百三十二話
ダンジョンでの疲れを少し残したまま、朝になったので起きて村へと一度戻る準備をして、協会へと足を運ぶ。
「おや? 白河君おはよう。昨日は戻ったら直ぐ眠ったみたいだけどたいへんだったのかい?」
「おはようございます。まぁ、色々と面倒でしたから。詳細は纏めた後に提出させてもらいますね」
「そうか、それはありがたいけど、素材とかは如何したんだい?」
「本来だったらここで出したほうが良いんでしょうけど、幾つかは研究所に其のまま渡そうかと」
「あー……村に戻るのかい? それだったら此処で素材を出されても、確かに二度手間になるけど」
魔物素材や魔石は、村にある研究所で活用されてるからな。そこで、武器開発とかもしているので、此処で集めようが俺が持っていこうが、結局は同じ場所に行きつく。とはいえ、どんなモンスターが居てどんな素材が手に入るかを、協会が把握すると言うのは割りと大切ではある。
「まぁ、モンスターの情報も直ぐに渡しますし、素材に関しては婆様達から情報が上がるでしょうから」
それに、今の探索者の様子だと潜ったとしても十層位までかな? 前の事を考えたら攻略スピードは上がってるけど、それでも慎重に動いてるんだよなぁ。
これだと、美咲さんの方が先に進むなんて事も有るんじゃないか? まぁ、でもそうなっても仕方ない事情はあるか、常にダンジョンに潜れるって訳じゃないみたいだしな。たしか、パーティー分けで交替順番だっけ。
まぁ、俺と美咲さんに後数名は、特例として潜る事を優先しろってお達しが来ている。マッピングやダンジョンから質の良い素材を集めろって事なんだけどね。
これは、大崩壊前に一番潜ってた人達に、俺と俺が直接色々教えてたって事で美咲さんが選ばれた。
そんな訳で、一番プレッシャーを感じてるであろう、特例に選ばれた他のパーティーの人達は、今ごろ八層か九層を攻略中らしい。
昨日か一昨日当たりに、川を越えるだのなんだのと話をしていたそうだから、間違いはないだろう。
「まぁ、今の攻略状況はそんな感じだから、少し早めにデータを纏めてもらえると助かるかな」
「なるほど、それならメモだけでも渡しておきましょうか? 彼等なら情報なくても大丈夫だとは思いますが、恐らく纏めるより先に十層に突入すると思いますよ」
「ふむ……そうだね。それならそのメモを貰えるかな」
まぁ、纏めてないから謎の部分もあると思うけど、これでも十分に理解は出来るはずだ。
そう言う訳で、メモを急いで複製してから入谷さんに渡し、協会でのやる事も終わったので退席させてもらう。
「それは、メモの纏めはこっちで手が空いてる人にやらせるよ。後で一度確認してもらうと思うけどね」
「確認は勿論させてもらいますよ。それじゃ、そろそろ行きますね」
「白河君気をつけてね。後、村の皆に宜しくね」
そんな感じで協会を出ると、外ではイオが尻尾を揺らしながら俺を待っていた。どうやら俺が村に行く事を知っていたのか、一緒に行くつもりらしい。
「待ってたのか。手紙や書類とかの配達もあるだろうに」
「ミャン!!」
まぁ、ダンジョンにはイオを連れて行けないからな、こういう時一緒に行動したいのだろう。最初の目的地は街だし、其処まで負けが確定している鬼ごっこでもしますかね。
結局、イオと鬼ごっこをしながら村まで走ってきた。一度は街でイオの配達を済ませた際に休憩を挟んだが、イオにとってはとても楽しかったらしく、街から村までの間も鬼ごっこを再開。
まぁ、満足じゃ! と言わんばかりに、今は隣で尻尾を振りながら「にゃんにゃん」と鳴いている。
「全力疾走とか、本当きついんだけどな」
まるで初めてイオと会った時のような事を、ダンジョン前から村までやったんだから、当然疲労度がたいへんな事になっている。……魔法で身体能力や回復力あげてるけど、筋肉痛とか起こりそうだな。
「さて、イオはダンジョン前まで戻るのかな?」
「ミャン」
問うと、鳴きながら首を横に振った。ふむ、今日は村で過ごすみたいだ。とは言え、明日の配達もあるだろうから、夜中にでも戻るのかな。
イオと探索者達の訓練もあるんだけど、そっちは良いのだろうか? まぁ、イオも狩りに行ったりしてる時もあるので、毎日やってる訳じゃ無いみたいだし、きっと大丈夫なのだろう。
「それじゃ、俺は村に居るからな。多分皆が会いにくると思うけど、大丈夫だよな?」
「ミャン!!」
うん、良いお返事だ。まぁ、皆もイオには慣れたから、こぞって遊びに来るだろう。
それじゃ、村でやる事をやって行かないとな。先ずは協会だな。
村の協会へと足を運び、みんなに挨拶をしながら受付へと向かうと、丁度タイミングよく品川さんに遭遇。
「あら、白河君じゃない。今日はどうしたの?」
「品川さんお久しぶりです。今日は研究所に素材を持っていくんですけど、その目録と実際の品のチェックをして貰いに来ました。はい、これですお願いしますね」
そう言って出したモンスターの素材を、協会の人が回収してチェックして行く。
まぁ、これを村の協会でやっておかないと、変な物がある! とか、あの品が無い! なんて事が起こるからな。しっかりと情報として残しておかないとね。
「ダンジョンを探索して其のまま来たの?」
「一度村に戻る予定が出来たので、それならついでですので、其のまま素材を持ってきたんです」
「なるほどね。それで、その予定は終らせたのかしら」
「いえいえ、婆様に用事があるのでこれからですよ」
チェックをして貰ってる間に、少し品川さんとお話をしつつ、ついでにダンジョンの攻略で書いたメモを入谷さんに渡した事など、色々と報告しておく。
「思ったよりもダンジョン探索は順調みたいね。これから魔石やモンスター素材がドンドン来ると思うと、一安心かしら」
「問題は輸送ですかね? 道は整備したとしても、モンスターが出現しますし」
「そうね……鉄道なんて引いたとしても、線路が破壊されてしまうでしょうし、車となると……装甲車みたいなのを作らないと駄目よね」
今はバックパックをイオが大量に担いで、其処に魔石などを入れてから走らせてるけど、このままイオ頼みという訳にも行かない。人が走っても良いんだけど、イオより遅いのは言うまでも無いが、ぶっちゃけ人手が足りない。走れる人間がいるなら、ダンジョンに潜ったり狩りをしろ! って話になる。
戦闘が出来ない人に運ばせるのは、モンスターが出現するので駄目だとなると……モンスターがどうにも出来ない装甲車を作って、戦闘が出来ない人に運ばせるぐらいか? もしくは本気で全員が戦闘を出来るようにするとか。
「前に比べたら贅沢な悩みなんだけどね。ねぇ白河君。他のモンスターをテイムしてきてくれないかしら?」
「無茶振りですよ。イオの時だってどういう理由で着いてきたのかも良く解ってないのに」
「そうよねぇ。とりあえず、ウルフ型のモンスターを探して餌付けできないか試してみてるんだけどね」
試してはいるみたいだ。ただ、今の所成功はしていないらしい。……ふむ、少し詳しく聞いてみるか。
「一体どうやって試してるんです?」
「確か、肉を用意してトラップに嵌めた後に、檻の中に入れて餌を与えてるんだけどね……大抵、食べずに衰弱しちゃってるのよ」
狼達のプライドなのかな? 与えられる餌は食べない! って事なのだろうか。現状だと全く其処から進展が無いらしい。あー……そうなると、もっと人に慣れさせるしかないんだろうけど……ああ、そうだ。
「それなら、赤子でも探したらどうです?」
「赤子……居るのかしら?」
「ダンジョン内とは違う生態ですし、探せば居ると思いますよ」
赤子なら人に慣れる可能性は高いからな。慣れてくれれば、かなり優秀な仲間になるだろうな。輸送にも良いだろうし、猟犬として狩りに連れて行くのもありだ、警備隊と共に番犬としても優秀だろう。
「そうね、一度探してみるわ」
「狼を見つけても、狩らずに様子を見るほうが良いかもしれないですね」
そんな話をしている間に、どうやら素材のチェックが終ったらしい。
なので、品川さんとの会話を終え、素材を受け取りその足で研究所へと向かう事にする。
「それじゃ、素材も受け取ったし研究所の方へ行きますね」
「そうね。私も色々とやらないと……さて、赤子の狼探し案を煮詰めないと」
品川さんは狼のテイムに意識を奪われているみたいだな。成功すると良いよね。そうすれば、もふもふが増える。まぁ、心配があるとすればイオと仲良く出来るかだろうけど、イオは仲間意識が高いから、なんとかなるとは思うけどね。
閑話休題
素材を持って研究所へと入って行くと、待ってました! と言わんばかりに研究員の人々が押し寄せてくる。
「良く来たね! 新武器の調子はどうだい?」
「それよりも!! ダンジョン再開したんだろう? 新しい素材は!?」
「魔石! 魔石はどれぐらい手にはいったの!!」
「ストップストオーーーーーーーップ!! 皆さん落ち着いて!」
うん、バーゲンセール中のお姉さま方じゃないんだから! こんなに雪崩れ込まなくても大丈夫だと言うのに。
「まず! マナブレードについては、改良点をお願いした手紙届けましたよね! 次にダンジョン素材は、持って来ましたからしっかり調べてください! 後、魔石は毎日イオが届けてるでしょ!」
「まったく、こやつ等は直ぐ目の色を変えて押し寄せるから、困ったものじゃのう」
「「「げぇ!! 師匠!?」」」
「何が、げぇ! だい! さっさと持ち場に戻りな! やる事が一杯残っておるじゃろ!!」
俺が彼等の質問に答えてると婆様がやって来て、弟子の方々を追いやった。うん、仕事そっちのけで押し寄せたんだから仕方ない話だ。
とは言え、色々気になるのは解る。そう言う訳で、ネタをしっかりと提供していく。まぁ、説明する相手は婆様だけどね。
「とりあえず、これ、ダンジョンに居た大蛇の素材です。こいつ、デカイ上に毒を飛ばして来たので……新しい毒系の素材になりませんかね?」
「ほう! 毒とな! 雀蜂以来の毒モンスターじゃな。さてさて、どんな効果があるんじゃろうて」
「毒は喰らってないのでなんとも、ただ、この大蛇は口を大きく開けて毒を飛ばしてきたので……あと、植物が液に触れて変色してましたね」
大蛇の毒について、何があったかを説明しながら素材を渡し、ついでに大蛇以外にいた蛇の素材も渡して行く。まぁ、こっちは特別なにか説明が必要な訳でも無い。
「しかし、蛇って食べれるんですかね?」
「毒素持ちじゃしのう。とりあえず徹底的に調べてみるわい」
「食べれそうなら、蒲焼とかにすると美味しそうですよね。っと、大きすぎて調理大変そうですけど」
割と大きくてもモンスターって大味にならずに、美味しく食べれる物が多いからね。ちょっと楽しみではある。
「あ、そうだ。婆様、モノクルだけど一旦返してもらって良いかな?」
「モノクルじゃな。元々あれは結弥のじゃろう? 何時でも持って帰って良いに決まっておる」
「ま、貸し出したのに急になくなってたら大変でしょう? しっかりと誰が持ってるか所在を明らかにしないと。モノクルはかなり使える道具だからね」
「ま、確かにの。ほれ、此処にあるから持って行くと良い」
よし、これで魔本の解読も出来るな! 後は、武具のメンテナンスを頼んでおいて、久々の自宅へと帰りますかね。
色々とゆりやゆいに頼まれそうだけど……空いてる時間は解読につぎ込むとしよう。さて、どんな魔法が手に入るのか楽しみだ。
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