百四十八話
十九層のボス部屋の扉を開けて中へと突入。中のモンスター反応は三つだったので、さほど問題が無いと思ったんだけど、それは甘かったようだ。
「ちょっと待て! ソレはないだろ!!」
入った瞬間、中にいたのはゴーレムが三体だというのは解ったのだが、問題はゴーレム達が取った行動だ。
奴等は俺が部屋に入ると、一斉に腕を此方に向けてから、その腕を形成している石を一気に放出してきた。
「腕を飛ばすなら、ロケットなパンチじゃないのかよ!」
左右の腕を三体が各自飛ばすわけだから、合計六本の腕から拳ぐらいの石が絶え間なく飛んでくるのは、マシンガンでも撃っているようにすら感じる。まぁ、マシンガンほど弾速は速くないので、盾と回避でなんとか被弾せずに済んでいるけどな。
そして厄介な事はだ……やつらの飛ばした石礫は勢いを無くし地面に落ちたり、壁にぶつかり停止した後にコロコロと転がり、ゴーレムの腕へと再び形成している事だ。謂わば無限弾薬と言える状況にある。
「これが一体だけなら、まだ対処しやすいってのに! 三体相手となると隙が無さ過ぎるぞ!」
今は逃げて防いでと、防戦をして行くしかないが……このままだと一方的にやられて、撤退しなくてはいけない。反撃の手段を何とかして見つけないとな。
攻略方法としてはだ、現状だと接近する事すら難しい。マナブレードを使って、魔石の粉砕角度で魔法爆発による攻撃をぶち込めば……恐らくゴーレムは簡単に潰せるはずだ。
しかし、その接近をするという行為自体が、現状だと不可能なんだよな。身体強化でスピードを上げても、乱射される石礫を前進しながら避けるのは難しい。むしろ、こちらのスピードが上がった分、石礫がぶつかった時のダメージが上がりかねない。
カイトシールドを前面に構えたとしても、ガード出きる面積は限られてる。少しでもゴーレム達が横にずれて射線をとれば、防ぎきれる物じゃない。
「……ガードしながらの突撃は無理だな」
例えマナブレードを魔法爆破が起きない攻撃方法で、石礫を迎撃しても限りがあるからな。くそ、三体同時ってのは本当きつすぎるぞ!
兎に角駄目な方法で思考を続けても意味が無い。なので違うやり方を考えていく。
例えばだ……防いだり壁にぶつかったりして、地面に落ちた石を砕くのはどうだろうか? うん、俺が隙だらけになりかねない。
転がってる石を拾って、全力で投げてみる? 元々ゴーレム達の体を形成している石だからな、取り込まれて終りだろう。
だめだな。地面に落ちている石を如何にかする方法と言うのは、どの方法もゴーレムから目を離して、隙だらけになり易いから却下だ。
「そうだな……隙か。何とかしてゴーレムの射撃を少しでも停止させる方法があれば……」
そもそもボス部屋に入った瞬間に先手を取られたのが痛かった。いつもなら……先制して魔法を使っていたのに……だ。
ゴーレム達が即座に石礫を撃って来たという、何時もと違うパターンだったり。まぁ、つい突っ込みを入れてしまったと言う俺のミスもある。
と、まぁ反省は後にするとして、基本的なパターンで言うならば、まずは魔法で先制をして俺のペースにして来たのが今までの定石だ。
「それなら、流れを変えるのも魔法がベストでしょ!」
石が相手なら水流で砕くと言う方法や、同じく石をぶつけて砕いて行く方法がある。だけど、こいつはゴーレムだ……所謂、魔法生物。
魔法生物であるなら、原則として四属性の理に縛られているはずだ。
「それなら……風だよな」
お浚いを少しすると、四属性の理は昔からある一番単純な物の可能性が高い。火>風>土>水>火と言うやつだ。
何故可能性が高いのかと言うと、現状調べた結果発覚したのが、火が水に弱いパターンと、風が火に弱いパターンしか見ていないから。
昨今のサブカルには他のパターンだってある。力関係が火⇔水や風⇔土だったりと本当に様々だ。なのだが、見つけた二つのパターンからして、相互弱点で無い事は発覚している。そして、現状調べてないのは土と水の弱点のみという訳だ。
だからこそ、此処で弱点の関係を発覚させるには丁度良い。相手は石で作られ石を自在に操るゴーレムだ。間違いなく土属性と言える。むしろ違ったらそれこそ吃驚だ。
「先ずは牽制だな……風弾!」
飛んでくる石礫に合わせて、風の弾丸を撃ち込む。
パーーーーン!! と言う音と共に、飛んできた石は砕け散り砂と化して、風魔法が破裂した勢いを直にうけ、四方八方へと飛ばされて行った。
そして、再びゴーレムを形成していた、石になる事が無いという結果でもある。
「よし! 風で正解だな! ただ、こうなると気になるのは違う属性だとどうなるかだな」
弱点と攻略への道筋が見えたので少し余裕が出来た。その為に、違う属性を使った場合と言うのが気になって仕方なくなる。
検証の為には魔法を使えば良い訳だが……問題は土魔法を使った時だろうな。
「同属性で攻撃した場合だと、一番多いのは純粋に威力が強い方が勝つ。次の場合だと……無効化で、最悪のパターンは吸収され強化に使われるだろうな」
これを試すなら、先ずはゴーレム達の数を減らし残り一体になってからだろう。
「よし、それじゃ一気に反撃して行きますか!」
連射して飛んでくる石礫に合わせて、風弾・散弾型を使い次々に石礫を撃ち落していく。
これを繰り返す事により、相手が今まで無限とも言える弾丸だったのを防ぐ。と、同時にゴーレムの体を形成している石の数を減らせる訳だ。
撃ち洩らした石礫も盾を使って弾き飛ばしてから、次に来る石礫と同時に撃ち砕いて行く。
そうしていると、俺に一番近いゴーレムの腕が無くなった状態のままになった。とうとう再形成するだけの石が無くなった訳だ。
「一番近いからな……チャンスという訳だ!」
そのゴーレムの体を他のゴーレムの射線上になるように移動し、そこからマナブレードに風魔法を使い、風のハンマーを作り出す。
「先ずは……一体目!!」
身体強化でブーストして一気にゴーレムへと飛び込む。後ろに居たゴーレム達は射線を取ろうと移動しているが、俺の方が速い!
「風属性の魔法爆破だ! ゴーレムならコレが効くだろ! 魔石すら残らんだろうがな!」
ゴーレムの胸にマナブレードで形成した風のハンマーをぶち込む。それと同時に、一気に前方に向かって風属性の爆発。
爆破した魔法は、ゴーレムの体全体を巻き込みつつ、俺の方向以外に向かって暴風を産み、他のゴーレム達が飛ばしてきた石礫の全てが、その暴風により停止し落ちたか、明後日の方向へと飛ばされて行った。
「うん、やっぱり威力が強すぎだよな」
直撃を受けたゴーレムは足の辺りを少し残すぐらいで、後は全て粉々になり砂と化した後、暴風によって飛ばされてしまった。
予測はしてたが、これだとやはり魔石の回収は難しいな。まぁ、その分確実に敵を葬れるとも言えるんだけど。……こういったパターン以外では、素材や魔石の事もあるから使わない方が良いだろうな。
「まぁ、それでも敵の戦力を減らすという点からみて、正しいからな……後一体は同じ運命を辿ってもらうぞ?」
俺の宣言を聞いたからなのか解らないが、ゴーレム達の猛攻が激しくなる。
今度は腕以外の部分の石も使っての攻撃も仕掛けてきた。
「まぁ、それでも三体同時の時よりも楽なんだけどな」
風の弾丸によるクレー射撃だ。しかも俺は散弾な上に此方へと向かってくる石を撃つ訳だから、外す方が難しいと言う話だ。
見る見るうちに、ゴーレム達の体が小さくなって行く訳だが、こいつらの攻撃ってこのパターンしかないのか? フィールドに出てきたゴーレム達は射撃戦じゃなくて、接近戦しかしてなかったんだけど。
一体この違いはなんだろう? それこそ、射撃戦が出来るのであればだ、ボス部屋よりもフィールド側の方が良いはずだ。
狭く一直線の通路で乱射される弾丸。はっきり言って恐怖以外何物でもない。カイトシールドと言う盾を持ってはいたが、タワーシールドと違い、広範囲攻撃をされれば全てを防げる訳じゃない。それこそ、そんな狭い通路なら足などに被弾されていた可能性が高い。
「完全に適所を間違えてるよな? 広場に三体だから全員で乱射すれば良いとか」
せめて前衛で戦うゴーレムを一体用意しておくべきだ。もしくは十字砲火が出来るように、位置を誘導するとか。
「ま、お陰で攻略が楽なんだけどな! 喰らえ魔法爆破!!」
二体目のゴーレムにも、マナブレードでの魔法爆破を撃ちこんで跡形も無く粉砕する。
幾ら全身の石を犠牲に撃ってきても、一体減った状態なら隙もそれだけ増えるからな。割と簡単に二体目は討伐できた。
「さて、それでは実験の時間だな」
最後の一体となったゴーレム相手に、風以外の属性魔法がどうなるかを試してみる。
最初は水魔法による弾丸。実際水流と言うのは地面を削ったり、石を運んだりと土系に弱い訳じゃない。しかしそれは魔法での理じゃない。そして、それが明確となるかのように、飛ばしてきた石礫は水に濡れただけで、勢いを止めず盾で防ぐ事になった。
「なるほどなるほど。威力自体も風魔法を使ってた時に、撃ち洩らしたのをガードした石礫と大差無しか」
それなら、図にした時に反対側の位置に有る火属性はどうだろうか?
飛んでくる石礫に、今度は火の弾丸で迎撃。そうすると、今度はぶつかり合った弾丸同士が互いに消滅をする結果になった。
「ふむ、注ぎ込んでる魔力の量は風も水も火も同じだからな」
因みにその魔力量は、相手が飛ばしてきている石礫と同レベルの量だ。
まぁ、当然だよな。そっちの方が正確な結果を出せる訳だから。
「さて、次が問題の同属性パターンだな」
これも、飛んでくる石礫に合わせて石の弾丸で迎撃。結果は、お互いが弾かれ地面へと弾丸と石礫が転がる結果に。
「同量のパワーだから結果としては当然か。そうなると……相手に直接打ち込んだらどうなるんだ?」
風以外の三属性を今度はゴーレムの体に同じ順番で撃ちこんで行く。
水魔法は当然だが、完全に無意味な結果となった。次に火属性だが、これは少しゴーレムの表面に傷を与えた。
「問題は土属性だな……これは駄目だわ」
ゴーレムの胴体に打ち込んだ石の弾丸は、ゴーレムの特性も合さったのか奴に吸収される結果になった。先ほど最悪と想定したパターンだ。
俺ならば、多数属性が使えるから問題が無いけど、土属性しかパーティー内に居ない場合だと、ゴーレムの石礫を迎撃する為にしか魔法は使えない訳で……これは、要注意とメモに書いておくべきだろう。
「しまったな、火ネズミや風オオコウモリで試してなかったか……まぁ、ゴーレムみたいなパターンは無いだろうけど、それでも同属性には注意と言っておくべきだな」
まぁ、魔法を一属性だけで編成したパーティーなんて作らないだろうけどな。仕方なくなんてパターンだってあるかも知れないから、協会には探索者に厳重注意をしてもらうとしよう。
「さてさて、それじゃこのゴーレムの魔石は、採取できる方法で倒すとしますか」
マナブレードを魔法爆破モードから、継戦モードへと変更し接近戦でゴーレムを殴って行く。
殴っていくと石に偽装したコアを発見したので、コアに罅を入れてから軽く叩き付ける。
「そうするとあら不思議。コアが綺麗に割れて中から魔石がこんにちは」
胡桃を割って果肉を出すかのような感じで魔石を取り出す。後は一応だけどゴーレムの体を形成した石も回収しておく。出来ればこの素材が、研究者達のお眼鏡に適いません様にと祈りながらだが。
そうしていると、次への階段とボーナスにショートカットキーが出現。直ぐに回収してチェックとショートカットの開放。
「ボーナスはっと……ランタン?」
スイッチを入れてみると周囲が明るくなる。……不要な物じゃん! 婆様達が既に研究してライト作ってるんだよ!! 今更過ぎるよ!
とは言え、なにか婆様達の作品と違う部分があるかも知れない。研究所に送って調査して貰うか……いや、この階層まで来てさ……ただ光るだけのランタンとか流石に無いよね? とりあえず、何か効果がある事を願おう。
さてさて、今日はここまでにして切り上げるか。午前中にお話で時間潰しちゃったしな。……それに、協会で色々と説明する事も増えたし。あぁ……憂鬱だ。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!!
本当、属性の扱いって色々ありますよね。
五行とかは、使ったら面白そうですけど……色々と複雑になってしまいそうです。
なので、この作品では一番単純な方法を選んでます。まぁ、科学寄り?(完全に科学的と言う訳ではないのですが)に使う方法もあるので単純とは言い切れませんが。




