百六十七話
研究者達とのやり取りは問題無く……いや、問題だらけで終ったと言った方が良いか。
例えば、ライフルを試すべく、壁の外にでて一キロ先の熊を撃ってみれば……熊は跡形も無く木っ端微塵になったり、新人さんが入った部署に関して婆様に話を聞いてみれば、どうやらその新人さんは、街から来た元・自衛隊の人らしい。
当然だが、魔法が使える人なので研究が加速されるのだが……本人が基本的にやっている研究が、魔石の効率的な使い方の模索をし、魔法を使う時に何をどうしたら、威力が上がったり魔力の消費を抑えたり出来るかという内容。
そんな彼曰く「銃だけじゃ駄目だ! 範囲魔法にも可能性があるし、銃撃と魔法を合わせて攻撃出来るようにする事こそ必要だ!」との事。
まぁ、その戦闘方法は既にやっている訳だけど、彼はそれを更に効率よく出来るための道具を作る事に、精を出している。
そして、その答えを実は見つけているのだが、如何せんその道具と言うのはダンジョンからドロップされたアクセサリーだ。
当然だが、仕組みが良く理解出来ていない状況。そんな訳で、そのアクセサリーを必死に再現しようとしているらしい。
そして植物関連の部署でも、双葉の協力で色々と新しい発見を得たのか、地上に出た頃の忙しさ並みのデスマーチを再開しているみたいだ。
双葉をつれて顔を出しに行ったら、とんでもないテンションであれやこれやと実験をしたり、レポートを書いたりしていた。
余りにも近づきにくいので、双葉を抱えてそのままターンしてしまったのは仕方ないだろう。
後、武器開発関連だと盾の開発は既に量産体制に入ったようで、幾つかダンジョン前の拠点や街へと輸送したようだ。
その内、ダンジョン内で盾部隊を先頭に隊伍を組んで、銃撃戦が始まる状況がみれるかもしれないな。
「しかしなんと言うか、一気に技術力が上がってるなぁ」
「当然じゃろうな。元々持っていた技術を魔法やら魔石やらで、使える様にしておるだけじゃて」
「婆様はそう言うけど、魔法やら魔石自体意味不明な点が多いと思うんだけど?」
「其処はあのモノクルが役に立っておるからのう。魔本の解析をした探索者が、あれと同じ効果のある眼鏡の提出をしてくれておるしの。数が揃えばそれだけ手を出せる事も多いのじゃから、当然研究も開発も進むわい」
読めない文字が読めるようになったりするレンズだからな。本当不思議な道具だけど、あのレンズの再現は一切出来ないらしい。
魔本を自動翻訳してくれる物なら作れるかもしれないが、魔力の流れを可視化したり、色々な検査に使ったりなど、複数の機能をレンズ一つに纏めるのがどうしても解らないそうだ。
まぁ、研究所という事で一つに纏める必要も無いから、幾つか試しに作ってみているそうだけど……レンズがあれば良いじゃないか、と言う流れがあるので、重要視はしてないみたい。
「ま、他の街やら村と交流する様になれば、レンズよりもそちらを作って輸送する可能性もあるがの」
「流石にレンズは保持して置いた方が良いか」
「何時使えなくなるかも解らんからの。保険は必要じゃて」
とは言え、そういった道具を作るのに、実はミスリルや黒い鉄が必要になる。まぁ、ミスリルを使うとより精度が良いものが作れると言うぐらいなので、必ずしも必要と言う訳じゃないが。
ただ、これらが必要と言う事は当然だが……現状は資材不足という訳だ。量産や改良が出来る状態では無いという事になる。
「全く……何もかも資源が足らない状態じゃがの、面白い事にゴーレムの石材じゃったか? あれを弄る事で鉱石関連が多少手に入る事が解ったのじゃよ」
「……それは、ゴーレム狩りをしろと?」
「そうしてくれると、少しは資材不足が補えるのう」
ゴーレム狩りで、多少の資源が手に入るか。
体を構成しているのは殆どが石材だったが、どうやらその石の中に少量の鉱石が混ざっている事が有る。
ただ、その鉱石は……なんの魔力も含まない鉱石だったりする時もあり、完全にランダムガチャみたいな物。まぁ、そういった物も使えないわけじゃないが、出来ればミスリルや黒い鉄が欲しい所だ。
しかし、そういった魔力を含んだ鉱石が出る事は少ないらしい。ただ、現状だとサンプルが少なかったのもあり、たまたま含まない部分だったかも知れない。
「そう言う訳じゃから、ゴーレム素材は大量に欲しいのじゃよ。ただの石材としても使えるしの」
「婆様……俺は現状だとゴーレムが出ない階層に居るんだけど?」
「ありゃ、少し遅かったかの? そうであるならば、ゴーレムと戦ってる者に伝えておいてくれるかの? なに、結弥が獲って来てくれても構わんのじゃがな」
「……まぁ、見かけたらなるべく確保しておくし、協会の人やその階層を攻略してる人には伝えておくよ」
資材が増える可能性があるなら、やるべき事でもあるしな。
ゴーレムから大量に手に入るなら……掘った鉱石が復活するまで待たなくてはいけない、という現状の打破になるし。
しかし、ゴーレムを狩るのは大変だ。労力に見合うだけの資材を手に入れれるのだろうか? 一つ言えるとすれば、銃を使って倒すのはやめた方が良いだろう。
資材を手に入れるために、資材を使うと言う話になるからな。如何にかしてゴーレムを安定して倒す方法を確立する必要があるのだが……まぁ、そこら辺は守口さん辺りに投げつけよう。
そんな感じの話を研究所を後にする前に婆様とした訳だが……その内容を協会に提出する為に纏めてるけど、やはり問題だらけだよなと思う。
「まぁ、ライフルの件は守口さん辺りが狂喜乱舞しそうな内容だけどな」
容易に想像できてしまうな。ハンドガンで、あれだけはしゃいでいた人だ。対モンスターライフルと言っても良い仕上がりの狙撃銃。その説明を受け実物を見せれば、ライフルを手にダンジョンに突入しようと言い出すに違い無い。
とりあえず、提出するレポートはさくっと仕上げて、ダンジョンに向かう準備もしないとな。
今は双葉を妹達に任せてあるから、作業を一気に進める事が出来る。
しかし、あちらは実に楽しそうにはしゃいでるな。楽しそうに騒いでいるのがこっちまで聞こえてくるよ。
「双葉ちゃん、蔦で迎撃して! 奴はテーブルの下に逃げたよ!」
「んー!!」
「こっちは任せて! えーい、スリッパアタック!!」
って、違う! あれ、遊んでるんじゃなくて、何か争ってるな。恐らく話的に……Gでも出たか?
そういえば、Gも生命力と繁殖力が半端無いよな。モンスターが蔓延るこの環境で、悠々と生き残っている。
そして、奴等を倒しても魔石が出ない事から、モンスターで無い事も確認済みだ。
「あぁ! 逃げるよ! Gさん逃げちゃう!!」
「ん!?」
「ヤバイヤバイ! 外にでたら倒すのが大変になる!」
どたばたとG相手に騒いでるなぁ。まぁ、奴等も如何いうわけか、機動力が以前に比べて段違いで上がっている。上がっているのにモンスターじゃないとは、どう言う事だ! と言いたいのだが。
まぁ、そのGをハンティングする益虫と言われてた虫やら、猫達もその身体能力が上がって居るのだが。
恐らくだけど、魔力がある環境になったと言う事や、村で魔物を処理した後の血やら骨やらを餌にしている奴や、肥料として撒いた土に触れているなどなど、色々な条件が重なり……強化されているのだろう。
研究者達も、それに目をつけてGやら蜘蛛やらの研究を始めた人も居るそうだけど……余り近寄りたくは無いな。
「やった! 双葉ちゃんナイスゥ!」
「んー!」
「空中に飛ばれた時はどうしようかと思ったのに。蔦の鞭を網状にして叩き落しは凄かったよ」
どうやら、戦闘に勝利したみたいだな。
しかし、村の周囲に居る熊や猪のモンスターよりも、Gは能力が高いのではないだろうか? 熊を狩ってる人達も、Gの機動力には翻弄されると言っているし。
そう考えると、Gのモンスターとかは存在していて欲しくない。
ただのGですらあの動きをするんだ。モンスターともなれば……更に強化され大型化し凶暴性が増す。雑食なGがベースだ。恐ろしいエネミーになることは間違いない。
「雀蜂もとんでもない奴等だったしな……これはマジで昆虫関連は注意必須だな」
確認せねばなるまい。守口さん辺りなら知ってるかも知れないな。後は、モンスター化する動物や昆虫が居るかどうかもだろうな。
「とりあえず……殺虫剤の準備はしておかないとな」
Gが出たからと言って、蔦による鞭やスリッパアタックでの討伐を何度もさせる訳にはいかない。
それに村は安全地帯だから、モンスターじゃない虫やら動物も増えているしな。
とりあえず、家に侵入されない様にする新しい対策が必要か。ネズミや昆虫避けを用意したけど、通用しなくなってるみたいだし。
「……むしろ、蜘蛛のモンスターでもテイムするか? 一家に一匹いたらネズミもGも何とかなりそうじゃないかな」
益虫だしな。毒持ちじゃなく、イオや双葉みたいに意思疎通が取れるなら……いや、そうなるまでが大変か?
それに、一気に増えられても困るしな。
害虫や害獣駆除用のゴーレムの作成をして貰うとかはどうだろう。
……その前に、ゴーレム作成の技術の確立と、ダンジョン攻略のお供に出来るゴーレムを作れよって話になるか。
「って、何で提出用レポート書いてる最中に、対G用の対策を真剣に考えてるんだ」
どうやら、二人と一体に思考が引っ張られたみたいだな。
とは言っても、こう言った事も必要になるだろうから、別口でレポートを作っておくか。
何せ赤ちゃんが居る家とかだと、かなり重要な問題になるはずだ。
「ネズミやGに噛まれたりして、大変な事になる事もあるからな」
お隣の黒木さんの家は赤ちゃんが居る。その為に、現状そういった問題には過敏だ。
色々と対策を取っているみたいだけど、家に侵入されるのは防ぎきれてないので、頭を抱えていると言ってたっけ。
現状被害が出てないようだけど……このまま害虫や害獣が増えれば、何処かで問題が起きる可能性もある。まぁ、なんの対策も取って無い訳じゃないんだけどね。
「とりあえず、駆除用のゴーレム開発でも提案しておくか。確か駆除薬とかは既に研究中のはずだし」
モンスターテイムの可能性も一緒に書いておくか。ただ、テイムについては注意事項も必要だという記載も忘れたら駄目だな。
「しかしまぁ……脱線したなぁ」
まさかの提出物が増えるという状況に吃驚である。
まぁ、これぐらいは思いつかないとやってられない世界ではあるのだけど……。
「きゃー! 双葉ちゃん、そのGを戦利品みたいに掲げないで!」
「お願い! 外にポイして来て!」
「ん!」
なんとも楽しそうな阿鼻叫喚だな。
まぁ、レポートも終ったし、皆と合流……は、もう少し後にするか。
今行ったら、何でもっと早くに来てG退治をしてくれなかったのかと言う、議論もとい責めに合うだろうからな。
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