百三十六話
ダンジョンへ潜る為に拠点を出て移動していると、同じようにダンジョンに向かう美咲さんと合流した。
折角なので、移動を共にしながら現状を聞いてみると、ソロで九層までクリアしたらしく、ソロ攻略ボーナスで魔本が二冊ほど手に入ったようだった。
「まぁ、解読作業が必要だから、今はまだ魔法使え無いんだけどね」
「あー……確かに解読作業って時間が必要だから」
この、解読に必要な眼鏡はソロで攻略した人の中で魔本を手にしていると、次のボーナスで必ず出ると協会で話題になっていた。たまに、魔本より先に出るパターンもあるらしいけど。
その為に、解読が出来ない! と言う人は居ないようで一先ず安心だろう。もしでないとなったら、婆様に貸し出してるモノクルが必要になってくるからな。
「あ……そういえば、自衛隊や警察ってどうやって解読してたんだろう。ボーナスで出ないとなると、宝箱とかドロップ品として出てきたのかな」
「眼鏡が無いと、到底解読なんてできないよね。運よく手に入れたんだろうなぁ」
やっぱり、ソロボーナスはでかいって事だよね。解読用眼鏡が確実に手に入る訳だから。さらに、あの眼鏡は魔力の流れとかも見れるから、研究班が様々な事に使っている。
もっと数が欲しい!! と言っていたので、魔本の解読が終った人達が研究班に貸し出すようになるだろう。そうすると、今までは一つだけだったので、モノクル待ちだった研究が一気に動き出す。うん、どんどん新技術が出てくる事になりそうだ。
序にという訳じゃないけど、魔本の写しも入谷さんに頼んでおいた。どれだけの人がやってくれるか解らないけど、魔力を込めて書くパターン以外の二つ、其のまま写した物と解読した物のニパターンだ。
一応、〝火〟と〝中級〟と〝派生〟は俺がやったけど、それ以外の〝風〟〝水〟〝土〟〝身体強化〟〝回復〟がやっていなかったので、ソレを伝えておいた。きっと、お人よしの人が手に入れ次第やってくれるだろう。
美咲さんにも頼んでおいたので、〝火〟が被らない限り、二つは手に入るはず。
さて、何故こんな面倒な事を頼むかと言うと、解読時間の短縮の為だ。まぁ、もしかしたら魔本が手に入らなくても、魔法が使えたら良いな? と言う希望はあるけど、その希望自体は其処まであてにはしていない。
個人で解読をするよりも、既に解読済みがあるならそれを読んだほうが早いからね。後の為にってやつだ。
「先に読んでおけば、魔本が手に入った瞬間に魔法が使えるようになりそうだもんね」
「そうなれば良いなって事で、解読書作ってるんだけどね」
魔本のメカニズムは殆ど解明されてないけど、解っている事が、魔本を読み上げ理解する事によって、魔本が消えるというか、恐らく魔本を取り込む事で、魔法を使えるようになる。
パソコン風にいうなら、俺というハードに魔本というソフトをインストールして使えるようにする。といった感じかな。
何か、魔本を取り込まずとも魔法を使えるようにする横穴破りな方法もありそうだけど、そこは写した本や被りが出た後に研究者達にでも頼むしかない。
そんな話をしていると、ダンジョン前へと到着。此処からは美咲さんと別れて、自分達の攻略している階層へと移動する。
「そういえば、ソロでまだまだやっていける? 割と多数の群れやらで出てきてると思うけど」
「色々特訓してもらったからね! イオちゃんにもしっかりと合格を貰ったから大丈夫だよ!」
俺が美咲さんの訓練にと、イオとの鬼ごっこやらをやらせていた。鬼ごっこと遊び風には言ってるが、内容は森のサイレントキラーと言えるイオの襲撃から逃げる事だ。難易度は非常に高い。
そのイオからお許しが出たって事は相当な地力をつけているはずだ。
因みに、ソレを知った入谷さんや守口さんが訓練に取り入れていたが、其処から更に派生して、今ではソロで潜る人は必ず受けなくてはいけない必修科目となった。……これで、イオからお許しが出ないと、ソロでダンジョンを潜れないという訳だ。
「そっか、まぁ今は十五層までデータが有るから、それをしっかりと確認してから潜りなよ」
「うん。十層のデータはしっかり読んできたから! それに、予習して無い階層には足を入れないよ!」
彼女も何時かは未知の領域に足を踏み込む事になるかもしれないが、今はまだ地力をつける為の期間だからな。だからこそ……。
「情報を覚えたのは良いけど、しっかりと違いがないかとか、書かれてない場所に何か無いかは調べるようにね?」
「うん……其れが出来ないと、イオちゃんの襲撃からは秒殺でやられちゃうよ……」
あぁ……森の中で、音や空気の流れやら木々の揺らめきやら、なんでも情報を収集して即座に判断できないと……まぁ、イオは遊びでやってるから手は抜いてるけどな。
イオはなぁ……鬼ごっこをする時、相手が気がつくかどうかのぎりぎりのラインで襲撃をしてるからな。だから、わざと木を揺らしたりしてるんだよな。
まぁ、地力が上がってくるとソレにあわせて、難易度を上げていってるみたいだしな。
「ま、それなら大丈夫かな? 十層がんばってね」
「うん! がんばってくるね!」
さて、こっちは十六層を頑張りますかね。
十六層に入って周囲を確認は……うん、確認する必要が殆ど無いな。何せこれは完全に坑道だ。というか、廃坑? 木を使って天井を支えて、道が一応整備されている感じだ。
「まぁ、地面にトロッコのレールとかは無いみたいだけどな」
灯りらしき物も無い。というか、ダンジョン内でなぜこんな人工的な場所が用意されているのか。
問題はどんなモンスターが沸くかだろうな。何せ坑道だ。道は狭いし崩落の危険だってある。
「あー……折角火の魔法覚えたのに、此処じゃ使いにくそうだな」
粉塵爆破でもされたら、たまったものじゃない。というか、これだけ狭いと魔法自体使い方が限られてくるし、長物も使いにくいか。
先ずは先に進むとしてもだ、坑道と言う事は少し期待したい部分もある。
それは、ファンタジー的な鉱石だ。ミスリル・オリハルコン・ヒヒイロカネ……まぁ、此処ら辺は地球の神話やら物語に出てきた名称だが、モンスターやら魔法など割と定番のが出現している状況だ、鉱石だって出てくる可能性はある。
とは言え、ダンジョン坑道ではあるが、此処は階層が低い。流石にオリハルコンだとかヒヒイロカネ的な物は出ないだろう。
「まぁ、魔法金属的なものが見つかると良いんだけどね」
恐らくだけど、あのリングやモニュメントは魔法金属で出来ている物のはずだ。金属的な物だったのは間違いないからな。
そして、これは予想の範囲だけど、魔物素材を使った武器。今までは地球産の普通の鉄などを使ってた訳だけど、もしその金属がダンジョン産の魔法金属ならば……効果が上がるのではないだろうか?
そして、婆様達研究者なら、モニュメントやリングの様な物を作れるのではないだろうか?
上手く行けば、ただの魔物素材を使った壁じゃなく、結界的なものを発生する壁とかも出来るかもしれない。
「だとするなら……掘るしかないよねぇ?」
坑道の中を移動しながら、魔力反応が強くでる壁を探す。魔法金属と言う物があるとすれば、当然魔力探査に引っ掛かるはずだからな。
そうして移動していると、キーキーと不快に感じる鳴き声がしてくる。
確認のために、鳴き声がある方向に視線を向けると……うん、馬鹿でかい蝙蝠が上から逆さまにぶら下がっていた。
「うっわぁ……昔画像でみたオオコウモリぐらいのサイズだな」
一メートルより少し大きいぐらいかな。というか、ここ狭いのに何でこんなでかい奴が居るんだ? 羽広げたら一杯一杯どころか、広さが足らないよな。
「キィィィィィィィィ!」
オオコウモリが鳴くと同時に、軽く羽ばたく。そして、一瞬の内に奥の方へと去って行った。
「……なんだったんだ? というか、なんかロケットみたいに飛んで行ったよな」
一度羽ばたいたオオコウモリは、その後羽をたたみ、ミサイルの様に飛んで行ったんだけど、あれ……魔法かな? 中級魔法なら空を飛べる可能性があるのだろうか。あ……羽が無いと無理かな。うん、少し実験はして見たいが、今はダンジョン探索だ。
魔力をサーチしてみると、高速で移動する物体が引っ掛かるが、これはさきほどのオオコウモリだろう。なにか一直線に何処かへと向かっている。
他に引っ掛かる物は……モンスターは恐らく当分いないだろうな。あのオオコウモリが飛んでいった事で、なにやら散っている雰囲気だし。
鉱石関連を調べると、少し引っ掛かる場所を発見。
「さて、オオコウモリを追うべきか、鉱石の方に行くべきか……」
どうやら坑道も、一直線だけでなく所々で別れ道がある。そして、その一つにオオコウモリが飛んで行ったんだけど、鉱石の反応がある場所は其処と違う場所。
ただ、オオコウモリを追うのは少し嫌な予感もする。何故アイツが一匹だけで居たのだろうか? 蝙蝠って群れで行動するはずだよなとか、先ほども考えた通り、何故こんなオオコウモリに分が悪い場所に居たのかとか。
これ、知能が発達している奴だったら、敵をおびき寄せる為の囮じゃね? って、そんな感じがして仕方が無い。予感が当たれば、追いかけて行った先に大量のオオコウモリが居て、俺の姿をみたら一斉攻撃だからな。
「モンスターが人間相手に釣りか……思惑通り行くのもしゃくだよな」
なら、迂回した方が良いだろう。正面戦闘が好きって訳でも無いからな。
先ずは、反応があった鉱石の方に向かってみるか。とりあえず、内部も複雑になってる可能性もあるから、しっかりとマッピングと来た方向に印をつけて行かないと。
さてさて、一体どんな物が手に入るのやら。そういえば、散った魔力反応も何が居たのか。調べる事が一杯ありそうなフィールドだな。
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