百二十三話
村での休息の大半を開発協力で終らせたのは横に置いておくとして、とうとう念願のダンジョン探索の復活だ。
その為に、まずは装備を整える事にしたんだけど、協会側と研究班が色々と配慮をしてくれたようで、装備にオークキングの素材を使ったものを用意してくれた。
品川さん曰く、「本来なら村か拠点の設備に使うのが正しいのだけど、ダンジョンが復活する事だし、此処で白河君やダンジョンに潜る人の装備を整えた方が、魔石回収率も良いはず」だそうで、俺以外にも村側でダンジョンに潜る人の装備を、上位オークで作り上げているらしい。
因みに、街側からも幾つか装備の発注があったそうだけど、彼等の魔石はその殆どが街の設備に使うようだ。まぁ、まだ拠点としては色々と整ってないからな。
「さて、少し村に後ろ髪を引かれるけど出発するかな」
「ダンジョンだよね。久々だなぁ」
「あれ? 美咲さんはダンジョンに潜るの? 品川さんの護衛と手伝いを兼ねてるんじゃなかった?」
「川岸もダンジョン前も街も随分と安定はしだしたからね、村側まで強いモンスターが来るのは少ないだろうって、今のうちにダンジョンでレベルアップして来てって言われたよ」
なるほど、確かに幾ら防衛設備を整えても、それを扱うにしても、突破された後の対処も人だからな。ダンジョンが復活したなら、沢山の人を強化しておきたいか。
「そう言う訳だから、ダンジョンに潜る人、周囲を警戒する人、狩りをする人をサイクルで回すみたいだよ」
「俺や美咲さんはそのサイクルに入るのかな?」
「うーん……特に何も言われて無いかな。どちらかと言うと、研究班所属の新装備のテスターみたいな立ち回りになりそうだよ」
「ん? 美咲さんも何か作ってもらったの?」
「うん! この弓とランスかな! バージョンアップしたんだよ!」
武器を見せてもらうと、どうやら上位オークで弓と槍持ちだった奴等の素材を使った一品だった。とはいえ、遊び心で作った俺の武器とは違い、魔法を必要とする物は無理なので、純粋に今までの装備の上位互換と言った所だろう。
「そういえば、ダンジョンでは如何するの? 俺とは階層が違うし、美咲さんも他のパーティーとは連携とって無いでしょ?」
「あー……その事なんだけど、ダンジョンの情報だけは有るから、少しソロで潜ってみようと思ってるよ」
「ほう……大丈夫なの?」
「……攻略した階層から少しずつ試すよ。もしきつそうなら応援頼んで良いかな?」
「それは良いけど。まぁ、無茶はしないようにね」
「解ったよ!」
美咲さんもチャレンジャーだなぁ。とは言っても、恐らく俺が話をした、ソロボス突破ボーナスも気になってるのかもな。深く潜れば何れは魔本や道具も手に入るはず何だけど、早いうちから手に入れたいってのは解らなくも無い。
実際、この間協会でこの話をしたら、既に五層までクリアした人は頭を抱えていたし、まだダンジョンに潜ってない人達は、目を輝かせていた。
とは言え、ソロで潜るのは厳しすぎるので、徹底的に戦闘訓練を受ける人が増える結果にもなった。……ダンジョンに潜った事が無いのに、モンスター狩りをしたり食の変化で、身体能力がかなり上がってる人も増えたからな、割とソロ攻略が出来る人も多いかもしれない。
ただ、それでも色々と問題はあるので、ダンジョンのレクチャーを事細かく協会の人達が行なっている。ダンジョン探索復活に備えて、随分と皆力が入っているようだった。
そんな話をしながら、美咲さんとイオを連れて、ダンジョン前の拠点へと足を進めていった。
道中では問題が起こる事も無かったが、かなり遠くに虫型のモンスターが飛んでいるのを見たので、これは手紙を書いて、村へとイオを走らせておいた。もし、雀蜂型みたいな奴等だったら多少面倒だからな。 攻略方法は解ってるけど、また、モンスターの分布図が変わる可能性があると、後々の処理が大変なのは、一度経験しているからな。
ダンジョン前の拠点へとたどり着き、その変化を目の当たりにする。
オークの地下王国を潰すために用意したキャンプ地が、現状かなり綺麗に整備され、ダンジョン用拠点へと造り変わっている。
其処から見える風景も一変していて、水攻め用に作った湖にまた水が張られ水場となり、瘴気が目に映る範囲では一切見えなくなっていた。
「うわぁ……本当に瘴気を何とかできたんだ」
「凄く綺麗な湖しか目に入らないよね」
「ミャー!」
目の前の湖にイオが飛び込んでいった。どうやら、魚でも獲るつもりみたいだけど……ここ人工湖だからなぁ、魚を放流して無い限り居ないんじゃないかな? まぁ、イオは泳ぐのも楽しそうだから、放置しても良いかな。とりあえず、入谷さんに顔を見せに行きますか。
そんな訳でイオと別れ美咲さんと、ダンジョン前拠点の簡易協会支部へと足を運ぶと、輝かんばかりの笑顔をした入谷さんや、その周囲に居る人の歓迎を受けた。
「おー! 白河君こっちに来たんだね!! 漸くダンジョンに入れるよ!」
「伝令が来た時は吃驚しましたよ! どうやって瘴気を消したんですか!?」
「あー……ソレ何だけどね。実は……よく解ってないみたいなんだよ」
え? よく解らずに瘴気を消したってどういう事だ? 何か装置でも開発できたんじゃ無かったって事なのだろうか。
「なんと説明するべきかな。まぁ、偶然の産物に近いと言うべきか、ある程度仮説を基にしてやったと言うべきか……」
「入谷殿、其処は私が説明しますよ。そうですな、たまに会うズーフ殿と色々と話をした内容から仮説を立て、試してみたら成功してしまった。と言ったところでしょうな」
どうやら、この世界に元々魔力が無かった事が原因で、瘴気溜りが生まれてしまったらしい。
元々ダンジョンは、その存在自体が魔力の塊と言っても過言ではないらしく、其処には高濃度の魔力が渦巻いていた。
とはいえ、其れが外に漏れる事は無かったのだが、あの大崩壊の折に、モンスターと一緒にダンジョン内の魔力も漏れ出たららしく、その結果、環境に適応出来なかった魔力と地球の環境が歪になり、瘴気へと変わったらしい。
「今では、地球も魔力に馴染んできてますからな。ダンジョンからの魔力で、瘴気が作られる事は難しいだろうと思われますな」
「なんだか、難しすぎるって事だけは解ったかな。でも、そんな瘴気をどうやって消したの?」
ふむ、美咲さんには難しすぎたようだ。まぁ、俺も良くわからないけど、簡単に言うとあれかな? 栄養素が豊富すぎると腐るのが早くなるって言うやつ。ちょっと違うか? まぁでも、従来無かった所に、急激に濃度の濃い物が押し寄せたら、不具合が生じるのは当然だろう。その程度の認識で良いと思う。
ただ、この場合人間はどうなるんだろう? 思いっきり高濃度の魔力を浴びてるって事にもなるよね。何か違いでも有るのかな。
「まぁ、白河殿の認識ぐらいで問題ないですな。後、質問の答えですが、瘴気を消したのは環境を整えるだけで良かったという事ですかね。とは言っても、やった事は瘴気の側に大量の魔石を用意して、街側の人に風や水や土の魔法を使っていって貰っただけ……なんとも、解明が難しいものですな」
魔石と魔法の力で何とかなった? この人はどうやら、魔石に環境適応能力があると判断しているみたいだけど……確かに、魔石は道具を作ったりする時に、かなり汎用性の高い素材ではある。これは、様々な状況に適応する何かがある……そういう事なんだろうか? まぁ、これは研究班がきっと解明してくれるはずだ。
「まぁ、そう言う訳でして、謎が少し解けて更に謎が増えた……そんな状態ですな。これは我々も楽しみが増えましたわい」
「な……なるほど、それは頑張ってください」
「謎の鍵は魔石ですな。これより一層、魔石の研究には力が入りますな」
彼の言を肯定するように首を振る研究班の人達。その目が子供のように輝いていて……実に楽しそうだ。
「そういえば、ズーフに会ったのは何時です?」
「そうですね。たしか……四日ほど前だったかと」
四日前か……という事は次に話が出来るのは三日後ぐらいか。なら、それまでイオは外で待機だな。
「さて、今日は休んで明日からダンジョン探索かな」
「うん! 私も色々と試したいしお互いがんばろうね!」
久々のダンジョン探索だ……確か、俺は十層で探索が止ってたんだったっけ。とはいえ、ダンジョンの中が変化している可能性もあるからな。最初から少し調査しながら潜っていくのもありか。
さてさて、今の俺は何処まで通用するんだろう。少し楽しくなってきたな。
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