百五十九話
土魔法を使い地面を掘り返し、生えて来た葉っぱの正体を確かめてみると、葉っぱの下の部分には何やら小さい女の子。
「なんだこれ……意味が解らんぞ」
大きさ的には人形ぐらいで、全体的に緑色をした少女。
状況から予想したら、マンドレイクやアルラウネと言ったモンスターだろうか。ただ、何やら不思議な事に、俺をじっと見つめてくる。まるで、いつぞやかのテレビのコマーシャルにあった、犬が円らな瞳で見つめてくる。あんな感じの目でだ。
「株分け? 生まれたて? どちらにしても、親と言える存在を討伐したのは俺なんだけど」
一切の敵意が無く、ただただこっちを見つめる植物製人型モンスター。
しかし、敵意が無いという時点で謎が深まる。なぜならダンジョンはモンスターの意識など関係無く、全てのモンスターは敵対してくるからだ。
唯一違うのはコボルトのズーフと言う、試練の試験監と言える存在だが、そんな存在が同じダンジョンにおいて、他に居ると思えない。しかも、この植物少女は恐らく誕生したてだ。そんな風に試練を与える立場……と言った役割など無いだろう。
「しかし、こうも無抵抗で見つめられると……倒すとか出来ないよな」
さて、どうした物か……此処にズーフでも来てくれれば色々聞けるんだけど。まぁ、そんな事を期待しても意味が無いだろう。
兎に角、今はこの植物少女は置いておくとして、他に変化が無いかを調べて……って。
「……なんで両手を広げて見てくるんですかね?」
ニコニコとしながら、両手を広げてアピールして来る植物。
ナンダコレハ? と、状況を把握する為に思考しようにも、色々とフリーズする。
そうしてフリーズしていると、その植物少女は俺が何も行動しないからか、痺れを切らし不慣れな感じで歩き出し、俺の足元までたどり着くと、ヒシッ! と足にくっ付いて来た。
「えっと……どんな状況?」
攻撃を喰らっている訳じゃない。いや、ある意味もう攻撃とも言えるのだが、足にしがみつき、顔を上げて俺を見つめてくる。これが攻撃じゃない訳がない。
このままスルーをしたり振り払う等の行動が出来ない。そんな攻撃だ。
「何のつもりだ? 君は敵だろう」
そう問いかけてみるが、首を縦にも横にも振る事も無く、返事をする事も無い。ただただしがみついて、見つめてくるだけだ。
埒が明かない。とりあえず色々と考えてみよう。
動物じゃないのに刷り込みでも起きたのか? いや、確かにモンスターだからな。植物とは言え、動物みたいな事が起きても可笑しくはない。だが、先ほども考えたように此処はダンジョンだ。そんな事が起こりえるのか?
とは言え、この状況は明らかに懐かれている。いや、罠の可能性もあるけど、それにしたって此処まで無抵抗でくっついて来るか? モンスター版食虫植物? それにしては小さすぎるだろ。
確かに可愛いけど、片手に乗せれるサイズだ。しかもどこかに誘導している訳でも無い。となると、食虫植物的な感じで、何かが出来るとは思えないが……一応モンスター相手だからな、警戒しておかないと。
「とりあえず……このままだと歩きにくいし、何とかしないとな」
じっと見つめてくる植物少女を掴んでみる。
そうすると、じたばたと手足を動かしながら「私、その持ち方は不満です!」と、言わんばかりの表情で、俺を見つめてくる。
しかし、他にどうしようもないからな。生きてる見たいだからバックパックに入る訳にも行かない。ポケットはと言うと、其処まで大きい物が入る作りになっていない。
「まぁ、不満と言われてもどうしようもないからな」
そう声を掛けると、「ヤダ!」と言った感じで、うにょうにょと蔦を作り出し、簡易的なバックみたいな物を作り出すと、俺に対して蔦をグルリと肩掛け状態に作り上げ、出来た鞄の中に植物少女が入り込んだ。
「……一瞬の内にショルダーバックみたいなの作りやがった。しかも、どやぁっと満足そうな顔してやがるな」
果たしてこいつはモンスターなのか? いや、ダンジョンで出現した上に、あのラフレシアもどきと戦闘した場所に出現したのだから、モンスターなんだろうけど……それにしては、謎の行動を取っている。
しかし、こんな状態で探索を継続し、モンスターと戦うのは厳しいだろうな。
「となると、一旦戻るか? まぁ、戦闘跡地を調べる必要はあるか」
まず、何かドロップ品が無いか調べる必要がある。出来れば宝箱でもあれば嬉しいけど。
「ん! ん!!」
そう考えてると、植物少女が何かを指差しながら、初めて声っぽい音を出す。
「何かそっちにあるのか?」
指差す方向を見ながら、そう聞いてみると満足そうに頷いている。……罠か? とは言え、この蔦の鞄に入ってる状態で罠を受ければ、こいつも一緒に罠に引っ掛かるんじゃないだろうか。
とりあえず、指を指す方向をしっかりと見てみる。
周囲は……うん、俺の攻撃でクレーター状態だ。そして、指を刺した場所はと言うと、この植物少女が出現した場所から少しだけずれた場所になる。
となると位置的には、あのラフレシアもどきが居た場所であるのは間違いない。
「だとすると、ラフレシアもどきが隠れているか、第二、第三のラフレシアもどきが埋まっているのか……それとも、討伐した事でドロップ品が落ちている。そんなところか」
そうであるなら、念のために十フィート棒とスコップを用意し、盾を構えながらある程度の距離まで接近をする。
「……見た目は何もないか。とりあえず色々と突いてみるか」
十フィート棒を使い、地面をランダムに突いて行く。だが、何の反応も無い。
これは考えすぎか? などと思っていると、蔦の鞄にいる植物少女が、ウーーーーーン! と、力を込める行動を取った後、両手を前に出し、えい! と言った感じで力を放出。
「おおう!? うにょうにょと蔦が動いてる」
俺の足元より少し先の地面から蔦が幾つか出現し、俺が突いていた地面を蔦で掘り返して行く。そして、地面の中から蔦が宝箱を回収したではないか。
「宝箱!? これってもしかしてドロップ品か? それとも元々此処に埋まってたのか?」
疑問を口にしながら植物少女を見ると、フフン! と自慢げにしているので、人差し指の腹を使い頭を軽くなでてみると、褒めてもらって満足です! と言わんばかりに、手をパタパタとしだした。
結果……宝箱を持ち上げていた蔦の制御が甘くなり、宝箱を落してしまった。まぁ、宝箱を発見できたので良いけど、植物少女は少しだけションボリとしてしまったのはご愛嬌と言った所だろうか。
「……もしかするとあのラフレシアもどきは、この宝箱を守ってたパターンかもしれないか」
ふと、そんな可能性が思いつく。
何せ特殊な場所だ。そう言う場所には、宝箱がありそれを守る為のガーディアンが居る。そんなパターンはよくある話だろう。
となると……この娘は次のガーディアン? それをテイムしてしまった感じか? いやいや、まさかね。
「とりあえず……宝箱を確認してみたいけど、ここで開けるのは不味いか」
この場所は魔力探索が使えない。となると、中になにやらトラップが有っても調べるのは難しい。
しかし、この宝箱は大きいから持ち運ぶのは大変だ。むしろ、この蔦で持ち上げて引っ張ってきた事に驚きを隠せない。
「……とりあえず開けるとしてもだ。距離を置いて棒で突いたりしてみるか」
「ん?」
「あぁ、何で開けないのか疑問なのか。あれだ、宝箱にトラップが仕込まれてる可能性を考えて、どうやって開けるか考えてるんだよ」
って、なんかナチュラルに会話が出来てしまったな。まぁ、今のは何と無く言いたい事が解ったからな。これはイオとのやり取りに似た所があったから出来たんだろう。
そんな事をふと考えていると、植物少女が再び蔦を操作しだした。
「えっと、何をしているんだ?」
問うと同時に、蔦が宝箱に絡みつき〝蔦球〟と言って良い状況になると、その蔦球の中からガチャと言う音が聞こえた。
「……もしかして宝箱を開けた? 確かに、この状況にして開ければ、矢が中から飛び出そうが、毒ガスが出ようが完全に封鎖しているから、安全ではある……のか」
毒ガスや可燃性のガスだと、蔦球の中に充満しているだろうが、そのガスを逃がす部分を作ってやれば良い。
要は自分がダメージを受けなければ良いのだから、開けてしまう工程さえ何とかすれば、後はどうにでも処理は出来る。
「やばい……この植物少女は天才か?」
驚愕といった感じで少女をみると、褒めろ! と言った感じで両手を振ってくる。まぁ、先ほどと同じように頭をなでると、満足されたようなので、この事は後回しにして今は宝箱を確認するとしよう。
「えっと、中身はなんじゃらほいっと」
宝箱を見てみると、ポーションらしきもの、本、種、アクセサリー数点に宝石とまさに大量と言った状態だ。
「とは言えだ……宝石は現状使い物にならないよな」
数年前ならば、それこそお宝として価値は大きかった。だが、今は宝石なんて既にガラクタに近い存在だ。
ただの輝く石と言っても過言じゃない。しかし、こんな宝箱に入ってたとなると、何らかの効果を期待してしまうのも仕方の無い話だろう。
「それに、宝石と魔法って割と関連があったりする話もあるからな。案外面白い成果があるかも」
まぁ、希望的観測ではあるけどな。
しかし、本は恐らく魔本だろうし、アクセサリーは何かステータス的な物が上がる。そんな代物だろうけど、この種は一体なんだろう。
食べるとステータスがアップする……のは実か。種だと植える物か? ポーションに必要な物だったりとか、何か特殊な植物でも生えたりするのだろうか。
「まぁ、楽しみが多いって事だな。しかし……地上に戻るとしてもどう説明しようか」
この、特殊なフィールドと言い、植物な少女と言い……さらには宝箱の中身だ。先ずは、このフィールドが次に入った時も存在するのか、他の人の場合だとどうなるのか。そんな調査も必要だろう。
「兎に角だ……地上に戻るけど、大丈夫か?」
植物少女はダンジョンで生まれた存在だからな。一応、ダンジョンから飛び出したモンスター達も居るので、大丈夫だとは思うが、念のために聞いてみる。
そうすると、声を掛けられた事が嬉しかったのか、両手を前でグッとファイティングポーズみたいな構えを取り、満面の笑みで大きく縦に頷いた。
「大丈夫って事か。しかし……こいつは一体何者だろうな」
ま、敵意が無いから大丈夫だとは思うけど。これは誰かに話を聞いた方がいいだろう。
ズーフは……会う事ができない。イオだと……意思疎通は取れるが会話は出来ない。となると……神樹の森か。
不可侵の契約はしているけど、中に入らず声を掛ければ……反応してくれるかもしれない。
それに、こいつは植物型のモンスター? だからな。聞くとすれば、あの小さい奴等がベストだろうな。
まぁ、これだけ敵意が無くて協力的な行動を取る奴だ。たとえ、あのラフレシアもどきの株分けだとしても、問題ないとは思うけどな。
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