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百五十二話

 正直……これは無理だろう? それが、ニ十層のボス部屋を覗いた時の感想だ。


 今まで通り、ボスと戦う場所は広く闘技場と言った感じの空間だが、しっかりと周囲を確認すると全く違う状況が目に入る。


 まず、天井は今にも落ちてきそうな岩やらツララが存在し、地面も所々落ちてしまいそうな断裂が走っている。

 その上でモンスターの配置が……中央に恐らく遠距離攻撃をしてくるだろうゴーレム。その手前に接近戦タイプのノーマルゴーレム。ソレ等の両サイドに火ネズミが存在し、更に天井にはオオコウモリ達がぶら下がっている。


「……あのオオコウモリの重さで天井が崩れれば良いのに」


 仲たがいする事も無く、仲良くボス部屋で待ったりしている奴等を見ると、なんだか争えよ! と、思ってしまうが、完全に待ちの体制だからどうしようも無いだろうな。


「しかし……布陣が完璧すぎるだろ。これどうやって攻めるんだ?」


 盾持ち・遠距離攻撃・遊撃と全て揃っている状態だ。しかも遊撃の中には、空中で戦えるタイプも居ると来ている。

 素材を無視して魔石ブーストの魔法で攻撃するとしてもだ、恐らく天井が崩落して巻き込まれる未来しか見えない。

 ゴーレムは足が遅いから後回しにして、フィールドを走りまくって削っていく? 遠距離型のゴーレムによる連射と、二種類の遊撃で此方の足が生かせない可能性が高いか。

 正面から、ブースト無しの魔法をしながら接近戦で挑むか? 間違いなく遊撃が邪魔だな。


「それに、魔法を使うにしてもモンスターは三属性揃ってる状態だからな」


 風オオコウモリを封鎖しようと火をつかっても、これは火ネズミが強化される。ゴーレム相手にと風を使っても、オオコウモリに邪魔をされるだろうしな。


「となると、水魔法で火ネズミから対処するべきなんだろうけど……水属性のモンスターは居ないから、吸収やら強化やらをされる事は無いけど」


 水魔法に抵抗できるゴーレムも、足が遅いから狙い目ではあるんだけど……肝心の火ネズミは両サイドに分かれてるんだよな。

 全く……本当に嫌らしい布陣と言える。


「となると……また、空気をコントロールして酸欠状態にするか? これなら、幾ら風オオコウモリとは言え、通用するんじゃないだろうか?」


 空気をコントロールする魔法はどうも、科学型の魔法らしく四属性の理に入らない。だから、同じ風属性と言えど通用するのだけど……。


「これはこれで弱点があるんだよなぁ……」


 何せ……常識がベースの魔法だからな。水で火を消せるし、火で水を蒸発させれる。風の場合でも、火を強化も出来れば吹き消す事も出来るわけだ。

 そして、空気をコントロールして酸欠にする……これに関しては、空気を入れ替える魔法で対抗すれば良いだけ。

 それに……酸欠魔法は、ゴーレムには通用しない。まぁ、呼吸を必要として無いから当然だよな。


「まぁそれに、科学型の魔法とは言ってるけど、それっぽい現象を起こしてるだけで実際は少し違うし」


 実際は、色々なモノを移動させたり、自然現象を起こす為の初動を魔法で起こしている。

 例えば、空気を動かして酸欠にしたり、土を移動して圧縮によって固めて地盤を強化したり、湿気から水を作り出したり、燃えやすい気体やらに火をつけたり、水と土をあわせて泥にしたりと、自然やら科学に魔法でアプローチしている訳だ。

 物語型との違いは……起こった現象は自分も含めて全てを巻き込む事だろう。


「だからこそ、弱点が多いんだよな……自分やパーティーメンバーを巻き込まないようにしたり、こういった崩落の危険がある所では使いにくかったり」


 土魔法にかんしても物語ベースなら……石を飛ばしても敵にしかダメージが入らないと言うのに。

 そういった点でみると、ゴーレムが飛ばしている石礫は……物語型でないのは間違いない。

 体を形成して、それを動かしてる魔法なんだろうけど、飛ばされてきた石礫で壁が欠けたりしてるからな。

 まぁ、物語型じゃない魔法を使ってるゴーレムが風魔法に弱いのは、魔石が土属性だからって事だろうな。


「色々とややこしいなぁ……とりあえず、ゴーレムの石礫は飛ばすまでが魔法で、飛ばした後は物理的な物って事だろうな」


 とは言え、これが解った所で攻略方法が見つかる訳でもない。なので、違う方法を考えてみる……派生系の魔法だとどうだろうか。


 氷で全てを凍らせるか? 属性の相関図が解らないからなぁ……火ネズミとかゴーレムだったら動いて来そうなんだけど。

 雷は……まぁ、間違いなくゴーレムに通用しないだろうな。

 余り使ってない属性? 可能性はありそうだけどな。溶とか鉱とか。毒とかは厳しそうだけど、木は……この環境じゃ無理か。


「そうだよな。今まで属性の強弱だけ考えて魔法使ってたし、此処は違うアプローチをしてみるか」


 モンスターは素早く動くのが二種類に鈍間が一種類だ。それなら……作戦はこれで行くとするか。




 作戦が決まり、少し精神統一をしてからボス部屋へと飛び込む。その際に遠距離で攻撃が出来るゴーレムの前に、通常のゴーレムが壁になるようにポジションを調整。

 直ぐに屈んで地面を操作して、中級の土魔法で障害物を作り上げて行く。


「次はこれ!!」


 こちらに来れる通路をわざと作り上げて、土魔法と水魔法のミックスで地面を泥沼にして準備完了。

 遮蔽物を作り上げ、移動する場所も足が遅くなるようにした。これで当分は火ネズミの行動を阻害しつつ、ゴーレムの遠距離攻撃と進軍も防げる筈だ。


「まぁ、ゴーレムが粉砕しながら来るだろうけどな」


 とは言え、これは時間稼ぎだ。出来た時間を使って……殲滅するのはオオコウモリ。だが、火魔法を使っての攻撃だと、火ネズミがフォローに入る可能性がある。


「ってことで、使うのはこれだ! 散弾!!」


 魔法名に属性を入れずに散弾魔法をぶっ放す。鉱属性魔法での散弾だからな……魔力をもった銃弾と言っても良い。

 作り出した壁を確認しつつ、空中に向けて魔法を撃つ作業を繰り返す。

 たまに通り抜けようとする火ネズミも居るが、大体が足を泥沼に捕らえられているので、そこに散弾を撃ち込めば良い。

 そんな戦い方をしながらも、壁から少し顔を出してゴーレムの挙動を確認しつつ、ゴーレムに向けても散弾を撃って、ゴーレムの移動を牽制。


「気分はFPSゲームだよな。ま、相手が突撃しかしないタイプだから楽だけど」


 ガリガリと壁がゴーレムの石礫乱射で削れるが、ある程度したら土魔法で修復しつつ、周囲の殲滅を優先して行って行く。


「ボス部屋に入る前に、休憩をした後に長考しておいて良かったな。休憩して直ぐ突入してたら、魔力が空になってただろうな」


 まぁ、それだけ思考に時間をかけてたとも言えるんだけどな。

 しかし、初動の壁作りが潰されなくて良かった。潰されてたりしたら、物量で押されていた可能性が高い。そして、その初動を潰す可能性があったのは、遠距離型のゴーレムだ。


「お陰でこんなに楽に、遊撃部隊が殲滅できるんだからな!!」


 飛び交うオオコウモリや駆け回るネズミを殲滅する。と言うか、殲滅できて良かった。

 正直な話……派生型の魔法は魔力消費量が高い。

 通常の属性魔法を十と仮定した場合。中級魔法は倍の二十ぐらいだろう。では、派生はと言うと……派生の初級が十五で中級になると三十といった感じだろうか。

 厳密には色々と違う部分が大量にあるのだが……まぁ、それは横に置いておくとして、当然それだけ違えば、当然撃てる数が変わってくる。

 そして、今回選んだのは鉱魔法と……派生魔法の中級で、しかも銃弾魔法の強化型である散弾魔法だ。かなり燃費が悪い。


「壁に泥沼も作ってるからな……壁にいたっては修復もしてるし」


 今ここで、ネズミやオオコウモリが残っていたら撤退を選ぶべきだった。だが、幸運にもその二種類のモンスターは倒しきる事が出来た。


「後は……ゴーレムだな!」


 ただ、このゴーレムも前衛と後衛の各二体ずつ。足は遅いが実にバランスが良い組み合わせだ。


「まぁ、壁による目隠しがあるからな……もしなかったら、これまた撤退案件だけど」


 何故撤退を選ぶ案件か? と言えば、現状なら壁で遠距離型の乱射を防げているからだ。

 もし壁がなければ、これを防ぐのに盾を使いつつ、風の散弾で迎撃しなきゃいけない。となると、これもまた魔力が足らなくなる可能性が高い。


「魔力回復のポーションとか欲しくなるな……作れれば良いのにな」


 そう呟いてみるが、無いものねだりだ。まぁ、回復ポーションらしい物は手に入ったんだから、後は研究で何とかしてもらおう。


「さて、此処から隠れて移動して……遠距離型から先に始末して行くか」


 近接ゴーレムは現状だと、壁の前に陣取っている。ここで遠距離型の後ろに回り込んだら……一方的に攻撃できるはず!

 作り上げた壁を利用して、相手の視界に入らないように移動。この時、魔力関連の技能は一切使わないようにして行く。

 ゴーレムは魔法生物だからな……魔力に反応しやすい存在と言えるから、隠れてこそこそするなら、身体能力アップなどの魔法は使わない方が良いだろう。

 そして、その予想が正しかったのか、綺麗に遠距離型の後ろに回る事に成功。

 一気に奇襲を仕掛けるために、一旦深呼吸をしてリズムを調整する。


「よし、面白い具合に前衛ゴーレムは壁を殴って、遠距離ゴーレムはそれを援護といった状況だ」


 この状況に持ってこれたならもう詰みだ。

 後は、一気に風魔法を撃ちこんでいくだけで終る。


「それじゃ……ハチの巣タイムだ! 風弾・散弾型!」


 風の散弾を連続して遠距離ゴーレムの二体に撃ちこむ。当然、前衛ゴーレムが気がつき、俺の方へと顔を向けるが……もう遅い。


「魔石なんて無視だ!!」


 俺に残ってる魔力量から考えて、本当にぎりぎりだった。だからこそ、ゴーレム四体の魔石は諦めて、その体にでかでかと穴をぶち空けていく。

 とはいえ、コアを撃ち抜いたつもりで、実は無傷でした何て事が無いように、散弾系魔法がニ発ぐらい撃てる量の魔力を残しつつ、残りはゴーレムに撃ち込んだ訳だけど……まぁ、一体につきニ発から三発と言った所だから、本当にぎりぎりだった。


「はぁ……坑道嫌いだわ。自分を巻き込まない状況なら、一気に大爆発させたりできるのに」


 もし崩落なんてした後、そこに次への階段やボーナスがでたらと思うとね。回収や移動が出来ないなんてパターンもある訳だから、怖くて出来ない。


「ま、素材回収してって……操作で作った壁や泥沼だから、自分で直さないとって、此処はダンジョンだから大丈夫か」


 どうやら、ダンジョンだから自然に修復されると言う事を忘れてしまっていた。思った以上に戦闘に集中して疲労したみたいだな。

 とは言え、これは課題だな。属性が複数居る時の戦い方。四属性が集合した時や派生系のモンスターが居る場合……今のままだと厳しいかも知れない。


「となると、技術以外にも新しい武器か? まぁ、相談事が増えるなっと、まずはボーナスやらを回収しますか」


 何時も通り、素材が回収し終わった頃に、次への階段とボーナスにキーが出現。

 回収してから、ショートカットを開放してボーナスを確認してみる。


「……首輪? なんだこりゃ」


 変態プレイなんて趣味じゃないぞ? とりあえず、色々調べてみていい効果があるなら……イオにでも着けてやるか? イオのスペックが上がるとかだったら……今まで以上に追いかけっこが大変になりそうだな。

 まぁ、今回は収穫が多かったからな……また、協会で入谷さんと守口さんの反応が凄そうだ。

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[気になる点] 自分だけ土魔法で囲って、ダンジョンを崩落させ、後はダンジョンの修復力に任せる、って方法は採らないんですか?しきりに崩落のことを気にしていたけど、魔法で自分の安全さえ確保できれば、この部…
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