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百二十二話

 入谷さんと話し合いの結果、今俺は村にある自宅でゆっくりとしている。まぁ、ゆっくりするまではかなり大変だったけどな。

 なにせ……入谷さんとの話が纏るまでは、守口さん達からの訓練が実にハードだった。おれ自身は盾の使い方を学んでたんだけど、壊れやすい盾を使い四方からの攻撃を、終了の合図が出るまで延々と繰り返す。それと、盾が壊れてしまえば再スタートと……かなりのスパルタだ。

 まぁ、他の人達はそれに加えて連携の訓練もある。その分盾の訓練の時間が短い可能性もあるが、かなり大変だろうな。


 そして、村に戻ってからは沢山の人に囲まれての質問攻め。オークや街の人達について、同じ質問を何度も答えるのは、精神的にダメージが蓄積されていった。


 その状態から、帰宅後に妹達の遊びという名の特訓結果の発表会。随分と会ってなかったから、テンションが振り切れていたのは解るが……休息もそこそこに庭での模擬戦。

 なんというか、妹達はかなり腕を上げていたとは思う。ただ……キング達との戦闘や守口さん達との訓練で、かなりのレベルアップをしていたんだろう。妹達の動きがかなりゆっくりに見えてしまった。

 その結果、俺が二人を圧倒する事になり、二人はほっぺを膨らませるような事態に……まぁ、それ自体は演技だったみたい。強かと言うべきか演技の不機嫌を直す為に、俺が受けてた訓練の話をする事になったんだけどな。


「へぇ、そんなに盾が便利なんだ。何かこう……もっと、重量級の人が重装備でどっしりと構えてるイメージだったんだけど」

「ゆいもそんなイメージだった! こう、盾さんをクイッとやって、モンスターさんの攻撃をスルッてやるのが良いなんて不思議!」

「まぁ、人とモンスターじゃ身体的なスペックが違いすぎるから、体も装備もかなり強化しないと簡単に撃ち負けてしまうからな。現状だと受け流すのが一番良いんだよ」

「ふーん……どれだけ能力が上がれば、正面からガードできるんだろうね」


 請われる侭に、守口さん達の盾の使い方とその利便性を説明していく。

 二人との模擬戦時も、盾を使った立ち回りの応用だったからな。何が起きたかを説明していくには、一番良い話だろう。


「なるほどのう。それ故に盾の量産が発注された訳じゃな」

「爺様正解。村でも街側でもモンスター製の盾が、大至急欲しいみたいだからね」

「盾かぁ……私には使え無さそうだなぁ」

「ゆいがやったら、ぽーんって空へ飛ばされちゃいそうだよ」

「……何だか想像が簡単に出来るな」


 ゆいが盾を構えたまま攻撃を受け、その衝撃で空を飛ぶイメージが皆にも想像出来てしまった。じたばたと手足を動かしながら、空から落ちてくる……うん、漫画とかにすれば実にコミカルだが、実際に起きたらと考えるとな。


「そうだな、ゆいは絶対に盾を持つなよ?」

「そうじゃのう。盾は禁止じゃな」

「私も全面的に同意するよ」

「ぶー! 皆してひどいよ!」


 自分で言っといて肯定したら、ほっぺを膨らませつつ抗議するゆい。その横から、ゆりが人差し指でほっぺを突くもんだから、ブーと言う音がしたと思うと、ゆいはきょとんとした顔に、ゆりのやってやったぜ! と言う雰囲気。

 二人の表情に思わず爺様が噴出してしまい、釣られてしまう俺とゆり。そして、何故かゆいはドヤ顔をしている。


「な……なんで、ゆいがドヤ顔なんだよ……ククッ」

「えー! だってゆいが皆を笑顔にしたんでしょ!」

「確かにそれは間違っておらんのう」


 まぁ、色々と有耶無耶になった気もするけど、考えてみればゆりは弓を使っていて、盾はそもそも装備しないし、ゆいは槍でのアクロバットなプレイにどっぷりとはまっている。最初から盾の出番は無いんだよな。




 兎に角、帰宅した日に起きた事はこんな感じだった。まぁ、疲労はしたが久々の団欒で、笑いの壺も壊れていたのは間違いない。が、それはそれで良かった。

 そして現状は、爺様は役場に母さんとゆりは女性陣の仕事場、そしてゆいは学校だ。その為に家には俺一人でぐったりと出来ているって訳だ。


「ま、慌しい日が続いてたからな。こういうのも悪くない」


 冷蔵庫から冷えたジュースと果物を持ってきて、もはや新刊が出る事の無いラノベを読みながら、リビングのソファーで横たわる。……うん、この作品の続きって如何するつもりだったんだろう? 作者が生き延びてくれて居れば、何時か話を聞いてみたいもんだ。


 そんな事を考えながら休日を満喫していると、玄関をノックする音が響いた。……私は休んでますよー? 誰も居ませんよー? と、とりあえず居留守でいいかな。


「結弥君帰ってきてるのは知ってるんだよ。居るんでしょ、品川さんが呼んでるよ」


 なるほど、ノックの主は美咲さんで、用事は呼び出しの伝言だったか。とはいえ、今はゆっくりしたいし……無言を貫くか?


「居留守を使おうとしても駄目だからね! お爺さんから聞いてるんだよ。今日は一日、家でゆっくりしているはずだって」


 おっと、既に爺様から情報を得ていたか。これは出るしかないか。


「はぁ……折角の休みなのにゆっくりも出来ないか」

「ごめんね? 私も呼んで来てって言われただけだから、何か解らないんだけど……」

「まぁ、これは品川さんに抗議するしかないな。よし、虫系素材を大量にお姉さんの前にプレゼントしようか」

「……それは流石に止めてあげて?」

「まぁ、冗談だよ。それにしてもどんな話だろうね」


 そういえば、美咲さんと会話するのも久々か。協会へと行くまでの間にお互いの状況やら、他愛も無い話をしながら行くとしますか。




 協会に入ると随分と人が居ない事がわかる。現状だと動けるメンバーの殆どは、ダンジョン前の拠点に出張中だ。それ以外も、村周辺の警邏や川岸の拠点に居たりするので、協会で待機していられる環境じゃないって事だな。

 そんな協会内で職員さん達に挨拶をしながら、真っ直ぐ品川さんが仕事をしている執務室へと向かって行き、ドアを豪快に開け少しだけ嫌味をこめて挨拶をしておく。


「お久しぶりです品川さん。〝休み〟の中での呼び出しですが、一体なにが有ったんですか?」

「白河君久しぶりね。それと、急に呼び出して悪かったわね。少し意見が欲しかったのよ」


 余り嫌味は通用してないみたいだ。まぁ、俺も本気で言ってる訳じゃ無いし、すぐさま謝罪を受けたからな。これ以上は不毛ってやつだ。


「それで、どんな内容です?」

「これ何だけどね……どう思うかしら?」


 そう言って品川さんが机の上に置いた物は、片手でも持てるサイズの円柱状の物。どこぞのロボットやSF映画に出てきた武器の用な形。


「これって……まさかとは思いますけど」

「えぇ……研究班がね、悪乗りして造ったみたいなのよ。ただ、使える人が居なくて、もしかしたら魔法が使える白河君なら? と思ってね」


 手にとって調べてみる。別にスイッチとかがある訳でも無い。ただ、片側に魔石が埋め込まれている事が特徴だろうか。

 とりあえず魔力を流してみるが、魔石が光る程度で他に反応がない……さて、如何すれば良いんだろう。


「やっぱり魔石が光るだけね……暗闇でライトになるぐらいかしら?」

「ちょっとまって下さい」


 今度は魔力を流すだけでなく、魔法を使う感じでやってみる。イメージは武器に魔法を纏わせる感じだ。とはいえ、風だと解り難いだろうから……土でいいか。


 魔法を使う感じで魔力を流していくと、装着された魔石が更に輝きを放つ。そして、その光が収まると、普通より大きいサイズの石玉魔法が、魔石の部分から出て来るような形で固定されていた。


「……成功ですかねこれ?」

「一応成功じゃないかしら? 見た目が片手の石で出来たハンマーって感じだけど。何か他に無いかしら?」

「そうですね……」


 色々試してみる。この状態から飛ばす事は出来ないみたいだな。振り回してみると重さは感じない。軽く地面を叩くと、コンコンと音を鳴らす。という事は、しっかりと物理的な反応が有ると言う事だな。

 石玉を剣鉈の柄で叩いてみると、少し欠けたが直ぐに修復されていった。ふむ、修復可能な武器にもなりそうだ。


「とりあえず、飛び道具には出来ない、軽い、威力は解らないけど打撃武器に使えそうですね。さらに、自己修復つきですが……想像以上に魔力の消費が高いって事でしょうか?」


 うん、これ予想以上に魔力を食う。発動時と石玉が削れた時の修復時に魔力を武器に吸われた。それ以外の維持では魔力を消費しないみたいだけど……常時使うのは無理な道具だな。


「なるほど……それじゃ、魔力の消費を押さえる事が出来れば使えるかしら?」

「そうですね。かなり便利だと思いますよ」


 とはいえ、研究班は大量にゲットできたオークの魔石を前に、自重できなかったのか……この分だと他にも色々やらかしてそうだ。


「時間がある時で良いから、よかったら研究室に足を運んであげてもらえるかしら? 正直魔石を自由に使われるのも困るのだけど、ある程度許容しないとモチベーションを保てないからね」

「あー……あの人達完全に趣味人ですからね。まぁ、改良されればかなり良い武器になりそうですし、俺としても付き合うのは問題ないですよ」


 などと言ってみるも、実は心の中ではスキップ状態だ。こんな……こんな、男心を打ち抜く武器を作り出すなんて、さすが研究班と言ったところだろう。

 それを改良できるのであれば、徹底的に付き合うべきだ。うん、これは誰がなんと言おうと正しい判断に違いない。

 そう言う訳で、俺は研究室に入り浸るぞ! 浪漫武器の作成を次々と手伝ってやる!!




 そんな思いで研究室に居座ったら、家族の皆に怒られました。うん、折角村に戻ってきてるんだから、もっと皆で過ごすべきだったね。まぁ、怒られはしたが、そのお陰で自分専用の武具が幾つか開発できたのは、結果的には良かったはず。

 その武具を使う所を妹達に見せることで、お許しを受けたしな。というか、ゆいがめっちゃキラキラした目で、魔法武器を見てたけど……魔法が使えないと反応しないって解ったら、凄く残念そうにしたが、すぐさま魔法を覚えたい! と騒ぎ出した。

 まぁ、ダンジョンで魔本を手に入れるか、魔法無しでも使えるよう改良するしかないと話をして、落ち着かせたけど、あれは諦めないだろうな。その内、研究班に何とかしてもらおう。魔本は……覚えるべき人が多いから、ゆいの分を手に入れるのは当分先だろうし。


 そんな時間を過ごしていると、ダンジョン前の拠点から伝令が来た。

 どうやら、瘴気の中和が出来るようになったらしい。……この武具を試すのはダンジョン内になりそうだな。とは言え、どうやって中和する事が出来たんだろう? 向こうに行ったら聞いてみようかな。

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