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百三十四話

子供は村の宝です!

 協会からの呼び出しを受けたので用件を聞きに足を運ぶと、其処には品川さんや爺様達が待機していた。


「呼び出しを受けたので来たんですけど、皆さんお揃いで何かあったんですか?」

「こんにちは。何かあったと言うより、前に君が言ってた危機意識の向上についての話よ」


 あぁ、モンスターに対する子供たちと言うか、戦闘が出来ない人達の意識が、微妙にずれてる気がするって言うあれかな。

 お浚いをするとだ、実は戦闘をしている人達以外だとモンスターを見てる人が殆どいない。元から村に居た人達だと特にだけど、大崩壊の時も直ぐにシェルターに逃げてもらったからな。その後のオーク達による侵攻時も、避難誘導を真っ先にした。

 シェルターから地上に出るときも、先ずは俺達が地上を整備してから出てきてもらったので、当然モンスターを見ている人はいない。その後は壁も出来てるからね、見る機会なんて無い状態だ。

 それ故に、俺達が今の所負けたなんて話も無いので、割と楽観的に考えてる人が少し増えている。何かあっても、協会が何とかしてくれるだろう、訓練を受けてる人もいるから大丈夫だとかそんな風にだ。

 そして、その中でも少し問題なのが戦闘訓練をした人達。まぁ、主に中学生から高校生ぐらいの子に多いんだけど、自衛の為にとか咄嗟の判断で直ぐ逃げれるようにと教えているのに、俺達も戦える! なんて思ってるタイプが増えてる訳で。


「確かに身体能力とか上がってますし、軽く訓練も行なってるので少し自信がついてるんですよね」

「男子だと特にその気が見られるからな。気をつけないと……あの事件の二の舞になるぞ」


 あの事件か……忘れるなんて出来ない内容だよな。ダンジョン公開の当日に高校生達が沢山犠牲になった訳だし。うん、確かに今の状況だと似た空気になりかねない。違うとすれば、その変な自信を持っている大人が居ないのが救いか。


「まぁ、大人は良いんだけどね。絶対モンスターなんて見たくない! とか、戦う前に逃げる! そんな判断の人ばっかりだから」


 聞くだけだと酷い大人だと思うかもしれないが、其れが正しいんだよね。分を弁えて、戦えないならサポートをする為に、先ず安全な場所に行く。そして、安全な位置で飯炊きやら武具の整備やらをしてくれるんだ。しっかりと出来る範囲の事をしてくれてる。


「問題は戦いたいって言ってる子が増えてるのよね」

「この間も協会に来て、狩りに行きたいって言ってる子が居たな。まぁ、その時は嗜めて帰らせたがな」

「村には壁があるから、簡単に出れないけど……何か行動起こす子も出てくるかも」


 あの時、ダンジョンに潜った経験がある高校生だった人も、年齢でいうならもう高校を卒業している。

 なので戦いたいと言っている子は、ダンジョンの中を本当の意味では知らない世代の子。


「そこで! 前に白河君が言ってた、安全にモンスターと戦う所を見せるって言うのを、協会主導でやろうって話になってるのよ」

「で、俺が呼ばれたって事は、そのテストケースについていけって事ですか?」

「そう言うこと。君や君のお爺さんが着いて行けば、大抵の事は何とかなるでしょう? 他の人も当然護衛として出すけどね」

「なるほど。で、最初は誰を連れて行くんですか?」

「それはのう。ゆりちゃんとゆいちゃんが良いじゃろ? 二人ならワシや結弥の動きを知っておるしのう」

「爺様……それでいいの? 確かに二人なら、動きとかから見ても問題ないと思うけど」


 とは言え、俺としては少し不安と言うか、気になる問題があるんだけどな。

 まぁ、狩りをする人達は別みたいだし、俺達は護衛をしっかりとやれば良いから問題は起きないと思いたいけど。


「二人以外にも後二名ほど居るから、そこら辺の護衛計画は任せるわよ」


 四人の護衛計画か。まぁ、俺と爺様に狩猟に出ている人達も着いて来てくれるみたいだから、人数的には大丈夫だと思う。

 とりあえず、護衛対象を囲むように……なんだっけ、確か輪形陣? あれで進めば大丈夫だろう。




 護衛する人達と実際狩りをする人達で集まり、如何いう風に動くか話し合いをし流れを決めて数日。とうとう、モンスター討伐見学をする日になった。


「ゆりとゆいは大丈夫か?」

「大丈夫だよ! いざとなったらこう……槍でモンスターさんをブス! ってやるから!」

「あー……うん、兄さん大丈夫だよ」


 あーやっぱりか、ゆいは調子が良いのはいいけど、問題はゆりだな。しかし何でゆりを入れたんだ? ゆりはモンスターの脅威を知っている。今も少し緊張しすぎでテンションが低い。


「ゆりは本当に良かったのか? 駄目なら行かなくても良いんだぞ?」

「……そこはほら、ゆいが行くから」


 姉として行かないとって所か? 俺が居るから大丈夫だと言いたいけど、本人が行くって言ってるからな。とりあえず、ゆりに関しては要注意で見ておかないと。


「爺様……あのさ」

「解っておるわい。じゃがの? いざという時に動けなくなるのも問題じゃからの」


 あー……うん、爺様は理解して今回ゆりをメンバーに入れたのか。とりあえず、フォロー出来る内にって事なんだろうな。恐らくだけど、当時ダンジョンに潜った事がある高校生だった人達を、連れて行っても良いかのテストでもあるんだろうな。

 さてさて、万全の態勢を整えて事に挑むとしますか。




 護衛を固めつつ村を出て森の中へと入っていく。狩りをする人達は先行して獲物を探しているので、俺達はその後を追うだけで良い。


「お兄ちゃん。一体なんのモンスターさんが居るの?」

「ん? あぁ、此処ら辺だと熊や猪に狼かな。熊や猪は良く食卓に上がってる肉になるな」

「お肉さん! それじゃ、今から狩るモンスターさんもご飯になるの!?」

「ま、そうなるだろうな」


 ゆいの質問に答えると、周りの子達も猪は美味しいとか、熊は硬いだとかそんな話をし出す。そんな中、やっぱりゆりだけは少し表情が暗い。

 たまにゆいに声を掛けられ返事をするが、どちらかというと上の空と言う感じで、生返事ばかりな状態だな。


「むー、お姉ちゃん大丈夫? さっきからお返事が変だよ?」

「あー……うん、大丈夫大丈夫」


 大丈夫……ね。ゆりは確かにモンスターにやられた経験から、自衛の為にと訓練をしっかりして来た。弓の扱いもかなり上達している。

 ……ただ、ゆりは元々、弓を扱ってはいない。ダンジョンに潜った時も接近戦の武器を使っていたと聞いた。

 なので、何で弓を持つようになったのか聞いた時に、「ほら、美咲お姉さんのテクニックみたら使いたくなった」って言ってたけど、本当の理由では無いってのが俺と爺様の見解。

 腕やられたトラウマから来る逃げたいって恐怖心と、ゆいのお姉ちゃんだから、自衛の為に力が必要だからと言うシーソー的な心理状態の中で、モンスターの近くで戦わず攻撃が出来る武器を選んだ。


「別に戦う力を手に入れる道を選ばなくてもいいのに……」

「ん? お兄ちゃん何か言った?」

「いや、そろそろモンスターを発見した頃かなとね」


 思わず口に出てしまったか。まぁ、ゆいには聞こえてなかったみたいだな。

 まぁ、ゆりやゆいが戦う必要は無いからな。別に婆様に弟子入りして開発の道に進んでも良いし、村で農作業やら協会の事務や受付、奥様方が集まって行なってる、食事やら裁縫やらの仕事をしたって良い。

 なのにどうして二人とも武器を手にしてるんだろうね。……俺の所為かな? まぁ、今回の見学で少し色々と考えてくれると良いんだけどな。


 そんな事を考えていると、前方から狩猟班の人が一人此方へと走ってきた。


「モンスターを見つけたぞ! 相手はウルフだ!」

「了解。直ぐ近くか?」

「おう、もう直ぐ見えるからな! しっかりと護衛を頼むぞ」

「誰にモノを言って居るのじゃ? ワシ等が護衛をしておると言うのに、ウルフ程度で出し抜かれる訳がなかろう?」

「ははは! 確かにその通りだ。それじゃ、俺は戻るぜ」


 彼が言って少ししてから、目の前にウルフの群れと狩猟班の人達が目に入って来た。


「良いかの? 四人とも。あれが狼型のモンスターじゃ。奴等は群れを成して、チームで狩りをしておる。気を抜くと……後ろに回られガブリ! とやられるぞい」


 爺様の説明に、妹以外の二人が青ざめ出す。何せ、爺様の説明通りにウルフが狩猟班の後ろに回って、其のうちの一人に飛び掛ったからだ。……まぁ、態となんだろうけどな。恐らく爺様の説明が聞こえていたんだろう。論より証拠を見せたほうが良いと判断して、そのシーンを見せたんだろうな。

 そのウルフの奇襲に、何とか気がついて避けたって演技までしてくれたけど……叫びたいな。この大根役者が!! って、凄くわざとらしすぎるよ。


「……っと、まぁ、アヤツハ気ガツイテ避ケタヨウジャガナ。あんな風に奇襲をしてくる奴等もおる故、ウルフと言うのは注意点が多いのじゃよ」


 ……思わず爺様もその演技に対して、ズーフみたいな片言になってしまっているな。まぁでも、ハッタリにはなったのだろう、意気込んでいた男子がかなり気を引き締めて話を聞くようになった。まぁ、ゆいも少し色々考えているみたいだ。

 そんな中、ゆりが異常事態に陥った。


「あ……あ……」

「ゆり! 今は大丈夫だ! 周りを見ろ!」


 焦点が合わなくなった目をしながら、自分の義手になった手をもう片方の手で握っている。フラッシュバックでもしているんだろう。そういえば、ダンジョンもウルフだった……そして、このタイミングで起こるって事は、今見たシーンはゆりがやられた時の再現だったのかもしれないな。


「良いか! 今は俺も爺様も居るんだぞ! それに戦ってるのは別の人達だ! 解るか!? 今は安全だからな!」

「でも……だって……腕が……」

「爺様、周囲の警戒と護衛任せた! 少しゆりにかかりっきりになる」

「こっちは任せるのじゃよ」

「お兄ちゃん!! お姉ちゃん大丈夫!?」

「ゆい落ち着け! 今は爺様の側に居るんだ。いいね?」

「う……うん」


 恐らくこれで周りは大丈夫のはずだ。うん、いっしょに連れてきた他の二人には悪いが、これがモンスターにやられるって事だ。青ざめながら様子を見てるけど、君らの勝気の先にはこうなる運命だってあるんだからな? よくよく覚えていて欲しい。

 っと、それは他の人に任せて、今はゆりだ。


「良いかゆり。ゆっくり深呼吸するんだ。お兄ちゃんが側にいるからな? 爺様だって側で安全を確保してくれてるんだぞ? 何も怖いことなんて無いだろ?」

「……でも、兄さんの言う事……聞いて……」


 あー……それも引っ掛かってたか。確かにあの時止めてたのを聞かずにだったからな。


「それはもう話し合いをして済んだことだろう? それに、ゆりは立ち止まるのが嫌で訓練してきただろ? 左手を良く見てみろ何を握ってる?」


 弓を出して、ゆりにしっかりと握らせる。うん、後だしだけどまぁいいだろ。


「ゆ……弓?」

「思い出してみな? 一杯俺やゆいや爺様と模擬戦しただろ?」

「う……うん」

「じゃぁ、後は簡単だ。ほら弓を構えて」


 後ろからゆりの体を支えつつ、一緒に弓を握って矢を番える。目線で狩猟班に合図をして、一匹だけ上手くウルフを誘導してもらう。

 其処から、ゆりと一緒にウルフに狙いを合わせながら、ゆっくり弓を引いていく。


「良いか? 狙いは大丈夫だからな」

「う……うん」


 矢を放つ。飛んでいった矢はウルフの眉間に突き刺さり、一発で仕留める事に成功。……少し出来すぎな気もするけどな。


「出来ただろ? 今までの訓練で十分ゆりは前に進んでるんだよ」

「でも、今回は……兄さんが手伝ってくれたから」

「大丈夫だって。今回出来たのなら次も、また次も出来るさ。それと、別に戦わなくてもいざって時に動ければいいんだからな」

「うん」


 はぁ……まぁ、これで少しはトラウマの解消になれば良いんだけどな。それはそうと、ゆいも他の子達も色々と思考しているみたいだ。

 爺様の方をみると……ほっと一安心といった感じの表情。やっぱり爺様も不安だったんだな。

 とは言え、今回のは荒療治過ぎる気もする。これは、他の人にやる時は色々注意が必要だろう。

 うん、相手がゆりでまだ良かった。一緒に訓練をしたりした経験が生きたからな。

 色々と修正するべき事が一杯あるけど、とりあえず、今回は成功って事で良いかもな。




 その後は、猪やら熊の狩りに解体の方法なども見せた。色々ショックだったようで、今までみたいに狩りに行きたい! とゆいも一緒に来た二人も言わなくなったが、それでも色々と考えてる状態ではあるんだろう。

 まぁ、少しずつ答えを見つけてくれるだろうな。それぐらい、ゆいも必死に考えてるし。ゆりに関しては、爺様と母さんが一緒に経過を注視しているから、きっと何とかなるはず。

 さて、協会や村の上層部の判断も気になるけど、色々とお仕事が舞い込んできそうな気配がするんだよな。

 とりあえず、少し妹達の経過を見てから、ダンジョンへと向かいたいけどどうなるやら。

ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!!


色々と解決しないといけない話ですね。トラウマに過信……これが切っ掛けで、これから水面下でドンドン解決に向けて動くでしょう。

宝に暴走されたら……困りますからね。

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