十四話
うん……五層に対しての新兵器は簡単に解決した。ダンジョンに入ってから戦闘思考になった時に魔法の事をすっかりと忘れてしまっていた。練習と実践の違いかな? 魔法組み込めば良いだけなのにね。そんな訳で、目に見える位置に〝魔法を組み込んだ戦術〟と書いた。
ちなみに四層ボスのソロボーナスは〝ポイズンナイフ〟だった。……刃渡り十センチって何だ。僕が使ってる剣鉈は九寸だぞ? センチにすれば約二十七センチだよ? 短すぎるだろ! 投げナイフじゃないけど投げるぐらいしか思いつかないな。但し戦闘に組み込めるとも思えない、投げるなら大きい石の方が色々な意味で使える気がする。
「しかし、水も風も窒息させる魔法は便利だね。反則と言っても良いかな? まぁ今後のモンスター次第だろうけど、強かったり大きかったりすると、窒息させるまでに時間が掛かるとかありそう。現状初級魔法だし、寧ろ効かない何て事もあるかも?」
独り言、確認する時には声を出しましょうと言われ癖になっている。
しかしまぁ……口にしてみたけど、本当反則だわ。目の前で二匹のDウルフが窒息死している。それぞれ風と水の効果を試した結果だ。
「今までは、ダンジョン外で練習してたけど……中で使っていかないと、思考洩れするからね。実際おもいっきり存在忘れてたし。意識的にも無意識的にも呼吸をするように、使えるようにならないとね」
そんな訳で、魔法を使って五層を進む。マッピングは終わってないから、右手の法則で右側の壁に接近、直接触れて進む事はしないよダンジョンだもの。戦闘中はどうしてるのかって? ダンジョンの特性を利用してるよ、持ち込んだ道具は消えるまで時間が掛かるみたいで、一時間や二時間じゃ消えないみたい、だから右側の壁に目印を突き刺してる。
モンスター相手と言えば、意外と使えるのが水溜りを作る魔法。つるんと転んでくれるから、統率を乱すのにすごく良い。お陰で激辛パウダーボムの消費量が減った。
ただ、魔法は使うと疲労を感じるのが少し早い。それでも戦闘時間は短くなってるから、総合的に微妙に魔法を使ったほうが疲労感は多い? 一度の戦闘において、魔法無しは三十分で疲労度二十だとすると、魔法有りは二十分で疲労度二十五? まぁ正確に測れる訳じゃないから何とも言えないけど。
戦闘時間が短くなれば、戦闘回数が増えるのはダンジョンだからだろう。たっぷりと休めば良いんだけど、疲労が抜けたら進むを繰り返しても回転率は上がる。魔法無しでも戦闘後は小休憩挟むのは基本だし。
「それにしても、いい加減ダンジョンは宝箱とか採掘時に鉱石とか、くれても良いと思うんだけど?」
言った所でどうしようもないけど。恐らく一層から五層までは、テーマが同じなのだろう。所謂サブカルにおいて、最初に出てくるダンジョンは之だ! 見たいなテーマ。この先も変らんとなると辛いぞ? 色々な意味において! まぁ其れでもダンジョンだし何かあるかも! って思いで、マッピングと壁叩き。石が大量に手に入るようですが、そんなに持ちきれません!
「五層はなんというか……別れ道が無い? 今の所一直線だけど、此の侭とかじゃないよね?」
ダンジョンで一直線とか不安になるよね。ゲームとかで一直線の道なんて強いボスが待ってるとか罠が盛り沢山とかそんな感じじゃない? 嫌だなぁ。
しかし一直線でどうやってバックアタックをしているのだろうか……不思議だ。まぁダンジョンのご都合主義だと思うしかないな。
進むにつれて、モンスターの出現頻度が上がっていく。休む時間は別みたいだから良いけど。しかし之は僕一人だから良いけど、他のパーティーが五層にいたら大変だな。後からダンジョンに入った人は待つしかない……人同士の争いが起こりそうだ、協会に要注意事項としてリークしておこう。
「しかし、トラップは無いか……モンスターとの戦いのサイクルが短くなってると思うと、ある意味トラップだけど」
一切ゴールが見えずに代わり映えのしない暗くてジメジメした道、エンカウントタイミングが短くなるモンスター、今となってはスタート地点すら見えない……完全に精神的にやられるなこれは。昔に超長い高速のトンネルを走る車に乗った事あった、あれはパニックになる人も居るらしいけど、僕的には其れすら全く比べ物にならないレベルのストレスだ。
休憩中に何と無くトンネルが歌詞に出てくる歌を歌って気分転換。但しトンネルを抜けても其処には、綺麗な景色など無くボスがいる部屋の前なわけだが。
閑話休題
きっと今迄で一番長い階層だっただろう五層。モンスターと戦ってる時間は一戦で三分から五分というタイムに迄縮めれてしまった。と言うのもそれだけ戦闘経験つんでるって事何だけど……今日が休日で朝から潜っててよかったよ。平日だったら色々な意味で大変だ、ゆいとか爺様とか夕食とか。
休んでる時以外は戦ってないか? と言うレベルでの遭遇率に変ったと思ったら少し先に門が見える。
「あぁ……やっとゴールが見えてきたよ……長すぎだよ。しかしまぁ、見事なまでに一直線だったな、トラップも無かったし……これは本気でボスが強いパターン?」
言葉にしておいて何だけど、フラグだよねぇ……まぁお決まりパターンで来てるから言った所でフラグも何も無いんだけど。
とりあえず最後の戦闘を終えて門の前で休憩。バックパックから砂糖と塩とレモン汁を混ぜた水を取り出す。清涼飲料水買えば良いじゃんって? 最近値段が上がってるんだよ! 何でだろうね。五百ミリリットルのペットボトルが今や一個三百円、ダンジョン誕生前のテーマパークより高い値段だよ! コンビニなのにだよ!?
という訳で、自作が一番安い。既製品がこっそりと高くなってるのは最早基本。自作最高!
さてはて、休憩も終えて突入準備、一体どんな犬が待っているのか……犬じゃなくて狼だったね。
ボス部屋の門を開ける。ちらっと覗くが……うん暗くて先が見えないな、敵の姿も確認できないよ。ライトで中に光を当てる……あれ? ダンジョンマジック? 光が先に届かない、これは意を決して入れって事か。
門に障害物を挿んでから部屋にはいる。うん、明るくなってきた。ちらっと門を確認、障害物は通用してる。
入り口から奥に向かって松明が順番に灯っていく。あれ? この演出なにかのゲームで見たなぁ、何かの魔王城だったっけ? まぁ中二心をくすぐる演出だ。
最後に松明が灯った所には椅子があり……え? 椅子? 犬なのに椅子に座るの? もしそうなら、かわいいよ?
しかし、其処には何も居なくて、何処にボスいるの? って探そうとしたら……
ドスゥゥゥゥゥン!
上から何か椅子に降ってきた。あれ? シルエットが二足歩行だと!
「ヨウコソ人間、ココハ我ガ貴様ヲ試ス間ダ」
……試しとな? ってかモンスターが喋った! しかも二足歩行の犬だ! コボルトだ! しかもイメージよりデカイ、サブカル的なコボルトといえばDウルフを大きくした感じ、こいつはボスウルフが二足歩行したサイズだ。二周りは大きい!
「オドロイテイルヨウダガ、戦闘準備ハ済ンデイルノカ? 此方カラ行クゾ!」
「少し待ったぁぁぁぁぁ!」
「オ……オゥ、何ダ?」
ふぅ……聞きたい事があったのにすぐ戦闘とは、まぁ止まってくれて良かった。
「聞きたい事がある……試しってなんだ?」
「ソンナ事モ知ラズニ、ダンジョンニ入ッテキタノカ? マァイイ、一層カラ五層ハ言ワバ、チュートリアルト言ウ奴ダ、故ニ六層以降カラガ本番トナル。ソノ六層以降ニ挑戦デキル者ヲ精査スルノガ、我ト言ウ訳ダ」
「なるほど、ではもう一つ……ダンジョンは何故出現する様になったんだ?」
「ソノ様ナ事ハ知ラヌ。人間ノ方ガ詳シイノデハ無イノカ? 聞イタ話ダガ、世界ニ強者ガ必要ニナル時ニ、ダンジョンガ増エテイクト言ウ事ハ有ルラシイガナ」
「強者だと……如何いう事だ?」
「我ニハ解ラヌ。ソロソロ良イカ? 我ノ仕事ハ此ノ部屋ニ入ッタ者ノ試練。随分ト話ヲシタガ。其レハ我ノ仕事ニアラズ! イクゾ人間!」
くっ! 言いながら突っ込んできやがった! 武器を持ってないと言う事は、徒手空拳か。コボルトの右ストレートに対してスコップを盾に……合わせる! ガード成功!
名前も聞いてないのにコボルトめ! 折角中ニ心をくすぐる演出をしたんだから、名乗りを上げるぐらいさせろよ! と言う愚痴は置いておいて。コボルトに向かって、スコップ払い! ちっ、避けられたか。
左足でのヤクザキックが来る。なら左に向かってサイドステップ! 回避成功……しながらの取っ手打ち! むぅ……バックステップで避けられた。但し態勢は此方は万全だぞ? フロントステップからのスコップ振り下ろし!
ガン! うわ、両手を頭上に持ってきてガードか。余りダメージにもなって無さそうだな。
一度バックステップをしてから仕切りなおし。
「フム、我ガ武器ヲ持タヌトハ言エ、動キニ着イテ来ルカ。ダガソノ程度デハ六層以降生キ残レヌゾ?」
むぅ……スコップ戦闘だけじゃ届かないか、しかも相手は試しだから本気じゃないと来た、きっついなぁ色々な意味で。激辛パウダーを使えば何とかなるかもしれないけど、試しって言ってたから純粋な戦闘力だよなぁ? 使い捨て道具は……禁止だろうな。無くなったら戦えませんじゃ話にならない。
「……これなら!」
って事で、魔法ぶち込んでやる! 窒息魔法喰らえ!
「ム……グガッ……息ガシズライ……ダト」
あぁ……やっぱ即効性は無いのね。強敵になれば効き目が薄いだろうと予測はしてたけど、こんなに早くそんなモンスターが出るなんて。
まぁ、其れでも動きは鈍るはず! 突撃!
窒息魔法を継続しつつスコップで突く! 体を捻って回避された!? 急いでスコップを戻……げ! 捻りを戻しながらストレート!? 右手でガード!
「がっ!」
吹っ飛ばされたか、一撃が重すぎ。右手は……かなり痺れてるな。当分使えないか……スコップはダメだ。スコップを地面に刺して剣鉈に交換。左手逆手持ちで睨みあい。窒息魔法は一度中断させられてしまったか。
「面白イ魔法ノ使イ方ダナ。其レハ上位ニナレバ我デモ厳シイダロウナ」
魔法をお褒め頂いた。うん初級じゃ全く通用しないよって事だよね。中級でもどうだろう? どっちにしろ今は使えないレベルだ。
「そいつはどうも……全く通用してないみたいだけどな」
「当然ダ。初級程度ナラバ耐エル事ナド容易イ。マァ先程ハ驚イテ隙ヲ見セテシマッタガナ」
くっくっくと笑うコボルト。よほど愉快なのだろう。
「コレダカラ人間ハ面白イ。思ワヌ行動ヲシテ来ル。ソウ言エバ単独デダンジョンニ来ル人間モ、ドレ程振リダロウカ」
「前にも居た様な話かただね?」
「アァ、モウ随分ト昔ダガナ。数百年ハ昔ダロウカ……モウイイカ? 右腕ノ痺レハ。ソレトモモウ札ガ無イト言ウナラギブアップシテモ良イノダゾ?」
「ちなみにギブアップを宣言したらどうなる?」
「修行ノヤリ直シダナ。人間ガ持ツ鍵ヲ没収シテ、ダンジョン入リ口ニ強制送還ダ」
「随分と優しいんだな?」
「試シ故ダ。サテ如何スル?」
「続けるに決まってる!」
返事をして突撃! しながらも、水魔法を使ってコボルト周囲に水溜りを作る。
「纏わりつけ!」
水溜りを作ったら即座に、風魔法で風をコボルトの顔に纏わりつかせる。地味な嫌がらせってやつだ。
「グッ! 息ガシズライ以外ニモ、目ヤ耳ニ風ガ! 邪魔スギルゾ!」
剣鉈を順手で持って、高速の突き! さぁ避けろ!
「風ガ邪魔デモ、ソノ程度ハ避ケレルゾ!」
華麗なバックステップは、綺麗に水溜りの上に着地して……つるりと滑る。ゴンッ!
「ガッ!」
うわぁ、後頭部から地面に行った様だ……あれは痛い。だけど! 試し何だから追撃だ!
「疾っ!」
転んだコボルトに向かって一閃!
「グッ! 斬ラレタダト?」
完璧なタイミングだったのに、深手にすらならなかっただと? あの毛硬すぎじゃね?
「余り効いてない様に見えるんだけど?」
「フン、我ノ毛ヲ甘ク見ルナ。斬撃ニハ強イノダゾ?」
「はぁ……また仕切り直しか」
「イヤ、ココマデダ」
あれ? 此処までって有効撃すらないのに……
「もしかして失格? まだ戦えるよ?」
「逆ダ逆。我ニ傷ヲツケタノダ、十分ニ合格ダ」
愉快愉快と笑うコボルト。すっごく人間臭いなぁ。体は大きいし顔は犬な上に怖いけど。
「ソウイウ事ダ、人間コレヲ持ッテイケ、其レデ六層ニ行ケル。人間ノ活躍ヲ期待シテルゾ」
コボルトから鍵と応援を受け取る。なるほど鍵が攻略の印か。
「えっと、ありがとう、あー……最後に二つほど聞いても?」
「ン? 何ダ?」
「僕は、白河結弥です。貴方のお名前を窺っても?」
「ソウダッタナ、名乗ル人間モヨク居タナ。我名ハ、ズーフ。マァコノ先会ウカドウカ解ラヌガナ」
「いえいえ、名前を交換するだけでも意味があると思いますから。後もう一つは、使い捨ての消耗品使った場合って不合格だったんです?」
「別ニ構ワナイゾ? 道具ヲ使ウノハ人間ノ知恵ダロウ? マァ其レヲ使イ切ッテ戦線離脱スルノハ馬鹿ナ話デハアルガナ」
使ってよかったのか! 合格にはなるが注意は受けるって感じだったのかな? まぁ合格したし後の祭だ。
適度に会話をした後に装備品やバックパックを回収をし、試練のコボルトであるズーフに見送られ六層に突入。直にターンして帰るんだけどね! 今日は早く布団で横になりたいなぁ……オフトゥン恋しいよ。
って、六層は平原かああああああああああああああああああああああああい!!




