百五十四話
笹田さんと銃の出現で思わぬ展開となったが、本来報告すべきダンジョンの内容について、流れで説明出来たのは上出来だったと思う。
銃という事で守口さんの盛り上がりが延延と続きかねなかったからな。笹田さんもそれに乗っかり、研究者あるあるの説明モードに入って行きそうだったし。
まぁ、この流れのまま次の話へと進んでいくのが吉だろう。
「とりあえずミスリルに関してはお二人に任せます。ミスリル以外にもですね、実は手に入れたの物がありまして」
そう言って、既に自分が覚えている魔本を二冊とりだして提出する。
「この二冊なんですが、十九層の宝箱から入手しまして……自分が覚えている魔法でしたので、扱いをどうしようかと」
「ふむ、十九層に宝箱がでたのか」
「はい。そこで守口さんにお聞きしたいのですが、宝箱は回収した後どうなりますか? 再び中身が復活したりとか、出現する位置が変わったりなど、フィールドの復活とは違いはあるのでしょうか」
「あー……宝箱はあれだな。たしか、固定系の宝箱とランダム系の宝箱があったな。固定系だと、時間が経てば中身が復活する。ただし、中身自体には変化があったはずだ。ランダム系だと出現する位置が変わったり、そもそも出現すらしない時が有ったりと、周回できるような物ではない……そして、そういった宝箱にはかなりいい品物が入っている。それこそミスリルとかがソレに当たるな」
宝箱にも色々と有るみたいだ。しかし良い物が入ってるパターンは、運が良く無いと遭遇出来ないって事か。
だとすると、魔本やポーションはどうなんだろう? 結構良い物だと俺的には思うんだけどな。聞いてみるか。
「それだと、今回の品はどうなんでしょう? 魔本以外にもポーションだと思う物が入ってたんですけど」
「ふむ……ポーションは基本固定系に多いな。ただ、その質によってはランダムで出る物もある。例えば、完全に病気や毒を消し去る物だったり、上級ポーションだったりな。初級から中級クラスであれば固定で出てくるぞ。魔本も同じで、四属性と身体強化や回復などは固定から出るが、派生や中級以上の本となるとランダムだな」
と言う事は、今回の場合だと固定の宝箱って事なんだろう。であれば、復活のタイミングさえわかれば何度も獲得できる話な訳だが……さて、どれぐらいのサイクルで復活するのだろうか。
「固定だと、次に取れるようになるのは、どれぐらい時間が必要なんですか?」
「たしか、一週間から一ヶ月のサイクルだったはずだぞ。潜るダンジョンや内容物で違いがあったからな。因みに二種類品物が入ってたと言う事は、二週間前後の可能性が高いだろう」
あらま……と言う事は、魔本を配れるほど充実させようと思ったら、現状だとかなり時間が必要になるって事か。
他の階層でも宝箱が発見出来れば良かったんだけど、現状だと固定だろう十九層の二箇所のみだ。
「しかし、二十層までに固定の宝箱を見つけれたのか。確かに出る事はあったが、基本宝箱がでるのは罠の脅威が増えるニ十層以降だったからな。実に運が良いというか、当たりダンジョンと言うべきか……」
「そういう発言が出ると言う事は、二十層までに宝箱が出たダンジョンの数は少ないって事ですか?」
「そうなるな。確率的には十箇所のダンジョンの中に一箇所と言った所だろうな」
なるほど、守口さんがラッキーだと言う訳だ。
何せ危険な罠に挑まず、安全に二個の宝箱から魔本やらポーションが手に入る。これが大きく無い訳がない。
それに、鉱石の採掘も同時に出来る場所と来ている。これが幸運じゃないと言ったら、何が幸運なのだと言う話だ。
その幸運の産物と言える魔本をどうするかも、話をして行かないといけない訳だが……二週間に一回となると、この魔本は何処の誰に使うか……実に悩ましい話になってくる。
「それで、この魔本ですけど、どうしましょう? 個人的には研究所で調査して貰うのが一番良いと思いますけど」
「ぜひ!! むしろ今此処で! 私に! その魔本を下さい!!」
「笹田さん落ち着いて、そうですね……白河君の言う研究所にと言うのは魅力的ですが、良いのですか? それは君が手に入れたものでしょう?」
「そうだな、それに恐らくだが二週間後には宝箱も復活しているはずだ。であれば、その時また手に入る可能性はあるだろう?」
「確かに手に入るとは思いますが、二週間の時間って割りと長くありません? 研究するなら早くからの方が良いでしょうし」
「そうですそうです! だから、今私に!!」
「はーい、笹田さんは深呼吸して本当落ち着いてくださいね」
本音を言えば、爺様や妹達に渡したい所ではある。むしろ二週間後には手に入るんだから、それでも良いんじゃないか? と、そんな誘惑すらある。
でも、長期的かつ全体的に物を見れば、研究所に渡すのが一番良いと思う。
防衛力を上げる為に、まだ魔法を覚えていない協会の人や、ダンジョンに潜ってる人に渡すのも選択肢ではあるが……現状ソロでボスだけ倒して、ボーナス稼ぎをしている人が増えてるからな。早急に魔法を覚えてパワーアップを! と言う段階では無いはずだ。
「それに、研究員が魔法を覚えてくれれば、魔法・魔力・魔石・属性魔石の関連性も、更に理解が深まりそうですし」
「そうなると、装備や設備の強化がより一層進むという訳か」
「ムームームー!!」
「折角二冊ありますし、一冊は研究室に、一冊は白河君が誰かに渡すのはどうですか?」
「いやいや、二冊以上ないと……うちには二人以上居ますからね」
ま、どうせなら最低二冊同時にもって行かないと。それで妹二人分だからな。一冊しかもって帰らないと、ゆりがションボリするのは目に見えてわかる。
ゆりならば、ゆいに譲るだろう。そして、次は私にと言うだろうけど、横で魔法を使われて羨ましく思わない訳が無いからな。
ならば爺様に渡すかと言うと、それもまた違うだろう。
しかし……笹田さん。お口にチャック喰らってしまったか。まぁ、話が進まなくなるから仕方ないけど、よほど魔本を読みたいらしいな。口を塞がれてもムームーと言ってるよ。
「まぁ、そう言う訳でして、今回は二冊とも研究室でって事の方が色々と良いと思うんですよ」
「それなら、今回の魔本は白河君からの貸しという事で。余裕が出来たら、此方から二冊返却という形にしましょう」
「あー……良いのですか?」
「白河君が急いで奥まで潜ろうとしている理由は知ってますが、その流れで此方にも配慮してくれてるのは解ってますからね。正直潜るだけなら、マッピングも鉱石採掘なども適当で良いでしょう?」
あれ? 何かやってきた事が良い様に捕らえられてる。
正直マッピングは、自分が迷わないようにだし、マップを埋めるのも、もしかしたらレアアイテム……上級ポーションが手に入る宝箱があるかも? と、薄い期待の元だ。
鉱石採掘だってダンジョン攻略の為に、装備を強化したいから。
それに、他の人が同じように採掘なりダンジョン探索のスピードがあがれば、それだけ強化されて村の防衛力になるから、結局は自分と自分の周りの為にやってる行為なんだけどな。
「なんと言うか、自分の為にやってる事が配慮って言われてるので、むず痒い気分ですけど。折角なので、入谷さんの申し出を受けさせてもらいますね」
「ははは。善意や善行と言うのは割りとそんなものですよ。他人や組織の為に……なんて言ってやった所で、それがプラスになる訳でもないですしね」
そう……どこぞの協会支部長みたいな。っと、入谷さんが凄く小さい声で呟いたのが、かすかに聞こえた。
そういえば、そんな支部長がいたな。禿山支部長だったか? まぁ、名前は忘れたけど。
このダンジョンの支部まで乗り込んできて、高圧的な態度で俺を探してたあいつで、協会全体の為に、全てのダンジョンで情報を調査しろと言う、無理難題を堂々と協会内で叫んでいた。
まぁ、協会の為なんて言ってたけど、それをやらせた自分は大手柄だ! と、言いたいだけだったんだろうけどな。
「ま、俺等としてもだ。装備の強化が加速するならありがたい話だからな。貸しと言うのに反対はせんよ」
「では、魔本は研究所に送るという事で。あ、因みに笹田さんは読んじゃ駄目ですよ? 銃関連で此処に残って貰わないといけないので」
「ムーーーン!?」
あ、魔本が読めないと言われて、衝撃を受けてる。
まぁ、仕方ないよね。銃を使ってみた報告を受け調整をする為に此処に来たのだから。
最初は嬉々として来てたはずなんだけど、研究員用の魔本というキーワードは大きかったって事か。なんか、地面に〝の〟の字を書いていじけてるけど……。
とは言え銃に関して話をすれば、直ぐに復活するだろう。何せ、彼は〝浪漫と実用性の両立〟を目指す研究者だからな。
「しかし、銃を試すと為ると……二十一層に潜るよりも、今まで倒してきた相手で調査した方が良いですかね?」
「そうだね。そうした方が魔法や他の武器との違いが解るだろうし」
「ゴーレム相手は調べておいた方が良さそうですね。あいつを貫く事が出来れば……かなり優秀な武器だと思いますよ」
「鉄串は駄目だったのかい?」
「鉄串は……弾数が無いのと、コアに当たる可能性が低かったので。一応ですが、魔法付与型ならゴーレムの体を貫通させる事は出来ましたけど」
次弾を撃つまでの間が長い、貫通はするが何処にあるか解らないコアを狙うのは難しい、そもそも鉄串だと、あれだけ敵が居る場所で使うには隙が大きすぎる。鉄串を投げる時も、体を盾から一瞬でも出さないといけなかったし。
そんな理由で、鉄串をゴーレムに使用するのは、一度試した後に使えないと判断した。
それに、鉄串で傷を付けても直ぐに体を修復してたしな。
その点、銃であればどうだろうか? まず、渡された銃ならば七発一気に連射できる。盾を構えて隙間から銃だけ出して撃てる。
逆に鉄串と違う問題があるとすれば、魔法の付与が出来ない事だろうか。弾丸に直接触る訳じゃないからな。将来的に何かの方法を開発するかもしれないけど、現状だと無理だ。そこは鉄串の方が現状優秀な点だろう。
「まぁ、色々試してデータを取ってきますよ。ゴーレム数体に試すだけで大丈夫でしょうし」
現状一番硬い相手だからな。これを打ち抜ければ他は問題が無いはずだ。まぁ、柔らかそうな相手にもという事で、ネズミやオオコウモリにも試しておけば問題ないだろう。
そして、それで問題がなければその足で二十一層も探索できるはずだ。
そう……二十一層。この階層からが俺にとって本番だ。ここから……上級ポーションが出る可能性を秘めて居る訳だからな。
さてさて、新しい武器といい、新しい階層といい。テンションが上がって仕方ない。
これは、明日が待ち遠しくて仕方ないな……うん、寝れるかな? 遠足が待ち遠しい子供じゃないから、しっかりと寝て調子を整えないと。
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