百四十話
魔法の調査と言えば、一つ大きく変化を見せた方法があった。
自衛隊だった人達に教えてもらった方法なのだが、内容自体は単純で、魔法名を決めてそれを口に出すという方法。詠唱的な物もいるのか? と、思いはしたが、それは必要がないという話だった。
魔法名を口に出すことで、魔法の安定化や効率化や発動の速度が格段に上がった。
まぁ、口に出さないと行き成り発動してるように見せる事は出来るけど、魔法を使えるモノや魔力の流れを知る事が出来る相手なら、間違いなく何かをしようとしているのがばれる。どっちにもメリットとデメリットがあるって事だな。
「ただ、魔法名を言うのはそれを補うだけのメリットがあるんだよなぁ」
何せ、単純に魔法を撃つまでが早い。拍手一回分ぐらい違うんじゃないか? と思うぐらいには違う。
此処ら辺の理由は、魔法の発動について研究してる人がいるから、その内だが答えが解るのではないだろうか。
そう思うが、どっちみちだ。俺は使いやすくなった魔法を戦闘などで使う側だ。解ってる中で、より良い使い方があるなら、ソレを選んでいくだけだ。
今も実際、モンスター相手に二種類の方法で試しているが、どう考えても口に名前を出した方が良いからな。
それはそうと、そろそろボスの部屋だ。
この先も、一つ前の階層と同じで大広間になっている。となると、オオコウモリの群れの数が増えるのか、それともオオコウモリの上位が出てくるのか。
上位が出てきたとしても、お供のようにノーマルタイプも出てくるんだろうけどな。
さてさて、一先ず中の様子でも見ますか。
視力を強化して、暗い状態でも見えるようにするのは十六層と同じ。その方法でモンスターの存在を調べていくと、天井にオオコウモリがぶら下がっているのは変わらないが、なにやら地上にも動く物体を発見。
「なるほどね。地上と空中から同時に襲ってくるパターンか」
ここの広間は、オオコウモリにネズミのコラボという訳だ。しかも、お互いが敵対していない状態。なんとも面倒な状態だ。
パーティープレイをするなら、遠距離攻撃で空中のオオコウモリを牽制して、接近戦で先ずはネズミを倒していく流れなんだろうけど。あいにく俺は一人だからな。
「となるとだ……戦いかたはちょっと工夫が必要だな」
どちらにしても、開戦の為に広間に入らないといけない。なので、一歩広間に入ってから、モンスター達が俺に接近するまでの間に、壁を背にする為に素早く移動する。
「よし! 壁を背にしたら後は……火壁!」
自分の正面と横を塞ぐように、壁から半円状に火魔法で壁を作り上げる。
これで、ネズミの突撃はある程度防げるはずだ。まぁ、突撃してきたら焼ネズミの完成だからな。……食べたくはないけど。
そんな訳で、先ずはオオコウモリ達を先に処理して行く。風の魔法は十七層の道中で試してきたからな。此処は違う魔法にしよう。
とは言え、空中のモンスターが相手だ。風魔法が一番便利で効果が高いんだよな。とは言っても、今後空中を飛ぶモンスターで、風魔法に強い奴も居るだろう……試せるなら早いうちが良い。
「そう言う訳で……石弾・散弾型!!」
教えてもらった銃弾系魔法。それもショットガンタイプ。長距離では使いにくいけど、広間とは言えとんでもなく広いわけでも無いし、オオコウモリが群れている状態だからな、丁度試すには良い条件だろう。
打ち出された石弾達が扇状に広がりながら、オオコウモリ達を襲った。とは言え、地面に打ち落としたオオコウモリの数は三匹……ただし、そのオオコウモリ達の身体には石片が胴体や顔に突き刺さり、羽に至っては突き破っている状態だ。
「なるほど……大量に巻き込むことは無理だけど、威力はかなり大きいな」
落ちてないオオコウモリでも、多少のダメージを受けている奴等が居る。これはかなり便利と言えるな。
「さてさて、続いて……石戦輪!!」
グルグル回る石のチャクラム。と言うかこれ……刃状になって無いんだよな。どちらかと言うと石貨と言った感じだろうか。
高速回転する石貨を、飛ばし操作しつつオオコウモリに当てていく。
ぶつかったオオコウモリ達は、鈍い音を響かせながら次々と地面へと落ちていくが……これ、確実に打撃系魔法だな。とは言え、ぶつかった所で砕けたり消えたりしない石戦輪。これなら、石玉の魔法より使い勝手が良いだろうな。あっちは操作できず、ただ直線に飛ばしてぶつけるだけだし。
「まぁ、落ちたオオコウモリ達はスタンした状態で、まだ生きてるみたいだけどな」
そう言う訳で、操作している石戦輪を上から一気にオオコウモリ目掛けて落してみる。
落ちた石戦輪は、一匹のオオコウモリにぶつかると、そのオオコウモリをプレスし、その後は地面との接触後に砕け散った。
「あらま……障害物に当たると砕け散るパターンなのか」
とは言え、砕けた欠片もまた散弾ほどではないが、周囲に居るオオコウモリ達に降り注ぎ、ダメージを与えてるな。
そして、火壁はまだ消えていない。なのでネズミ達は突入できずに火壁の外周を、うろうろしている状態だ。これなら、オオコウモリを倒しきるまで十分に時間を稼げるな。
因みに、火魔法を使って何故平気なんだ! と言う話があるけど、これに関しては、魔法研究をしている時に聞いた話で、特殊な操作をする火魔法でも無い限り、粉塵爆発やら酸素を消費するような事には為らないそうだ。……うん、魔法って実に不思議!
まぁ、その特殊な操作ってのは、俺が風魔法で最初の頃やってた酸欠にさせたりする、科学ベースと言うべきだろうか、まぁそういったファンタジー路線じゃない、理論に基づく方法でつかった魔法の場合だと、何かしら起こる可能性があるって事だろう。
そういった話を聞いた上で、この火壁は魔法で魔力だけを変化させた魔法。それには酸素だろうが燃料だろうが必要ない訳だ。だから、爆発は起きない。
「なんて話を聞いて実行してるけど、ぶっちゃけよく解らないし、謎が多すぎるけど、便利だから良いよな」
物語ベースの魔法を調べていけば、敵と味方を選別して、ダメージを敵にだけ与えるとかも出来るかもしれない。科学ベースなら……敵味方関係なしに被害を与えるのは間違いないけど。
「さて、それじゃそろそろ仕上げて行くとしますか! 先ずは水玉乱れ撃ち!」
水魔法を使って、モンスター達が居る場所を濡らして行く。序に言うと、物語系の魔法であれば効果が切れたら水は消えてしまう……が、これは周囲の湿度から集めた水だから消えることは無い。
「続いて……感電でもしてろ! ますたー……じゃなくて、電玉!!」
濡れた地面に雷の玉を撃ち込む。
一気に電撃が濡れた地面を走り、モンスター達を襲っていく。だが……まだまだ、足らないので追加でドンドン撃ち込んでいく!!
「そら! 空中に残ってるオオコウモリ達も落ちちまえ! 電玉! 電弾!! 電弾・散弾!!!」
地面に電玉を落し、空中には電弾と電弾の散弾でモンスター達を襲っていく。
結果、空中に居るオオコウモリは、帯電しながら地面へと落ちていく。
地面を走り回っていたネズミ達も、濡れた地面を走る電撃により、次々と感電し倒れていく。
「やばい。魔法楽しい」
思わず口に出してしまうほど、魔改造されている魔法が楽しく感じる。とは言え、此処まで魔法が通じるのも、ダンジョンの階層と俺自身の強さが、現状だと俺の方に天秤が傾いているからだ。
もしこれで調子にのって、深い階層で同じ事をやったら痛い目をみるだろうな……きっと、魔法をキャンセルしてくるモンスターだって居るだろうしな。
とは言え、かなり大きい結果を魔法は出したわけだ。これは素直に喜ぶべきだろう。
後は……魔法と接近戦や鉄串などの狙撃と、どう組み合わせていくかだろうな。それに……まだ使ってない属性の魔法もあるからな。試すべきことはまだまだある訳だ。
っと、どうやらモンスターが全滅したみたいだな。火壁も少し前に消えたし、魔石と素材に鍵とボーナスの回収と確認をして、次の階層へと足を運ぶとしますか。
「ふむ……ボーナスは、バケツ? なんだこれ? とりあえず婆様に調べてもらうか」
中身は何も入ってないけど、こんな所でただのバケツが出るはずが無いからな。一体どんな効果を持っているのやら。
さてさて、ショートカットを開放して次の階層だな。次辺りは、面白い鉱石でも出てくると良いんだけど。
――村とダンジョンの間にある街――
「いやいやいやいや! だからな! 魔法の新しい境地がだな!」
「はいはい。その話は何度も聞きましたよ。もう、酔いすぎですよ?」
酒場で管を巻く男と、それを嗜める女性。男の方は先日、ダンジョン前の拠点側の森にて、魔法研究に参加していた男だ。
そして、女性の方は街で周囲を警戒任務についていた為、その魔法研究には参加していなかった。
「そんなに面白かったの? 他にも同じような話をしている人もいるし」
「おう! いやな、まさか工具から魔法のヒントを出すとか思わなかったぞ!」
「丸鋸だっけ? ……使えるの?」
女性の方もまた、魔法には十分に理解がある口だ。何せ彼女もまた、元々は自衛隊に所属してダンジョンに潜り、魔法を駆使していた人物だ。
「最初は全くと言った感じだったがな……全員で意見を出したら、これがまた化けたんだよ」
「へぇ……それはそうと、勿論教えてくれるわよね?」
「お……おう。勿論じゃないか」
使えると聞き、壮絶な笑みを浮かべ男に言い寄る女性。お願いはしているが、それは言い方だけで、暗に教えろ! と言う命令をしている。
そんな女性の雰囲気に押され、自慢のつもりだけだった男は彼女に教える約束を取り付けられてしまう。
その返答に、喜び笑みを見せる女性に男も、まぁ良いかと言った雰囲気で、実に楽しそうな空気を作り出しているのだが。
そして、そんな二人の様子を見る者が一人……。
「はぁ、外で活動でき、かつあんな風に笑って話せる状況が出来たのは良いけど……なんで、俺はこんな状況なんだ」
彼自身は、村との交流を如何するかという時に、食料を奪えば良い、利用するべきだ! と、訴えていた男だ。
そして、その結果。村側とは余り関わらない様にと、街内の仕事を割り当てられたのだが、本当なら自分もダンジョンに潜ったりしたい! と、そんな気持ちが渦巻いている。
そんな中、村側の魔法が使える人物(結弥なのだが、この男は知らない)との交流にて、魔法の研究が楽しかったと、そんな話が聞こえてきたのであれば、それはもう男にとって羨ましい以外なにものでも無い。
「いや、うん。あの時は生存が掛かってたからな、今となってはと思うけど、あの時の状況だけで言えば、間違いでは無かったはずだし……あぁぁぁぁぁもう!」
彼は望んでいる……魔法を! もっと高みに上がれる魔法の研究を!! 俺にもその内容を教えてくれ! っと。
しかし、彼は当時勢いに任せすぎたため、周りの人に少し距離を置かれている状態だ。何時か爆発するんじゃないか? とか、危険な思考をしてないか? と様子を窺われている状態と言っても良い。
「……はぁ、自業自得なんだろうけど、どうしたもんかなぁ」
ただし、周りの人もまた気が付いていなかった。実は、彼はただの魔法馬鹿だと言う事を。浪漫を求め、効率なんか無視した魔法から、実用性に及ぶ魔法が大好きだと言う事を。
そして、その研究や実験さえやらせておけば……無害な人間だったと言う事を。
そう、彼は……魔法の研究が出来ずストレスをためすぎて、リーダーである守口に噛み付いただけだったなんて事は……誰も気がついて居なかった。
結果、彼と彼の周りでは、悲しいすれ違いが起きているのだが……。
「よし……此処は、俺が一歩踏み込んでいくべきだな! 魔法の為に!!」
彼のこの決断が、また面白い方向へと転がることだけは間違いがない。
ブックマーク・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!!
主人公やその周囲がじわじわと、魔法についての理解を少しずつ深めていきますよ!
ぶっちゃけ、ただの便利ツールなんですけどね。
因みに、作品にギャグのタグ入れてるけど、今、無意味なんですよね……ギャグパートって掲示板だけですから。




