百四十二話
大広間の前の通路から中を確認する。どうやら、前の階層と比べてモンスターの数が少ない。
探索系能力を総動員して隅々まで調べるが、天井に張り付いているのが二匹、地上に居るのが三匹で、合計五匹だ。
「これは、上位系で編成されてる可能性が高いか……目視できる範囲だとネズミのみ確認できるけど、どう見ても赤いのがニ匹いるな。」
地上に居る残りの一匹は影ぐらいしか見えない。まぁ、この流れからして赤色の火ネズミだろうけど。
天井にぶら下がっているのも、上手く物陰に隠れているため姿は見えない……まぁ、居るってのはチラチラと映る影と魔力探索で解ってるんだけどな。
「ま、見える奴相手に突入と同時に魔法を撃ち込むか」
ターゲットは火ネズミ。選択するのは水魔法。選ぶのはドーム型で行くか。
「それじゃ、戦闘開始! 行け! 水牢!!」
突入と同時に魔石無しバージョンの水魔法によるドームを展開。魔石を使った時と比べ、範囲は狭いがニ~三匹相手なら問題が無い。……が、どうやら、陰に隠れてた一匹は回避したみたいだな。
とは言え、ニ匹はしっかりと水のドームに囚われた状態だ。しかも、火ネズミにとっては弱点属性の水。これで、中にいる火ネズミ達は俺がやられるか、自分達が弱って倒れるまで抵抗する事すら出来ない。
「ま、一匹に逃げられるのは予定外だったけどな!」
逃げ延びた一匹の火ネズミ相手に攻撃を仕掛けようとするが、上空からオオコウモリ達の攻撃が飛んできた。
「おっと! やっぱりこいつ等も魔法を使えるタイプだったか!」
キーと鳴きながら撃ち込んで来たのは、予想通りといえば予想通りの風魔法。避けた為に地面にぶつかった風魔法が弾け、周囲に軽く押し出すように風が襲ったが、これぐらいであれば、直撃でも無い限り風に押し倒される事は無いな。
それに、直撃だとしても盾で受ければ耐えれるぐらいの威力ではある。まぁ、それでも鬱陶しいのは間違いないけどな。
「後、火ネズミも風コウモリもだけど、使う魔法が初級クラスだな。今の俺なら受けたところで嫌がらせ程度の威力って感じか」
ゲーム的に言うならレベルが違うとでも言ったところだろうな。
軽いノックバックとかはあるかもしれないけど、ダメージと言う点で見れば殆ど無い威力。数値にすればHPが一桁単位で減るぐらい。
それに、防具も色々と婆様達が弄ってある。火ネズミ程度の火じゃ燃える事なんて無い。
だからこそ、嫌がらせ程度の使い方にしかならない訳だ。火を目隠しに飛ばすとか、風で軽いノックバックを起こすとか。
まぁ、俺ならその嫌がらせをしつつ、急接近して致命傷を狙うなり、遠距離攻撃の鉄串を打ち込んだりと色々狙うけど……こいつらはモンスターだからな。鉄串なんて持ってなければ、やれる事が有るとすれば、接近して体当たりか噛み付きぐらいだろう。
「だから、パターンが読みやすい!」
ニ匹のオオコウモリが交互に風魔法で嫌がらせをしつつ、火ネズミが魔法を使いながらの突撃。
ただ、風魔法が打ち込まれる位置を考えれば、火ネズミの移動ルートは解り易いからな。そして、案の定、火ネズミも風魔法でノックバックが起きる場所を避けてのルートを選んできた。
だから、俺からすれば移動ルートに合わせて、攻撃をしておくだけで良い。
「お久しぶりのマキビシワイヤー! しかもオマケ付きだ!」
蛇がクネクネしているかのように地面に設置し、ワイヤーの片方をしっかりと握っておく。
そして、ネズミがマキビシを踏んだ瞬間に、雷魔法を使いワイヤーに電撃を流していく。
「当然だけど、絡まったワイヤーや刺さったマキビシから電撃を喰らうと……火ネズミなのにこんがりと焼ネズミになる訳だ」
電撃により、火ネズミから焼けた肉の臭いが漂ってくる。その臭いを理解したのか、オオコウモリ達が風魔法を止め少し距離を取った。
チャンス到来だ。風魔法で交互に爆撃をされ続けたら少し面倒だからな。まぁ、爆撃されながらでも、倒せない訳じゃないけど、軽いノックバックを連続で喰らうのはね。一々警戒するのも疲れるからな。
「そう言う訳で、こちらも一気に行かせて貰おうかな! 火弾・散弾型!」
ファンタジーの定番、風には火魔法! と言う事で、火弾のショットガンバージョンを撃ち込む。
扇状に飛んでいく火弾がオオコウモリ達を襲い、どう見ても普通とは言えない勢いで、オオコウモリ達のその身が燃え出した。
「おー……弱点特攻? 効果は抜群だ? まぁ、そんな感じの状況だよなこれは」
火ネズミの時は水で体が濡れ、どんどん弱っていくだけだったからな。視覚的に弱点だ! と言った感じは受けなかったが、今回のは確実に弱点属性だ! と言える。
警戒しつつ様子を見ていると、オオコウモリ達を燃やしていた火は収まり、その身は完全に焦げあがり、間違いなく討伐したと言える姿を晒した。
「よし……これで三匹討伐っと、後はあの水ドームで出来た牢獄の中に居る火ネズミ達だな」
戦ってる最中にも、たまに聞こえていたハツカネズミっぽい高い鳴き声が、今は随分と弱くなっている。
これならもう時間の問題と言った所だろう。放置しても問題は無さそうだな。
「それじゃ、先にワイヤーやらオオコウモリ達の回収に、メモに情報の書き込みをしておくとしますか」
とは言え、火事場の馬鹿力とか言って、水のドームが破られるなんて事も、コンマレベルの可能性であるかもしれない。
なので、しっかりと水のドームを目視しながら作業を進めていく。
「さて、回収は直ぐ終ったからな。後はメモをして行くんだけど……」
まずは、ここの階層のボス部屋について。まぁ、これは簡単な説明で良い。
「しっかり書くべきなのは、属性についてだろうな」
まぁ、ゲームやらラノベが好きな人なら直ぐ行きつく内容ではあるけど、火には水が効いて、風には火が効いた。この前提からみて、俺が手に入れたベースの魔法を考えればだ……残りもしっかりと相性があると予測される。
水には土、土には風と言った所だろうな。しかし、科学に否定された四大元素がお目にかかれるとは、実に面白い環境になったもんだ。
しかしそうなるとだ、雷や氷……他の派生はどんな相性なんだろうか。
基本と派生の関係や、其々の相性とか謎が増えていくな。まぁ、先ず派生を使うモンスターでも出ない限り、検証が出来ないって話でもあるけど。
後は、初級と中級と上級もか……弱点属性、例えば初級クラスの水相手に中級の火だと、どうなるのだろうか。火と火は? 更にいうなら、火と土はどうなるのだろうか。
物語系魔法って分類したけど、これだけでも調べる事が大量にあるな。
「っと、思った事をメモしてたら鳴き声が止ったな」
水のドームを解除して、ニ匹いた火ネズミ達の様子を見る。
火ネズミ達はびしょ濡れ状態で、もやは動けません! と言った状態だが、かろうじて生きている状態だ。
「これだけ濡れてるって事は、ドームの中はアレか……スプリンクラーみたいな状態だったんだろうな」
火ネズミ以外にも、地面も水溜りが出来ている状態だ。回転する水の壁から、水しぶきが内側に飛んでいた証拠だろう。
とは言え、この水魔法もベースは物語系で発動した魔法だ。すぐさま水はただの魔力に戻って行く。
「まぁ、だからと言って直ぐに回復するって事は無いだろうけど、回復できる状況になる訳だからな。その前に止めをさしておこうか」
動けない状態の火ネズミ相手に、鉄串を飛ばしてヘッドショットを決めて行く。
側によって、最後の力で噛み付いてくるなんて事も、無い訳じゃないからな。安全を考え遠距離攻撃だ。
そうしてニ匹に止めを刺すと、見慣れてきた光景である次の階層への階段と、ショートカットの扉にそれを開放する鍵とボーナスが出現。
「さて、ボーナスは何だろうね」
鍵とボーナスを拾い上げて、ショートカットを開通させてからボーナスを確認。
「むむむ? 何だこれ?」
手に入れたのはバケツよりも、意味が解らない物。うん……どうみてもコップだ。これはあれか? 昔、鉱山に入ってた人達が使っていたものが、ボーナスとして出るのか? そうとしか思えないシリーズだぞ。
いや、それでもあれだ。ソロで初回ボス討伐ボーナスだ……きっと何か有るはず……あると良いなぁ。とりあえず、婆様に送りつけて調べてもらう以外無いか。
「何だか、ボーナスがどんどん色物になって言ってる気がするけど、てかそれで精神的に疲労して行くんだけど。とりあえず、地上へと戻ろうかな」
坑道フィールドも、残すのは十九層とニ十層。これは、次に潜る時に回すとしてだ。今は、地上にでて盾の整備と魔石に……バケツとコップを婆様に送らないとな。
一筆書いておかないと、ゴミを送ってきたと勘違いしかねないから、しっかりと手紙も書いておかないとね。
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文字数が3535となんだかきりがよかったw




