百六十四話
村に戻るとイオにのった双葉を見た門番が、ぎょっとした後、ニ匹の可愛さにやられたのか、微笑ましい顔を見せながら出迎えてくれた。
「何時もながらびっくり箱みたい感じだね」
「今回は俺も吃驚しましたよ。この娘は双葉で、植物型のモンスターですよ」
そんな感じで挨拶と紹介をした後は、イオが運んでいる荷物を協会へと持ち込みついでに、双葉を紹介しながら、報告書を提出しておく。
それと同時に神樹の森での会話についても報告しておく。
「なるほど、そんな話があったのね」
「入谷さん達も遠征について考える頃か? と、言ってたのでその内に話が来るかもしれないですね」
「人手が足らないですからねぇ……まぁ、街を一つ見つけてますから、そこの人達が協力的ならと思うけど」
やっぱり、其処に行き着くよな。まぁ、手紙だけ置いて来たから会話をする為の切っ掛けは作りはした。
後は協会の人達がどう行動をするかなんだよな。
「それで、双葉ちゃんはどんな感じかしら?」
「双葉に関しては……よく遊んでよく寝てるといった感じですかね。ほら、今もこんな感じで寝てますし」
抱えた双葉がスヤスヤと寝ている状況を見せてながら、品川さんに双葉を紹介しておく。
「赤ちゃんだからかしらね? 直ぐに疲れて寝ちゃうのかもね」
「イオといっしょに暴れてましたから」
楽しそうに暴れてたからな。
しかし、誕生したばっかりだからなと言うのは正しいだろうな。
ただ誕生したてだと言うのに、とんでもない魔法を使えるだけのスペックを持っている。そして、モンスター全般にその可能性はあるだろう。なにせ、人間と違い動物の世界だと、誕生してから直ぐに動けるようにならないと、生きていけないなんてことは良くある事だ。
子育てを長い時間掛けてやる。そんな事をすれば、捕食されかねないからな。
そして、モンスターの世界だと更に生存競争は更に高いだろう。であれば、産まれて直ぐ魔法を使う。それぐらいは出来て当たり前だと思うべきだ。
「高いスペックを持って産まれる代わりに、直ぐに睡眠をとるって事でしょうね」
確かに双葉は、ショートスリープを繰り返してるからな。特に何らかの魔法を使った後は、睡眠に入るタイミングが速い。
「村に居る子狼も同じような報告がされてるのよね。走り回っては寝るを繰り返してるのよね」
「子狼の成長具合ってどんな感じなんです?」
「早いわよ。サイズも結構大きくなってるしね。そろそろ、狩りのお供に連れて行くのも考えてるのよね」
それは成長が早いな。少し前に生まれたばかりの子狼を確保したはずなのに。やはりモンスターは直ぐ成長するって事だな。
しかし今回に限っては、それも朗報だろう。子狼の成長に双葉の成長が早いと言う事に繋がるからな。
兎に角、品川さんに報告する内容はこんな感じだろうな。
村に戻って来たばかりだし、少し滞在するので話をする事が出来れば、その時にでも協会に来たり、呼ばれたりとするだろうから、今回はこれぐらいで良いだろう。
「そんな訳で俺からは以上ですけど、何か有りますか?」
「特に無いわね。有るとしたら……ダンジョンの方は皆元気かしら? と言う事ぐらいかしら」
あー……まぁ、余り戻らないと言うか、戻れない人も居るからな。入谷さんを筆頭にだけど。イオが毎日配達する手紙のやり取りはしているみたいだけど、やはり顔を見れないとってのはあるだろうしな。
まぁ、そんな感じで少し世間話的にダンジョン前の拠点について、色々と話をしてから協会を後にした。
久々の家へと戻ると、タイミングが良かったのか皆が家に居た。
「ただいま」
「おかえりなさい! 怪我とかしなかった? 魔本とかあった?」
「魔本はあったけど、二人に渡せる分は無かったかな。次に期待だね」
「まぁしょうがないかな。簡単に手に入る物でも無さそうだしね。っと、兄さんお帰り」
妹達に帰宅の挨拶をしてから、そのまま双葉の紹介に入る。さて、驚くが良い。
「ま、魔本じゃないけど、可愛いのなら……」
そう言って、蔦の鞄から双葉を起こして顔を出させる。
「何そのこかわいい!!」
「兄さん、それ人形じゃないよね! 生きてるよ!?」
「名前は双葉って言ってね。植物型のモンスターの……赤ちゃん? みたいなものかな」
「ほう……めんこいモンスターじゃのう。危険性は無いのじゃな?」
「もし危険だったら連れて帰ってないよ」
「それもそうかの」
双葉を机の上に置いて皆に挨拶をさせると、「んー」と言いながら、ちょこんと頭を下げた後、直ぐに俺のほうに戻って来て、少し隠れようとしながら皆を覗うような行動を取っている。
そして、その行動が妙にツボったのか。妹二人は可愛いを連呼しながら、双葉を自分の元へと呼び寄せようとするものの、中々動かない。
だが、それもまた可愛いらしく。二人はニヤニヤしっぱなしだ。
まぁ、双葉の紹介が良い感じに出来たから良かった。一応モンスター娘だからな。イオで慣れているから大丈夫だとは思ってたけど……此処までとは。
「そうだ、可愛い写真もあるぞ」
そう言って、イオライダーと化している双葉の写真や、丸くなっているイオをソファーにする双葉の写真を見せて行く。
「……兄さん。データを寄越しなさい! 今すぐに!」
「お兄ちゃんずるい! 直ぐその写真をゆいに!!」
……二人共口調が可笑しくなっている。
まぁ、画像自体が破壊力満点だからな。……さっきから、母さんも無言の圧力を掛けてくるレベルだし。
「まぁ、そう言うとは思ってたけどさ、別に渡さないなんて言ってないよな?」
「可愛いから仕方ない!」
いやいや、ゆりさん。そんなキリっとしながら言わなくても。
そんなやり取りをしながら、双葉と妹達が打ち解けるように色々と間を取り持ちつつ、久々の家での生活を堪能。
数日もすれば、なにやら三名は一気に仲良くなったみたいで、ゆりとゆいは双葉の服を作ったり、双葉の魔法を見ていっしょに遊んだりと……珍しく、俺が戦闘訓練をみなくていい時間を過している。
まぁ、女の子同士だしこんな物かね。
双葉を妹達に任せて居る間に、研究所に向かいあれこれと研究の手伝いをして行く。
どうやら、銃やマナセイバーの正規品の目途が立ったので、それの試し撃ちなどをしている状態だ。
「……銃に関して、威力は試作品の方がいいですけど、反動とか精度は段違いで上がってますね」
「ふむふむ。それであれば多少腕力が無い人でも使えるかね?」
「探索者であれば……ですけどね。非戦闘員でしたら、両手で持っても体ごと後ろに飛ばされると思いますよ」
「そこら辺は、魔粉を使っている以上仕方ないだろうな」
何気なく戻ってきてる笹田さんと銃の開発陣の人達と、試作品の改良版をどうするかの話をして行く。
個人的にはコレで十分だとは思うが、笹田さん達は少し不満そうだ。
「ただ、威力がなぁ……白河君に試してもらっていた試作品であれば、ゴーレムを通常弾で削る事はできていたが……これだと出来るのか?」
「……感覚からすると、無理でしょうね」
確かにゴーレム相手には、外面を軽く傷つけるだけで終るだろうな。
しかし、これ以上威力を上げると、探索者の中で非力な部類の人には使えない。
そして、今回作っている物は、そこそこの威力で探索者なら誰しもが使える物だ。
「妥協点を何処にするかだな。俺としてはもう少し威力を上げたい」
「笹田さん……しかし、それでは誰でもの部分がカバー出来ません」
そんな感じで、うんうんと唸っている研究者達を放置して、今度はマナセイバーの実験を進めていく。
前回問題になったブレード時の切れ味だが、少しずつ改良されてきた物の、ただの打撃武器からの脱出が出来ていなかったのだが……さてさて、今回はどうかな?
魔力の刃を展開して、目標に向かって袈裟切りを試してみる。
そうすると、音も無くスルリと魔力の刃が試し斬り用の目標をすり抜けた。
「……すり抜けた?」
「あれ? 透過する能力なんて着けてないんだけどな」
不思議に思い、斬ったはずの物を叩いてみると、ずるりと斜めにずれて落ちる。
「……斬れてたけど、微妙なバランスで停止してたのか」
「斬れた事に気がつかなかった何かみたいですねぇ……」
手に伝わる感覚も無かったから、斬った感じが一切しなかった。
「となると……マナブレードは完成?」
「いえいえ、此処からはエネルギー問題が有りますから」
そういえば、消費する魔力量が使っていた試作品よりもかなり多い。
「魔力の刃で斬れるかどうかというテストですからね……此処からが省エネにする為に色々と思考しないとですよ」
「と言う事は、まだまだマナブレードも完成までは遠いって事か」
「そうなりますね。ま、完成した時を楽しみにしてください! 斬るのも突くのも打撃すらも使い分けれる上に……偶然出来ていたあの、魔法爆発と言う必殺技すらも出来る完璧な仕上がりにしてみせますから!」
確かにそれが出来れば……かなり使い勝手が良い武器になる。
まぁ、ここの開発陣なら間違いなくやってくれる。そんな信頼感はあるな。
「武器開発関連はコレで良いと思うけど、魔本やら持って来た物の調査やらってどうなってる?」
「詳しい事は管轄外ですからねぇ……ただ、最近は勢いが良いのか、色々と研究のペースが上がってるみたいですよ」
「なるほど、まぁ、ペースが上がってるのは有りがたい話だけどな」
「なにやら、新人さんも増えたみたいで。その人が入ってきたことで、色々と周囲も火が着いたみたいですよ」
新人さんを入れたのか。婆様にしては珍しい……いや、今の状況だ。新しい人でも入れないと手が回らないのか。
まぁ、人に関してはしっかりと調べてるだろうから問題ないとは思うけどな。
さてさて、一体どんな人が入ったのやら。それに、ハイペースで進んでいる研究も少し気になる。
後で少し婆様に聞いてみるのも良さそうだな。
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