百四十一話
十八層へと足を踏み込む。周囲の状況が坑道なのには変わりが無かった。
十六層と十七層をマッピングの為に走り回ったけど、ボスがいた広間以外はただの坑道だったからな。それを前提に考えると、十八層には変化が有っても良いはずだけどな。
それに、モンスターの変化もあるはず。ネズミやコウモリと考えると、毒持ちとかが出て来る気がするけど、毒持ちのウルフが居た様に、謎の変化を見せる可能性だって有る。注意が必要だな。
「さてさて、状況の予測はこの程度にしてそろそろ進むとしますか」
マップを作りながら、早足でダンジョンの中を進んで行く。もちろん、魔力による周辺の探索もしっかりとやりつつだ。
ただ、反応があった場所の殆どが壁の中。これは鉱石系が沢山取れると良いんだけど……良く考えてみれば、前の階層まで結構無防備に鉱石採取をしてたな。
実際は鉱石だったから良かったけど、モンスターが壁の中に居たり、罠だったらどうなってたのやら……まぁ、罠はニ十層超えるまでは大丈夫と聞いたから問題はないけど、それもニ十層超えたら可能性があるから、今の内にそれを前提に動いた方が良い。
それにだ……前にも蛇型のモンスターが枝で出来た壁の中に居たからな。なんで忘れてたと言う話だが、前例があるんだ、警戒をするに越した事は無い。
「とりあえず、注意しながら掘って行かないとな」
ただ、貴重な鉱石だ。掘るのを止めるという選択は無い。対策としては、ぎりぎりまでツルハシで掘って、その後は土魔法で一気に掘るのが良いだろうな。
そんな対策をしつつ、最初に掘り出した鉱石は上層と同じ黒く光ってるやつ。
「はぁ、変化は無しか。まぁ、最初だからな。見つかった鉱石らしい反応の場所で、一箇所か二箇所違いがあれば良い方だろうし」
むしろ全てがこの黒い鉱石と言う前提で動いた方が、がっかりしない分マシか。とは言え、少しでも期待してしまうのが人間だ。しかも、その期待値を上げる効果があるのがダンジョンと言える。
何せ、ダンジョンは一層毎で変化が起きてるのが常識だ。十六層と十七層に変化は無かった用に思えるが、ボス部屋で戦ったモンスターが違うと言う変化は確かにあった。
だからこそ、ほんの少しでも期待をしてしまう。期待の中毒と言っても過言じゃ無い。
それとモンスターに関しては、予想以上にありがたいと言えるのが、虫系が出ないことだ。
見た目で気持ち悪い、さらに、サイズが巨大化すればその能力は異常だと言われる奴等だ、そのモンスターともなれば更に恐ろしい能力を持っている。
「雀蜂も普通に戦ったらアウトだった筈だしな。今なら魔法があるから、戦闘ぐらい出来るだろうけど」
ダンジョンの特性なんだろうか? とは言え、魚に鰐と蛇も出てきてるから、哺乳類型のモンスターだけと言う訳じゃないんだろうけど。
まぁ、十八層に出て来ているモンスターも、現状はネズミだ。そして、上層との違いと言えば……。
「今目の前に出てきた、この色違いのネズミだろうな」
ネズミの体の色は赤色。サイズは少し小さい感じ。鳴き声は変わらないけど、明らかにノーマルとは違うネズミだ。
まぁ、モンスターの特性も知りたいからな。此処は何をするかしっかりとガードを固めながら、モンスターの出方を見極めるか。
赤ネズミの前で盾を構えて視線を遮る。これをやられた奴は苛々して、短絡的な行動に出やすいけど、さてさてモンスターはどうだろうか。
たまに拾った石を使い、投石しながら赤ネズミを挑発。ついでに、盾を使い赤ネズミの体を押したり押さえ付けたりする。
赤ネズミも、やられてばかりじゃなく、必死に逃げようと移動しようとするが、その都度移動先を潰して行く。
「此処までは今までのネズミと同じ行動だけど……流石にただの色違いって事は無いと思うけど」
挑発を続けていくと、等々赤ネズミが通常のネズミとは違う行動を起こし始めた。
盾を構え、その行動を観察する。様子を見られていても関係ないと言う感じで、赤ネズミは尻尾をグルグルと回しながら、魔力をチャージしている……って、魔力を溜めてる!?
「まて、こいつ魔法でも使う気か!」
その考えに行き着いた瞬間に、赤ネズミが火の玉を俺に向けて撃ち込んできた! しっかり盾を構えて、火の玉を受ける。
盾なら、最悪燃えて投げ捨てれば良いからな。それなら、威力を調べる為にも受けるべきと言う訳だ。
そう考え、盾で受けた火の玉は。勢いをしっかりと殺し、盾が燃え出す前に火の玉は消えた。……まぁ、後で盾のチェックは必要だろうな。魔法を盾で受けたのは初めてだからな。
「それにしても、赤ネズミじゃなくて火ネズミだったか……火魔法=赤色ってのはファンタジー路線なら基本と言うのは変わらないって事か?」
赤色の炎って、簡単に言っちゃうと不完全な燃焼の結果なんだけどな。まぁ、赤色のネズミが火を使ったからと言うだけだから、検証する為にはまだデータが足らない。
一応、疑問点として後でメモに書いておくとしよう。
「さて、他に特殊な行動を見せないなら、さくっと倒してしまっても良いか」
ノーマルとの違いは見たからな。後は倒してしまい、鉱石採取と他にもモンスターに違いが出てないかを調べて行かないと。火を使う赤色のネズミが出たわけだし、他の属性を使うネズミやらが出て来る可能性だって有る。
「それじゃ、魔法でさくっと行きますか……相手は火属性を使うモンスターって事は、水魔法でも使ってみるか」
水魔法を使い、火ネズミをずぶ濡れにして行く。そうすると、どんどん火ネズミは弱まって行き、動きを止めたかと思うと、ばったりと倒れた。
「なるほど、火属性を使うモンスターには、水魔法が通用するってのもファンタジー的な常識のままか」
実例は一つ目だが、これは良い情報と言える。このまま色々と情報を入手して行きたいが、とりあえず、火ネズミの回収をしておかないとな。
「おっと、魔石が今までと違って赤い色? ふむ、これまた面白い結果だな」
実に、婆様や弟子の人達が喜びそうだな。これは、魔法を使うモンスターが出れば、絶対倒しておきたい所だ。
さてさて、どんどんと十八層の攻略を進めていくとしよう。
そんな訳で、フィールドを駆け巡りマップを埋め、今はボス部屋の前と思われる場所。
入手できた鉱石は、全て黒く光る鉱石だった。少しがっかりではあるが、その代わりという訳じゃないが、火ネズミが結構多く居た。
通常との比率が、通常二の火一と言ったぐらいだろうか。まぁ、ダンジョンを網羅でもしない限りは、火ネズミを沢山狩る事は出来なかっただろうけど。
とは言え研究材料が大量に手に入ったのはありがたい。何せ……火を使うモンスターの魔石だ。今使ってる魔道具の燃料……主に懐中電灯やら村の生活で使ってる物を、省エネ化が可能になるかもしれないからな。
そうなれば、今までよりも魔石の消費量が減るわけだ。その分、魔石爆弾やら魔道具の武器に使える数が増える。うん、エネルギー革命が起きるな。
「それなら、さっさとボスを倒して地上に戻らないとな」
とは言っても、魔法を使うネズミが出てきた場所だ……恐らく、ボスは火ネズミがいっしょに出てくるか、もしくはオオコウモリの中に魔法が使えるタイプが居るかも知れない。
オオコウモリが魔法を使うとなれば、火ネズミよりもかなり面倒な相手になるだろうな。空から魔法を使って来る訳だから。
「魔法合戦になる可能性も考えて突入するか」
それじゃ、意識を切り替えて突入だな。まずは……先制攻撃を仕掛けられる前に、こっちが魔法で先手を貰うとしようかな。
――村の研究室――
「よしよし! この鉄モドキは魔力の伝達率が異常に高い!」
「まてまて! 武器の素材としても、かなり優秀だぞ! 見ろこの切れ味を!!」
黒く光る鉄のような鉱石の一番良い使い方を探り、自ら発見した性能を基にどの使い方に一番素材を使うか、その優先権を取るために成果を言い合う研究員。
一人は、魔力の伝達率が高いので、エネルギー輸送のための電線の様なモノにする為に使いたいと言い、もう一人は絶対武器にするべきだと言う。
どちらも必要な物なのだが、何せ現状だと総量が少なすぎる。当然、自分の研究を進めるためにも数が欲しい。
「今はこの鉱石を採ってきてもらう為にも、戦力の強化が必要だ! なら、武器にするべきだろう!!」
「いやいや、生活環境の改善だって必要です! 良い環境で生活すれば、身体と精神の回復も早くなり、最高の状態でダンジョンに挑めるはずです!」
そんな二人の言い争いが収まる事は無い。それ以外にも、新しい魔道具を作るのに使いたいと言う研究員も居て、もはや収拾がつかない状況になりつつある。
「はぁ……弟子達はどうしてこうも、優先権を取り合おうとするかねぇ……そもそも、その鉱石の使い方を決めるのはおぬし等じゃないじゃろ」
「師匠!? 居たのですか!」
「当然じゃろ。まったく……面白い素材があるのじゃからな。だと言うのにおぬし等は言い争いばっかりしよって」
「そう言われても……と言うか、使い方って如何するんですか?」
「当然……決めるのは師匠のワシじゃろ? 結弥が寄越した素材じゃしな!」
「し……師匠それは横暴ですよ……」
誰しも、この面白そうな素材を弄りたくてしかたない。それは師匠の石川とて同じだ。
そして、師匠である石川の一言で、この鉱石の使い方をどんどんと決めて行く事になった。
横暴だ! と言う弟子も居たので、上手い具合にバラバラに鉄モドキを配布する形でだが……。
しかし、彼等には思いもよらない未来が待っている。
黒い鉱石と同時に……赤色の魔石が送られてくる未来が直ぐ側に来ているからだ。
そして、また彼等は自分達が使う! と、言い争う事になるのは、誰でも予想できる未来だろう。
とは言え、そんな彼等のお陰で、面白い具合に様々な物が作られているのだから、何とも言えない話である。
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