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百五十五話

 腰の部分にあるホルスターから銃を取り出し、壁から少し体をだして、ゴーレムに照星を重ねてから……一気にトリガーを引く。

 一発、二発、三発と少しずつ射撃ポイントをずらしながら連射し、七発全弾をゴーレムの体に撃ち込んだ。


「ふむ……通常弾(鉛とモンスター素材で出来た弾)でもゴーレムの体内に撃ち込む事は出来たか。後は貫通したのかって事と、ゴーレムのコアを傷つけたのかどうかだけど……」


 射撃の奇襲を受けたゴーレムは、七発の銃弾による威力でなのか、コアを傷つけたからなのか、何やらフリーズした状態が数秒ほど続いている。

 なので今の内に壁に隠れながら、今度は黒弾(〝黒い鉄〟とモンスター素材で出来た弾)が仕込んであるマガジンを取り出して銃にセットし、直ぐ撃てるように狙いを付けたまま、ゴーレムが復活するのか崩れるのかを壁越しに覗う。


 検証だけで言うなら成功と言う二文字で終りだろう。何せ通常弾でゴーレムの体を撃ち抜いたのだから。

 それと、ゴーレムを発見するまでの道中に、ネズミやオオコウモリとも遭遇したから、奴等に向かって通常弾を撃ってみた。

 撃った場所は頭で、銃弾はしっかりとモンスターの頭を貫通し、一発でモンスターを仕留める事が出来た。

 ゴーレムは別として、普通のモンスター相手なら胴体を撃つのは注意しないといけないだろう。心臓部分にある魔石を撃ち抜いてしまったら勿体無い。


 そんな訳で、動物系のモンスターでも十分な効果が出るだろうと言うのは、ゴーレムに会うまでに確かめてきた。

 そして今、ゴーレム相手に通常弾が通用する。その結果さえ見れば銃のモンスターに対する威力検証は殆ど終った状態。

 後は、二種類の弾がどれだけ威力に違いが出るのかだろう。


「まぁ、それはゴーレムに黒弾を撃ち込めば解るからな」


 そう言う理由で、今は動かないゴーレムの動向を見守ってる訳だ。

 とは言え、コアを傷つけたかどうかを知る術は無い。砕いたり、再起不能レベルで傷を付けたのなら、今頃ゴーレムは崩れ落ちてるはず何だけど……掠らせた程度だったり、表面を軽く削った程度だとしたら? 今までその状況を見た事が無いから、現状判断がつかない。

 ただ、ありがたい事に、今は壁に体を隠しながら様子を見れる距離に居る。この状態であれば、ゴーレムに何か変化があっても、しっかりと確認できるし対応をとるのも……撤退する事すらも簡単に出来る位置だ。


 そんな風に考えていると、ゴーレムが体を形成している石を震わせて、何かを訳の解らない行動を取り始めた。


「うわぁ……何と言うか……気持ち悪い。石が一つ一つバラバラに震えてるとか」


 規則性も無く、ただただ震えたり動いたりするゴーレムの体の石。

 その場に留まって回転する石もあれば、縦横無尽に振るえながら移動する石。衛星のようにグルグルと回る石などと、衝撃的な映像でも見せられている気分だ。

 そんな状況を半ば思考停止しそうな状態で見ていると、一斉に不気味な動きをしていたゴーレムの石たちが停止し、次の瞬間ゴーレムが二足歩行の体から別の物へと変化した。


「……名状しがたい形だよなこれ」


 変化したゴーレムの体。それは、ゴーレムの手を大量に生やした何かだ。

 ただ、その体を形成しているのが石だったのは精神的には助かった。もしこれが生身で作られていたらと思うと……うん、想像しただけでも正気度が下がる! 止めておこう。

 とは言え少しいやな予感はしている。ゴーレムがこの形を作れると言う事はだ……ゴーレムに何か不具合が起きたのか、もしくは、元になった何かがいるんじゃないだろうか。


「まぁ、考えたくないけどな、出来れば不具合でお願いしたい」


 とは言え、今は目の前のゴーレムだ。

 良く見ると、コアの位置はわかりやすくなっている。何せ沢山の腕は一つの位置から生えている。そして、その中心部分は其処まで大きくない。


「問題があるとすればだ……あの位置を攻撃するのに腕が邪魔過ぎるって事だな」


 石で出来てるくせに、うにょうにょと蛇玉のように……と言うよりも、蛇玉より性質が悪いか。何せ、石で出来た腕が絡み合い、合体し、分離する。お互いが一切邪魔になっていない。

 そして、それがまた気持ち悪さを増幅している。


「重ね重ね……石で良かった」


 最悪、風魔法で吹っ飛ばすとして、この状態で銃は何処まで通用するのだろうか。通常弾だと間違いなく、腕が邪魔で中心部分までは届かないだろう。


「さてさて、黒弾の仕上げをごらんあれっと!」


 中心部分に向かって七発連射。一発でも届けば間違いなくこのゴーレムは仕留めれる筈だ。

 そんな思いを込めて撃ち出された銃弾の一発目が、ゴーレムの腕に命中し粉砕して行く。

 当然だが、ゴーレムも銃弾に気がつき、沢山ある腕を使い守りを固める……が、黒弾の威力が強力すぎるのか、守りを固めた腕達を次々と粉砕。

 だが、腕換算で五本前後を粉砕すると、黒弾の進撃が止る。とは言え、一発目がと言う話だ。撃ったのは七発だ。当然、次の弾がゴーレムの腕を粉砕して行く事になる。

 そして、スピード的にもゴーレムは粉砕された腕を、修復している時間は取れない。出来る事は、銃弾が進む先を固めるぐらいだが……それも、銃弾の速さを超えて行うのは酷な話だ。


 結果……ゴーレムは四発の銃弾を防ぐという健闘を見せたが、残りの三発は防ぐ事が出来ず、中心部分へダメージを受けた。

 当然だが、中心部分は小さい。なので、当然コアを三発の銃弾が襲い、ゴーレムが完全に機能を停止した。


 銃によるゴーレム討伐は出来る。だが、疑問点は何故このゴーレムは形状変化を起こしたかだな。


「とりあえずだ……ゴーレムのコアを調べてみるか」


 崩れたゴーレムの下へと行き、コア部分を回収してから調べてみる。


「……まず、この三つの穴は最後の銃撃の痕だろうな。他には……っと、これかな」


 見つけたのは通常弾だ。ただし、コアに半分ほど突き刺さった状態。

 もしかしたら、これがバグでも起こした原因なんだろうか? とは言え何故だろうか。


「考えうるのは、この弾に他のモンスター素材や魔石が使われている。それをゴーレムのコアが取り込んだのか、情報を読み込んだのか……そんな感じでエラーを起こしたとかか?」


 そういえば、モンスターは基本的に、違うモンスターの魔石を体内に取り込む事はしない。柴犬なんて例外があったけど、あれは聖獣とか神獣とかって話らしいから、参考にしなくて良いだろう。

 モンスターが魔石を喰らわない理由があり、それがモンスター達にとって悪い事が起きるからと仮定。

 だとすれば……今回、ゴーレムは他のモンスターの魔石を喰ったことになり、不具合を起こした? と言う図は作れる。


「ただ、これを立証しようと思ったら……マッドな研究になるよな」


 他のモンスター……例えばオークの魔石を猿に埋め込むとか。魔石を持っていない動物などに魔石を埋めるとか。

 まぁ、此処で止るなら良いだろう。問題は〝人間に魔石を埋め込んだらどうなるか?〟なんて考え、それを実行してしまう可能性があると言う事だろう。

 さて、これの報告をどうしたら良い? 何時か何処かの誰かが、この思考をするかもしれないし、銃弾……いや、魔粉素材を使っている武器でモンスターと戦ってる以上、何時かは同じ現象を見る人が居るかも知れない。

 魔粉武器を廃止するように話を持っていくか? いや、無理だろうな。対モンスターと言う点を考えたら、どう足掻いても手放せる訳が無い。


「今までは運が良かったのかもな。生きているモンスターの魔石に魔粉が接触しなかったのか、接触していても、量が許容範囲内だったのかって事だろうし」


 もしかしたら、ゴーレムだからすぐ反応が起こった現象かもしれないけどな。他のモンスターでも起きないという可能性が無い訳じゃない。

 ……誰にも知られないように試すか? いや、やったら何処までも堕ちる可能性があるからな。


「はぁ……頭が痛い内容だな。面倒だし、丸投げするか?」


 手に負えなさ過ぎる内容だ。モンスターと対峙していくならば、知っておくべき内容だろう。だが、それに手を出せば、混沌の世界へようこそと招かれる。

 しかし、偶然の産物とは言え、その現象を見てしまったからな……見なかった事にするのは難しすぎる。


「あーーーーーーーー! 思考が悪い意味でグルグルする!! どうしろってんだ!」


 くっそゴーレムめ。嫌な置き土産をしやがって! 楽に倒せたとしても、色々な意味で精神的にダメージを受けてしまったじゃないか! 兎に角! 報告するにしてもだ、笹田さんが居ない時の方が良いだろう。

 彼は根っからの研究者だ。そんな現象が有ったなどと聞けば、試さずには居られないだろう。


「俺も気になって仕方ないからな。研究者なら、その衝動はもっと激しいだろうし。婆様達にも言えないよなぁ」


 報告するにしても、人を限定して絶対漏れない場所で話をする必要があるか。

 其処までやって、もしそれで研究者の人達が聞いたとなれば、それは報告した相手の問題だろうしな。

 よし、責任も判断も全て丸投げスタイルで行こう。こんな内容抱えて居られるか!! って事で、入谷さんには悪いけど、責任者なんだから存分に悩んでもらうとしよう。


 そうと決めたら、口直しというか八つ当たりと言うか、気分を変える為に二十一層でマッピング兼上級ポーション探しをしに行こう。




――村の研究所――


 研究所の前で一人の男が土下座をしていた。


「お願いします! 俺に……俺に、魔法と魔道具の研究を!!」


 彼は元々、街側……それも、自衛隊に所属していた男。しかも、村との交流について話をした時に、守口に対して食い掛かった男だ。


「しかしだねぇ……村人でも無い、誰かの保障もない人を研究室に入れて、研究させる訳にはいかんのよ」

「解ってますが! どうかお願いします! 魔法の探究がしたいのです!」


 魔法を! 俺に、魔法の英知を! その気持ちだけで街から飛び出し、村の研究所へと駆け込ん出来たのだ。

 この状況をみれば、この男が村と関わるのは反対だと言っていたなど、思いもよらない話である。


「作りたい物が有るのです! 試してみたい事が有るのです! 今や、この村は魔法の魔道具の最先端! 素材も、学ぶ事も、作る事も、此処以外では無いに等しい!」


 熱意に任せ、何が何でも此処で研究をさせて欲しいと頼み込む。

 周囲の人も、これには参った……と言った感じではあるが、研究員の数名は別だ。作りたい物などと言う言葉に、ピクピクと反応を示している。一体、何を作りたいのか気になって仕方ない。そんな所だろう。


「しかしだねぇ……我々は、君の名前も経歴も何も知らんのだよ」

「あ! これは失礼しました! 俺は間木 学(まぎ まなぶ)、この村と交流を始めた街から来ました! 元々は自衛隊に所属し、主にダンジョン関連の調査を行ってました!」


 簡易的な自己紹介と経歴を話し出す男……間木。

 間木と話をしていた研究員も、実際はそんな事を求めて言った訳ではないのだが……むしろ、出直せ! と言う流れだったのだが、間木は自分の思いに全てを任せて研究員にぶつかって行く。


「あー……とりあえずだ! 君の事は、まず所属確認などをさせてもらうから……そうだな。村の協会に一度行って、今日の宿や村の滞在の手続きでもしてきてくれ」

「了解です! では、失礼します!!」


 直ぐに返事を貰えた訳じゃないが、可能性があると知り目を輝かせながらも、言われた行動を直ぐに取る。此処ら辺は流石もと自衛隊と言った所だろう。


「はぁ……とんでもない奴が来たな」

「でも、面白そうな人でしたよ? 彼が作りたいと言ってる物も気になりますしね」


 状況を見ていた研究員たちが集まり、間木に関して話をして行く。

 そして、その評価は決して悪い物ではない。


「兎に角だ。彼にも言った、所属確認やらなんやらをやってくる。皆は研究を進めて行ってくれ」


 そう言うと、この研究員は研究所から出て、役所や協会へと足を運ぶことになる。

 結果、間木がこの村に受け入れられる事になり、研究所にて他の研究員と日々、浪漫と実用性を求めて研究に没頭。

 結果、彼の望んだ物が作られる事になるのだが……それはまだ先の話。

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