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百四十五話

 対魔法用盾の試作型が出来るまでの間、村の中を散策したり、学校における戦闘訓練をみたり、家族の話を聞いたりとした。


 しかし、来るたび変化がある村ってどうなんだろうな。さり気無く村を囲う壁が広がっていたり、農地や果樹園に新しい物が増えていたりと、中々ハイペースで開発が進んでいる。

 更に言うと、ある一角で子犬達が走り回っているのを見つけた。ただの子犬なら良いのだけど……あれは、前に品川さんと話してた、モンスターのウルフ達……それの赤ちゃんだ。

 一見するだけだと解らないが魔力の流れを注視すれば、あの子達はモンスターだというのが解る。


「それにしても人と敵対してないって事は、試みが成功したって事か」


 とは言え、モンスターの子を飼育する訳だから、どんな危険があるか解らない。 

 なので、この一角と村の間にも壁を作り上げ、中に入れるのは探索者のみとしてある。そして、その一角の中には子犬……いや、子狼用の小屋と走り回れるだけのスペースがあり、同時に探索者の人が数名だが、此処で面倒を見るために働いている。


 そして、少し気になったので中で働いてる人以外にも、敵対しないのだろうか? と言う考えから、子狼達を刺激しない程度にゆっくりと近づき、様子を見てみる事にしたんだけど……。


「めっちゃ懐かれてるな」


 子狼達が構え! と、言う感じに俺の周りをグルグルと回ったり、足に擦り寄ったりとして来る。

 なんでだ? と疑問に思っていると、子狼の面倒をみていた探索者の一人から声が掛かった。


「あー……白河君ってイオちゃんといるからぁ。そのにおいが染み付いてるんじゃないかなぁ? イオちゃんも、よく来てこの子達の様子みてるから」


 なるほど……モンスターは基本的に力による序列の世界だ。イオと言う強者と仲が良いと思われる俺相手ならば、それはこの子狼達にとっても上位者と言う事になるのだろう。

 そして、イオはこの子等の面倒を村に来ると見ているのであれば、怖いリーダーじゃなく、優しいリーダーと言う認識をしているのかもしれない。


「それだから、この懐きようって事か。まぁ、このままいけば村のマスコットが増えそうだな」

「子供達に怪我が無いように躾ければ完璧よね」

「後々は猟犬ですか?」

「そうねー、番犬とも言えるわね」


 実に楽しみな話が増えそうだ。まぁ、ダンジョンには連れて行けないが、その分は村の周辺を警戒する時や狩りをする時に、連れて行けるお供に良いだろうし、その仕事の人員を減らせるから違う所にというか、ダンジョン探索か遠征に人を使える事になる。

 それに、村や拠点をイオ便だけじゃなく、狼便なんてのも出来るかもしれない。そうなると、更に物や情報の伝達が早くなる訳だ。

 そう考えると子狼達には、元気に早く育って欲しいね。




 次に、学校で子供達の戦闘訓練だが、やはりモンスター討伐見学をしたのが良かったのか、全員が真剣に取り組んで、ふざけている子が一人も居ない。

 以前であれば、漫画やゲームの真似! と、遊んでた子が多かった。というか、ゆいもその一人だったしな。

 だが、今では最低限の自衛が出来る様にと基礎の大切さを聞き、地味としか言いようがない訓練を繰り返している。


「子供って、同じ作業は直ぐに飽きて投げ出すはずなのにな」

「余程あの見学が衝撃的だったって事だろうな」


 子供は飽き性のはずだと呟くと、俺と同じように子供達の訓練を見るために来ていた、協会員の人が反応した。

 やっぱり、この人もあの見学がキーだったと思っているようだ。


「ま、年齢が年齢だからな。教えるにしても最低限の自衛だけだが……前のように、遊び半分で飛び跳ねられるより良いさ」

「あー……家の妹がやってましたからね。その節はどうもすみません」

「いやいや、気にしなくて良いよ。あれはあれで十分動けていたからな。まぁ、問題はそれで自信を持ってモンスター狩りに出られたり、他の子が真似をしてた事だからな。とは言え、君の所の妹さんは基礎が出来てたから、あれだけの動きが出来たんだろう?」

「そうですね。基礎は爺様達が叩き込んでたみたいですから」


 飛んだり跳ねたりしての攻撃は確かに体重が乗るから、その分勢いも威力も上がる……けど、隙だらけになるし、本人の身体能力が無ければ思った以上の効果は出ない。下手したら着地を失敗して、隙が更に大きくなったり、攻撃もされてないのに怪我をしたりするしな。

 だから、ゆいに関しては、徹底的に基礎を叩き込まれていた。その上であの曲芸的な動きをしていたのだから、ある意味性質が悪い。まぁ、身長の低さや体重の軽さを補う為に、本人は最適解を見つけた! と言った感じだったが。


 なので、過信によるモンスターへの突撃や、基礎も無しにゆいの真似で変な癖がつく前に、モンスター討伐の見学をさせて、色々事故が起きる前に阻止できた事を安堵し合っている訳だ。

 そして、今、彼等が真面目に基礎訓練をして居る事に、感動すらしている。


「とは言っても直ぐ忘れるというか、慣れちゃう子も居るだろうから、定期的にモンスター討伐を見学させるって話も上がってるな」

「あーそうなりますか。喉元すぎればなんとやらって言いますからね」

「そうそう、だから鉄は熱い内に叩けって事みたいだな」


 強くなれば……なるだけ、モンスターとの能力差も解る様になるからな。基礎をある程度学んだ後に、モンスター討伐の見学をすれば、また違った反応を彼等はするんじゃないだろうか。

 そう言った期待を、どうやら大人達や協会はしているみたいだな。




 そして、妹達の行動が随分と変わっていた。

 

 まず、ゆりについてだが。彼女は弓だけを徹底的に学んでいたが、それ以外にも蹴りを主体とした戦い方を学び出している。軽く理由を聞くと。

 

「弓が間に合わなくて、懐に入られたらおしまいじゃん? 怖いとか言ってられないし、それにそういったトラウマ? は、兄さんが手伝ってくれて少しはマシになったからさ」


 と、言っていた。正直、まだ克服は完全にして無いだろうに……それでも、どうやらその恐怖を知ってるからこそ、村の防衛に役立てるなら! と、爺様達に教えを受けているみたい。


 次に、ゆいは持っていた槍を短槍へと変えて、利き手にはカイトシールドを持つようになっていた。また、一気に変化したなと思い話を聞いたら。


「だって! モンスターさん相手にあんな動きしても意味ないよ!! これなら、ひょいってしたり、スカーって出来るもん!」


 相変わらず擬音系説明だが、ひょいっていうのは避けるで、スカーってのは盾で受け流すだろうな。

 と言う事は、回避タンク……いや、タンクにはならないか。まぁ、堅実性を増やしたみたいではあった。

 それなら、遠距離武器を手にするか、暗殺者プレイを覚えれば良いのに。体格的に前に出る考えはと思うんだが、どうやら本人は槍がどうしても持ちたいらしい。


 そんな感じで、モンスター討伐見学は妹達にも変化を与えていた。 というか、大人しく農業やら裁縫やらやってくれた方が安心するんだけどな。まぁ、現状はモンスター狩りに行きたいと言い出さないようで、様子を見ている状態だが、少しは色々考えてくれたようで一安心と言える。




 そんな風に盾の試作品が出来るまで過していたら、婆様からの呼び出しが掛かったので研究所まで行ってみると、幾つか試作された盾が並んでいた。


「試作品出来たんだ、素材とか何を使ったの?」

「そうじゃな。まずは結弥の盾のメンテと試作盾の違いについてから話ていくかのう」


 俺が魔法を受けた盾について、メンテナンスをした結果を婆様が説明して行く。


「そもそもじゃ。結弥の盾にはキングの素材を使っておるからの……不具合は一切無かったのじゃよ。ただし、この盾は物理威力をベースに考えて作った盾じゃ。対魔法として考えるのであれば、余り良いものとは言えんじゃろう」


 ならば、何故魔法を防げたかと言うと、使っている素材がオークキングだったから。それに尽きるそうだ。まぁ、そう言われれば確かにとしか良いようがない。

 何せ、素材の元であるオークキングは魔法にも強かったからな。素で対魔法効果がついていたと言う事だろう。


「しかしじゃ……量産するのであれば、現状であればオーク素材じゃろう。であれば、素材による対魔法効果は段違いと言えるのう」


 段階だけでも考えたら、とんでもない差がある。オークから上位オーク、次にジェネラルが居てその上にキング。確認が取れているオークの種類だけでも、最短でみればこれだけの差がある。

 素材としての能力が違いすぎるという訳だ。そうなると、従来の方法で盾を作れば、対魔法効果を望むのは厳しい話となる。


「とは言え、対魔法効果を上げた場合、盾としての強度はさがるんじゃよ」


 詳しい比率は解らないが武器を作る時に、どこの骨を使うか、牙を使うのか、爪を使うのかで、様々な性能の変化を見せた。

 恐らく、盾にもそういった何かがあるのだろう。


「バランス良くと考えると、オーク素材じゃと中途半端になりやすいからのう……キング素材の対魔法効果が、ある意味奇跡と言っても過言では無いぞい」

「なるほど……と言う事は、そこに並んでる盾の試作品は、比率を変えた物って事?」

「その通りじゃよ。では、裏に周り魔法の耐久テストを開始するかのう」


 婆様に着いて行き研究所の裏にある、色々なテストをする為に作られた場所へと移動。


「それじゃ、一番から次々と魔法を撃ってみるのじゃ」


 言われるままに、初級の魔法を同じ威力で打ち込んでいく。


 一番……大破! 二番……お! 受けきった! 三番……盾が欠けた!! 四番……魔法が流れた……流れた!? …………。

 並べられた盾全てに魔法を撃ち。その結果を婆様達がメモして行く。


「ふむ……初級魔法をクリアしたのは、二番・四番・五番・八番じゃな。他はだめじゃろうな。普通に物理盾としては使えそうな物も有ったのじゃがのう」

「次は中級ですか? それとも属性変えて撃ちますか?」

「んー……中級でいいじゃろ。属性チェックに関しては、選んだ盾から中級で試したほうが良かろう」

「了解……それじゃ、中級行きます!」


 四度、同じ属性の魔法を撃ちこんでいく。

 因みに撃ちこんでいるのは火魔法だ。火ネズミが使ってきたというのも有るが、威力が高いのはと言うと、四属性からみたら火魔法のイメージが高い。


 そして、盾達を囲む様に中級魔法による、火のドームを造り上げる。


「範囲攻撃じゃな。さてどうなるかのう?」

「威力が高いのなら他にもあるけどね。どちらかと言うと範囲と持続ダメージによる結果が気になったし」

「確かにのう。継続的にダメージを与えると弱いと言うのもよくある話じゃな」


 時間が経ち火によるドームが消えると、盾達が姿を……姿が……。


「……盾が消し炭じゃな。まぁ、オーク素材じゃとこんなもんかのう?」

「あちゃー……辛うじて八番が少し残ってる感じ?」

「そうじゃのう……となると、八番をベースに色々改造してみるかのう」


 どうやら、中級には耐えれなかったようだ。まぁ、素材はオークだからある意味仕方ないのかも知れない。

 それに、実際盾を持ってから魔力を流したりすれば、また変化が有る可能性だってある。

 とはいえ、初級魔法ならば四種類の盾が耐え切ったが。先ほどの話と合わせてから考えたら、八番は違う意味で危ないかもしれないな。


「婆様、八番をベースって言ったけど、それ物理耐性は大丈夫?」

「ぬ? 確かに、魔法耐性特化になるかもしれんのう……であれば、少々危険か」

「盾を二枚別々に持っていくなら別だろうけど、装備のスイッチって戦闘中だと厳しいよ?」

「むう……であれば、今は初級魔法のみと割り切るべきかのう」


 あーこれは、今しばらく盾の開発に時間が掛かるかも知れないな。

 恐らくこれ以上の成果が欲しければ、せめて上位オークの素材が必要になりそうだしな。

 さて、婆様達はどこら辺で妥協するんだろう? 研究者だからな。中々、妥協とかし無さそうだよ。

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新しい話をアップしていきますよヾ(*´∀`*)ノ:孤島で錬金術師~修学旅行中に孤島に飛ばされたから、錬金術師になって生活環境を整えていく~
― 新着の感想 ―
[一言] >狼便 将来的には競馬のゼッケンのようなのに名前と『ダンジョン前⇔村』とかつけて走らせるのかね? 一目で人がテイムとわかるので。
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