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百六十五話

 研究と開発の手伝いをして居るが、内容が出来上がった物のテストなので、当然だが空いてしまう時間がある。

 なので、その時間を利用して双葉に村の中を案内する事にしたんだけど……双葉が農地と果樹園を見てかなり盛り上がっている。

 なにやら、両手を前にして力を溜めるポーズを取ってから、両手で枝を掲げて全てを開放! みたな事を数回繰り返している。


「見てるだけなら可愛いんだけど……なにやら魔力的な流れが出来てるんだよなぁ」


 双葉は楽しそうだし雰囲気も悪くないので、何か困る事が起きる……何て事は無いだろうけど、気にならない訳が無い。

 当然それに気づいた研究者チームも、記録をとりながらしっかりと見逃さないようにしている。

 とは言え、植物がにょきにょきと伸びるような事も無いので、本当に人形が農地や果樹園で踊ってるだけにしか見えない。……夜中にやられたらホラーだろうな。


「んー?」


 そんな中、双葉が何か疑問でも覚えたのか、首を傾けうんうんと唸り出した。


「双葉どうかしたか?」

「ん、んー!」


 農地と果樹園を指差し、何か変だ! と訴えるかのような行動を取る双葉。どうやら果樹園と農地だと、双葉の行動による反応が違うみたいだ。

 都合よく研究者の方々が居るので、声を掛けて一緒に考えてもらうとするか。


「なにやら双葉は、農地と果樹園に対して違和感を持ったみたいなんですけど」

「ふむ……二つに違和感なのか、二つに違いが有るのか、そこら辺は解るかい?」

「あー、どうやら後者みたいですね。果樹園には満足してるみたいですし」

「だとすれば農地に何か違いが在ると言う事か」


 農地と果樹園の違いをその場に居る皆で考えていく。

 植物として種類の違いは確かにあるが、植物型のモンスターがベースの双葉なら大差が無い。それに、その理由で違和感を感じるとすれば、樹木のほうじゃないだろうか? 双葉のベースとなったモンスターは、あのラフレシアもどきで、花とか草とかそっちの部類だからな。


 だが現状において、双葉が違和感を感じているのは農地の方。田んぼや畑にハーブなどを栽培しているスペースだ。


「んー……ん!」

「違和感は解ったけど……理由が解らないんだよな。ごめんな」

「んー?」


 双葉も違和感は解るけど、理由は「私も解らない」と言う感じで、腕を組むポーズを取り一緒に皆と悩み出した。

 腕組ポーズに少し場がほんわかとする。まぁ、研究者のお姉さんが取ってるポーズを真似しているようだけど……気にいったんだろうな。村に来てからの双葉は基本的に、誰かの真似をしようとしてるからなぁ……。

 と、それは良いとしてだ。問題は双葉が感じた違和感だろう。


「もう一度、双葉に同じ事をして貰いますか? 魔力の流れをもっと詳しくみれば、何か解るかも知れませんし」

「確かに。ただ、それによって農地に悪影響が有っても問題だろうから……そうだな、範囲などを決めてからやろうか」


 そんな訳で、双葉にあの不思議な儀式をもう一度して貰う事に。

 今度は更に詳しく調べる為に、実験農場に移動してから範囲や実験を行う植物の厳選をしてから、しっかりとデータを取る準備をする。

 とは言え、魔力の流れが在ると言う事は、あの謎の踊りによる儀式っぽい何かは、魔法か何かの可能性がある。

 なので、準備が整うまで双葉を少し休ませておかないとな。まぁ、抱えて少し揺らせば直ぐにスヤァと眠ってしまうから、楽なんだけどね。




 双葉が寝ている間に、実験の準備が終った。終ったのだが、双葉が中々起きないので研究者の人達が苛々しているかも? と、思っていたが、なにやら農業系の研究者達は余裕があるのか、双葉の寝ている姿をみてニコニコと笑みを浮かべながら、まったりと過していた。


「……何と言うか、結構ゆっくりしてても大丈夫なんですね」

「まぁね。魔法やら鉱石やら武器の開発をしている部署と違って、こっちは現状だと実績も残してるし、切羽詰まっている訳じゃないから」

「食糧問題に関しては必要数は軽くクリアしてたんでしたっけ」

「そうそう。贅沢さえしなければ問題無し。地上に出てきた当初を考えれば、随分と落ち着いたものよ」


 食料を安定して供給するラインを作る。通常の方法だと、はっきり言って無理だっただろう。

 しかし、今は不思議素材がいっぱい増えた環境だ。

 農地にモンスターから作った肥料を撒いたり、魔法で生成した水を使ってみたりと、色々と実験を繰り返していった結果、通常よりも作物の育ちが早いと言う効果が出た。

 ただ、この実験をしている時の農業系研究班は何日も徹夜をして、今の武器開発チームよりも忙しい日々を送っていたみたい。


「そう言う訳だから、今は最低ラインを確保した状態を維持しつつ、限られた土地で更に生産量を増やす方法や、美味しくする方法に……副産物や副作用についての研究かしらね」

「あー……副作用に関しては、今食べてる物だと、皆の身体能力を向上させる効果とかありましたしね」

「本当……それには吃驚したわよ。まぁ、モンスター肉でそれが起きてたみたいだったけど……モンスター素材の肥料を使ったりしてる以上はね」


 一応、食べる物だから人が食べる前に、動物とかにも食べさせてたんだけどね。少しネズミが元気になるなとか、その程度だったみたいで完全に見逃していたらしい。

 魔法が使えるようになる人間と、ただの動物じゃ何か違いがあるのだろうか? と言うのも研究しているみたいだけど、答えが見つかる日が来るのかねぇ……やりすぎて、動物がモンスターになりました! とかに為らないと良いけど、まぁ、そうなる前に婆様達研究者の上層部が止めるとは思うけどね。


「まぁ、調べて解ったとしても、それを現状食べないと生きていけないですからね」

「そうなのよね……だからこそ、調べ上げておかないとね。対策を取れるようにしないと」

「現状わかってるのは、身体能力の上昇と魔力的なモノなので……悪い部分が無いですけどね」

「生きていく面で見るならメリットだらけよねぇ」


 食べ物に関して、研究者の人達とあれやこれやと話していると、双葉が「よく寝た!」と言わんばかりに、元気良く起きてきた。


「おはよう双葉」

「んー!」

「あら、元気いっぱいね。お水飲む?」


 寝起き一番の飲み物、まぁ、水魔法で作られた水を飲み干した双葉は、寝る前に話してた事を覚えていたようで、今からやることは解ってます! と、実験をする為に準備されていた農地へと移動を開始する。

 まぁ、自発的に行くのは良いけど、君小さいから遅いんだよ? という事で、双葉を拾い上げ、腕に抱えてから、研究者の人達の後ろに着いていく。


「んー!」

「やる気いっぱいなのは良いけど、こっちの方が疲れないし速いだろ? 現場に着くまでゆっくりしてな」


 双葉は少し考えた後、納得がいったのか、腕にしっかりともたれ掛り、「さぁ行くぞー!」と、指を前にさしながら楽しそうにしている。


「ふふ。元気と言うか可愛いわね」

「まぁ、まだ誕生したばっかりですからね」

「ふむ、生まれたばかりで此処まで知能があるのか。これはモンスター研究班も興奮しそうな話だな」

「もう既にしてましたよ。今頃は、協会へ依頼でも出してるんじゃないですか? 「子狼以外のモンスターもテイムしてきて欲しい」とか」

「……彼等ならやるだろうなぁ。まぁ、気持ちは解らんでも無いが」

「そうねぇ……私達も、もし植物系のモンスターに農業や林業に対して何か良い効果があるなら、テイムして来て欲しい気もするしね」


 今回の実験で、その流れがどうなるかの基礎が出来そうだけどな。

 双葉が良い結果を出せば、この人達のモンスターによるアシスタントが欲しいと言う気持ちは、更に上がるだろう。

 まぁ、その双葉は能天気にと言うか、今から植物に魔法を使うからかなのか、実に楽しげにしているけど。


「さて、此処よ。植物をブロック別けにして実験しているから、回数はやってもらう事に為ると思うけど、結果は解りやすいと思うわ」

「なるほど、小麦ゾーンやら米ゾーンやらと別けられてますね。米だけの部分でも幾つか分かれてますけどあれは?」

「水や肥料の組み合わせなどで区別しているわよ」


 なるほど、これなら双葉の魔法で、どんな効果が得られるか解りやすいな。


「よし、双葉。休みながらで良いから、少しずつ植物たちに魔法を掛けていくぞ」

「んー!」


 実験農場を見て、目を輝かせている双葉に魔法を使って良いと声を掛ける。

 声を掛けられた双葉は、待ってました! と、勢い良く指定された場所に魔法を使って行くのだが……。直ぐに、先ほどの違和感を感じたのか、首を傾けながら悩みだした。


「双葉、悩むのは後で良いから、次々と指定された場所に魔法を使って行くんだ。そうすれば、答えが解る可能性があるからな」

「……ん!」


 双葉は少し悩んだ後、「解った!」と返事をして、再び魔法を植物に掛けて行きだした。

 ふむ、しかし此処でも同じ結果が起きたのか。双葉も頑張って居る事だし、俺もしっかりと魔力の流れを追ってみるとするか。


 じっと、双葉が不思議な儀式をした時に流れる魔力を視線で追う。

 そうすると、土まで双葉の魔力が流れているが、どうやら植物の方に流れる量が限りなく少ない。


「……なんだか、植物に流れる魔力の量少なくありません?」

「ふむ……ほうほう。確かに、双葉ちゃんから流れている量を考えれば、無いに等しいレベルだな」

「果樹園の方ではどうだったのかしら?」

「そっちは其処まで詳しく見てませんでしたから」

「それなら、次はあそこの木に使ってみて貰いましょうか」


 そんな感じで実験を進めて行く。

 そうして、色々と試した結果解ったのは、ダンジョンが出来る前の植物には魔力の通りが悪く、その後に地上で回収した植物や樹木に関しては魔力の通りが良い。

 これにより、双葉が違和感を感じていたと言う事が解った。

 そして、この魔力の通り方によって、植物に与える影響が変化する事も解明した。


「いやぁ……まさか、実のなる量が魔力に左右されているとはねぇ……道理で探索者が見つけてきた植物の方が、生産量が優れて居る訳だ」

「魔力の通り方とか今まで調べなかったんですか?」

「植物に魔法を使う人が居なかったからな。使うとしても、土を耕したり水をやったりと、それぐらいだったからな。まぁ、お陰で新しいステージに突入した気がするよ」


 なるほど、今まで環境を整える程度に使っていた程度だったのか。まぁ、それだけで生産量が上がっていたからな。

 それに、魔法の使い手も少ないし……植物に作用する魔法を使える人なんて……現状は居ないよな。派生系の魔法にも植物ってのは無かったし。

 もし、それでもと思ってやるとすれば、水魔法で植物の中の水を操作するぐらいか? まぁ、双葉が如何いうメカニズムで植物を操作しているのか解らないから、何とも言えないが……。


「まぁ、双葉のお手柄ってやつだろうな」

「そうね。双葉ちゃんのお陰で、新しい事を模索出来そうだわ。とは言え、植物を操る魔法なんて……無いわよね? だとすると、植物同士の配合かしら? それとも……」


 うんうんと研究者達が悩み出した。まぁ、此処で双葉を寄越せと言わないのは流石、婆様の弟子と言った所だろうか。

 きっと頭の片隅にはありそうだけどな。それでも、別の方法を探すのは弟子としてのプライドだろう。


「双葉楽しかったか?」

「ん!」


 満面の笑みで返事をする双葉。ふむ……まぁ、双葉次第だけど此処でお手伝いをさせるのも有りだろう。

 ただ、それを今はいわないで置こう。研究者達にへんな期待を持たせるのも悪いからな。


 しかし、植物系のモンスターか。仲魔に出来れば、色々と助かる存在になりそうだな。

 ……そう言えば、宝箱の中から種が出てたけど、あれはなんだろうな? もしかしたら、モンスターの種だったりしないだろうか。

 今は、婆様達に調査を頼んでるけど、もしモンスターの種なら植える場所とかも厳選しないとな。


 さてさて、今回は武器研究の手伝いの合間を使って双葉に村を案内してたが、その双葉によってイレギュラーが起きたけど、面白い結果に終ったな。双葉も満足そうだし。

 武器の開発に関しても、マナブレードについては残りの改良点が、省エネ化だけだから俺が手伝う事は無いし、銃については明日のテストで一区切りだな。

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