
「イオちゃんこんばんは。今日はどうだった?」
そんな時大抵、誰かが声を掛けてくれるから、また不思議な話だ。とイオは感じている。実際は、イオの力があまり無い鳴き声を聞いた人が、心配になってイオに会いに来ている訳だが。
「みゃん!!」
そして、声を掛けてきた人が美咲だったので、元気よく飛びつくイオ。美咲もまた、いつもの事なのでしっかりと受け止めてから、後ろに隠していたイオ用のジャーキーを取り出して、イオにプレゼント。
「おや? 美咲さんに先を越されたか」
「結弥君もイオに?」
「まぁね。新しいブラシを手に入れたから、どんな感じかなと思ってね」
「みゃーん!」
おやつにブラシと聞いて、もう最高です! と、尻尾を振り回しながら、鳴きつつじゃれつきだすイオ。
二人もまた、そんなイオが可愛いので構い倒していると、周りからわらわらと探索者の人が酒や食べ物を片手に集まり出す。
「……なんかお祭りみたいになったね」
「まぁ、みんなイオの事を気にいってるからなぁ」
二人だけじゃなく、皆イオの鳴き声が聞こえていたようで、寂しいならみんなで騒げば良い! みたいな乗りで集まったようだ。
そんな状態に、イオもまたみんなに愛嬌を振りまきながら、宴会の輪へと入っていく。
「イオがダンジョンに潜れたら良いんだけどな」
「何か方法があるの?」
「今、婆様の所に調査を出してる首輪が少し期待って感じかな?」
その調査が何時終るのかは、まだ解らないが。その内、イオが二人と一緒にダンジョンに潜る日が来るかも知れない。
そうすれば、イオが散歩に行きたいと鳴く事も無くなるだろう。……その時は、新しい面子である双葉も居る訳だが。
とは言え、散歩という名の狩りに行って無い訳では無いのだが……イオにとってはまだ足りないという事なのだろうか? と、結弥はもう少し散歩のサイクルを細かくするか? と頭を悩ませるのであった。
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双葉によるイオライダーが待機中!(まて
まぁ、実際はこのニ体。ライダー化しないほうが強いと思うんですけどね。
イオは背に気を使わず、走り回れるし。双葉は双葉で蔦や植物魔法で移動制限させたりと、トラップ作りができますし。




