百五十八話
撃たれる、撃ち返す、防ぐ、避ける、地面を耕す……結構な時間の間、この状態を繰り返した。
相手がどうやって、色々な方向からの攻撃を出来るようにしているのか謎だが、地面をシェイクした後、時間が経つと射撃ポイントが復活している時がある。
「あの位置も根こそぎ処理をしたはずだけど」
呟きつつも考えてみる。
文字通り〝根こそぎ〟処理をしたはずだ。地面をシェイクして、土・草・花・木の根と思われる物を全て混ぜ返した。
だが、時間が経つとそちらの方向から種が飛んでくる。
しかし、その方向に種を植え付けた……なんて行動は目にしていない。モンスターが移動した姿も見ていない状態だ。
「……もしかして、地面の中を移動している? ただ、モンスターが移動しているのなら、なんらかの痕跡とかが有るはずだけど」
それは、音だったり土が動いたり。モグラ的な物だったりネズミ的な物が地中を動いてるのであれば、何か必ず発見できるはずだが……それも無い。
となると、地中をそもそも移動していないのか、地中を移動している何かがあるのならば、限りなく小さいかだろう。
そして、地中の線以外で考えるならば、空中か目に写らない何かの可能性。
空中だとすれば、最初の内だと木で遮られていた場所が多かった。そして今は……結構シェイクをした時や、銃弾と種の打ち合いでボロボロになっているので、周囲の状況はしっかりと空が見渡せる状態になっている。
そんな状態で空からアクションがあれば、必ず目視できるはずだから、空の可能性はほぼ無いだろう。
透明化の可能性はどうだろうか? 神樹の森での戦闘は、透明化した相手と戦ったと言っても良い。まぁ、後々話し合いになった訳だけど。
状況としてはあの時と同じ感じではあるのだけど、今回とあの時の違いを上げると、神樹の森の時は多方向に気配が有ったという事だ。
そして今回は……その気配が一切無い。気配が全く感じないから、突然撃たれている状況と言う訳だ。
もし、ポンと弾ける音とその後の風切り音が無ければ、一切の反応も出来ず撃たれていたと思うとゾッとする話だ。まぁ、実際はその二つのお陰で避けたり防いだりと出来ている。
「状況を整理するとだ……敵が居ないって事なんだよな」
正直どんどん魔力も使わされている。魔力切れを起こしてしまえば、相手の攻撃範囲を減らす地面のシェイクが出来なくなって、一方的に射撃を喰らうと言う状況に陥ってしまう。
「となると、一気に進むか撤退するかだろうな」
取れる手段はこの二つだろう。このまま此処で相手と持久戦をしても勝てる気は全くしない。
さて、どちらを選ぶかだ。まず、撤退をする。今ならば、安全に撤退をする事は出来る筈だ。ただその場合、次この場所に来た時、この木々がある場所は残っているのか? と言う疑問。
ダンジョンが用意した。特定条件での発生だとすると、次は無いかも知れない。こう、ランダム宝箱のフィールド版みたいなパターンだったりとか。そういった、不確定要素が無い訳じゃないだろう。
撤退した場合のデメリットは、この〝もし〟と言うやつだろうな。
それなら、進むを選んだ場合はどうだろうか?
まず不安になるのは残りの魔力量だ。此処に来て結構な時間戦闘をし、カウンターで地面をシェイクしたり、散弾魔法を撃ち込んだりと、結構な回数魔法を使っている。
なので、進んだとして……もしこの先にやばい状況下に陥った後、撤退をする時に魔力量が更に不安となり、安全に撤退とは言えなくなる。
銃弾自体はまだ残っているので、大丈夫ではあるけど……攻撃範囲を絞れるシェイクが使えないのは痛いだろうな。
進むのを選んだ場合のデメリットはこんな感じか。
ただ、一つ言えるとしたら……この木々のルートは間違いなく正規ルートじゃないだろう。
もしこのルートが正規だと言うのであれば、二十層との難易度が違いすぎる。一気に上がりすぎて、探索者を全滅させに来ているとしか言いようが無い。
そういったダンジョンは基本的に上級ダンジョンのはずだ。ここのダンジョンぐらいならば、しっかりと段階を踏んで難易度が上がる。そう言う風に聞いているからな。
「だからこそ、この場所が特殊フィールドだと判断出来るんだけどな」
そして、可能性として次には存在しない場所になっている。そんな予想も立てれる訳だ。
「なら……進むしかないよな!」
なので、少し危険ではあるけど冒険する事にする。まぁ、この程度なら、オークキングに比べたら楽な方だし、今の内に色々と調べておいた方が良い。この先に、こんな感じで特殊フィールドが有ったりするだろうから、慣れておく必要がある。
とは言え、もしやばすぎると思った時に撤退の判断をする時に、遅れない様にはしないとな。
「よし。まずは一気に中心部に進む為にも大技一発行きますか!」
魔石を一つ取り出して、地面をシェイクする魔法を強化。
自分を中心にして、広範囲の地面を一気に耕していく。これで三百六十度で、ある程度の距離内での種射撃は無くなる筈。
その次に、脚力を強化して一気に中心部に向かいダッシュ。地面を揺らしながらだから、足場が揺れて大変ではあるけど、そうしないと移動する度にシェイクの魔法を撃つという、効率の悪い方法を取らないといけない。
「だったら、揺らしっぱなしで走った方が速いからな!」
速度的にも、魔力の消費量的にも、魔石の数的にも間違いなく、使いながら走った方が良い。
まぁ、俺も揺らされる訳だから、気をつけないと躓いたり気持ち悪くなりそうだけど……そこら辺は、身体能力の強化でカバーしておく。
進むにつれ、飛んでくる種の数も増えるが、それと同時に地面の揺れる範囲も前へ前へと移動するので、相手の攻撃地点も次々と減って行く。
結果、最初は大量に飛んで来るが次弾は無い。そんな状態だ。そして、最初に飛んでくる弾は、盾で防ぎつつ、回避していく。
まぁ、立ち止まる気は無いから、前方にのみ気をつければ良い。そして前方は基本盾でガードだ。
「だから、盾で防げない分をステップで回避すれば楽勝って事だな!」
斜め左前! 斜め右前! むしろ飛んでくる種に向かってシールドチャージ! と言った感じで、更にスピードを上げる。
そうして、ひたすら前進をすると少し開けた場所に出た。出来れば魔石の効果が残っている間に着きたかったが、少し前に砕けてしまった。まぁ、それに関しては仕方ないけど、周辺を見れば嫌な予感しかしない。
「……地面には一面の花畑だけど、中心気持ち悪いな」
中央に一つ、馬鹿でかいラフレシアの様な花が一輪。そして、その周囲は触手のようにうねうねと蔦が動いている。
「中央の奴はでかいし、色は毒々しいし、うねうねしてるし、周囲はカウンターショットの時に散ってた花だよな」
そして、そのイメージ通りと言うべきなのか、地面の小さい花達も一斉に俺の方へと向いて来た。
「……ですよね! これ、絶対一気に射撃が来る奴だ!」
途中で魔石が砕けて、地面をシェイクする魔法が止ったとは言え、進入した場所には花が無い。だが、中央のラフレシアもどきの周辺は大量の花達だ。
そして、既に此方に向いてスタンバイをしているのであれば、地面をシェイクするのは間に合わないだろう。
「なら、まずは……これだ!!」
ポンッ! では無く、ドンッ! と、音が沢山重なり激しい音を響かせながら、大量の種が飛んでくる。
とは言え、こうなるのは予想済み。対策としては……植物には火だ。という事で、火の壁を魔法で発生させて、飛んできた種を全て焼却処分にしておく。
「ふぅ……ぎりぎり間に合った。まぁ、何発か火壁を越えて燃えながら飛んできたけど、盾のお陰で助かったな」
高熱により種が脆くなっていたのだろうか、盾で防いだ種は簡単にボロボロと崩れて落ちた。やっぱり、植物には火って事だな。
「とは言え、火壁も長い事もつ訳じゃ無いだろうし、反撃しておかないとな!」
同じ飛んで行く弾でも、こっちは鉛とモンスター素材で出来た弾だ。火で此処まで脆くなるなんて事は無い。
まずは、如何いう行動に出るかと言うのもあるので、一発だけ火壁越しに、ラフレシアもどきを狙い撃つ。
打ち出された弾が、ラフレシアの体に向かって飛んで行くが、途中で奴の周りでうねうねとしていた蔦を鞭のようにしながら、弾に向かって蔦を振るう。
「ちっ……植物のはずだろうに。なんだあの蔦は」
つい愚痴ってしまう。何せ、振るわれた蔦は異常な硬さがあったのか、蔦は弾により途中で千切れ落ち、弾丸はと言うと、その蔦に砕かれてしまった。結果は相打ちだ。
と言う事は、通常弾ではあのラフレシアと戦うのは厳しいと言う事だろう。周囲にある蔦を見ても解るが、うにょうにょと動いている数はかなり多い。それに、蔦が再生しないとは限らない。
だから、通常弾の連射では分が悪いと言える。
「黒弾と魔法か……いや、他にもあるか」
相手はラフレシアっぽい感じで口がある植物だ。それなら、あの口の中を狙うのがセオリーだろう。
だが、普通に狙っただけだと、簡単に防がれてしまう……となるとどうするか。
「まずは……牽制射撃かな」
分が悪いとは言え、蔦と相打ちにできるのだから牽制にはなる筈だ。という事で、通常弾を連射しながらラフレシアもどきに隙が出来るのを待つ。と言うより、作る為に牽制射撃をして行く。
一発、二発……と、次々と通常弾を撃ち込んで行く。弾が切れたら即行でマガジンをリロードし、射撃を再開。
相手もブンブンと蔦を鞭のように振るい、相打ちしても気にもせず、次々と弾丸を撃ち砕いていく。
ただ、この選択が正しかったのか、周囲の花から種による射撃が無くなっている。
これは、火壁により意味が無いと判断して種の射撃を止めたのか、単純に銃弾と蔦の鞭による応戦で余裕が無いのか。
まぁ、どちらにしても、種の射撃が無いのは俺として楽になるからありがたい話だ。
そして、これの理由が後者ならば……明らかにチャンスでもある。
「なら、少し試すか?」
魔石を手にして……上空に投擲! その後、通常弾を撃ちきった後に、黒弾のマガジンをセット! そこから、相手に向かって乱射しつつ、風魔法を使って魔石の軌道を操作。
「少し脳の処理が辛い……けどな!」
撃ち込んだ黒弾が相手の蔦の鞭を粉砕しながら、ラフレシアもどきの胴体を襲って行く。
胴体を襲った銃弾が、次々とその体を貫いて行くが、まるで通用してないかのように、蔦の鞭を振るいながら迎撃行動を取ってくる。
「って事は、アイツは痛覚とかが無いって事か? まぁ……コレで終わればどうでも良いんだけどな!!」
臨界状態の魔石が、風魔法の誘導でラフレシアもどきの口の中へと、空の上から猛スピードで落ちて行き……口の中に入って、少し時間が経った後、一気に大爆発! その爆発は、火壁も周辺の花も一気に吹き飛ばし、辺り一面何も無い環境を作り出した。
「さて……どうなったかな?」
土煙が収まってから、爆発の中心部を見ると、ちょっとしたサイズのクレーターが出来上がっていた。
「これなら……あのラフレシアもどきも一緒に吹き飛んだか?」
全てを吹き飛ばしたかのように見えるが、あいつは地中を利用しだろうけど、様々なポイントに一方的に攻撃が出来るように仕掛けていた奴だ。なんらかの保険を用意していても可笑しくは無い。
なにか……明確な攻略完了を判断出来るものがあれば良いのだけど……現状なんの反応も無い。
「地中に潜んでる可能性もあるし……植物だからな。それこそ、株分けとかあるかもしれないし」
そんな風に考えていたら、ごそごそと土が動き……地中からひょこっと葉っぱが出てきた。
「……葉っぱ? いや、あれ花だったよな? 何が起きたんだ」
とりあえず、距離を取って……土魔法でもつかって掘り返してみるか? まぁ、あの葉っぱ的にサイズはかなり小さいと思うけど。
もし、あのサイズで地中の中から化物サイズの物が出て来たら、アンバランスすぎて、笑うしかないだろうな。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!!




