百二十九話
どんどんと潜っていきますよ!
一度ダンジョンから出て、影山さん達と合流。そして、ズーフとした会話の内容を伝えておく。
「……なるほどな。質問したい事は試練に挑戦する奴に頼むか、あちらさんの結論次第って事か」
「はい。ですので、今後五層まで俺達が行っても、ズーフに会うことは出来ないですね」
影山さん達の反応は仕方ないかと言う感じだ。ただ、これを研究班の人達に説明したら、物凄い勢いで落ち込みそうだな。研究者達は質問したい事が山のように有ったみたいだからな。
まぁ、現状だとどうしようもない事なので、ありのまま伝えるしかない訳だけどね。
「あぁそうだ。白河は潜るんだろう? 報告は俺達の方でやっておくよ。どうせ研究者達に話さなきゃいけないからな」
「あー……お願いします。まぁ、報告するのは入谷さんだけなので……後! イオはダンジョンに絶対連れて行かないようにってのも!」
「おう! そっちもかなり重要だからな。任せておけ」
これで、イオやズーフの件は大丈夫かな。
少し研究者の人達がどういう反応をして、どういう対策を立てるのか気になるけど、きっと一通り嘆いたら、すぐさま研究に没頭するに違いない。
その手助けを少しでもする為に、ダンジョン探索をして素材探しでもしますかね。
再びダンジョンのショートカットコースを降って行き、今度は十一層入り口の扉を開けて中へと入って行く。
十一層は木々が有る場所で視界が取りにくい。ただ、以前に潜ってたころと違い、気配を探る能力が段違いになっているからな。
感覚を研ぎ澄ましつつ、魔力で強化し周囲の状況を確認して行く。
「ふむ、やっぱただのゴブリンが剣を持ってた事から予想できるけど、察知できる気配からしてモンスター達の能力は強化されているな」
ゴブリンの見た目も能力も、一桁の層で出たときとまるで変わらないのに、その気配の強さが上がっている。それはウルフも同じであり、恐らくだけど十層を超えて、新しいステージに入ったからなんだろう。
ゲーム的にみれば、一層から十層のゴブリンやウルフは一桁台のレベルだけど、十層以降になれば十レベルを超えた奴等が出てきた。まぁ、そんなところだろうな。
「とは言っても、この程度の強化なら問題は無いな」
幾ら強化されたとは言え、上位オークやジェネラルもといキングに比べれば、雲泥の差だ。
ただ、此処で面倒になるのは視界がとれ無い事だけど、今の俺には気配察知系のスキルが充実している。
なので、此処で気をつけるべきなのは、新しいモンスターが居るかどうか、周囲の植物に毒があり、其れで擦り傷でも作り毒状態にならないか、と言ったところだろうな。
まぁ、植物に関しては、前サンプルをとった時に婆様達が検査をして、毒を有する物は無かったからな。奥に進んだ時に、新しい植物があるかどうかだけ注意すれば良いだろう。
注意事項を再確認してから、森の中へと入っていく。
木々の隙間から、ゴブリンとウルフが飛び出してくるが、盾と剣鉈を使っていれば問題は無く。その奇襲を、盾で潰し剣鉈でカウンターを合わせる。ある意味作業の状態だな。
「これなら、猿とウルフのコンボの方が面白かったな。ウルフライダーとか中々面白い戦い方をしてたし」
あれって恐らくだけど、元々は平地を猿が渡る時に、ウルフを利用してたんだろうね。地面に降りた猿って凄い遅かったし。
まぁ、あれもダンジョンから出たモンスター達が、各々生き延びる為に身につけた手段なんだろうな。
そんな事を思い出していると、ふと一つの事が思いついた。
「ん? 森って事は猿やゴリラが出てくる可能性があるのか」
ゴリラは倒すのに苦労したけど、今となっては弱点も解っているので問題は無い。
それに、恐らくだけどあのゴリラ達も地上にでて、結構な強化がされていた可能性もあるからな。
「うーん……こう考えると、十層の最初の内はヌルゲー状態か?」
昔、ストーリー上まだ行かない場所に足を踏み込んで、そこでレベリングと素材集めを必死にやったゲームが有った。そして、いざストーリーを! となった時、ストーリーで出る敵が、とんでもないヌルゲーと化していた事が有ったんだよな。割と、ストーリー難しすぎる! とかって評判だったのに。
そして、今ダンジョンに感じてる感想は、正にそれと同じだ。更に言うと、恐らく美咲さんや他の探索者の人が、ダンジョン探索を再開して最初に感じた思いと同じなんだろう。これだと、一層からやり直して気を引き締めようとするのも、解らなくも無い。
「まぁ、俺は一層から調査してたからな、モンスターが呆気なさ過ぎて、呆けてしまうなんて事は無いけど」
お酒飲んでた人達が言ってたからな、簡単に倒せ過ぎて逆にどうしようかと思ったって。
探索者ってあの大崩壊の日まで、五層前後までしか探索してなかったからな。雀蜂や猿にゴリラ、さらには上位のオークと戦ってたんだ。異常な程レベルアップされていても可笑しくない。
「冷静に考えれば、当たり前の結果なんだよなぁ。低階層で無双できるのは」
恐らくだけど、全員が十層クラスでも楽に攻略できるだろうな。まぁ、今は戸惑って慎重に探索を進めてるみたいだけど、心理的な壁を越えれば、一気に階層を進めて来るはずだ。
「それはそれで良いけど、今追いつかれたら、何だか腑に落ちない気もするからな。こっちもドンドン進んで行きますか」
それじゃ、森の中で走るスピードを少し速めるとしよう。さて、一体何階層まで潜っていけるかな?
森の中を駆け抜ける。とは言っても、迷ってもいけないので目印はしっかりとつけつつ、モンスターが襲ってこないタイミングで、軽くメモを書きながらだ。
まぁ、襲ってくるモンスターもゴブリンとウルフだけなので、実に対処は楽と言える。どうも、十一層に新しいモンスターは出ないみたいだ。……まぁ、後はボスがどんなモンスターなのかと言ったところか。
そのような感じで、森の中を進んでいくと、一箇所だけ少し開いた空間が有る場所へとたどり着いた。
「グルルァァァァァ!!」
たどり着いた瞬間に、ボスゴブリンと呼んでいた奴が俺を見て叫んできた。
「まぁ、予想は出来てたけど、出て来るのはそういった感じだよね」
ボスゴブリンが叫ぶと、後ろの木々からはボスウルフがニ匹ほど顔をみせ、こいつらも俺を認識し、喉を鳴らしながら威嚇している。
「それでもさ、ボスゴブリンとボスウルフだとさ、一瞬だよ?」
身体強化の魔法を使って、一気に三匹の横側へと回る。そこから、盾を構えて……。
「はい、ドーーーーーーン!」
モンスター達の横に位置取りをしたために、一列の状態になったモンスター達。其処に向かって、シールドチャージで一気に突っ込む!
まず、一匹目のボスウルフを撥ね飛ばす! 撥ね飛ばした際に、思いっきりシールドを叩きつけて、ボスウルフを弾丸代わりにし、ボスウルフの隣に居たボスゴブリンへとぶつけていく。
其処から更に加速して、残っているボスウルフに飛び掛り、剣鉈を使い奴の首筋に突きを放つ!
「よし! 後残ってる奴は?」
かろうじてボスゴブリンが立ち上がったが、最早立つだけの状態だろうな。それじゃ、一思いに楽になってもらおう。
「それじゃ、お休み」
立ち上がったボスゴブリンの胸に、鉄串を投擲。ボスゴブリンは避ける事もできずに、心臓の辺りを鉄串が貫通し、そのまま前に倒れて動かなくなった。
「なんと言うか……あのままダンジョンに潜ってたら、かなり苦戦したんだろうけどな」
レベルが上がっているだろう、ボスゴブリン一匹とボスウルフ二匹だ。本来なら新たな壁として探索者の前に立っただろうに……。まぁ、イレギュラーが俺達にも、ダンジョン側にも、起こってしまったから仕方ないんだろうな。
さて、素材に関しては、質は上がっている気もするが、地上に居たオーク素材に比べると、やはり数段落ちる。なので、魔石だけ回収をしておく。
「さて、これが十一層のボスなら……っと、やっぱり合ってた見たいだな」
声に出したからなのか、たまたま偶然なのか、俺が声を出したタイミングで、次の階層への扉とショートカット用の鍵に、ソロ攻略ボーナスが出現した。
鍵とボーナスを拾い上げて、確認をしておく。
「よし! 本ゲットだぜ!」
これで新しい魔法が手に入る。とは言っても、解読の為には一度村へと戻って、婆様に預けてあるモノクルを回収しないとな。
さて、さっくりと攻略してしまったし、このまま十二層の様子も少しみておくとしようか。
ショートカットを開通させてから、十二層へと降りていく。そして、目に写る光景は……うん、森林だね。
おれ自身も、森の中に居る状態ではあるが、一応他の場所に比べれば少し開けているかな。
「それじゃ、少しモンスターを探っていきますか」
森を進みながら、モンスターの気配を探ると、今度は木々の上に何かが複数居る事が解る。
「あー……ゴブリンが木に登るのは殆どないし、ここで猿のお出ましかな」
地上には何かの気配も無い状態だ。と言う事は、ゴブリンやウルフが猿と一緒に奇襲を仕掛けてくる。そんな事は無さそうだな。
「ま、猿なら散々イオと狩りをしたし、対策も慣れているからさくっと進みますか」
森を進んでいくと、木の上から猿達が物を投げるなどの攻撃をしてくるが、盾で防ぎながら突っ走ればなんて事は無い。
あっと言う間に、猿を放置してどんどん前へと進んでいける。
「これは楽だね! 頭上にだけ注意すれば良いから、盾を傘代わりにすれば走るだけで良いや」
偶に、木の上から飛び降りながら奇襲を掛けようとする猿もいるけど、身体能力が違いすぎるからな。あいつ等が着地する頃には、俺はもう米粒になる勢いで通りすぎてるよ。
念の為に剣鉈で木に印をつけているから、戻るときも問題無いだろう。
植生の確認に関しては、猿が出てくる前に少し調べたけど、変化が無かった。やはり此処ら辺の植物は、地上にも進出してるんだろうな。寧ろ、地上の方が少し種類が多いかもしれない。
「きっと、地上とダンジョン産の交配種とかありそうだよな」
元々あった植物達も、なにやら変化を起こしてたりするし、とは言え人と共存する事を選んだのか、此方が手塩を掛けて育てると、素晴しい成長や変化を見せてくれるという現象も起きている。研究者の人達がこれまた目を輝かせている内容だ。
「まぁ、そんな地上の植物とは別に、ダンジョンの植物は以前のままなので、今はスルーしてボスを探す方が良いだろうな」
という訳で、恐らくまた開けた場所でのボス戦になるだろうから、その場所を探す為に森の中を高速で移動して行く。
猿の攻撃が無くなってから少し時間が経った頃、漸く目当ての広場らしき場所を発見。
猿の攻撃が止ったのは、ボスが居るだろう場所での、投擲行動が禁止でもされているのだろうか?
「さて、おじゃましまーす」
そんな事を言いつつ、広場へと足を踏み込んで行くと、一際大きな猿が、通常サイズの猿を引き連れて、俺の来た方向とは逆の森から出てきた。
「あぁ、そう言うことか。猿の攻撃がなくなったのは、ボスの集合に応えてたって事ね」
まぁ、ボス猿とは言っても、ゴリラ程のサイズも無ければ筋力も無さそうだ。本当、猿共より多少大きいといった感じだ。
「でも、君ら地上苦手でしょ? こんな開けた所に出てきて良いの?」
俺がそう問うと、ボス猿は「キーーーーーーーーー!」と叫んで、引き連れていた猿達が、森の中へと戻っていく。
うん? 何で一々出てきたんだろうか。まぁ、モンスターのやる事だから理解が出来ないのはしか……って! 行き成り後方や横の森から、石やら植物の種が投擲されて来た!
「あーもう。ボス猿がニヤニヤしてやがるな。恐らく注意を惹きつける為に、あんな出方をしてきたか」
まぁ、それも奇襲が決まらなきゃ意味が無いけどな。とは言え、初手を譲ってしまったか。普通ならこれだけ包囲されて、初手まで譲ったら態勢を立て直すのは大変だけど。
「これが、上位ゴブリンとかが相手であればって話だよ……な!!」
飛び交う投擲物を避けつつ、鉄串を取り出してボス猿目掛けて投擲。
「キッ!?」
反撃が来ると思ってなかったのか、一瞬焦りながら鉄串をジャンプで避けるボス猿。
「まぁ、地上で走るのが苦手なお前らは、地上で避けようと思うとジャンプしかないよな!」
ジャンプしたボス猿に合わせて一気に距離を詰め、剣鉈での一閃!
「ま、こんな程度だよな」
剣鉈を振るった後は、即座に移動。まぁこの位置なら他の猿達も、中々投擲は出来ないだろうけど、それでも投擲してくる奴はいるだろうからな。一応離脱しておかないと。
そして、ボス猿は一気に距離を無にした俺に驚いた。とは言え、この群れのボスだからな、空中でも次の指示を出す為に行動しつつ、着地態勢を取る。
そんな中、俺が一閃し直ぐに離脱する訳だが、それに気がついたのかどうか解らないが、ボス猿は着地した衝撃で、その首がコロリと地面へ落ちて行く。
「さて、ボス猿は終ったけど、他の猿達はどうするのかな?」
殺気を四方にばら撒きながら、ボス猿の亡骸を回収しておく。一応、新たに見たモンスターなので、データの収集は必要だからな。
そんな行動を見たからか、猿達は一斉に森の奥へと遠ざかって行ったみたいだな。まぁ、頭を失った群れってのはこんなもんだろう。
そして、周囲にモンスターの気配が無くなると、下への階層の扉と鍵とボーナスが出現。
回収と開通を済ませ、ボーナスを確認し、十三層へと足を踏み込んでいく。
「ボーナスは、また本? なにやら法則通りじゃなくなったみたいだけど、魔法が増えるなら有りがたい話ではあるか」
まぁ、今は解読なんて出来ないからな、これはバックパックに仕舞っておいて、十三層へと降りますか。
さてさて、次は何が出てくるのかね。とりあえず、ゴリラは未だ出ないだろうけどな。
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