百三十八話
ダンジョンを出てからイオを捕まえ、速達で鉱石とポーションらしき小瓶を村に居る婆様に送ってもらう。
「よし、イオ大至急で調べて欲しい物だからな……頼んだよ」
「ミャン!!」
「解ってるって、戻ってきたら美味しい食べ物とブラッシングだろ?」
「ミャ~」
定期便じゃない配達だからな。イオが好みそうな食べ物でも準備しておくとしよう。
イオに配達を頼んだ後は、協会に行ってから魔石や素材を提出し、ダンジョン内で見たモンスターについて、危険だなと思った事を伝えておく。
「なるほど……小型ネズミのような声で鳴いて、実はかなり大きいネズミ型のモンスターですか。確かに、地上に居たら危険ですね」
「オオコウモリ型のモンスターも居たので、これも地上にいたら結構面倒かもですね」
「……疫病とかを持ってなければ良いのですけどね。守口さん、そこら辺はどうなんですか?」
「ダンジョン内で疫病は聞いた事が無い……が、地上に出たらモンスター達も変質するだろう? だとすると、どうなるか解らんな」
「相手はネズミや蝙蝠ですからね」
「現状だと、村からダンジョンまでの間にその姿を見てないので、大丈夫だとは思いますが……注意勧告はしておきましょう」
今潜ってるダンジョンで、雀蜂型のモンスターを見た事が無い。と言う事は、このモンスターは別のダンジョンから飛んで来た可能性が高い。
だとすると、このダンジョン以外にも、ネズミやら蝙蝠が居て……其処から移動してくる可能性は十分にありえる。
というか、雀蜂型のモンスター以外で飛行できるタイプが、今の所姿を見せてない方が逆に不思議なんだけどな。もしかしたら、ダンジョンから出た後、すぐに優秀な狩場でも見つけたのかね。
「まぁなんだ、街にあるモンスターやダンジョンのデータは完璧ではないが……再度精査しておくとするか。中には遠くまで移動する奴等がいるかもしれんしな。後は地上に出た後、変質したら面倒になりそうなタイプもか」
「物の見方を変えて調べたら、何か発見があるかもしれませんからね」
再度調査か……とは言っても、データが完璧じゃないのか。まぁ、機密扱いは多かっただろうし、部隊別や地域、それこそダンジョン別に監理してた内容もありそうだしな。
となると、他の街に足を運んでデータを調べたくなるけど、まぁ、そこら辺は上の判断に任せるしかない。……此処から少し行った場所にもう一つ街があるんだけどね。其処については如何するつもりなのやら。
さてと、協会での会話も切り上げたので時間が余った。まだ、日も高いので再度ダンジョンに潜っても良い気はするけど、ショートカットの階段……少し面倒なんだよなぁ。何で転移陣見たいなのが無いんだろう。
「まぁ、ちょっと色々と魔法を試したいし、少し広いところで実験でもするか」
魔法に関しては気になってる事が合ったからな。
何せ、見よう見まねで使った風の刃は、魔力効率が凄く悪かった。そして、その風の刃よりも広範囲で効果を出したドームは、魔石を使ったとは言え、効率は悪くなかった。
このドームは、確かに守口さんに色々と聞きはした。それでも、此処まで差がでるとはな。
数値的にいうならば、風の刃が魔力を五十消費して一匹相手に百のダメージと仮定するなら、風のドームは魔石一つと魔力五十消費して、長時間の間十メートル四方の範囲に居る敵を、強制的に閉じ込める魔法だ。しかも、風でその範囲よりも外に居る敵すら、巻き込む可能性もある。
「恐らく改良に改良を重ねた結果なんだろうけど、同じ量の力を使ってこれだけ差を出すとか、魔改造しすぎだよな」
ただ、同じように色々と改良していける実例と言える。なら……色々と試したくなるのは当然だよな。
「とりあえずだ……威力重視の魔法かな」
今までだと、拳ぐらいの大きさからドッジボールぐらいの大きさで固めた、風やら土の球体を飛ばしてたけど、別にこの方法に拘る必要も無い訳だ。まぁ、魔法を使った時、最初に出来た形だったから、そのまま使ってきただけだしな。
だとすると、如何いう形が好ましいのだろうか? 造詣やらサイズやらを変えながら、威力や魔力効率に効果範囲などをドンドン調べていく。
そして、そんな事をしていると、街から出向して来ていた人達が、なんぞや? と言った感じで俺の方に集まってきた。
「白河君……魔法で遊んでいるのかい?」
「あ……こんにちは。遊んでると言うか、色々威力やら効率を調べてるんですよ」
「あーなるほど! 確かに、自衛隊でもソレをやってたよ。いい年のおっさんたちが、それはもう楽しそうに色々試してたなぁ」
「なる程。だから、あの風のドームみたいな効率の良い魔法が出来たんですね」
「そうそう! あれ便利だろう? 一箇所に纏めて、魔石爆破でドーン! モンスターの群れ相手に消費魔石は二個で済むからね」
ふむ、中々良い話を教えてくれる人だな。これは、他にも色々と改造されている魔法があるかもしれない。
「それじゃ、攻撃的な魔法とかはどうなんです?」
「攻撃かい? そりゃドームを風じゃなくて火でやるとか……後はそうだね、面白い人だと銃弾魔法とか言ってたのもあったかな」
……銃が使えないから、魔法で銃弾みたいなのを作って攻撃してたのか? とはいっても、魔法の範囲とか色々考えたらどうなんだろうか。
「そうだね。確か球体系の魔法を圧縮して、貫通力を上げたって改造したやつは言ってたな。魔玉を椎の実状に変化させて、モンスターの皮を貫通させる……その後は属性次第で色々変化がある。まぁ、そんな魔法だよ」
なるほど。火魔法とかでやれば……モンスターを体内から焼くとか出来るのか。効果・威力・魔力効率を考えるとかなり良さそうだし、ダンジョンで狭いタイプのフィールドなら、かなり使い勝手が良いかもしれない。
「他にも馬鹿みたいに魔力を喰うのに、浪漫だ! とか言って開発してた人も居たよ。魔法剣だ! って言いながら、常時魔力を放出しっぱなしって言うね。まぁ、その分威力は高かったけど」
……研究班みたいな人いたんだ。ただ、残念な事に魔道具化しなかったようだ。純粋に魔法だけで再現しようと思ったら、あれは直ぐにガス欠になるだろうからな。
「そういえば、魔法剣を作れる道具の試作品を君は運用テストしてるらしいね。……アイツが聞いたら悔しがるだろうな」
目の前の男の人が楽しそうに笑う。旧知の仲だったんだろうか。今此処にいないって事は、大崩壊の際に違う場所に編成されたか……それとも。うーん、聞かないほうが良いかな。
「魔法剣の魔道具は、俺が魔法を武器と併用? 付与? して使ってるって聞いた、研究者の一人が作ったんですよ。まだまだ改良点があるので、配備できるまでは長そうですけどね」
「なるほどね。確か高品質の魔石も必要なんだよね。となると価格も高くなりそうだなぁ。っと、今はお金なんて使えないか!」
「ですね。あの当時に出ていれば、それこそ億単位は行ったんじゃないですか」
「かもしれないね。いやぁ……浪漫武器! 早く使ってみたいよ」
他にも色々と開発してるので、楽しみにしていてください! と、言いたい気はするけど、このマナブレード以外は今の所、公言されてないからな。
まぁ、マナブレードが公言されている理由は簡単で、研究班の武器でこんな感じのを作ってますってアピールだ。勿論村じゃなく街側への。そうする事で、村側に魔石を大量に送る理由が出来る。まぁ、完成すれば、街側にも武器が送られる訳だから、街としても損はない。
結果、この男の人のような発言が出てくる訳だ。
「そうそう、魔法に関してだけどね。現実的な物の動きを考えて改造すると割と良い結果になるよ」
「物の動きですか」
「うん、どうやら魔法に使ってる魔力も例外じゃないみたいでね。しっかりと流れと言うモノがある。それにそって考えると……あら不思議、効率よく威力が高い魔法になるって訳だ」
物の動きね……人が小さい力で大きい力を出す方法と言えば、上から落す? 転がす? 他の力持ちにやらせる? 此処ら辺が一番簡単なやり方だろうな。
まぁ、上から落すだと一度持ち上げる力が必要だ。とは言え、オオコウモリ相手にやったのは似た様なモノか。上から自分の力を足しながら他の力を落して倒したわけだし。
転がすだと、回転か? あぁ、だから銃弾魔法やらドーム魔法なのか。この二つは間違いなく魔法を回転させて効果を生んでる。
逆に、同じように魔改造した魔法剣は……どちらかと言うと、ホースを摘んで一気に水を出す感じだから、効率はとんでもなく悪い。恐らく、風の刃を飛ばす魔法もこれと同じ原理だろうな。
「……なにかつかめた気がします。ヒントありがとうございました!」
「なに。白河君には色々と手を貸してもらったからね。少しでも返せたのなら良かったよ」
良い人だったな……って、相手の人は俺の名前知ってたから、其のまま会話しちゃったけど、相手の名前聞いてなかった!! うん、今度あったらしっかり聞いておかないとな。
さて、ヒントは貰った。というか、既に使える魔法を幾つか聞いてしまった気もするけど、どうせならオリジナルを作ってみたい。うん、男なら仕方ないよね。おっさんたちが嬉々としてやるぐらいだしな! しかし、どんな魔法がいいかな。
あー……効率よく……道具? うん、銃をイメージしたりして作ったって言ってたし、何か道具からヒントをとれば良いのか。なら……工具だな! よし、どんどん試して行くとしますか!
――村の研究室――
「あぁ、忙しい忙しい!」
あちらこちらで忙しいと、動き回る研究者達。それもその筈で、つい先ほどイオからのお届け物が届いたばかりだ。
「結弥もまた面白いものを送ってきたのう」
ここの長である老婆の石川が、結弥がイオに届けさせた素材をみて、それはもう楽しそうに笑う。
届いた物は、鉱石と液体の入った瓶。ただし彼等は知っている。結弥がそこら辺にあるような代物を送ってくるはずが無いと。
「師匠! この鉱石、魔力反応が有りますよ! 分析結果だと、鉄鉱石に限りなく近いんですけど!」
「なる程、鉄でありながら魔力を含んでおるのじゃな。本当面白い素材を大量に送ってきたのう」
「こちらの瓶は、魔力含有量からして中級ポーションクラスかと」
「ほうほう。中級が出る場所まで潜ったと言う事じゃな」
「となると、武器の開発速度も上げないといけませんね……そうだ! この鉄? を使った武器ができるか色々試しませんか?」
「ほう! それは面白い結果になりそうじゃな! よし、やれ!」
送られた鉱石を、まるで新しい玩具が与えられた子供のように、あれやこれやと弄繰り回す。
このテンションだ。恐らく彼等はまた、不眠不休で色々と造り上げていくだろう。とは言え、それは彼等が望んで楽しんで居る事だ。けしてブラックという訳じゃない。
なにせ、彼等に「少しは休め」と言えば、「何てブラックな事を言うんだ! 俺達は、新しい素材で遊んでるんだぞ!」と返ってくるのだから。
それに、その結果。村の防衛や探索者達の装備に、食料の安定化が出来ていくのだから、誰も彼等を止める事は出来ない。
何にせよ、今日も今日とて研究者達の宴は終らない。
「師匠! 鉄と魔粉を混ぜたら……色が変質しました!」
「何!? どうなった!!」
「赤色になり、熱をもってます!」
なにやら、発見をしたようであるが、これがどう使われるのかは彼等の開発次第だ。
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