百五十話
前日の続きと言う事で、十九層のマッピングの再開から進めていく。
同時に採掘もして行くんだけど、どうやら鉱石の復活が現状だと起きてないみたいだ。
「穴を掘った時や、石の壁を削った時は結構早く復活してたんだけど……鉱石だと時間が掛かるって事か?」
そうであるとすれば、復活するサイクルを調べる必要性があるな。
フィールドを形成する壁の一つだから、その内復活する事は確かだと思うんだけど……これは一度、十六層辺りもチェックして置いた方が良いかもしれない。
とは言え、とりあえずそれは後でやるとして、今は十九層の地図を完璧に埋めて行くほうが先だな。十九層まで降りてきた訳だし、今から戻ってまた十九層に来るとか二度手間だ。
鉱石が復活して無いと言う事で、ボス部屋まで一度行って其処から探索を再開。
道に沿って進みつつ、鉱石を掘り途中で出会うゴーレムを殴り飛ばして行く。まぁ、新しい発見も特になかったので、殆ど作業をしている状態だ。
掘り出す物は〝黒い鉄〟で、ゴーレムは接近戦しか仕掛けてこない奴等。他のモンスターもどうやら出ないようで、マップの変化が無い景色と合さって……色々と精神的に辛くなりやすく感じる。
そういえば、このダンジョンって割とそう言う階層が多い気がするな……永遠に続く一本道、広大な草原、碁盤の目状など、クリアして来た階層には存在していた。
なんと言うか、このダンジョンを作った奴は相当性格がイイ奴だろうな。徹底的に精神を磨耗させて来る。そんな状況を作り出す事を考えるような奴だ。他人を苛立たせるエキスパートに違いない。
「まぁ、この階層に限っては採掘があるから、まだマシと言えるけどな」
これで〝黒い鉄〟の採掘量が少量とか無しだったら、今頃ふざけるな! と叫んでただろうな。
とは言え、復活までのサイクル時間が掛かるようだったら、後を続く人は採掘すら出来ない訳だが……まぁ、その場合は恐らくボス直で、この階層をクリアする事になるだろう。ある意味、そっちの方が楽かもしれないけど。
そんな事を考えつつ先に進んでいく。最早、無我の境地と言えるレベルで黙々とだ。
しかし、最後の方になると少し状況が変化した。
「マップ的に一番奥の左端付近なんだろうけど……宝箱だよな、あれ」
ゲームなどでよく見るような、大きい箱がドーンとフィールドに置かれている。
ただなぁ……こういった宝箱って大抵の場合、罠が仕掛けられていたり、ミミックだったりと危険度が高い。
だが、聞いてた情報だとニ十層を超えなければ、危険なトラップは無いはずだ。
であれば、先ずは魔力的な反応があるかどうかをチェックする処から始めるとするか。
宝箱とその周辺の調査をする。ふむ……どうやら、連動系のトラップは無いみたいだ。
連動系のトラップ……例えば、落とし穴に落されたり、上から天井が落ちてきたり、横から毒矢が飛んできたり、ガスが充満したり……まぁ、上げれば限がないだろうけど、そんな感じのトラップで、宝箱を開ける行為や中から宝を取るという行動がキーになって発動する。
そして、チェックをした結果。魔力的にも物理的にも宝箱の周囲にはそういった、弄ると動く為に設置されている〝何か〟が無い。なので、連動系トラップは無いと判断した訳だ。
「ふぅ……しかし、こういった作業は結構きついな。さて、次は箱の中身か……」
宝箱を開けると中から何かが起こる系だ。この場合は、宝箱がミミックだと言うタイプ以外にも、中から矢やらガスやら……宝箱その物が爆発する。そう言う感じのモノ。
「まぁ、こっちの方が対処はしやすいけどな」
まず、基本的に宝箱の正面には立たない。
次に、鍵が有るかどうかの問題だが、今回は鍵が必要ないみたいなので対処を一つ飛ばす。
そして、距離を置いてから、荷物よりTRPGのお供である十フィート棒を取り出し……宝箱の上部を思いっきり突く!
ゴン! と言う音と共に、宝箱がパカッと開いた。このやり方で開けれない場合は、上の部分を先ず斧などで粉砕したり、鋭い何かで切裂いたりするのが安全だろう。
「……どうやら、トラップは無かったみたいだな」
少し時間を置いてから、何も変化が無い事を確認して宝箱に近づいて行き、中から戦利品を取り出す。
「ポーション瓶と本か……」
たしか、十一層から二十層までにでるポーションは中級だったはずだ。と言うか、なぜか今までお目に掛かれなかった訳だが、やっと出たって感じだな。
そして、本は魔本で良いだろう。と言うか、解読した魔本に同じ色や表紙をしていた物があった。軽く表紙を読んで見ると、やはりと言うべきか水の魔法書。となると、被りがとうとう発見出来たと言う訳だな。
しかし、魔本の被りか。個人的に言うのであれば、妹達か爺様に渡したい。だが、全体の利益を考えるならば、渡すべき相手は協会か研究所となるが、それは少し前までの話。
協会に限って言うのであれば、個々でソロボーナスを手に入れ、探索者の人達は一人最低一つは魔法を覚えているのが現状だ。
「となると、研究の為に研究所行きかな」
戦闘が出来る協会員……入谷さんや品川さんもその内の一人だが、彼等に覚えてもらうのも手ではあるが……結構悩ましい問題だ。
「まぁ、こういう場合は報告と相談だろうな」
自分だけで考えても埒が明かないだろう内容だ。であれば、相談と言う名の判断の押しつけだ。こう言った事は上の人間に任せるに限る。
そんな訳で、マッピングの続きを再開。と言っても、後は反対側である右の部分を調べるだけだ。
そして、マップが綺麗に左右対称だった訳だが、どうやら右奥の状態も左右対称のようで、右側にもしっかりと宝箱が存在していた。
左側の時と同じならば、トラップ等は無いはずだが、念のために同じ処理をして宝箱を開ける。
「さてさて、中身はなんじゃらほい」
対象に置かれた宝箱らしく、中身もある意味そっくりだ。
中級と思われるポーション瓶に、魔本である。そして本の表紙を軽く読んでみると、火の魔法書だ。
「水が二冊目じゃなくて火なのか」
これで、入り口を挟んで反対側に道があって、風と土の魔法書が入った宝箱があったら、完璧だったと思うけどな。
とは言え、とうとう被り二冊目ゲットという訳だ。しかしだ……宝箱の場合って、フィールドみたいに復活するのだろうか? 復活するとして、一番嬉しいパターンはこのままこの位置に復活するパターンだけど、それだと復活するタイミングで周回をすれば良いから、余りにも楽すぎる。
「……考えれるパターンは幾つか有るけど、これは守口さんに聞いたほうが良いか。宝箱周回というか、同じ階層に何度も潜ったりしてた経験を持ってるわけだし」
大崩壊前は、彼等が生活に必要な物資をダンジョン内から回収をしていた。燃料だったり香辛料だったり……まぁ、他にも色々有るのだが、その為にダンジョンに潜り同じ階層で、延々と戦闘をしてた訳だからな。
当然だが、宝箱の復活サイクルなんて物も知ってるだろう。であれば、彼等に聞いてみるのが一番答えに近い手段だ。
「それじゃ、宝箱については後にして、一度上の階層を見て回るか」
採掘の復活について、チェックしておかないとね。
十六・十七・十八層と調べてみて、鉱石が復活している事が発覚した。まぁ、調べるだけなら単純だからな。入り口に入って、壁の中に魔力反応が有るかどうかを調べれば良いだけだ。
そして、復活すると言う事が解った訳だが、それと同時に前日発掘した十九層が復活していないとなると、鉱石の復活は単純に時間が掛かるのだろうと言う予想が出来る。
「時間的に考えると、村で盾についての事をやってたりしたから、前に十八層を潜ったのは一週間前以上になるか」
現状で解る事は、鉱石の復活に一日以上、二週間以内って事ぐらいだな。
とは言え、階層別でこの復活サイクルにも変化が有るかも知れない。
後、宝箱や鉱石の回収と復活の処理がどうなっているのか。まぁ、間違いなく個人じゃなく全体で処理されているとは思うけど。
さてさて、そういった事も守口さんに聞いてしまうか。彼等がダンジョンの壁を壊して、資源を回収したりしたって話は聞いてないけど、そこら辺のルールは宝箱と変わらないだろうしな。
「さてと、とりあえず調べる事は調べたし……ニ十層に突撃しますかね」
まだまだ、時間的にはお昼すら回ってない。それなら、戻って話をしても時間が余って仕方ないからな。ただ、その後ダンジョンにまた潜るのは面倒だ。
それなら、このままニ十層にアタックしても良いだろう。と、適当に自己の判断を肯定して突撃だ。
ニ十層に潜り周囲の状況を確認……と言うか、確認する必要は無いな。
「真っ直ぐ坑道が伸びてるだけだ……ただ、今回は坑木による補強があったり無かったりとめちゃくちゃだな」
これは……今まで以上に気をつけないとすぐ落盤を起こしそうだ。と言うか、目視できる範囲でも、コンと叩けば落ちて来そうな石も有るぞ? 大丈夫かこれ。
「振動が起きるような真似は出来ないか……駆け抜けるのも考えないといけないな」
採掘は……出来ないことも無いけど、かなり慎重にならないとな。そして、それは戦闘関連もだろう。
怖いのは、ゴーレムだろうな。奴等の動きって割と振動が起きるから、動作の一つ一つが既に範囲攻撃になりかねない。
「射撃タイプなんて出たら本当最悪だろうな」
打ち込んできた石礫が壁にあたって、自分の周りが崩壊して行く。結果、逃げ場が無くなったり、予想外の場所から落石攻撃を喰らったりと、面倒くさすぎる。
そう言う訳で、絶対相手の奇襲を許したらいけない場所だ。徹底的に探索スキルでチェックして行くべき場所だ。
「さてさて……こういった場所だ。面白い鉱石でも有れば良いなっと!」
坑道内に壁にと魔力の反応が有るかどうかをチェックして行く。そして、幾つかの反応を感知。
「……あー、なるほどね。全員集合タイプって感じがするな」
属性魔石を手にしたからだろう。属性魔石によって違う反応を見せる事が理解できた。
その為に、このニ十層に居るモンスターが、火ネズミ・風オオコウモリ・遠距離ゴーレムと、坑道集大成である事が発覚。
それと同時に、壁の中にもしっかりと魔力の反応が有った為、鉱石に関しても期待できるようだが……問題は、その場所の壁がどうなってるかだろうな。
「補強されてれば良いんだけどな……まぁ、最悪自分で補強すれば良いけど、無駄に魔力を使う事になりそうだな」
とは言え、鉱石は重要物資である。最悪ボス戦をスルーと言う判断をする事になろうとも、今は鉱石の採掘を優先するべきだ。それが、後々だが楽になる訳だしな。
さてさて、それじゃ次々と採掘して行くとしますか……ま、楽をする為の準備は楽じゃないって事だな。
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