百六十九話
二十一層の入り口から再調査をして行く。それも、崖側にある視界に入りにくいポイントを重点的に。
その際、双葉には蔦によるレーダーを崖下に向けて探索をして貰っておく。こうする事で、モンスターからの奇襲や、窪んで隠れている道があるかどうかを汲まなくチェックしてもらう訳だ。
そもそも最初に来た時は、まず木々がある場所に目が行ってしまったし、その場所に行くまではモンスターとの戦闘を考え、崖側から離れて足場の良い場所を進む事を選んだ。
別にその事が間違っている訳じゃない。むしろ不確定要素が多かったから当然の選択だ。
だが現状だと、モンスターの襲撃は空からのみで、その対処も動かず楽に出来る。しかも、その空から来るモンスターすら、殆どいないと言う状態だ。
「それに、空から攻撃されても、足場が良い所まで行ける時間が十分あるからな」
これが探知が出来る強みと言えるだろうな。
まぁ、そう言う訳で、情報が増えた現状は、最初に来た時と状況が随分と変わった。なので、崖側の探索が出来るようになったと言う訳だ。
そうなると一番注意しないといけないのが、崖下からの攻撃や崖の崩壊だろう。
しかし、それも双葉の参戦により、蔦のレーダーと言う反則技を持ってカバーできる。
そう言う訳で、余程のイレギュラーでも起こらない限り、探索自体は問題が無い。
「ただ、一番可能性が高い崖降りは……やりたくないよな」
三百六十度見渡す限り、進むべき場所は見当たらない。そして、ヒントになるような目印すらない。
唯一ヒントと言えるのは、反対側の山にいる山羊型モンスターぐらいだろう。……そして、其処に行く為には崖の攻略が必要。
その情報から、高確率で一度崖を降りる必要がある……としか判断出来ない。
ただ、崖下に行くとしても、どこかに道が有って欲しい。岩肌を掴んで降りるなんて真似はしたくないからな。
そんな事を考えながら、道よ見つかれ! と探索をして居ると、なにやら足元から微量な魔力反応を察知。
「ん? 足元に何かあるのか……双葉、何か崖側に通れる道とかあるか?」
「んーん?」
首を横に振りながらの返事。となると、崖には何も無いのだろう。
しかし、この魔力反応は動いている。そうである以上、モンスターかなにかの可能性が高い訳で。
「足元に何か居るって事何だよなぁ……掘るか?」
いや、掘ったとしても距離がある……時間が掛かりすぎるだろうな。となると、どこかに入り口みたいなのがあると思うんだけど、今まで来た道の中には無かった。
そして、前回来た時の感じから、無難な道や木々があった場所にも、何かがあるだろう物や場所は無かった。
「だとすると、もう少し進んだ先かもな」
逸る気持ちを抑えながら、周囲の探索洩れが起きないように進むと、地面に人が二人横並びで進めるほどの亀裂。
岩やらアップダウンで上手く風景に隠されていた為、接近しないと発見出来ないようになっていた。
「なんと言うか、捻くれた奴の仕業か? と言いたくなる位置にあるな」
思わず愚痴をこぼしてしまったが、恐らくこれが、あの魔力探索に引っ掛かった相手が居る、その場所まで続いている可能性がある亀裂じゃないだろうか?
他にヒントがある訳でも無いし、崖側にも降りれる場所は無かった。なので、まずはここの探索を開始してみるとするか。
「てか、折角外に出た感じのマップだったのに、また洞窟とかそういった雰囲気の場所なんだな」
まぁ、もしかしたら鉱石とかが有るかもしれない。暗くてジメジメなのは気分的に良くないけど、そういったプラスの部分があるかもと、気分を変えて行かないと。
亀裂に入って進んで行くと、其処はなんというか……モンスターによって作られた道。と言うのがイメージとして正しいだろうか?
円形状にくり貫かれているかの様に道が出来ていて、しかもあちらこちらへと道が枝分かれしている。
「なんと言うか……蟻の巣とかモグラが作るトンネル?」
イメージとしてはそんな物だろうか? ついつい口にしてしまう程、不気味な感じを受ける空間だ。
なにせ、他に動物も虫も居ない。まぁ、ダンジョンだから当然なんだろうけど、生命を感じない土の中と言うのは、此処まで不気味なのか……まぁ、虫が居たら居たで、気持ち悪いから叩き潰したくなるが。
進むに連れて、土から石へと環境が変化して行く。しかし、トンネルはまだまだ続いている。
となると、このトンネルを作ったがモンスターであった場合は、相当爪なのか牙なのかが強いモンスターなのだろう。
ダンジョンが作りました。であれば、まぁただの道だろうと判断出来るのだが……ダンジョンが道として作ったのは、メインとなる道のみだ。
メインとなる道は、人が二人ほど並んで通れる道だが……横に出来上がっているトンネルは、人が入れる道じゃないのも多々ある。
「ダンジョンの環境修復の法則がどうなってるのか気になるけど、モンスターが作ったトンネルがそのまま残っている……と考えた方が無難だよなぁ」
横にあるトンネルに魔力サーチを掛ければ、モンスターの気配がするからな。であれば、この横穴はモンスターの巣穴かなにかと考えた方が良い。
問題はどのタイプのモンスターかだよな。
ただ、相手も現状移動していないので、倒す事が中々出来ない状況だから放置して居る。
なので、後ろから出てきて奇襲されても面倒だからと、その穴を埋める作業はしておく。
そんな作業をして居ると、トンネルの中からひょこっと顔を出してきたモンスターが一匹。
そのモンスターは俺に気がつくと、口を大きく開けて……舌を鞭のように使い襲ってきた。なので、その舌を剣鉈で迎撃。その流れで舌を剣鉈で突き刺した上で、地面へ剣鉈を差し込む。
「これで相手の動きを封じれるっと……襲撃の主はカエルか」
舌を戻せなくなった蛙が、首輪で繋がれて周辺を回るしか出来ない、犬のような挙動を繰り返している。
と言う事は、この穴は蟻でもなくモグラでもなく蛙だったのか。
「しかし……この蛙大きいな」
大きさ的に、ドッジボールぐらいのサイズはあろう蛙だ。この大きさだったら双葉ぐらいなら、飲み込まれてしまうのではないだろうか?
「まぁ、魔力の主は恐らくこのモンスターだろうな。さて、どれぐらい数が居るんだろうな」
穴の中に潜む蛙を相手にする。まぁ、それ自体は問題ない、
ただ、気になるのは……この蛙。素材としてはどうなんだろうか? 食べれる蛙とかも居るが、食肉自体なら現状は困ってないので、蛙を捕まえて食べる必要は無い。
なので、その点は個人的にスルーするとして、モンスター素材として使った時、どんな特徴があるかだよな。
今までであれば、蜂だったり熊だったり狼だったりと、何かと解りやすいモンスターの素材を扱ってきた。ワニとかは鱗が強かったりとかもあったな。
しかし此処に来て蛙だ。蛙の特徴と言えば……舌が伸びるとかジャンプ力がある……後は水陸両用? 毒を持ってた奴も居たか。
「良く伸びるとか、弾力性があるからそっち方面か?」
まぁ、どう使うかは研究者の人達次第何だけど……利用法が思いつかないモンスターか、舌で鞭でも作るか? その程度しか思いつかないなぁ。
とりあえず、毒とかを持っている可能性だってあるから、扱いには気をつけないと。
そんな事を考えながら蛙の処理をしていると、双葉がおもむろに蔦を動かし始めた。
「双葉どうした?」
「ん!」
するすると蔦を、蛙が出てきた場所入れて行く。
そして、ガサゴソと何かをしたかと思うと蔦が急に収縮をし、穴の中から小さな鉱石みたいな物を回収して来た。
「……もしかして、其れを取って来たのか?」
「ん!」
そうだよ! と、全身でアピールする双葉。鉱石を受け取り、双葉の頭を一通り撫でてお礼を言った後、受け取った鉱石を調べて行く。
その鉱石は、親指の爪ぐらいの大きさだが、やたらと魔力を含んでいる量が多い。と言う事は解った。
しかし、何故こんなものが蛙の居た穴に? 収集癖でもあるのだろうか? と思ったが、そうなら何故一粒だけなんだ? と言う疑問が残る。
これは……他の蛙達が居る場所でも、同じように鉱石があるかどうかを調べるべきだろう。
魔力を大量に含んでるからな。使い道は沢山あるはずだ。
それじゃ、外に出る道を探しつつ、蛙の鉱石狩りをして行くとしますか。
――ダンジョン前拠点の協会――
「アンチマテリアルライフルは! 俺が! 作りたかった!!」
「笹田君落ち着いてください」
人一倍、アンチマテリアルもといアンチモンスターライフルの誕生に、興奮して居る者……笹田が吠える。
彼は実用性と浪漫を合わせた武器が好きだ。そして、魔石を使う銃と言う物の開発を、一番に進めてきたと自負している。
そんな彼が、研究所を離れている隙に、ライフルの開発を他の者にされてしまった。しかもそれは、アンチモンスターライフルと言っても良い威力を持ち合わせた銃だ。
製作者は、ただのスナイパーライフルを作ったつもりだったのだが、モンスター素材に魔粉製火薬と魔力を含んだ鉱石、それらが合さり奇跡が起きたのか、ただのスナイパーライフルが其処までの威力を持ってしまった。
予測外の状況とは言え、出来上がったものは笹田が求めて止まない、実用性と浪漫の集合体だ。
「……こうなったらレールガンの開発を、いや、パルスレーザーか? いや、其れよりもホーミングするレーザーとかも……」
「笹田君……悔しいのは解ったけど、先ずはハンドガンの量産を」
「そんな事態じゃないんですよ! そんなのは他の奴に任せてしまって大丈夫です! 今は更に新しい開発を!!」
開発魂の大暴走である。
しかし、この暴走こそが現状の戦力強化になっているので、水を差すのもどうだろうか? と言う話にもなる。
まぁ、油を注いで資材を大量に使われるのもどうかと思うのだが。
しかし、今回のライフル製作者は資材の無断という事で、研究所の責任者達から重い罰則が課される。
一応、ライフルの開発成功と、アンチモンスターライフル化と言う思わぬ成果もあったので、軽減はされているのだが……当然だが、秩序を乱す行為と言う事も有るので、罰則は重いものとなった。
なので、笹田は彼の二の舞にならぬようにと判断し、ぐるりと回りを見渡し、責任者達を説得する事にした。
「今すぐ! 私に! 新兵器開発の許可を!」
「落ち着きたまえ。先ずはその目を正気に戻すんだ!」
「落ち着いてられません! あんなライフルを見せられては、もう……作りたい物のイメージが溢れて仕方ないのですよ!」
熱弁する笹田。そして、「あー……その気持ち解るわ」と言いたげな研究者の多い事。
しかし、ここで許可を出せるはずもない。当然だが、資材が無いのだ。
結局、次に資材の予備が出来たらと、笹田を落ち着かせるのだが。
この笹田が落ち着くまで、沢山の研究者に笹田の熱意が感染し、我も! と訴える研究者が増え、研究所の運営陣が説得に数週間必要だったと言う。
そして、この研究所のトップたる師匠こと、石川氏は「もっとやれば良いじゃろ? さすれば、研究が捗るわい」と、火に油を注ぐような事を言っていたらしい。
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