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百四十七話

 ダンジョン前の拠点にあるダンジョン協会支部にて、盾のテストが終わった事を入谷さん達に告げる。


「なるほど。村から来た報告書通りですね」

「盾の強化は街側としてもかなり助かる話だからな。量産が待ち遠しいぜ」


 品川さんからのメール便で、盾に関しての報告書は届いているのだが、実際に実験に付き合った俺が盾の感触を伝えるのは、また文字で確認するのとは違う事を伝える事も出来る。

 なにせ、此処に居るメンバーは最前線で戦う……実際に武具を使う人達だからな。カタログスペック以外にも情報は有ったほうが良い。


「まぁ、そんな訳なんですけど、当然ですが盾の材料に〝黒い鉄〟と研究者達が言ってる物が必要でして、それが十六層で採掘して手に入れる物なんですよ」

「あー……今、一番奥まで潜ってる奴等は誰だったっけか。確か……」

「街側から出向されてる二番隊の方々ですね。現在十五層の攻略に手を掛けてますが、サイクルの都合上で今は街に戻ってるはずです」

「あいつらかー……一番は俺が率いてるからな。割とデスクワークに追われて潜れない奴等ばっかりだし、あいつらに期待するしかないか」

「そうですね。村側のメンバーですと漸く十二階層をクリアし、十三階層を探索してる状態ですから」


 結構進んでるな。因みに十二階層をクリアしたメンバーの取っている攻略方法だが、道中は一緒に進むけれどボスだけは各自でやっているらしい。

 武具のメンテナンスをやる時以外だと、常にダンジョンに潜る許可を得ているパーティーだ。出来るならば、頑張って街側の攻略速度に追いついて欲しいと言うのは、少し欲張りだろうか?


「よし……少しサイクルは狂うが此処は臨機応変に行くとするか。二番隊を一度ダンジョン側に呼んで、その〝黒い鉄〟を大量に採掘させるとしよう」

「良いんですか? 規律とか色々とありますよね?」

「だからこその臨機応変だ。全部隊にも通達するさ……盾の開発に必要な素材を大量に集めてもらう為だとな。それに責任者は俺だからな! これぐらいどうと言う事はないさ」


 柔軟性が凄いな。それにだが街側としても、あのオーク戦の時に全ての盾を破壊されている。一応一つだけは俺が渡したヤツがあるけど、それで足りる訳がない。

 その後は一応だけど、盾を発注して少しずつ数を増やしてはいるが、その盾も急いで生産した物である事に変わりは無い。

 そんな盾が魔法を防げるかと言えば……初級すら厳しいかもしれない訳で。であるなら、一刻も早く新しい規格の量産された盾を手に入れたいのは当然だろう。


「俺達の戦闘スタイルは前衛でガードを徹底的に固めながら、後方からの高火力で一気に突破するスタイルだからな。盾が無いと厳しいモノがあるのさ。その盾を作る為の素材が十六層にあると解れば、多少の融通は皆認めるさ」


 と、守口さんは言っているが、その気になれば暗殺のみの戦闘、前衛のラッシュをベースとした戦闘、それ以外も色々と出来る力の持ち主達ではある。

 ただそれをやらないのは、常に後方で守るべき人が居る事を想定しながら戦ってるからだ。常にその時を見据えて訓練も兼ねてるのは、職務に忠実と言うべきか……。


「とりあえず、後続が来るまでは俺も採掘しながら行きますから。因みに、〝黒い鉄〟は攻略メモにも書きましたが、魔力の探索を壁に掛ければ見つかりますので」

「そうやって探してる訳ですか。そうなると全ての人に、探索系のスキルの入手を義務としたのは、そう言った意味でも正解でしたね」

「いやはや……まさかモンスター共の奇襲を防ぐ以外にも使い道があるとはな!」


 そうですね。凄い便利ですよ探索系のスキル。これのお陰でマッピングも、凄く早く出来るようになったからな。

 ダンジョン内ですら、特殊なギミックでも無い限り、隠し部屋やトラップも発見できると思う。実際、壁の中に潜むモンスターや鉱石を発見している訳だし。


「あー、それとですね。出来るなら採掘する時も十八層でお願いしたいそうです。十八層は属性魔石が手に入りますから」

「運用方法は既に考えられてるって事ですかね?」

「だろうな。あの研究者達がソレを見て、何も思いつかない訳がねぇからな」

「お二人の言うとおりですね。武器以外にも発電施設やら調理器具など、色々と考えてるみたいですよ」


 この発言を聞いて、二人ともやっぱりかと言う顔をしている。まぁ、あの研究者達の反応は予測しやすいからな。何を仕出かすかは予測出来ないのだけれど。


「それじゃ、報告はこれぐらいですけど、何か有ったりしますか?」

「私は無いかな。守口さんはあります?」

「いや、俺も無いな。現状だと〝黒い鉄〟の採掘を如何するかとかって話だから、それは俺達が考える事だしな」

「それなら俺は、この後〝黒い鉄〟を採掘しつつ十九層に踏み込もうと思うんですけど、良いですかね?」

「えぇ、話したい事も終わりましたし、後で気になる事が有れば呼ぶ事もあると思いますが、今は良いですよ」

「そうですか。でしたらその時にでも」


 話を終えて退出する。後はダンジョンへと向かう訳だが、少し時間が掛かってしまったな。話をしてたら昼になりそうだ。……少し早めの昼食を取ってからダンジョンに行くかな。今日は十九層のみになりそうだ。




 手っ取り早く昼食をとる為に、サンドイッチを用意して貰って、ダンジョンに向かいながら食べた。

 オークの煮込みハンバーグを挟んだサンドイッチは、なんと言うかこう、肉汁が凄すぎて手が大変な事になったが、かなり美味しかったので、今度村へと戻る時にお土産として包んでもらおう。


 そんな風に十九層までのショートカットを降りて、フィールドに繋がる扉を開けてから中へと入る。


「うわぁ……十九層はこれまた面倒な事になりそうだ」


 周囲を見渡すと、あちらこちらに先に進む穴が見える。それも等間隔でだ。


「昔あったゲームでこういう掘り方をしてた奴があったなぁ……たしか……何とかマイニングとかって言ってたっけ」


 ある素材を手に入れるために、その素材が出る階層まで掘った後、必ず見つける為にと一定間隔で奥へと掘り進める。そんなやり方をした時間を使う掘り方だ。

 やる人にもよるが、延々と真っ直ぐ掘り進めて枝状にする人もいれば、田の字状に掘る人もいて、中々に奥が深い掘り方なのだが……今まさに俺の目の前に広がってる光景が、その何とかマイニングの跡地と言った感じである。


「さてさて、一体どんな掘り方をしているのかね……直進堀だと行って戻ってが凄く面倒なんだよな」


 という訳で、ここは先ほど言っていた万能スキル。探索先生の出番という訳だ。

 一気に周辺の状況を魔力と五感を使い調べていく。


「……ちっ。面倒だなこれ、直進掘りっぽい上に行き止まりまで調査出来ない」


 探索の範囲外まで掘り進められている。それは前方もだが、左右の横穴も同じで全く先の状況を調べ上げる事が出来なかった。


「ただ、嬉しい事と言えば鉱石が大量にある事か」


 何とかマイニング跡地だと言うのに、鉱石が大量に残されている。うん、此処がダンジョンだからだろうけど、そうじゃなければ根こそぎ持っていかれてたはずだ。

 まぁ、それなら俺が根こそぎ持って行くだけなんだけどね。それじゃ、採掘スタートと行きますか!


 最初の横穴に入って、掘って進んで掘って進んでを繰り返していく。

 面白いぐらいに鉱石が手に入るのだが、これって……バックパックの容量は大丈夫だろうか?

 そもそも、バックパックは婆様達研究者が、何度もバージョンアップをしており、かなり物が入るようにはなっている。

 それに、バックパック以外にもウェストポーチやら、収納用のポケットを防具に作ったりと、収納スペースを大量に用意はしてあるのだが、この魔力探査に引っ掛かった鉱石の量を考えると……往復しなきゃいけない気配がする。


「となるとだ、採掘するだけなら十九層が良さそうなんだけど」


 どんなモンスターが出てくるかも気になる。十八層と同じであれば諸手を挙げて喜べるが、違うモンスターだった場合だと、同じように属性魔石を落す敵なら良いが、ノーマルタイプのオオコウモリやネズミ共が、大量に出てくるならば面倒なだけだ。

 それに、全く違うモンスターが出て来る可能性だって捨てきれない。


「採掘は進んでいるけど、モンスターが出てこないからな。出来れば早いうちに確認したいけどな」


 そう言いつつ、かんかんと壁を掘って鉱石を手に入れていく。うん、現状だとお宝の山とだからな。




 どうやらこの何とかマイニング……枝状型のようで、一番奥までいってUターンをして戻る作りだ。こう〝韭〟と言う文字の上に、蓋をした感じといえば良いだろうか。その蓋をした部分でUターンをして、メインの通路に戻るといった感じだ。


 そして、面倒な事にモンスターはこの〝韭〟と言う字の、横にある行き止まりの部分に隠れている。

 探索系スキルが無ければ、間違いなく奇襲が成功する訳だ。しかも下手をしたら鉱石に釣られて掘っているタイミングで襲われる。

 まぁ、おれ自身常に気をつけていたので、察知する事が事前に出来ていた。


「でも、まさかなぁ……敵がこんな奴だとは思わなかったよ」


 ツルハシを使って思いっきりモンスターを殴りつける。

 そうすると、そのモンスターは砕けたり、崩れたりと色々なパターンを見せる訳だが……。


「此処に来て石をかき集めて出来たゴーレムかよ」


 たちの悪い事に、砕いても崩しても再び一つになって復活するんだよ。

 攻略方法自体は単純だ。粉々になるまで砕くか、コアの部分を傷つける。まぁ、粉々に砕くのは徹底的にやれば良いだけで、単純ではあるんだけど……それをやると魔石まで砕けてしまう可能性がある。

 魔石自体は、コアの中に有るみたいなので、コアを傷つける方法を取るにしても、十分気をつけないと行けないのが、また面倒な話だけど。


「面倒なのは……そのコアの位置が解りにくいんだよ!!」


 魔力探索で調べても、胴体を形成している石に全部魔力を通しているから、全てが反応してしまう。そして、コアは自衛の為なんだろうけど、周囲の石とほぼ同じ見た目をしている状態だ。

 とは言え、ほぼ同じと言うだけで全く同じじゃない。……まぁ、その差って色合いが微妙に違うとかそんな程度だけど。

 そう言う訳で、魔石の回収をして置きたい為に、ツルハシでゴーレムを砕く作業をしている訳だ。


「魔石の事が無ければ、一気に粉砕するのに!」


 せめてサンプルを取って有用な魔石か調べておきたいから。とは言え、有用と判断されたとして、何度も回収したいと思うようなモンスターではないけどな。

 とりあえず、ゴーレムの魔石は十個ぐらいあれば十分かな……十分だと良いけど。あの研究者達の事だ、面白いと判断すれば追加を要求してくるだろう。……余り提出したくないな。

 まぁ、ゴーレム自体は魔法を使う事も無く動きも鈍い。剣や槍が通じにくい硬さと、質量による攻撃力が高いと言う点を注意すれば、割と楽な敵だろう。ハンマーやツルハシなどがあれば十分に対処が出来るって事だ。


 そんな感じで、何とかマイニング跡地を廻って鉱石を掘りながら、ゴーレムと戦闘をしつつ進んで行くと、途中で大きな扉を発見。恐らく装飾的にボスルームだろう。


「んー……まだマップを埋めた訳じゃないけどな。とは言っても、バックパックもそろそろ容量厳しいだろうし、一度ボスを倒して地上に戻るのも手か」


 マッピングをするなら、荷物を一度軽くしてからでも良いだろう。そうすれば、再び鉱石掘りも出来る訳だし。

 そうと決まれば、ボス戦と行きますか……ゴーレムが此処で出たと言う事は、ボスもゴーレムの可能性が高い。

 それなら、盾とマナブレードメインで行った方が良いかな。ツルハシでも良いけど、広間であるなら狭い道と違い、魔法爆破の使用も出来る。今までは道が狭かったから、崩落の可能性を考えて使えなかったからな。

 他の武器といえば、剣鉈・スコップ・鉄串はゴーレム相手なら通用しないだろう。これらの武器はバックパックに収納しておく。


 さて、それじゃ準備も整ったし突撃するとしますか!

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