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百三十一話

ダンジョンの試練(笑)

 十五層へと突入すると、木々の隙間が道のよう……じゃなく、完全に道になっている。なにせ、木々の間隔が今まで以上に狭く、その狭い隙間も枝などで防がれている訳で。


「現実ではありえないよな。こんな森の状態だと植物が成長をしないどころか、腐って死んでいくよな。まぁ、ダンジョンの不思議って奴かな」


 入った瞬間に思った感想を口にしてしまう。まぁ、そのぐらい可笑しい状況だ。

 ただ、これなら迷う事無く真っ直ぐ進めば良い訳だけど、モンスターも奇襲がやりやすいだろうな。十分に気をつけるとして、進路方向は入り口から見て、左と直進と右と三方向だ。とりあえず右手の法則と言うぐらいだし、右から進んで行くとしようか。




 そう意を込めて森の中を進んでいたのだが、今の所モンスターの気配を察知する事が無く進んでいる。

 そうしている内に、何度目かの別れ道が見えて来た。


「一応、目印に来た方向の道側に数字の傷を木に付けてるけど、別れ道は意外と多いな」


 立ち止まってメモ帖にマッピング。今の所右手の法則で来てると言うか、曲がる道が左側にしかない状況で、今割り振った数字が七だった。


「んー……真っ直ぐ進んで七回も左への道か。これ、右手の法則が通用しないパターンもあるかもな」


 右手の法則が使えないパターンは、迷路の真ん中にゴールが一番解り易い例だろうな。その場合だと、一番外側をグルグルと回される、そんな形になる作り方があったりする。

 コレで、右側への曲がり道が無い場合や、左にしか曲がれない道が二回でも続けば、その可能性が高いと思ったほうが良いな。


 変化は有るけど、モンスターは出ずに景色も変わらない。そんな森で作られた迷路の中を進んでいく。

 途中で道になって無い木の隙間を通れば良いと考えそうだが、枝を切って進もうとしてみた結果、更にその奥は枝でびっしりと行く手を阻んでいる。ソレすら切り払ったとしても、行く先は木がどん! と存在している状態で、壁を壊して進むのは無理という判断だ。


「まあ、そう言う訳で大人しく迷路攻略してる訳だけどさ、これって五層とか違った意味で苛々させるパターンじゃん」


 短気を起こして適当に進ませようとダンジョンがしてるのかもな。長々と迷わせた挙句、到着した場所が十五層入り口でした! なんてパターンが沢山出てきそうだ。

 そうなったら、探索者は更に苛立ちを覚えるんだろうな。


「ん? そうすると如何いう行動に出るかな」


 自分だとそうなったら……恐らく、枝の壁を破壊していくだろう。しかし、破壊した先に在るのが木だ。ただし、気分は苛々がマックスな状態。となると、次の行動は木か両サイドの枝を破壊しようとするだろうな。

 そして、ここで考えるべきは、自分がこの迷路の製作者だったらだろう。


「間違いなくトラップを仕掛けるだろうな」


 ただ守口さん曰く、低い階層では即死系トラップは無いと言っていた。なら、有るとしたら木と同化してるように見える蛇でも居る可能性があるかな。


「少し調べてみるか」


 そう言う訳でデータ集めとして、今居る場所の隣の枝を剣鉈で切り払って行く。そして、正面に木が見える状態まで枝を切ると、今度はスコップへと持ち替えて木をスコップの先で強めに突いてみる。

 一度だけじゃなく、何度かガンガンと突いてみるものの、木の表皮に軽く傷がつく程度で、これだと木を破壊するのはかなりの時間が必要になりそうだ。

 今度は両サイドにある枝を少しずつ切り払って行く。数回目の枝を切り払った時に、枝で出来た壁の少し奥から、急にモンスターの気配が生まれた。


「やっぱりか。枝を切り払って行ったら、急に毒でも喰らうパターンだろうな。しかも、自分で切り払ってきた程度の広さな上に、一度曲がってるからな」


 モンスターに遭遇したら、逃げる事もできずに初手を譲ってしまうだろうな。本当に、気配探知様様だ。きっと、この階層で気配探知が出来る探索者は想定されていないのかもしれない。寧ろ、十層から十五層に掛けて必要性を認識して、技術を磨けって事かもな。まぁ、ダンジョンの構成上忍耐も磨けって言われてる気もするけど。


「まぁ、モンスターが隠れてる事も解ったし、ここでワラワラ出てこられても面倒なだけだから、此処ら辺で調査を切り上げて引き返すか」


 横穴を作るとモンスターが出るとメモに記入して、正規と思われる迷路探索を再開。

 再開後、やはり別れ道が来たが道は左と直進しか無く、印とメモだけして今まで選んできた法則のまま、真っ直ぐ進んで行く。

 これまであった別れ道は全部で九回。もしや、このままこの状態が続くのか? と思い始めた時に、とうとう左に曲がる道しかないパターンに。


「ここで左に曲がれか。右だけだったらちょっと面白かったんだけどな」


 まぁ、そんな作りになってたら余計面倒ではあるけど。とりあえず、今は左に曲がる道のみだから、その通りに進んで行くとしよう。


 進んでみてはいるが、これまた変化が一切ない。真っ直ぐ進んでいくと、やはり左への曲がり道と直進のみ。


「こりゃ、迷路って言うより碁盤の目状になってたりしてな」


 なにせ、規則正しく左へ曲がる道が現れるからな。まぁ、そんな訳で途中で左に曲がってみたい衝動はあるものの、それだとマッピングの意味がないので、衝動を我慢して真っ直ぐ進んでいく。


 そして、九度目の別れ道を過ぎ、前の時だと左だけの道となった十度目の場所へとたどり着くと、其処は左と直進が出来る状態の道だった。


「ふむ、前は十回目で左に曲がったけど、今回は普通に別れ道なんだ。これ、この先に九回また分岐する道が来たら、ますます碁盤の目疑惑がでるな」


 まぁ、モンスターも出ないし、道は現状規則正しいからな。少しスピードアップしての探索に切り替えるとするか。

 そんな訳で、左に曲がる道の数を数えながら一直線に駆け抜けていく。

 そして、予想通りのタイミングで左に曲がるだけの道が出現。其処に至るまでは、やはり十度目の別れ道で一度数をリセットし、一から数えなおし九度の別れ道があった。そして、右に曲がる道は一度も無かった事も、予想通りと言った所だろう。




 そうして、一気に駆け抜けてマッピングをして行く。駆け抜けた先は、やっぱり十五層の入り口。どうやら、十回目の曲がり道が基点にでもなってるんだろうか。恐らくスタート地点から真っ直ぐ進めば、この十五層の中心点って事なんだろうな。


「んー……そう言っても、これ罠じゃね? 普通に攻略すればこの程度って簡単に気が付くよな」


 捻くれてると思う人も居るかも知れないが、攻略している場所はダンジョンだ。真っ直ぐ考えるなんて死ぬ気かと言う話だ。だが、これと言ってヒントがある訳でもない。なら、どうするべきか……まぁ、端から順番に進んで行く、中央を最初に調べるの二つぐらいしか無いかな。


「それなら、中央は後回しで端から駆け抜けてみるか」


 一番の外枠は通ってきた道だ。なので、その一つ内側を一直線に進んで行く。

 そうすると、やはりと言うべきか、今度の別れ道は十字路だ。となると、これは確実に碁盤の目状だけど、何か意味合いがあるのだろうか? 念の為に壁を良く見ながら進んでみてるけど、特にこれといった変化は無い。

 そうして、其のまま真っ直ぐ一番奥へと進み、今度は一つ右側の道をまた、戻るように真っ直ぐ進んで行く。

 これを九回試してみたが、これだ! というモノが一切なく。とうとう十列目。中心点だろう場所に行く道を進んで行くが……。


「……何というか、何にも無いんだけど」


 そう、ダンジョンの中心と思われる場所。縦横両方が十列目で交差する場所に着いたが、其処には何も無く。他の十字路と全く同じ作りになっていた。


「ヒントも無いじゃん!! なに? とりあえず全部の道を探れば良いのか!?」


 まぁ、実際ソレしか方法が無いのだけど、これはイラっとくるな。こういう作り方なら、中央にドーン! と構えておけよ!

 兎に角、次々と道を制覇して行かないと、時間が厳しいことになりそうだぞ。




 そうして、縦横全ての道を駆け抜けてみたものの……うん、一切何も無かった。モンスターも出なければ、新しい道なり、何かが居そうもしくは有りそうな空間なんてものも無かった訳で。


「どうしろって言うんだよこれは」


 一度、十五層の入り口まで戻ってきて、もう一度なにか無いか周辺を調べてみながら、愚痴を呟いてしまう。

 しかし、ヒントや別の道というモノがある訳でも無く、完全に手詰まりの状態になり、苛立ちが増すばかり。


「あー……こういう時って如何いうパターンだっけ? えっと、良く有るのが……たしか、隠しルートがあるとか、正しいルート以外だと戻されるとか?」


 どちらにしても、何か変化があるはずなんだけど、一切その様なモノを確認していないんだよな……何か見落としてるのかな。思わず額に手を当てて、上を見ながら溜息を吐いてしまう……って!


「これは無いんじゃない? なんでヒントが頭上にあるんだよ!」


 目にはいったモノ。うん、多分ヒントだと思われる形。木の枝が矢印に見えるようになってるよ。

 たしかに、地面や壁やらを汲まなく調べるけど、流石に屋敷の中とかでも無いのに頭上を調べるとか無いわ! モンスターが出てくるなら注意を払うために見るけど! モンスターのモの字も出てないから、余計見ないって!

 まったく、これは本当に、苛立ちを誘発して枝の壁を破壊させに来てるよな。恐らく、隠しルートでも有るんじゃないか? とでも考えてと言うか、実際考えたし。兎に角そう考えたらやる行動は、枝の破壊だ。

 そして待ち構えるモンスターっと……実に陰湿だ。


「まぁ……これも罠とか言われたどうしようもないけど、とりあえず矢印? 通りに進みますか」


 そうして、矢印通りに進んでいくと、丁度入り口の反対側だろう場所に、新しく道が出来ていて、その先には開けた空間が広がっていた。


「あー……うん、ボス戦かな? まぁ、何が出てくるかな」


 その空間に入っていくと、出てきたモンスターはゴリラとアナコンダよりでかい大蛇。


「……まぁさ、普通にクリアしてきたら、かなり厳しいモンスターなんだろうね? しかも、こう苛々が募った状態だと正しい判断とか厳しいし。でもさ?」


 今更、このクラスのモンスターがニ匹タッグを組んだとして、壁でもなんでもない。

 そして、こいつ等の性能を調べる必要も無いから、時間を掛ける必要すらない。ゴリラは地上で、大蛇は十三層でチェック済みだ。


「だから悪いけど。君達には八つ当たりさせてもらうよ? 本当……ごめんね?」


 そう言いながら開幕行き成り、水魔法ラッシュでゴリラを潰していく。大蛇にはその口目掛けて、マキビシをネットで連ねてる物を投げ込んでおく。巻きつく側の大蛇がネットに絡まって、実に面白い事になっているな。

 絡まったネットだけならまだしも、それについてるマキビシが大蛇の鱗の間に突き刺さったりして、動けば動くほど、ダメージを与えながら身動きが取れなくなって行っている。これはもう、行動不可能だろうな。


「ま、ゴリラも水で弱体化してるからな」


 さっさと止めを刺して、地上へと戻るとしよう。そう言う訳でゴリラに鉄串を使ってヘッドショットを決めて行く。

 大蛇も口から毒液を撒き散らしているので、近寄るのは難しい。だが、大口を開けているなら其処に鉄串を狙撃すれば良いだけだ。鉄串を四本ほど大蛇に向かって投擲。其のうち二本は大蛇の体を貫通したが、残りの二本が大蛇の口内に侵入して行き、大蛇もまたゴリラ同様に行動を完全に停止した。


「はぁ、ボスの方が楽とかね……もう色々と可笑しいでしょ」


 溜息を吐きつつ素材を回収。十六層行きの扉とショートカットキーに初回ソロ攻略ボーナスが出現したので、ソレを回収して、今日はもう地上へと戻る。

 さてさて、明日からは一度村にでも戻るかな? モノクルで本を読まないといけないし、十一層から十五層までのメモも纏めないと行けないからな。

 兎に角、十五層の前半で精神的に疲れたから、今日はもう何もしたく無い。うん、さっさと戻って寝てしまおう。


 因みに、十五層のボーナスは……うん、大蛇とゴリラのモニュメントでした。ボーナスまで苛々させるパターンとか! これ、もはや罰ゲームだろ!! 

 とりあえず、何か効果でも無いか婆様達に調べてもらうけど、がっかり感が凄まじすぎるよ!

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