百二十五話
美咲さんがダンジョンから戻って来た。顔を見る限り試しはしっかりとクリアしたようだ。
「ただいま! 何とかクリアできたよ!」
「おかえり。クリアおめでとう! 普通に戦ってクリア出来た?」
「そうだよ! ランスを使って正面から戦闘かな」
やっぱりか……どう考えても前潜ってきた当時よりも強くなっているのが良く解る。
まぁ、この調子だったら村の人達も、五層まではクリアして行けるだろうな。
「それじゃ、とりあえず拠点へと戻ろうか」
「そうだね、ダンジョンの様子も説明しないといけないからね」
他にも報告してる人居ると思うけど、同じ内容だとしても報告の数は多いほうが良いからな。
そう言う訳で、拠点にある協会へと足を進めた。
日が落ちる前に協会へと入る。そうすると、協会の中では懐かしい光景が見れた。
「お、白河戻ったか! 久々のダンジョンはどうだった?」
「ただいまもどりました。ダンジョンは今日様子見ですので、そんなに深くまで潜ってないですよ」
「おー、確かに様子見は必要だな! 俺達も久々だからな、低い階層からやり直してるぞ」
以前に協会の酒場でよく見かけた人たちが、気分良さげにお酒を飲みつつ、ダンジョンについて話掛けて来た。
きっと、今此処にいる人達は懐かしい気持ちで酒を飲んでいるのだろう。酒に関しては俺には解らないけど、この空気自体には思わず笑みが出る。
「おっと、報告があるのでそろそろ行きますね」
「おう! それじゃ俺達は久々にこの空気を楽しむぜ!」
さて、飲み会で楽しげな空間から離れて報告だな。
入谷さんの居る場所へと移動。そうすると、入谷さんと守口さんが色々と会話をしているみたいだ。
「ダンジョンだが、ここは魔石が手に入る場所だったな」
「えぇ、ただ現状ですと大量に魔石が欲しいので丁度良いって内容ですね」
「なるほど……装備を整えるにも、生活の向上にも使っているんだったか」
ダンジョンについて話をして言ってるようだな。まぁ、瘴気を消して周囲を整え、そして再びダンジョンへ足を入れたのが今日だ。
守口さんからすれば、ここのダンジョンに関係する情報は余り無かったようで、色々と入谷さんにダンジョンの事を聞いているのだろう。……まぁ、他に優秀な魔石ダンジョンがあったらしいからな。国側でも、民間に解放したダンジョンに関しては、最低限の情報以外は収集してなかったんだろうな。
「おや? 白河君戻ったみたいですね。久々のダンジョンはどうでしたか?」
「はい、戻りました。ダンジョンは様子見も合わせて調査した感じですかね。とりあえず、五層までは以前と変化が無かったです」
「という事は、以前マッピングした内容とモンスターのデータに変化は無いのですね。はぁ、これは一安心と言ったところでしょうか」
「む? マッピングをしていたのか。我々もマッピングはしていたが、民間でやったという話は……そういえば、掲示板か何かで、其れらしい話が上がってたと言うのは聞いた事があったな」
やはり、国はダンジョンマップを作っていたか。まぁ、やってて当たり前か。寧ろ、その事に気づいていなかった人達の方が、どうなんだ? と言う話でもある。
それにしても、守口さんは掲示板を見ていたのか。民間の動向でも探ってたのかな? とはいえ、板の情報って虚実入り乱れてるからなぁ。如何いうつもりで見てたんだろう。まぁ、今は話を進めていきますか。
「えぇ、マッピングやモンスターの特長を調べてメモを取ってましたからね。其れを纏めたノートがありますので、今回はそれを使って変化が無いか見てきたんですよ」
「ふむ……それは、どこの階層まで調べたんだ?」
「十層までは纏めてありますね。おれ自身は十一層で止ってましたから」
「なるほど。良かったらそのノートを見せてもらっても良いか?」
「えぇ、構いませんよ。以前協会に情報を売ってましたからね。……今となっては、売るとかそう言った状況じゃないですし」
「白河君。しっかりとお礼はしますよ。とはいえ、現状だと物資を優先的に優遇するぐらいしかありませんが」
今や、お金の価値が無いからなぁ。それに最前線を潜るのなら物資の優遇の方がありがたいから、そっちの方が現状だと間違いなく良いと言えるな。
「構いませんよ。寧ろ、そっちの方が個人的には嬉しいですね。新武器のテスターとかも中々楽しいですし」
「そう言ってもらえると、此方としても気が楽ですね。はぁ、中々皆さんの働きに対価を払えて居ない気がしてまして」
「いやいや、この状況だと誰かが崩れれば大変になりかねませんから。それに、食料や物資を優遇して貰ってますし、文句を言ってる人って見たこと無いですよ」
「まぁ、それでも以前から比べるとね……不満を抱えてないかとか色々考えてしまうんですよ」
入谷さんも責任者としての立場からか、随分と精神的に疲労を抱えてるみたいだな。それに、品川さんと会えていない時間が長いのも、色々と思うところがあるんだろう。折角くっ付いた二人なのに、忙しすぎて離れ離れだもんなぁ。
「とは言っても、やっと協会の名前を果たせますね。〝ダンジョン協会〟って名乗っていたのに、今までダンジョンに潜れませんでしたから」
「あー……確かに。村で戦闘班を集めて組織を集めた時も、元々がダンジョンに潜っていた人達が多かったのと、再びダンジョンに潜る為にって理由から、其のまま名乗ったんでしたっけ」
「そうだね、白河君の言うとおりだよ。いやぁ、やっと念願叶ったと言ったところだね」
「なるほどな。協会協会と言うから、なんの協会かと思えばそう言う事だったか」
地上を奪還した後に、魔石が足らないからと最初の目標にしたのが、ダンジョンの探索の再開だったからな。実に懐かしい話ではあるけど、恐らく酒を飲んでるメンバーも、忘れず覚えているからこその騒ぎようなんだろうね。
「あ……私からも報告良いですか?」
「おや、藤野さんも何か気がついた事がありましたか?」
「えっとですね。以前ダンジョンに潜っていた時と比べて、身体能力も武器性能も上がってるので、モンスターが弱く感じてしまう事が気に掛かりまして」
「なる程。確かにそれは少し問題が起きかねませんね。各パーティーのリーダーには、しっかりと注意しておく必要がありますか」
「はい、私もダンジョンに入る前に結弥君と話をしてなかったら、少し調子に乗ってしまったかも知れません。最初はその違いに戸惑ったんですけど、慣れてくるとどうしても……」
「それは……それ程違いましたか。ふむ、少し皆さんの認識を変える必要が有りそうですね」
認識を変えるか。恐らく戦力情報の上方修正でもするのかな? 無双出来ると楽しくなってくるってのはある話だからな。その際調子に乗り過ぎないように、釘を刺す要員が必要ではある。まぁ、釘を刺しすぎてテンションが底辺まで下がられても困るから、その匙加減が上手い人が必要になる訳だが。
あぁ、そういえば一つ気になった事が有ったんだった。
オークの件についてだ。ダンジョンに潜って居た時だけど、ソルジャーオークと言うのが居た。メモに書いてあったから、これは間違いないはず。
それなのに、外にいたオーク達には同じ固体が居なかった。恐らくソルジャーオークも上位オークなのだろうけど、居たのは剣と槍と弓と杖のオーク達だ。そして、その能力もダンジョンに居たソルジャーの比では無かった。圧倒的に外に居た奴等の方が強かったからな。
とりあえず、その事を目の前の二人に話を振っておく。
「……それは、一体どういう事ですかね? 外とダンジョンの中ではモンスターが違う?」
「まぁ、違うといえば違うだろうな。ダンジョンの中じゃモンスターは丸々と残る事は無いからな」
「基本は倒した後、少ししたら消えてドロップ品を落しましたね。その点外のモンスターだと、そのまま死骸として残りますか……たしかに、その点は違いますね」
「それにだ、あのオーク達の拠点には奴等を強化する環境にあっただろう? であれば、強さに変化が有っても可笑しくは無いだろうな」
「しかし……外で見た上位オーク達のデータって有りましたっけ?」
「……俺の知る限りでは無いな」
たしか、上位オークと言う呼び方も解りやすくする為に、便宜上として言うようになったのが最初だったっけ。
協会にある情報だと、上位のオークが居るというデータだけは有った。其れの一つがソルジャーだった。そして、俺はそのソルジャーと戦った事があるんだけど、如何せん二年以上も前の事だったから、すっかり忘れていた。
結果、あの剣やら槍持ち達が上位のオークだろうと判断して、そういう報告をした形になったんだけど。ここで、昔のダンジョンノートを見直した結果、上位オークってソルジャーが居たじゃん! と、なった訳だ。
「環境適応とかもあるのかもしれませんね。これは、地上のモンスターとダンジョンのモンスターは、別モノと考えるべきでしょう」
「そうだな。地上のモンスター共は独特の変化をしていると見るべきだろう。くっそ、これは自衛隊が持っていたデータが外では使えないって事だな。まぁ、ダンジョン内では使えそうだから、破棄はしなくて良いと思うが」
「まぁ、ダンジョンモンスターのデータが基礎だと思えば良いのでは? 剣や槍なんてソルジャーの派生みたいな所が有りましたし」
恐らくだけど、亜種とか変異種とかそんな感じのモノだろうな。
しかし、外のモンスターが独特の変化をしているか……毒持ちモンスター達の変化とか、特に気をつけないとな。解毒薬の種類が違います! とか普通に有りそうだし。
まぁ、気になったことは全部報告したし、後は明日に備えて休むかな。
入谷さんと守口さんは、今の話でもう少し色々と話し合いをするみたいだけど、それは上の人達で何とかしてもらう事だから、俺は早々に退散しておく。
「なんだか大変な話になりそうだね」
「そうだな。まぁ、俺達は気がついた事を話していけば良いよ。それが皆の生存率を上げていくからな」
「だね! さて、お夕飯食べて休まないと! 今日は結構疲れちゃったし」
「美咲さんは、あのリスキルモードを調べるのも有ったね。とりあえず、明日ダンジョンに入る前に見てみようか?」
「うん、お願いします!」
今日はもうお疲れモードだからな。まぁ、体力的には問題ないかもしれないけど、久々に潜ったから精神的には疲労している。その状態でリスキルモードの調査とか、お互い辛いものがあるからな。
さてさて、明日からは六層からだな。とりあえず、目標は十層まで一気に調べ上げる事だけど、広い草原のマップだからな。少し時間が掛かるかもしれないな、トラップは無いけど面倒な環境は多かったはずだから。
ブックマーク・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!!




