百七十一話
ピョンピョンと大小様々な蛙達が飛び跳ねる。ただし、その速度は殺傷能力マシマシでだ。
どうやら、此処に来るまでに出会ったサイズの蛙型モンスターが、全て居るのだろう。お陰で、サイズの違いが錯覚を起こして、距離感が多少狂う。
ただ、この程度の包囲攻撃なら、ラフレシアもどきの方が一枚以上は上手だった。何せ本体を隠し、見えない位置から、心身共に疲労するように攻撃を仕掛けて来てたのだから。
まぁ、その正体は遠隔操作できる花が種を飛ばしていた訳だけど……その点で言えば、この蛙達は自分自身を弾にして飛んで来ているから、錯覚があっても対処も楽だ。
「いち・にと回避! したらここ!!」
ステップで回避した後、スコップを振り抜き飛んで来た蛙に叩き込む!
バァーンとスコップが気持ちの良い音を鳴らしながら、蛙が打ち返されていった……あれ? なんで潰れてないんだろう。もう少しこう、グロテスクな映像になる予想をしてたんだけどな。
まぁ、硬い壁を粉砕しながらめり込むような奴等だ。スコップで打ち返す程度なら問題が無いって事なんだろうな。
とは言え、このやり方だと長期戦になりかねないな。そう言う訳で、毎回恒例の得意技と行きますか。
土魔法を使って壁の作成と共に、双葉の協力で地面に蔦を敷き詰める。ただ、何時もの様に水魔法と土魔法で泥沼にする手もあるが、それは蛙のフィールドとも言えるから今回は却下だ。
さり気無く蔦の絨毯をフェイクに落とし穴も用意してある。まぁ、自分が引っ掛からないように注意は必要だが……そこら辺は、目印があるから大丈夫だ。
そんな訳で、土魔法による土壁の迷宮……いや、このフィールドにある石を利用したから石壁の迷宮か、それと、蔦によるトラップフィールドを作り出し、迎撃準備を整える。
まぁ、作っている間にも蛙達の攻撃は続いたけど、避けるだけなら問題は無いからな。
「これで蛙の攻撃をだいぶ防げるからな。回避行動していた分が攻撃に回せる訳だ」
直線的な攻撃しかやってこないからな。ただ、数が多いのが面倒だったってだけで。
だから障害物を用意してやれば、蛙達の攻撃手段はかなり封じる事が出来る。まぁ……石壁に体当たりか、舌の鞭で打撃をしている音が響いてるけど。
石壁を壊さないと先に進めない蛙と、遠距離攻撃の手段を持っている俺なら後はもう簡単だ。
「銃撃開始!! それと魔法も食らっとけ! 風弾!」
壁から少しだけ体を出して、ハンドガンのトリガーを引く。それと同時に、風の銃撃魔法を撃ちこんでおく。
蛙の属性がどれか解らない。ただ、予想としては土か水だろうと踏んで、とりあえず風魔法を撃ちこんでおく。
予想が正しいなら、弱点でも同属性でも無いはずだからな。
当然だが、蛙達も俺が攻撃して居る位置を把握し、隠れるなり、違う場所から攻撃しようと行動を開始。
ただ、石壁で作られた迷宮は、製作者である俺と双葉にしか優しくなく……蔦に絡まり吊るされる蛙から、蔦によって隠された落とし穴に落ちた後、蓋をされて出れなくなる奴。
石壁が崩れて一斉に潰れる蛙達と、本来であればダンジョン側が探索者にやるであろう、トラップ攻撃をダンジョンのモンスターに仕掛けている。
そして、俺と双葉は隠し通路やら即席通路を使い、ゲリラ戦法も真っ青の反則まがいな移動手段で蛙に奇襲を仕掛けている。
「さてさて、どんどん子分の蛙達を潰しているけど、奥で陣取っているあの蛙はどうするんだろうな?」
はじめから一切動いていない、奥に居る巨大な蛙。あれが恐らくこの階層のボスだろう。
そのサイズは驚く事に俺よりも大きく、二メートルは有る蛙だ。
もし奴が動き出せば、石壁程度簡単に砕けるのでは? と思わなくも無いが、何故かあの蛙は動く気配が一切無い。
ぽこっと奴の周りから現れる蛙が、砲弾のように此方に飛び込んで来てはいるけれど、そういう時すら身動き一つしない。
「……あれは、置物か?」
そう思い、口にしてしまう程に鳴く事すらしない。
ただ、不気味なのは鳴かない動かないだけではなく、何故かそいつの周辺からポコポコと蛙達が飛び出してくる事もだろう。
「まるで、巣穴を守ってるって感じだよな」
もしくは、蛙型モンスターを作り出すオブジェクトか? もし、そういった像だと言うのであれば……あれを破壊すれば、蛙の無限湧きが止るだろうか。
ただ、あれを攻撃して何か弊害が起こる可能性……動く必要がなかった巨大蛙が動き出す。無限湧きに加えて無制限にもなるとか。
「まぁ、このまま沸き続ける蛙を倒していっても、何時終わるか解らないし……此処は一発狙ってみるか」
どの手段を選んだとしても、何時かはあの巨大蛙を如何にかしないといけないだろうしな。
「それじゃ……双葉、俺はあの巨大なの狙うから、周辺少し警戒よろしくな」
「んー!」
石壁の迷宮を抜けてくる奴は居ないと思うけど、念のために双葉に周囲の警戒を頼んでおく。
後は巨大蛙を狙えるスポットまで、ばれない様に反則移動。
移動後は、アンチモンスターライフルを取り出して、弾を込めて狙撃体制に入り準備完了。
「さてさて……吉とでるか凶と出るか。出来れば、大吉か大凶でよろしく!」
巨大蛙の顔に照準を合わせてから、呼吸を少しの間とめてトリガーを引く。
ドォォォン! と、銃弾の発砲音と共に、ライフルの反動に耐えつつ、即座に行動を開始。今の音で蛙達に位置がばれたのは間違いないからな。同じ場所に留まるのは愚の骨頂だ。
此処に来た時と同じ方法で移動しながらも、巨大蛙の動向をチラリと横目に見る。
「顔面が綺麗に吹っ飛んだか……さて、どうなるかな」
巨大蛙が見える場所かつ、位置バレしないであろう場所へと移動して様子を見る。
ふと先ほどまで居た場所を見ると、蛙達が波のように押し寄せているから、移動したのは正解だったな。
まぁ、あそこには置き土産としてトラップを仕掛けてあるから、押し寄せた蛙達は絶望を味わう事になる訳だけど。
問題は、巨大蛙とその周囲だ。
当分ここは安全のはずなので、しっかりと様子を見ると。なにやら巨大蛙の吹き飛んだ顔が、少しずつ復元されていっている。
「再生能力? 蛙なのにトカゲの尻尾かよ」
とは言え、どうやら再生中だと周辺から蛙達が出てくる気配が無い。となると、再生か蛙の量産どちらかしか出来ないのだろう。
「なら……ライフルの出番再びかな」
動く気配も無いというか、生物的な感じでも無い。
アンチモンスターライフルのスコープを覗けば、吹き飛んだ顔の跡の部分が、なにやら鉱石っぽい何かに見える。
であれば、あれは蛙型モンスターを生み出すオブジェクト的な物なのだろう。
「そう言う事なら、あれはただの的だな。双葉警戒をまたよろしく!」
ベースにしたと言っていた狙撃銃が装弾数五発だから、残弾数は先ほど一発撃ったから残り四発だ。
狙撃体勢をとり、双葉に周囲の警戒をさせ、今度は再生中の顔面じゃなく巨大蛙の胴体を狙い……リロードをしてから、一呼吸置いてトリガーを引く。
再びドォォンと発砲音が響き、其れを釣られて蛙達が進路を変更する。だが、それを気にせず、リロード。再度狙いを巨大蛙に合わせる。今度は、今吹き飛んだ後に残った地面に近い部分。
三発目の発砲。その後すぐ双葉からの警告。どうやら、蛙の団体が近い位置まで押し寄せているようだ。
「ちっ、あの巨大蛙がどうなるか確認する前に移動か。双葉トラップの準備は?」
「ん!」
すでにトラップ自体は双葉が完成させているらしい。それなら、移動するだけだな。
「なら、移動だな。次は……さっき狙撃したポイントの近くなら盲点だよな」
先ほどのポイントそのままであれば、トラップに引っ掛かった蛙達の死骸がゴロゴロとしていて、最悪のポジションだが、その近くなら……臭い以外は問題ないはずだ。
そんな訳で、また地形を弄りながら移動をして行く。その最中に、双葉が仕掛けた蔦のトラップに引っ掛かった蛙達がグエェェェェェェ! と鳴きながら、悲惨な状況になっているが……まぁ、目視しない。
そして、新しいポイントに着いてから、巨大蛙がどうなったかを確認。
「ふむ……どうやら、再生は止った?」
顔を吹き飛ばした後は、にゅるにゅるというかにょきにょきと言うべきか……まぁ、表現しにくい方法で再生を開始していたけど、今はぴったりと止っている。
そして、周囲から蛙が誕生する事も無い事から、蛙の量産システム的なのは止ったと考えてもいいだろう。
「……だけど、次へ行く階層の扉とか出ないな」
これは……フィールド内にいる蛙を掃討しろと言う事だろう。
まぁ、残っているであろう蛙の殆どは、トラップに引っ掛かって宙吊りになっているか、落とし穴の中で埋められている奴等だ。
もしかしたら、岩壁が崩れた時に潰されたヤツで生き残ってるのも居るかも知れないが。
「まずは、フィールドを端から戻して行って、飛び出てきた蛙の処理をしていけば良いか」
「んー!」
双葉がやる気いっぱいに返事をして来る。
しかし……一体どれだけの蛙がトラップで潰れたんだろうな? 回収するのが大変だろう。それに、一メートル以上のサイズともなれば……恐らく生き残っている奴も結構居るだろうな。
「それじゃ、双葉君。お掃除開始といきますか!」
「ん!」
整地しながら、飛び出てくる蛙を双葉の蔦による鞭や、俺の銃撃で迎撃して行く。
結構な時間を掛けて、マップの隅から隅まで掃除をして行くと、巨大蛙が在った辺りに次の階層へと続く階段が出現。
「や……やっと終ったな。どれだけ蛙が居たんだよ」
身を潜めて機会を覗っていた蛙やら、飛び跳ねて移動しまくる蛙などがいて、割と面倒だった。
これは、攻略方法を間違えたのでは? と思わなくも無い。まぁ、階段が出た以上は終わった事だから良いけどな。
「えっと、攻略ボーナスは双葉が居ても出るのか」
どうやらお供につれているモンスターは、パーティー要員として含まれないみたいだ。
ソロじゃないじゃん! と言いたいところだけど、これは嬉しい誤算と言う奴だろう。ありがたくボーナスを頂いておこう。
ボーナス自体は、ポーション瓶。ただ、今まで回収した事がある物よりも、綺麗な色をしている。
「これはどんな効果があるんだろうな」
まぁ、婆様行きなのは確実だけど……あのラフレシアもどきの宝箱から出てきた奴と、どう違うのか気になる所だ。
さてさて、どちらかが上級ポーションだと良いんだけど、どうなるやら。
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アンチモンスターライフルを活躍させたかった。
だけど、破壊したのはオブジェクトと言う落ち。




