百六十話
蔦の鞄に入れた植物少女を連れてダンジョン前の協会へと入って行く。
変に注目を集めたくないので、顔を出したりしないようには言っているが、私は興味津々です! と、そんな感じで偶に顔を出そうとしているのか、鞄から頭部の葉っぱがぴょこっと出てくる時がある。
その度、手で蓋をして飛び出ないようにするが、不自然に動く蔦の鞄は隠しきれる物じゃないので、周囲の人達も「何が入ってるんだ?」などと、呟いたり他の人と話をしている。
だが、此処で説明するのも面倒だ。どうせなら協会からの報告という事で、掲示板にでも記載してもらった方がいい。聞かれるたびに説明するパターンになりかねないからな。
そう言う訳で、声を掛けられそうな雰囲気の中を早足で進んで行き、受付にて入谷さんたちに話があるから時間が欲しい事を伝える。
「少々お待ちください。今は研究者の方と色々お話をしているみたいで」
「あー……その研究者の方が居る状態の方が良いので、時間が取れるか聞いてもらっても良いですかね?」
此処に常駐をしている研究者と言えば笹田さんだろう。銃関連で直接やり取りをする為に、此処に残るよう婆様から言われて来ていた研究者だ。
浪漫と実用性を求めるタイプではあるが、その情念は基本的に武器に向けられている。それならば、この植物少女を見たところで、マッドな思考にはならない。
研究者という点から、好奇心と言うのは持ち合わせているだろうが、これまで話をして来た結果そういう人だと判断出来たからな。
であれば、この植物少女やダンジョンについて、少しでも思考が回る人が話し合いに居た方が言いだろう。という事で、笹田さんには是非とも話に参加して欲しい。
それに……問題は別にもある。ゴーレムに通常弾を撃った時の現象だ。マッドな話も混ざってくる可能性があるので、笹田さんタイプの人からの意見はしっかりと聞いてみたい。
婆様の弟子だから、暴走はする。ただ、そういった方面の倫理的なモノはしっかりしているタイプだ。
だから、こういった話についての意見は聞いていきたい。
そんな思いが通じたのか、受付さんはすぐさま奥の会議室へと向かい、俺が話をしたい事があると伝え、その返答を受けて戻って来た。
「どうやら話は終り、もう帰ろうとしてたタイミングだったみたいで、タイミングが良かったそうですよ」
「そうですか。ありがとうございます」
なるほど、笹田さんは自分の部屋へと帰る直前だったのか。少しでも遅かったら笹田さんはいないタイミングだった訳だ。ブレーンが一人減るのは辛いから、本当ぎりぎりだったな。
と、そんな事を思いながら、会議室の方へと入っていく。
「やぁ白河君おつかれ。また爆弾でも入手したのかい?」
「こんにちは。爆弾とは心外ですね。っと、言いたいところですけど、ある意味爆弾ですね」
「やっぱりか……で、どんな爆弾話だい?」
とりあえず、どの爆弾から話をしていくか……まぁ、時系列順で話ていくとするか。
「えっと……まず、通常弾の使用時に少し問題がおきまして……その内容がですね」
通常弾でゴーレムを撃った時の話を切り出して行く。
始めのうちは、守口さんと笹田さんが興奮気味に聞いていたのだが、ゴーレムが異常を起こした理由の予想を聞いた辺りで、恐ろしいほど怖く、そして真剣な表情で話を聞いていた。
「なるほど。コアの部分に銃弾が半分埋まったのが原因かも知れないと?」
「数回同じ現象が起きるかを見るべきかとは思いますが……まず起きた現象について聞いてみるべきかと思いまして」
「貫通力の高い矢や鉄串でも同じ現象は置きかねない。となると、早急に相談してもらって正解かもしれませんね。たしか、街側のメンバーですと、そろそろゴーレムが居る階層ですよね?」
なるほど、一気にダンジョンの攻略を進めたのか。
現状だと彼等に銃は無い。今はまだ量産が試作品の段階で、数を揃えれていないからな。
だが、魔法を併用した弓矢や、俺が使っていた鉄串の投擲などは出来る。そして、ソレ等の武器にも魔粉は使用されているので、同じ結果を起こそうと思えば起こせるはずだ。……魔粉が本当に原因ならばだが。
そうなると、その情報を知っているかどうかで対策が変わる。正直あの気持ち悪いゴーレムハンドの群れは、討伐するのが色々な意味で大変になるので、作り上げるべきでは無いだろう。
それに、必ずしも同じ形態になるとも限らない。それこそ、頭がいっぱい等と言った可能性もある。
「状況が再現できるか……試した方がいいでしょう。ただ……問題は別の事ですかね」
「研究者として一言言わせて貰うなら、間違いなく阿呆は出てくると思う。もし、俺の専攻が武器開発じゃなく、モンスター研究だったり生態学などであったのなら……間違いなく手を出すぞ」
「あー……マッド思考ってやつか。そういえば、他の部隊の奴にもいたなそう言うマッド思考なタイプ」
ま、三人とも当然その可能性に行き着くよな。
とは言え、マッドを完全に否定できる訳じゃない。中世から現代までの医療の進歩を考えれば、マッドな奴等は山のように居た。
薬だってそうだ。どれだけ動物実験を重ねて安全性を高めようとも、何時か何処かで人間による試験が必要。要は、どのタイミングで誰が最初にその試作品を試すか……と言う話なだけ。
だからこそ、モンスター相手ならばどれだけ試しても良いじゃないか! そんな理論で研究を開始する。そんな輩が居ても可笑しくない話だが、此処に居るメンバーは更にその先を考えている訳だ。
「別に、研究をするのは問題無いんだがな。その結果、ジェネラルがキングになる。みたいな結果になる可能性が無いと言えないからな」
「実際、ジェネラルが瘴気を利用してキングになりましたからね」
「その話を聞いた時は吃驚したが……ふむ、ゴーレムの話を聞いた後だと、魔石でも出来そうな気はするな」
「笹田君、止めてくれよ? 討伐するのは大変だからな!」
「やりませんよ面倒臭い。俺は人間が使う武器を開発したいのであって、化物を作りたいわけじゃないですから」
化物みたいな武器を作っているけど……まぁ、そこは別に良いか。
しかし、研究者視点が会話に入ると、会話が更に加速するな。個人的には魔石をモンスターに使えば、キメラ的な物が作れる。そんな認識だったけど、まさか上位へ変化する可能性を見出すとは。
しかし、そう考えると怖いな。質のいい魔石を手に入れるために、質の悪い魔石でモンスターを強化してから、そのモンスターを討伐する。
確かに効率は良いだろう。しかし、手に余るモンスターが誕生する可能性がある。何せ……上位版モンスターのキメラみたいなのが出たらどうするんだ? と言う話だ。
それこそ、オークキングのゴーレムハンドが大量……みたいな奴とか。
「徹底して秘匿しても、その内漏れるでしょうし、それこそ誰かがやりかねない。対策だけは考えた方が良さそうですね」
「しかしどうするんだ? 魔粉武器を廃止するか? 今の段階だと厳しいぞ」
「せめて魔力を含んだ鉱石が大量に入手できれば……切り替えても良いでしょう。しかし現状だと全く足らない状況です」
「だが、黒い鉄もミスリルも……量を手に入れるのが難しいだろう? 次に採掘出来るまでのクールタイムがあるからな」
「……他のダンジョンを捜しますか?」
まぁ、他のダンジョンと言う案は出るか。ただな……村から此処までの間と周辺にはダンジョンは他に無い。
現状確認出来ているダンジョンはと言うと、此処から先に進んだ二つ目の街。其処から更に進むと二箇所有るのだが……正直な話遠すぎる。探索者の足が幾ら速くなっていて、持久力が増えてるとは言え、村から数日掛かる場所だ。
途中にある町を中継地点にするとしても、其処と交流が持てるかどうかで変わるだろう。まぁ、その街には以前書置きを残した事が合ったが、その後なんのアクションも取っていない。
滅んで無いと良いのだけど、生き残っていたとしても手を取り合えるかも別だからな。こう言った事はかなり慎重にという事になる。
「このダンジョンを進んだ先に、街があるのですけどね。また、交流をしようにもどんな相手か解りませんし」
「あー……あの街か。確か配置されていた部隊は……まともな奴等だったはずだぞ。俺達とも良く交流をしていたしな」
「たしか、その街の先はダンジョンが二つほどありましたね。あの街の協会支部は二つのダンジョンを抱えて、羽振りが良かったのを覚えてますよ」
「となると……元・協会員と元・自衛隊の人間を派遣するか? そうすれば、どんなパターンでもある程度は話が出来るだろう?」
「それなら…………」
入谷さんと守口さんが、新しく他の街と交流する為にあれこれと話をして行く。
此処ら辺は俺が口を出す事じゃないので、丸投げするとしてだ……まだ、俺の話終ってないんだよな。
「えっと、その交流をする為の話は、お二人と村と街の長などが集まって話をする事だと思いますし、まだ爆弾残ってますんで、続きいいですか?」
「おっと……そうだったな。つい鉱石の採掘量を増やしたくて、話が飛んでしまったな」
「ま、俺としては鉱石採掘量が増えるなら、武器の新規開発が出来るから良いが。まだ、爆弾があるのか?」
「まだまだ続きますよ? むしろ笹田さんにはどんどん意見を言って欲しい話ですから」
「ふむ……研究者としての意見か。期待に応える事が出来ると良いけどな」
兎に角、銃とゴーレムにおける問題については、任せてしまっても良いだろう。後の調査は、採掘の合間に彼等がやってくれるはずだ。
さてさて、後の爆弾はと言うと、二十一層に出てきたフィールドと、そこのモンスターに植物少女なのだが、一旦此処で軽い話を挟んでいくか? 手に入れたのは、宝箱を開けてから何だけど、宝石の話とかは研究者としての意見を聞いてみたい所ではある。
「えっと、爆弾話と一旦軽い話をするのと有りますけど、どうしましょうか?」
「よし、一旦頭を休めたい。お茶でも飲みながら軽い話をしよう!」
「そうですね。ゴーレムの件は余りにも問題が大き過ぎましたから。一度リセットの意味も兼ねて、落ち着く話をしましょうか」
やっぱり皆、思考疲れを起こしていたか。一度あの状況を見て、思考した時ほどではないけど、話をして行くだけでも疲れたからな。それだけ面倒な内容だった訳だ。
そして誰も口にしなかったけど、〝もし、人間に魔石を埋めたらどうなるのか?〟と言う可能性にも至っているはずだ。何せ皆の顔が険しかったからな。
まぁ、口にしたくも無い内容だと言うのは解るけど……顔で全てを語っていたし、全員が顔を見合って「あっ……こいつ気がついたな」と、嫌な意思疎通が出来ていた。
結果、誰も口にしかなった図になった訳だけど。危険度の高さを共有出来たのは大きいだろう。
ならば宝石の話をして行くとしようか。とは言え、これはさくっと終る話でもある。
「まぁ、簡単な話なんですけどね。宝箱から宝石が出たんですよ。ただこれ、何か魔法的な物に使えたりしないかな? と思いまして。研究者としてどう思いますか? って話です」
「なるほど。古来より宝石と言うのは神秘的な何かがある。そんな話がありますからね。笹田さんどう思いますか?」
「んー……宝箱から出たとなると、魔力を含んでいてなんらかの効果がある。そんな可能性も否定できないから調査するべきだろうな」
「と言う事は……今まで地上にあった宝石では何も無かったのか?」
「えぇ。研究室で既に試した結果。宝石が何らかの作用を起こす。そんな事は否定されている。だが、今回はダンジョン産の宝石だろう? であれば、地上産とダンジョン産の鉱石と同じ、異なる結果が有るかも知れないな」
「因みにだ。自衛隊の報告資料からは、宝箱から宝石が出たなどと言う話は聞いた事が無かった」
「となると魔石やミスリルと違って、完全に新規の調査になりますか」
これはまた、可能性の塊。そんなパターンな気がして来るな。これは一度、婆様の元へと送り詳しく調査をして貰うしよう。
さてさて、宝石に関してはこんな物だろうか。次の爆弾は一気に爆破させるか。何せ連動式だからな。
特殊フィールドと其処に居たモンスターに、其処から生まれた友好的な植物少女だ。
はぁ、話をするのが面倒だけど話をして行かないと……そういえば、植物少女は静かだな。どうしたんだろうか? って、余程暇だったのか、蔦の鞄の中ですやすや寝てるよ。
……まぁ、寝てるならそのまま待機していてもらうか。この娘の話になったら、起きて貰わないといけないしな。
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