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百二十一話

 トンネルの先を探っていた残り二つの部隊も帰還してきた。彼等の報告は、トンネルの先には行き止まりだったようで、部隊を編成する必要も無いようだ。唯一あったのは、オークの死骸だけ。なので、其処から魔石と素材を回収してきたらしい。


「トンネルを掘っただけって事ですかね?」

「小屋で五匹の場所が二箇所に、大掛かりな拠点を作ってた場所が二箇所あったからな。拠点を作るためにトンネルだけ準備してたんだろうな」


 オーク達は二箇所ずつ拡張してたんだろうな。どういう理由で同時だったのか解らないが、拠点開発速度的に間違いないはずだ。

 そういう訳で、二箇所は放置して良いという事に、更に二箇所は制圧済み、残る二つも現状だと討伐隊と捜索隊を組んで作戦実行中なので、今は彼等の帰還待ちの状態だ。


「捜索隊の方は時間が掛かるだろうからな。その間に此処の拠点を拡張していくのが良いだろうな」

「そうですね、瘴気を如何にかしたらダンジョンに突入という事になるでしょうしね。はぁ、ダンジョン前にあった施設は瘴気に沈んでますからね。残っていれば便利だったんですけど」

「無いものを言っても仕方ないさ。それに、また瘴気が出ても良いように、瘴気に沈んでいないこの位置に作っておいたほうがいいだろ」


 正常化のシステムを再現できるようになれば大丈夫だと思うけど、念の為にというのは必要だろう。

 それ以外にも、またダンジョンからモンスターが溢れる事が有っても良いように、色々開発しておく必要もあるだろうな。壁や迷路みたいなのを用意しても良いだろう。

 それと、瘴気が低い所に進んで行く事も解っている事だし、堀やら水路ならぬ瘴気路でも作って置くのも良さそうだ。

 とりあえず、その事を入谷さんに相談してみるか。


「……そうですね。ダンジョン用拠点を作るのも必要ですが、色々と作っておきましょうか」

「それなら、モンスターを嵌め殺せる仕掛けでも作ったほうが良いだろうな」


 段差を利用して一方的に攻撃できるようにしたり、天井に隠れて隙間から一方的に攻撃したり……うん、歴史的にみてよくある作りだな。

 まぁ、ダンジョンから溢れた場合の対処だから、それぐらいは必要だろうな。

 とは言えそれは瘴気が何とかなった後だ、現状は今キャンプとして使ってるこの拠点を、しっかりとした造りにする必要がある訳で。


「先ずはこの場所の壁を強化して行く所からですかね。今だと簡易で木壁作ってあるだけですし」

「それなら、材料を集めてくるか。街に行けば十分にあるだろうから、取ってこさせるか」

「瘴気の範囲は地図用の透明シートに描いてありますから、先ほど言っていた内容も設計しておきましょうか」


 そう言って入谷さんが、地図と透明シートを取り出しもう一枚の透明シートを上に被せ、守口さんと色々相談しながら必要になる物を記入して言っている。


 それにしても、現状だとやる事が殆ど無い。ふと気がついた事を入谷さん達に話をしに行く程度だ。

 それ以外だと地下の拠点を片付ける作業も、殆どが終っているので、戦闘班は外でモンスターを狩るぐらいしかない。

 まぁ、今二人が話をしている内容が本格的に始動すれば、やる事も一杯増えるはずなんだけどな。素材の輸送もあるから、作業に入るまでもう少し時間が掛かるのは間違いがない。


「そう言う訳で守口さん。俺達の戦闘訓練をしてもらえませんか?」

「ん? この間、隠密訓練をしたと思うが、それ以外にも必要だったか?」

「はい、一番必要なのが、盾の使い方ですかね。俺達の方だと盾を使って来た人が居ないので、手探りなんですよ」

「なるほど、確かにニ十層以降になると特にだが、盾を使えるメンバーが居れば随分と楽になるからな」

「オーク達の部隊と戦った時も思いましたけどね……やっぱ、ガード出来る人間は必要だろうと」


 盾を持つだけなら出来るだろうけど、それだけだと盾が簡単に壊されてお終いだろう。

 そこで、守口さん達に教えを請う訳だ。彼等の盾捌きは何段も上の領域だったのは、キングとの戦いで実証済みだ。モンスター素材を使わない、ただの盾でかなり時間を稼いだ上に、モンスター素材の盾を使えば最後まで、盾使いとして仕事を全うしていた。

 そんな彼等から教えを受ければ、村側の戦力もアップする事は間違いない。


「それで、どうでしょう? 教えていただけますか?」

「まぁ、丁度手が空く奴等も出てくるからな……それに、お互いの戦力が上がるのは長い目で見て絶対に必要な事だ。断る理由も無い話だな」

「ありがとうございます!」

「なに良いって事だ。此方も装備とかを用意してもらう話になっているからな」


 守口さん達が話が出来る人達で良かった。最初は手紙に無反応だったから、如何したものかと思ったけど……警戒されていたから仕方なかったんだろうな。

 さて、盾の使い方もだけど、他のメンバーには連携の訓練も必要だろうし、モンスターの知識等も必要だ。色々とお話を聞いてみる事も必要か。


「そういえば、ダンジョンって如何いう判断で国が管理する場所と、民間に委託した場所を決めてたんですか?」

「あー……極秘事項なんだが、こんな状況になったらもう関係ないか。そうだな、戦略物資や命に関わる食べ物等、安定供給に必要な場所は国が管理してたな」

「……その割には、此処の魔石ダンジョンは民間でしたけど?」

「それはな、此処以上に魔石が取れる場所があったのさ。良質な石炭が取れる場所や調味料なんかも、優秀なダンジョンは安定供給の為に俺達が潜っていた……が、民間への開放やら、それでも足らない事もあって、最終的には値段が上がっていったんだけどな」

「あー……たしかに、何倍も上がってた物もありましたね」

「それと、民間じゃ戦えない敵が出る場所も我々が潜っていたな。モンスターの強さが半端じゃない所とかだな……まぁ、そう言う場所こそ質の良い物資が入手出来た訳だが」


 確かに、魔石だけでみても強くなればなる程、大きく質が上がっていくからな。他の素材もそういう事なんだろう。

 それにしても、そう言った理由で開放を拒んでいたって事か。あの時は本当、開放と言う空気で物が一切見えてなかったんだな。……俺も、あの空気でダンジョンに入ると、死傷者が出るだろって事ぐらいしか見えてなかったし。


「とは言え、開放したからこそ現状戦えている人間も居る訳だから、我々としてはなんとも言いがたい気分ではあるな」


 確かに、ダンジョンに潜る事が無ければ、今頃は死んでいたか、シェルターの中でガクブルと震えていた筈だ。シェルターに逃げたとしても……何時かは食糧不足で結局は死んでたか。

 まぁ、元自衛官としては複雑かもしれないが、俺としてはダンジョンに潜れた事は結果的に、良かったって事になるな。


「さて、他に聞きたい事はあるか?」

「そうですね……では……」


 この後、守口さんに様々なモンスターの特性やダンジョンについて聞いていった。

 モンスターに関しては、入谷さんや品川さんすら知らない情報を耳にする事が出来た。一緒に聞いていた入谷さんも、目を丸くしてメモ用紙に記入していたな。

 ダンジョンについては、主にトラップ等の話。どうやら、ニ十層に至るまでのトラップは、どのダンジョンにも殺傷能力が高いモノは無い。二十層からトラップの本領発揮という事だそうだ。

 このトラップに関しても、発見や解除の為の教習を頼むと、快く受けてくれたので行き成りトラップに嵌り、死亡する人がでる事は少なくなるはず。


 こうして着実と、ダンジョンに対する知識と訓練を積んでいく事となった訳だが……一つ問題があるとすれば、イオはダンジョンに入って大丈夫なのだろうか? という事だ。

 外に出たモンスターがダンジョンに戻った場合、また敵対するのではないだろうか? 等、色々と考えてしまう事がある。これは一度、コボルトのズーフに会う必要がありそうだな。


 それとは別に気になっている事があるんだけど、村で爺様や母さんや妹達は今どうしてるんだろうか? 我慢できなくなって、狩りに飛び出したりして無いだろうか? まぁ、爺様やゆりが全力で止めるだろうけど……モンスターの脅威を認識する為の教育の話もまだ途中だったしな。

 一度、村に戻りたいけど、戻って大丈夫かな? とりあえず、入谷さんと話をしてみるか。

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