百四十三話
ダンジョン前の拠点へと戻り、協会へ素材の提出や報告をしに行く。
そして、協会では今日も何層を攻略したとかモンスターの倒し方がと、空いた時間を利用して探索者の人達が騒いでいる。
「結弥君戻って来たんだ。今日はどうだった?」
「美咲さんも今戻り? 今日はちょっと報告が有る感じかな」
「うん、さっき素材提出して来たところ。報告って事は新発見でもあったのかな?」
「そんな感じかな。新しい階層の情報だから」
自分の番が回ってくるまで時間があったので、話し掛けて来た美咲さんと少し会話を楽しむ。
どうやら、魔法を一つ使えるようになったようだ。手に入れたのが身体強化の魔法だったみたいで、魔本に関して、ソロ初回ボーナスで出る順番や階層が決まっている訳じゃ無さそうだ。
適性がある物から出るのか、それともただのランダムなのか……とは言え、美咲さんが最初に覚えた魔法が身体強化と言うのは、確実に幸運と言えるだろうな。
「戦うにしても逃げるにしても、身体能力の強化の恩恵って大きいからな。遠距離攻撃も投擲が兵器レベルに進化するし」
「あー……結弥君がやってる、鉄串の投擲も魔法併用すると随分違うもんね」
身体強化と風魔法を使っての投擲ともなれば、そのまま投げるのとでは全く変わってくるのは当然で、俺の基本能力が上がってる状態だが、オークに何もやらずに鉄串を投げても突き刺さる事は無い。まぁ、傷を小さくあたえる事ぐらいならできると思うが。
だが、そこに身体強化と風魔法によるブーストを掛けると、簡単にオークが撃ち抜けるようになる。それに身体強化か風魔法を単体で使用したとしても、撃ち抜くのは無理だが突き刺さる事ぐらいは出来る。
「とは言え、美咲さんの場合だと遠距離は弓だよね?」
「そうだね。身体強化で弓を使うとなると、安定度が増したり、より強い弓の弦を引けるようになるって感じかな」
だとすると、現状持っている弓で威力が上がる事は無い訳だ。まぁ、安定感が増すのであれば、それこそ弱点やヘッドショットを狙いやすくはなるから、ある意味威力は増す事になるんだろうけど。
「今の弓でも既に最大まで弦は引いてるからね……良い素材をつかって新しい弓でも作らないと威力上昇は、矢任せかな」
まぁ、その矢も良い素材が無いと強化できないからな。とは言え、威力を考えるとモンスター素材を使った弓は、鉄串を投げるよりも威力が高いのは当然だ。
ならどうして俺が弓を使わないかと言うと、取り回しの問題。単独で潜入ミッション的な戦闘をしていた俺からしたら、弓は割りと使いにくい。
だが、美咲さんの場合だと、弓を使っていた下地がある上に、ダンジョンに潜るようになってからは、遠距離でサポート射撃をする立ち回りを、大崩壊後は防衛の為に櫓やら壁の上から弓での狙撃。
そんな訳で、それぞれの立ち回りからの違いで、使う遠距離武器に変化が出た感じだ。まぁ、鉄串も普通に使えば威力は弓以下だが、自分の身体能力が威力に直接関わるから、やり方次第では弓を越える事もできるが。
「まぁ、ランスもある訳だし、これで接近戦もかなり安心じゃないか?」
「そうだね。むしろ単独で潜るとどうしても接近戦が増えるから……後は回復魔法が先に欲しいかな」
身体強化と回復は接近戦の二大魔法とだな。威力・防御力・瞬発力を上げ、更に怪我やらスタミナを回復させて継戦能力も上げれる。
本当に手に入れるなら、その二つが最初に来てくれると後が楽と言える魔法だ。
「後一冊あるんだっけ? 回復だと良いね」
「そうだね! 弓の事を考えると風も有りだと思うけどね」
風魔法を使った矢であれば、野外だと風の流れを読む必要ないからな。弓使いとしては欲しくなる所だ。特に、美咲さんは狙撃タイプだからな。風魔法を手に入れたらそれこそ、鬼に金棒と言う感じになりそうだ。
「おっと、呼ばれたみたいだから行って来るよ」
「あ、いってらっしゃい! 私は解読かな!」
「解読、頑張ってね」
順番が来たので呼び出しが掛かった。なので、美咲さんとの会話を終えてカウンターへと向かう。
素材提出をしてから、目の前に居る受付のお姉さんに報告がある事を伝え、入谷さんか守口さんが居るかを訪ねてみる。
「入谷さーん! 白河君が呼んでますよー!」
おおう、此処で大きな声で呼ぶのか!? 余りにも突然だったから、周りが何だ!? って感じでこっちを見てるんだけど! 注目の的だよ!
そんな目で、受付のお姉さんを見ていたら、「はっ!」とした感じで周囲を確認して、やってしまったと言う顔を一瞬だけした後、受付スマイルをしながら「ふふふふ」と笑い……誤魔化しに入った。
「……中々良い性格してるねって言われません?」
「えっと、ナンノコトデショウ? ソノヨウナコト、イワレタコトハアリマセンヨ」
……凄まじい片言だ。これは、間違いなくよく言われてるよ。目も泳いでるし。
本来なら、他の人を呼ぶ際には、こっそりと席から立ってから、呼び出す相手が居る場所へと移動し、内容を伝えるのだが……この受付嬢さんは、ルール違反というか面倒くさがって横着をしたわけだ。
「……何度言えば解るんですかねぇ。呼び出しの時というか、そんな大声を出して用件を言うのは、止めなさいって言ってるでしょう?」
「あー……えっと、急ぎだったみたいでして?」
「急ぎでも、そうじゃなくてもです。しっかりと修正してください……やらないと、ペナルティーですよ? 貴女のご飯がゴブリンになりますからね?」
「えぇぇぇぇ!? それだけは!」
うん、ゴブリンの肉って食えた物じゃないからな。あれを食べるなら、食事を抜いたほうが良いといわれるレベルだ。
なので、ペナルティーとして食事として出されたり、昔パーティーなどであった、死のソースを使ったロシアンルーレット的な扱いで、混ぜられていたりする事がある。
「っと、皆さんすみません。後、白河君は奥に来てくださいね」
「解りました」
入谷さんが来たことによって周りの注目も収まり、協会の業務はまた平常を取り戻したみたいだ。まぁ、受付さんだけは、少し苦笑いをしながら次の人の対応をしているが。
そして、俺は入谷さんに着いて行き、奥にある会議室へと入っていく。
「おう! 馬鹿でかい声が聞こえたから内容は解ってたが、やっぱりここに来たか」
「守口さんこんにちは。少し報告があったので、お二人のどちらか居るか聞いたらあんな事になりました」
「ま、あの受付は元気印みたいな所があるからな。勘弁してやってくれ」
「気にはしてませんよ。吃驚しただけです。それに、陰湿なタイプよりは良いでしょうし」
協会の顔だからな。暗い人よりも、あんな感じで明るい方が良いのは当然だ。まぁ、馬鹿な事をされると困る話だが、大声を出して横着する以外は、問題を起こしてないんだろうな。でなければ、今でも受付をやっていられる理由がない。
っと、受付さんの事は横に置いておくとして、ダンジョンで取ったメモを提出して、口頭説明を少ししないとな。
「とりあえず、これが十八層までのメモでモンスターとマッピングのデータです。それで、モンスターなんですけど十七層は十六層と同じで、ボスルームだけ変化が有った感じですね」
「ふむ。地上と空中からの同時攻撃か。まぁ、これはセオリー通り戦うだけで良さそうだな」
「でしたら、十七層は問題無さそうですね。とは言え、報告に来たと言う事は……十八層で何かありましたか?」
この二人相手だと、本当話が早く手助かるな。適切に色々と読み取ってくれるからな。
「はい。十八層なんですけど、モンスターが魔法を使ってきました」
「……ロッド持ちのオークでも出ましたか? とは言え、それは十八層ぐらいでは出なかったと思いますが」
「……となると、属性モンスターか?」
「属性……あぁ、毒持ちウルフみたいなのですしょうか?」
「うむ。上位系モンスターになると、そういった奴等も出てくるからな」
……俺一言しか言ってないのに、ここまで話進むとか。まぁ、正しいから良いんだけど。
「えっと、守口さんの言うとおりで、火属性のネズミに風属性のオオコウモリが出てきました。ボス部屋もそいつらの編成でしたね」
「それはまた、面倒ですね」
「街側の人間なら魔法を使える奴等ばかりだから良いが……問題は村側か?」
「えっと、村側も各自でソロボーナスを手に入れに行ってるようで、少しですが使える人は増えてますね」
なるほど、村側でも魔法を使える人増えていってるのか。とは言え、どの魔本が手に入るかは人によって違うのか、ランダムだからな。十八層に至るまでに、相性が良い属性を手に入れる事が出来れば良いんだけどね。
そう言えば、そのモンスターが使う魔法についても、説明していかないとな。
「それでですね、使う魔法はどちらも初級レベルみたいでした。因みに俺の盾でガードする事が出来ましたよ」
「……なるほど、盾を使えば良いんだな」
「はい。ただ、魔法を受けたのは初めてだったので、一度メンテに出してみて、何か不具合が起きてないか調べようと思ってます」
「なら、その盾のデータも協会側に送ってもらうべきだろうな。しかし、こんなに早くダンジョン内で、魔法を使うモンスターが出るとはな」
どうやら、あのオーク戦でロッド持ちが居たからか、モンスターの魔法対策も少し進めてはいたみたいだが、ダンジョン内だと、まだ出現しないだろうと少し後回しにしていたみたい。
「まぁ、十八層なら……白河君以外にたどり着きそうなのは、今だと街に居る精鋭だろうな」
「あー……街側は、全員が交代で潜ってるんでしたっけ?」
「そうだな。元より俺達の仕事は街を守る事だからな。まぁ、外にモンスターが居なければ、ダンジョンを徹底的に潜れたと言うのにな。まぁ、俺達に出た最後の任務だからな。街の防衛を蔑ろには出来んよ」
そんな訳で、今だと十八層にいけそうなメンバーは此処に居ない。それなら今の内に、盾による対魔法研究の優先順位を上げる。そう言う流れになるだろうな。
「それなら、俺が一度村に戻って、研究の協力をしてきましょうか? 直接盾に魔法を打ち込んで、どれだけ耐えれるかのテストも必要でしょうし」
「……なるほど。確かに白河君なら中級まで使えたね」
「おぉ! 中級魔法まで耐えれる盾が作れれば……いや、耐えれなくても流せるだけの性能が有れば十分だな!」
どうせ、盾のメンテと調査を婆様達に頼まないといけないから、丁度良いって話だね。
そうと決まれば、明日はイオとまた村まで移動だな。……今日は早めに休んで、早朝にすぐ出発できるようにしておこう。
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