百三十話
まだまだ突っ走ります!
十三層に潜ると、眼前に広がる景色が森という事に変化はないが、所々で微妙な違いがあった。
「ふむ……正に猿達の為のフィールドと言ったところかな?」
木々は更にその幹を高くし、更に上の方から蔦が垂れてきている。ターザンロープとでも言えばいいのかな? まぁ、この場所がジャングルみたいな状況だ。
そう考えながら気配を探ると、想定が正しかったのか、木々の上にいたり、枝から枝へと蔦や尻尾やらを使いながら、移動している猿らしい気配を察知。
「まぁ、予想通りなんだけど、これも前の階層と同じで突っ走れば良いかな」
問題があるとすれば、前の階層よりも足場が悪くなっている事だろう。木の根やら草やらで足をとられない様に注意していかないとな。
森の中を走り出すと、猿達も其れに気がついたのか、一斉に俺を追うように木の上から移動を開始。
蔦を上手く使っている分、前の階層よりも追って来るスピードが速い。其の分、投擲の数も少なくなっているから、走るのは楽になっている気がする。というか、投擲をやめたから距離が離れないとも言えるかな。
ただ、此処の植生が外とはまた少し違ったので、走りながら枝やら蔦を回収していく。まぁ、こんな事をしているから、一向に距離が離れない理由でもある訳だけど……間違いなく、これを持ち帰れば婆様達が嬉々として、仕事をしだすからな。
「回収するのはこれぐらいかな? 目立った変化は木ぐらいだしな」
一定数のサンプルを手に入れた後は、木々の隙間を駆け抜ける。おあつらえ向きと言うべきか、良く見ると木々の隙間が、微妙に道のように見えるラインがある。これが正規ルートなのか、はたまた罠なのか、どちらにしても現状ヒントはこれしかないから、この道を進んでいくしかないだろう。
そんな風に、木の隙間を駆け抜けていると、上からボトリと何かが落ちてくる。
落ちて来たソレは、丸くなっていた状態から一気にその身を伸ばし、一直線に俺の方へと飛び掛って来た。
「おっと!」
飛び掛ってきたソレは、全長七メートルクラスの蛇。比較するなら、アナコンダの平均クラスより大きいサイズのはずだ。
そんな蛇が木の上から落ちてきて、俺に飛び掛ってきた訳だが……何やら猿からの攻撃が無くなっている。今なら攻撃するチャンスのはずなんだけどな。
「気配も近くに無いとなると、猿と蛇は敵対関係って事かな」
まぁ、目の前の蛇がボスかどうか解らないが、初見のモンスターではあるし、攻撃してきたのは間違いないから、当然狩っておくべきだろうな。
とはいえ、結構大きいサイズの蛇が相手だ。こいつ相手に盾は余り意味が無いんじゃなかろうか。体当たりは防げるとしても、其処から巻きついてこられたりしたら厄介だしな。此処は徹底的に距離を取る形の方が良いだろう。
そう言う訳で、盾を仕舞ってから片手は剣鉈、もう片手に鉄串を握る。
「先ずは……鉄串が刺さるかどうかだな!」
蛇が再び飛び掛ってくる様に、距離を取りつつ蛇の攻撃を誘う。蛇がやってる今の動きは溜めのモーションだからな、ここで鉄串を投げても跳んで避けられるだろう。それなら……!
「このタイミングだよね!」
蛇が飛び掛かりをサイドステップで回避し、このタイミングで鉄串を蛇の胴体に向かって投擲! 調査の為に今回は魔法を併用はしない。
胴に向かっていった鉄串は蛇の鱗を削って行くが、鱗の特性なのか鉄串が貫通型で無く、魔法も併用していなかった為だからなのか、蛇の鱗を貫くことは無く、表面を削りながら滑り流されて行き、最終的には近くの木に突き刺さる結果となった。
「ふむ、特性無しの鉄串だと駄目って事か、それじゃ次は貫通型かな」
投擲が通用しない事で良い気分になったのか、蛇はあからさまに俺に対して舐めてかかるかのように、同じ攻撃を繰り返して来る。まぁ、お陰で俺としては検証しやすいから良いんだけどね。
「それにしても、ワニといい蛇といい鱗持ちのガードは固いね!」
少し愚痴を言いながら鉄串を投擲して行く。その結果解った事が、貫通型でも鱗を直接狙ったとしても、軽く穴が開く程度。ノーマルに魔法を併用しても似たような結果に終わり、貫通型に魔法を併用して初めて、鱗を貫通し蛇にダメージを与えれる。
まぁ、例外を出すなら、鱗と鱗の間なら他でも狙い目ではあると言う感じだが……隙間を狙うとか面倒すぎる。適当に投げて一つでも其処が攻撃出来ればラッキーと言ったところだろうな。
攻撃が通ったと言っても、鱗を貫通して蛇にダメージを与えたのは一本だけだ。蛇の奴は今まで鉄串を弾いてた為に、それはまぐれじゃないか? とでも思ったのか、少しイラっとはした見たいだが、すぐにそんな事はどうでも良いといった感じで、攻撃を再開してきた。
ただし、その攻撃には今まで無かった攻撃が混ざっているのだが。
「まさか、口を開けて液体を飛ばしてくるはね! まぁ、少し大きいアナコンダだと思ったら駄目って事だな」
自然界にも、動物の目に向けて毒液を飛ばしてくるタイプの蛇が居る。しかし、このサイズでそんな事をしてくるとはね。やっぱりモンスターとでも言ったところか。
毒性も強いのか、液が触れた植物も変色してるし……これは、雀蜂に続く毒武器の素材になるかもしれない。まぁ、これを盾で防ぐのはやめたほうが良さそうではあるかな。
「ま、試すことは試したし、相手の動きもある程度みれたから一気に攻めるとしますか」
持つ武器を鉄串からマナブレードに変更。石玉の魔法でハンマーを作り、剣鉈と変則二刀流のスタイルで蛇へと突撃する。
「まぁ、速攻なんだけど……ね!」
鉄串が刺さった場所に、マナブレードを振り下ろし鉄串ごと蛇の胴体をぶん殴る! そこにマナブレードの石玉が、魔法爆発で一気にその衝撃を鉄串へと与えながら、蛇の胴体に石片をショットガンの弾の様に浴びせて行く。
ただ、その石片が蛇の鱗を貫く事は無いようだが、爆破の勢いで飛び出た石片は、鈍器で殴るようなダメージを蛇へと与えて行き、鉄串もまたその衝撃を受け、より一層蛇の体の中へと進入している。
「やっぱり、この爆破は反則だよな」
どうやら蛇は、その衝撃や鉄串の貫通による痛みに耐え切れなかったようだ。人間でいうなら腹パンを大量に浴びせられた上に、槍でぐりぐりされたような感じだろうか? とりあえず、動けないのは間違いない。
「爬虫類だし、トカゲの尻尾みたいに再生能力があるかもしれないからな、頭を潰すのが正解か」
動きが止った蛇の首を切り落してから、頭頂部から脳を目掛けて剣鉈を突き刺しておく。
そのまま様子を少しみるが動く気配がないので、早速蛇の亡骸が光の粒になって消える前にバックパックへと押し込んでおく。
そんな事をしていると、次への階層の扉が出現。どうやら、この蛇がこの階層のボスだったようだ。
「むしろ、コレでボスじゃないとか言ったら、どれだけ面倒な奴がボスとして待ってるんだって話になるけどな」
ショートカットキーとボーナスを拾って、次の階層への扉を開放し、ボーナスを確認。
どうやらボーナスはまた魔本らしい。……なにやら、サービスが良すぎませんかね? それとも、現状だと丁度良い道具とか無いって事かな。まぁ、本当此処ら辺は如何いう仕組みなのかが解らない。
「まぁ、こういうのは協会や研究者に頼むとして、次へ行きますか」
時計を見ると、まだその針は二時半ぐらいを刺している。これなら、未だ時間はあるし十四層へと進んでも良いか。
十四層に進むと、周囲は更に暗く深い森へと変化した。入り口付近で植生を調査するが、前の階層と変化が見られないので、今回はスルーしても良いだろう。
森の奥へと進み、モンスターが出現し出す頃になると、「シャー」だの「キー」だのと言った声が聞こえだした。
「あー……猿が居るのは想定してたけど、ここだと蛇タイプも普通に出てくるのか」
そういえば、あの前の階層にいたアナコンダモドキは鳴かなかったけど、あれは何でだろうな? 無音で襲うタイプも居るって事なんだろうか。まぁ、その手のタイプが居ると考えて、気をつけるべきだろうな。
とりあえず、音がした方向の気配を探りを入れる。そうすると、どうやら蛇と猿が敵対でもしているのか、木々の隙間が道のように見える部分を挟んで、にらみ合いをしているような状況だ。
「んー……これは、この真ん中を進んで行けって事か? 気をつけないと、両方から狙われないかな」
まぁ、戦いに介入した所で、どちらかを潰したらもう片方と第二戦開始だろうし、三つ巴で戦えば両方から狙われる。
それなら、最初から両方殲滅するか、真ん中を一気に駆け抜けたほうが良いだろうな。ただ、蛇がどんなタイプか少し気になる。
前のボスと同じで無いのは間違いないはずだ。なにせ、アイツと同じなら猿が敵対行動を取ると思えない。一目散に逃げるはずだ。だと言うのに、今は均衡を保っている。
「道中で軽くチェックするとして、数匹サンプルをゲット出来れば良いんだけどな」
前へと進むと、どうやら木々と同化でもしているのか? と言うぐらい蛇達はその姿を発見するのが難しい。まぁ、気配探索が出来れば、見えなくても場所がモロばれな訳だが。
「見えないけど、居るのが解るのは多少違和感があるな。まぁ、本当にこれは気配探索の技術が必要だな」
覚えてよかった気配探索。それと同時に、村の人達に広めておいて良かったな。何せここは十四層だからな。今の彼等ならここまで直ぐ来れるはず。そして気配探索が出来ないままだと、猿に気を取られ、蛇に奇襲を受け大怪我のラッシュだったはずだ。
「後は街側の人達に感謝だな。確かに気配探索の方法は広めたけど、ソレの強化訓練を引き受けてくれたしな」
そんな事を考えつつ、蛇と猿の間を突き抜けていく。面白いことに俺が抜けようとすると、両方から攻撃やら、木から飛び降りつつ奇襲を仕掛けてくるのは今までと同じだ。ただ、モンスターの攻撃を避けた後に、猿と蛇がお互いを認識し俺の事をお構いなしに、争いを始めるという状況に。
「駆け抜けれるなら、駆け抜けるが正しいって事かな。本来なら挟まれた状態で焦るんだろうけどな」
モンスター同士の戦いを横目に、前へ前へと進んで行く。
因みに蛇はと言うと、全長が二メートルから三メートルクラスだった。どうやら、ボスとして出た蛇の半分も無いサイズのようで、それなら猿も均衡して戦えるレベルらしいな。
とりあえず、モンスター同士で戦ってくれるなら、これほど楽なことは無いので、今の内にボスが居るであろう場所まで進んでいく。
道に見える木々の隙間を突き進んで行くと、十一層などで見たような広場がある場所へとたどり着いた。
其処には、以前見たモンスターが俺の方を見ている。
「あー……うん、あれはゴリラだな」
街を占領していた、あのゴリラ達と同じ種類のやつだ。ただし、このゴリラ……一匹しかいない。
十四層でゴリラ一匹と戦う。……うん、これ攻略方法知ってるからかもしれないけど、十三層の方が面倒な敵じゃん! 七メートルクラスの蛇だよ! 片やこっちは、水にくっそ弱いゴリラだ!
「拍子抜けだよ! って事で、水玉でも喰らってろ!!」
水魔法で大量の水玉を作り出し、爆撃のようにゴリラに向かって撃ち込んで行く。
ゴリラもまた、自分の毛が水に弱い事を知っているので、必死になって避けるのだが、降り注ぐ水玉が地面にぶつかり、弾けて飛び散った水滴まで避けていけるわけも無く。どんどんその毛は水を吸収し弱っていく。
そして、俺も攻撃を弱めるつもりは無い。次々とゴリラ目掛けて水玉を打ち込み、十分なほど水で周囲ごと濡らして行き、頃合を見て鉄串をゴリラに向かって投擲。
ゴリラは上から降ってくる水玉に集中している。だからこそ、直線で低く飛んでくる鉄串に気がつく事が無い。
その思惑通り、鉄串はゴリラの頭に触れるまで、その鉄串をゴリラが認識する事がなかった。
「ま、こんなもんだよな」
濡れたゴリラの毛は一切の防御力が無くなり、鉄串は綺麗にゴリラの頭を貫通し、地面へと倒れそのまま動かなくなった。
「とりあえず、ゴリラの素材か……通常のオークよりは使えるんだっけ」
まぁ、ゴリラの素材ももう村には無いからな、上位オーク達の素材が有るとは言え、色々使い道があるはずだから、しっかりと回収はしておく。
そして、回収が終ると、目の前に十五層への扉が現れ、同時にショートカットキーとボーナスも出現。
「お? 今度のボーナスは……リング?」
ボーナスは指輪だと思われる物。とは言え、行き成りはめてのろいの装備でした! 何て事があったらシャレにも為らない。これもまた、要調査が必要な物だろうな。
「リングはまた今度にして、さてショートカットを開通してから次の階層を確認かな」
未だ時間は三時半ぐらいと言ったところだ。それならまだ探索する余裕はある。まぁ、おもった以上に疲労も感じてないしな。ならば、前に進むとしよう。攻略しなくても様子を見るだけでもしたいからな。
さてさて、十五層は一体どんな感じだろうね? 十四層でゴリラが出てきたんだ。地上では見なかった蛇も居た訳だし、何が出てくるか……十分に気をつけないとな。
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