百六十八話
村での雑用を終らせてダンジョン前の拠点へと戻った。
妹達に双葉を任せるつもりで顔合わせをさせて、実際に仲良くなったので上手く行ったと思ったが、ダンジョン探索に戻る事を言ったら、双葉が着いて行くと駄々を捏ねて暴れたので、結局つれて行く事になった。
まぁ、妹達は「家に残ろうよ」と双葉に訴えてたけどな。
その後も協会にレポートを提出しに行っては捕まって色々と話をしたり、近所のお姉さま方に双葉についての話を聞かれたりと、村から出発するまでの時間が少し延びてしまった。
だが、村内で双葉が嫌悪されてないという事でも有るので、歓迎するべき事ではある。
そして今は、ダンジョン内にて双葉を連れて探索中。
双葉の特性が如何いう訳か、ダンジョンに取り込まれないという能力持ちという事で、ダンジョン内に連れて来ても大丈夫という、ある意味反則状態。
本来なら連れて来る気は無かったんだけど、双葉がこっそりと鞄に隠れポイントを作り、そこに隠れてついて来たものだから、ダンジョンに潜ってから双葉の存在に気がついた。実にガバってしまったという状況だ。
「まぁ、着いて来てしまったのは仕方ないけど、余り無茶はするなよ?」
「んー!!」
実にやる気まんまんな双葉だが、双葉の能力を考えればかなり強いのは確かだ。
蔦による変幻自在の攻撃手段というのは割と凄まじいもので、鞭にしたり網にしたり、通路の封鎖から相手の拘束まで色々と取れる手段がある。
「とりあえず双葉は、攻撃はしなくて良いからな。やるとしたら相手を拘束したり、後ろに注意をしてくれれば良いぞ」
「……ん!」
双葉が作ったバックパックの隠れポイントに入ってれば、結局見える向きは後ろ側になるから、丁度良い指示でもある。
それに、攻撃をしないのだから、双葉に敵のヘイトが向かう事も無い。
「まぁ、この階層の敵ってどういう訳か全てが遠くに居るから、戦闘にすら現状なって無いけどな」
「んー?」
「ほら、モンスターが居る場所。空か崖を挟んで向こう側にある山だろ?」
そして、周辺にはモンスターの気配が無い。
前回来た時にあった木々のフィールドも、現状は姿形すらない状態だ。と言う事は、やはりあの木々のフィールドにラフレシアもどきは、何かの条件を達成した後に出てくる特殊な空間か、ランダム出現するモンスターハウスみたいなものだったんだろうな。
「ただ、視界が広いって事は敵からも発見されやすいって事だから、十分気をつけないとな」
「ん!」
「そうそう、この状態だと特に空は注意しないとな」
注意しようと声を掛けると、双葉が上に蔦を伸ばして返事をした。
その雰囲気が、「上空を特に注意!」と言っている感じだったので肯定をすると、双葉が満足そうにしながら、警戒を開始した。
まぁ、雰囲気だけで言うなら子供の遊び。だが、その内容が半端じゃない。
双葉が何本か蔦を出してバラバラにその蔦の先を進めて行く。とは言え、其処まで長く伸ばしている訳じゃない。
蔦をうねうねと動かしているので、遊んでいるように見えるのだが……これが実はレーダーみたいな物になっているようで、動いている蔦は実はその方向に敵が居て、その動きを追っているらしい。
「ん? 一本短くなってる?」
上空に向かってる蔦が一本、ぐるぐる回りながら短くなっている。そして、この蔦はレーダーとしての機能があるとなればだ。
「鳥型モンスターでも接近して居るのか」
「ん!」
その通り! と、双葉が声を上げる。それにしても、探知能力がやはりモンスターの方が上なのか。それとも、双葉の蔦が異常なのか……とりあえず、俺が気がつく前に見つける事が出来るのか。
イオ並みの性能があるとしたら、かなりの高性能と言うレベルだ。
しかし、モンスターとは言え、誕生したばっかりの双葉に負けてしまうとは……訓練のやり直しかな。
「っと、それは後にするとして、まずはモンスターの対処だな」
モンスターの対処。とは言っても、このフィールドの鳥型モンスターに対する方法は、既に見つけてある。というよりも、山羊型モンスターがやってた事をそのまま真似すれば良い。
盾と銃を構えて、更に散弾魔法を撃つ準備をしてから、鳥型モンスターの襲撃を待つ。ただソレだけだ。
「さて、双葉は待機で良いからな。緊急時のみ防戦をするなり逃げるなり、判断はしっかりとするように」
「んー!」
万が一と言うのが無い訳じゃない。何せ、鳥型モンスターの攻撃方法を一つしか見て無いからな。
ただ、現状の行動を見ている限りだと、大差は無いだろう。
そんな風にじっくりと観察していると、相手は痺れを切らしたのか急降下を開始して来た。
「よっし! 予定通り!」
突撃して来る鳥型モンスターに向けて、通常弾を一発撃ち込む。
だが、モンスターはその弾丸をぎりぎりの所で回避した。……けど。
「それも想定内だ! 火弾・散弾型!」
本来なら一発で仕留めるつもりでも有ったけど、避けられたので準備しておいた火魔法の散弾を、モンスターの進路上に撃ち込む。
火の弾が広がる様に鳥型モンスターを襲う。そして、一発の銃弾を回避した後な訳で、更に回避行動を取ろうにも、思うように修正する事が難しいのだろう。
不思議な動きをした後、火の散弾に襲われた鳥型モンスターは、その弾丸により無数の穴が空いた後、美味しそうな匂いをさせながら地面へと墜落した。
「よし、山羊に感謝だな。やはりこの攻略方法で間違いが無いみたいだ」
しかし降下攻撃をしながらでも、銃弾を避けるだけの能力はあるみたいだな。
そういえば、山羊のあの電撃魔法もどちらかと言えば、範囲型の魔法だった。となると、真っ直ぐ向かう攻撃には強いと言う事なのだろう。
それ以外にも注意するべき点があるとすれば、集団で降下して来た時か。現状のモンスター配置を見ると、それが行われる可能性は低そうだけどな。可能性はあるので、頭の片隅にでも置いておこう。
さて、鳥型モンスターはそれで良いとして、問題があるとすれば。
「このマップは何処へ向かえば良いんだよ!」
木々の跡地には何も無く、モンスターの殆どが崖の向こう側にある山に居る状態だ。
そして、崖を攻略しようにも……底が見えないレベルで険しい状態となっている。
「この崖を降りる判断は……厳しすぎるだろ」
何せ暗すぎるからな。
案外、簡単に降りれる深さかもしれないが、この暗さでの戦闘は勘弁して欲しい。まだ、洞窟やら坑道マップの方が明るかったレベルだ。
とは言え……他に進む道がある訳でも無い。
「とりあえず……火でも何かにつけて落してみるか」
松明に火をつけてから、崖に投げ込んでみる。
そうすると、火の明かりが見えなくなるまで落下していき……どうやら、相当深いと言う事だけが解る結果が残った。
「よし、崖を降りるよりも周囲を徘徊しよう。それでもなかった時に崖に挑戦だな」
きっと何処かに、向こう側に渡る方法か崖を降りる手段があるはずだ。
兎に角、一旦入り口まで戻ってから、周辺の探索をして行くとしよう。
――ダンジョン前拠点の協会支部内――
「ライフルだ! ライフルだそうだぞ!」
「あれ? ハンドガンの量産がとか言ってませんでしたっけ!?」
協会内にて、結弥が持ち込んだレポートを読んだ守口が入谷に対して、興奮した状態で銃についての話をしている。
「どうやら、研究者の一人がやらかしたらしい! しかもだ。スナイパーライフルを作ったつもりがアンマテ……アンチマテリアルライフル……いや、アンチモンスターライフルを作り上げたそうだ!」
「それは大口径的にですか?」
「いや、口径自体はただのスナイパーライフルらしいが……どうやら、威力が異常のようだ。このレポートを見てみろ」
守口にいわれて、ライフル関連のレポートを読んでいく入谷。
入谷の顔は、レポートを読んでいくにつれ、どんどんとやらかしやがった! と言う顔に変化して行く。
「無断で物資を使用して、ライフルの製作ですか。それに関しての罰則はしたんでしょうか?」
「そこら辺は研究所の上層部が判断する事だからな。だが、このライフルが量産体制に入れば」
「村も街も防衛に関してかなりの力を持つ事になりますね」
「ダンジョン攻略も場所次第では、かなり凶悪だろうな」
「坑道では使えなさそうですけどね」
元が狙撃銃と言うだけあって、近距離で戦う事が多いダンジョン内では厳しい場所が多い。
だが、ダンジョン内でも草原やら山岳のように、視野が広いという場所もある。
そういった場所では、このスナイパーライフルベースの対モンスターライフルは、猛威を振るう事になる事が容易に想像できる。
「量産体制を整えるように指示が出来ないだろうか?」
「鉱石が足りませんからね……まぁ、その状態を打破する為に、ゴーレムを狩ってくれと要望が来てますけど」
「ゴーレム狩りか。あいつは面倒くさいと部隊の奴等が言ってたからなぁ」
鉱石を採るための手段としてゴーレムを狩る。自衛隊のメンバーにとって、世界が崩壊する前であれば、ゴーレムなどは魔石爆破を使って、一網打尽にする対象だった。
だが、その魔石の数も現状足りていない。というより資源として使うので、ゴーレム相手に爆破で対処する為に使うなど、出来るはずも無い。
「大量の打撃武器が必要だな」
「やはりゴーレムには打撃が一番ですかね」
「まぁ、其れしかないだろうな。銃を使うわけにも行かないしな」
資源を回収する為にゴーレムを倒すと言うのに、銃弾を使うのは本末転倒だと守口が口にする。
「今、打撃武器はどれぐらい有りましたっけ?」
「使い勝手が良いからな。割と多めに用意されていた筈だぞ」
ハンマーに棍棒……採掘もあるのでツルハシも用意されている状況だ。
「でしたらゴーレム狩りは行けそうですね」
「十九層とかならば、行き止まりに追い込めば楽に対処できそうだしな……よし、それならゴーレム狩りの部隊を作るか」
こうして、鉱石系資源をゴーレムから回収する為の部隊が編成される事となった。
当然だが……その部隊に選ばれたメンバーは、ゴーレムと戦うのは面倒だと嫌な顔をするのだが、少しだけ他の探索者達よりも優遇される(主に武器や酒などで)と聞き、ゴーレム狩りに精を出す事となる。
そして、そんな彼等の働きが、多少ではあるが鉱石関連の資源不足を解消する事となり、銃などの量産が出来るようになった。
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