百七十四話
アンチモンスターライフルの遠距離射撃テストを終えて、ダンジョンの攻略へと戻る。
二十二層の扉を開けて中に入ってみると、洞窟だった二十一層とは違い、峡谷と言った風景だろうか。
片方が二十一層入り口辺りの場所で、反対側は山羊型モンスターが居た場所だろうな。
「しかし……余り太陽の光と言って良いのか? まぁ、日の光は届かないか」
辺りを見渡してから、峡谷の上の方も確認。
登れるかどうかと問われれば、物理的には登れるだろう。まぁ、登攀的な方法になるだろうけど。
登る以外の選択肢をと思うなら、この目の前にある峡谷の道? を進むだろうな。
「双葉も居るから……蔦を何処かに引っ掛けて登るって方法もあるんだけど……」
ダンジョンが、そんな手法を認めるだろうか? まぁ、割と横穴破りな方法で採取やら採掘はして居るが、攻略する為の行動に関しては全うな方法でやって来ているはずだ。
地面に穴を空けて、次の階層に行くとかそういった方法は一切取っていない。
まぁ、ボーナスが勿体無いと言うのもあるが、間違いなくそのような手段は無理だろう。
何せ、地面に穴を掘る。その行為自体はショートカットじゃなく罠を仕掛けたりする時にやっている。そして、その穴を掘る行為に対して掘れるだけの深さ制限があった。一定以上掘ると一切ほれなくなる感じでだ。
その事から考えて、山の上を目指す。これが正しいとしても、階層毎で順序を踏みながら上がって行くのでは無いだろうか。
であれば、登れたとしても何処かで高さ制限を食らっている可能性は高い。
「まぁ、それでも試してみたい気はするけどな」
だが、普通に登れば……モンスターの餌食になるだろう。という事で……。
「双葉……限界まで蔦を伸ばしてみて貰って良いか?」
「んー!」
双葉にお願いして、崖に蔦を這わせるようにしながら伸ばして貰う。
蔦が伸びて行くと、二十一層にも居た蛙型のモンスターが、蔦へと飛び掛るシーンが何度か有ったが、双葉が蔦を巧みに操り、蛙を叩き落しながら蔦を休む事無く伸ばしていく。
「……やはりか」
「……ん」
そんな風に伸ばした蔦だったが、二十メートル程進むと、其処から一切進む事が出来なくなった。
予想通りではある。だが、少し落胆する部分も有るのは事実だ。何せ、ダンジョンはショートカットを一切許さない! と言う事実が更に積み重なった結果でもあるからな。
とは言え、コレで無謀な挑戦はしなくても良いと言う事が解った訳でもある。
「ま、この峡谷を真直ぐ進めって事だよな」
そうなると、注意する点は何だろう? 登るのが険しい山と言うか崖に挟まれている場所だ。そうであれば、モンスターを注意するよりも落石に注意するべきか? いや……モンスターが岩や石を落してくるパターンもあるか。
まぁ、この地形はトラップを作るには最適な空間でも有るからな。
そう広くない道・壁と言うか崖に挟まれた空間・足場の悪い環境などなど、撃退する側から考えたら、理想的な地形の一つである事は間違いない。
例えば、進む先にダムでも作っておけば、鉄砲水を意図的に作り出したり、足元の石ころを蹴り飛ばしたあとに、トラップが発動。落石やら足にロープを引っ掛けて逆さ吊りにする。単純だけど恐ろしい効果が出るものが、幾つでも出てくるな。
「とは言え、そんなトラップが作れるモンスターが居るかどうか……今の所、見たのは蛙ぐらいだしな」
流石に蛙にはトラップ作りなど出来ないだろう。となると、やってくるとしたら、偶発的に起きた落石や、足場の悪さと隠れるところが多いと言う点から、足元からの奇襲だろうか。
まぁ、後者なら探索スキルを使用していけば、問題になることは無いだろう。
「頭上注意って事か」
自然に落ちてくるパターン・モンスターが落しちゃうパターン・戦闘やら移動で揺れが起きたりして落下して来るパターンと、色々起こりえる状況と言うのはあるからな。
まぁ、それに此処に居るのが蛙型のモンスターだけでは無いかもしれない。一層変わって環境がガラリと変わったからな。
注意事項はいっぱいあると言う事だ。
思いつく限りの危険を考えてから、二十二層を進み始める。
たまにパラパラと落ちてくる小石や砂やらが、少し警戒心を高める。
そんな中、有る意味最悪な事が起きた。
ぴょんと飛んで来た蛙型モンスターを避けた時に、その蛙型モンスターが着地した瞬間に、何かを〝カチリ〟と踏み抜いた。
そういえばと思い出す。内容は協会や自衛隊の人の話だ。彼等は、二十層以降になるとダンジョンに、即死系トラップが存在する時があると話をしていたはずだ。
そして、この糞カエルが踏んだのが即死で無いとしても、トラップじゃないと言えるだろうか? むしろ何かのトラップだと疑った方が良い。
即座に盾を構えながら双葉を庇いつつ、比較的安全そうな位置を瞬時に判断して、其処に飛び込みガード体勢を取る。
その瞬間、ゴロゴロゴロっとカエルが何かを踏んだ位置を、丸く巨大な岩が転がっていった。……当然だが、カエルは潰れてしまっている。
それにしても、空間一つ分足らなかったら、判断が一歩遅かったら間違いなく、あの岩の軌道内で巻き込まれていただろうな。
まぁ、耐えれたかどうかで言うなら、耐えれただろう。だけど、怪我は必至だった。
「……トラップを作るモンスターが居なかったとしても、ダンジョンがトラップを生み出すパターンが有るって事だな」
しかもそのトラップは、モンスターも引っ掛かる。落とし穴系なら、態とモンスターに踏み抜かせるなんて手もあるけど……こういった、周囲を一気に巻き込むトラップもあるから、トラップの逆利用は難しそうだ。
二十一層にトラップが無かった分、少し緩んでたかもな。
二十二層に足を踏み入れた時に、トラップ大活躍できる地形じゃないか! と判断したはずなのに……モンスターがカエルしか見えなかったから、トラップは無いものと思い込んでいた。
しかしなるほど、トラップについて協会や自衛隊の人達が、二十層以降のマニュアルに入れる訳だ。
あの、カエルが踏み抜いたトラップ。アレに関しても俺は発見出来ていなかった。
戦闘中だったが、幸運にもカエルが先に踏みつけて発動させた。その時に何かのスイッチが入るような音を聞けたからこそ、回避行動が出来た。
だが……もし、踏み抜いていたのが自分だったら、逃げる時間は足らなかっただろう。そして、あの戦闘中という点で言うなら、間違いなく俺が踏んでいた可能性もあった。
「ステータスに運の項目があれば、俺はカエルを上回っていたって事だな……しかし、運だけでの回避じゃだめだよな」
もっと細かく調査するか? しかしそうなるとだ……時間が掛かりすぎる。
進む道を十フィート棒で叩いていくか? まぁ、隈なく調査するより楽だけど、発動するトラップがどんな物か解らないからなぁ。もとより、トラップを先に発動させる手法だけどさ。それに戦闘時なら、進む道だけの調査だから余り意味が無い。
「まぁ、注意しないといけないのは間違いないけどな」
何処かで即死系トラップを引き当てるかもしれない。ならば、少し攻略時間が掛かろうとも、命大事にの作戦で行く方が良いだろう。
しかし……魔力的なトラップなら、魔力探査で解る可能性が有るのに、先ほどのトラップは物理系トラップ。地球でも昔からあった古典的なトラップだった。
どうやって仕掛けてあるのか、全然理解出来ないが……そういったタイプの物が有ると言うのが、早い段階で確認できた訳でもある。
運悪く? その手のトラップを確認せずに、この先強敵に遭遇した際にトラップを踏み抜いた。そんな状況になれば……それこそ絶望と言える。
「そう言う意味で言うなら、あの潰されたカエルには感謝しないとな」
「ん!」
蔦を二本合わせて合掌をし感謝の意を表す双葉。いや、蔦でやらなくても両手空いてるでしょうに。
まぁ、トラップ関連は警戒度を上げるとしてだ……この峡谷を進むとなにやら面倒な奴が居そうだな。
「というか、うっすらとその姿が見えてる気がするんだけど。双葉さんどうみえます?」
「ん……!」
遠目に見えるのは、ぴょんぴょんと飛ぶ蛙型モンスターに忍び寄り、パクリと食らいついている大きい爬虫類……というか、トカゲだ。
まぁ、トカゲと言ってもサイズが……どこぞのドラゴンの名がついてるコモドオオトカゲクラス。
「さて……どう言った性能なんだろうな。地球のコモドオオトカゲだったら、毒を持ってたり時速二十キロで走ったり、山羊やら水牛を獲物にしてるとかって話だったけど……」
今の目の前に居るのはモンスターだからな。獲物自体だと此処ではカエルぐらいしか見当たらないが……果たして性能はどんな物だろう? 間違いなく時速二十キロ……ってのは無いだろうな。もっと速いだろう。
毒に関しても、持っていたとして噛み付いてから送り込む? いやいや、飛ばすぐらいはして来るだろう。
とりあえず、カエルとオオトカゲの戦闘を良く観察して、対策を考えたほうが良さそうだな。
それこそ、ドラゴンと名前をつけても良いぐらいの能力を持っていたら……うん、それこそ、アンチモンスターライフルで遠距離狙撃の対象だろう。
とは言え、あれがボスという訳でも無さそうなので、ライフルを使うには時期尚早だ。
「まぁ、ボスだったとしても、奴の特性やらを調べてからの方が良いだろうしな」
データ集めは基本中の基本。だけど、アイツ相手に自分で調べに行くのは……と言う事で、カエルたちにがんばってもらう訳だ。
さてさて、オオトカゲさんの攻撃手段など、全てを見せて貰いますかね。
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