百十八話
トンネル先の調査準備と主人公(と調査部隊)のプチ強化イベント。
猿型モンスターを相手に、森の中でソロ行動の感覚を取り戻すべく行動中。
やはりと言うべきか、単独での行動は鈍っていたみたいで、微妙な差だけどほんの少し反応に遅れている。以前なら、一拍子ほど早く察知してから行動出来ていた筈なんだけど……最近は専らパーティーでの行動をしてた上に、どちらかと言うと補助行動ばかり取っていたからな。
戦闘時における意識の違い……味方の行動を見て、穴を埋めるためにフォローをしたり、牽制射撃をする。確かにこれは大切だ。ただ、パーティープレイをする様になる前は、絶対に気がつかれない様行動して、相手の意識外から一撃で葬り去る。
敵を見つけた時、咄嗟に意識をするモノがこれだけ違うと、初動にどうしても差が出来てしまうからな。そう言った意味では、随分と感覚の違いに振り回されていると言うべきだろうか。それとも、単独行動のやり方が鈍ったというべきか。
「まぁ、直ぐに意識修正しないとな。オーク相手にはこの状態は辛いよな」
現状の自分についてを再確認。其処から一つずつ意識を変更して行き、動きと判断を素早くしていく。
そもそも、ダンジョンに潜っていた頃なら、もっと自分の気配を薄く、そして相手や周囲の変化や気配に鋭く察知が出来ていた筈だ。
確かに以前と比べて能力は上がった。ただ、其れを十全に使えているかと言えばまた別の話で、上がった分だけ自分の気配も濃厚になっている。それを限りなく薄くするのが実に難しい。
「くっそ……この距離で猿に気がつかれるとか、どれだけ鈍ってるんだよ」
猿との距離は五メートル程だろうか? この距離で一足飛びに奇襲したとして、猿なら倒せるがオークじゃ無理だろうな。何せ、オークなら感覚が猿よりも鋭い。奇襲をするならば、他の事に気を取られて無い限り確実に失敗する。まぁ、遠距離での狙撃なら別だろうけど。
「戦闘中だったからこそ、キングや上位相手の強襲は成功してたんだよな」
兎に角、今は猿相手に裏取りが出来るようにならないと……単独行動は心許無い。まぁ、キング達と戦ったからなのか、猿相手は楽勝ではあるからな。正面戦闘でも数匹ぐらい楽に倒せるから、本当に隠密行動だけが問題だ。……もしかしたら、奴等を大量に倒したからこそ、気配が更に濃厚になってる可能性もあるか……修正が大変だ。
結構な量の猿を倒した頃には、すっかりと日が落ちてきた。なんと言うか、モンスターが居る環境で野宿も久々過ぎる気がする。当然ソロでと付く訳だが。
たしかに、壁の無い環境でキャンプはやっていたが、それは全てイオがいる状況下でだ。当然、イオの索敵能力や気配察知能力が鋭いお陰で、簡単に警戒を解く事が出来たので、疲労度は其処まで溜まらなかった。
「当たり前にやってた事なんだけどな。こうも難しく感じるようになるとはね」
今夜はきっと休める暇が無さそうだ。ぐっすりと寝てはいけないし、垂れ流す気配もまだまだ薄いと言えない、恐らく夜戦を数回こなす事になるはず。
「ま、其れも良い訓練になるけどな」
此処は良い方向に捉えておこう。とはいえ、訓練で疲労を溜めすぎたら調査に支障が出るからな……村に帰って休めるよう調整も必要か。
覚悟をしつつ野宿の準備。ダンジョンの時とは違い相手は猿だから、木の上での就寝は無理だろう。となると、攻めて来る方向を絞れるのが一番だ。
先ずは、土魔法を使って三方向に壁を造り、木で天井にし簡易拠点を作り上げる。
それから、入り口附近に焚き火を用意して火を点けておく。火自体はモンスター相手だと恐怖の対象とならないのだが、入り口にあると簡易トラップにはなる。誰も燃え盛る火の中を突き進んで行きたくは無いからな。
それに、鳴子も用意してあるから、モンスターが接近すれば直ぐに気がつける筈。後は此処で待ち伏せ作戦で良いだろう。この状態だと、オークぐらいまでなら楽に戦えるだろうな。流石に、オーガとか上位オークは無理だろうけど。
少し寝てはほんの少し起きてを繰り返しつつ夜を過ごしていると、鳴子が反応しモンスターの接近を知らせる。
其処から戦闘に発展したのは、回数的に半分ぐらいだが、全て猿の襲撃だった為に楽に対処が出来た。
とは言え、やはり確りと睡眠が取れないのは厳しいな。鳴子が反応する度に目が覚めてしまい、逆にストレスになった。
楽だった戦闘自体は、火に巻かれて逃げる猿やら、焚き火を飛び越えるも落とし穴に落ちていく猿と、罠とも言えない罠に引っ掛かったのが多数だった。直接戦闘をした数は両手で足りるぐらい。
「戦闘では疲労しなかった事だけが救いかな? それにしても、野宿で此処まで疲労するとはね」
日が昇りつつある時間帯になって、漸く一安心と言った所だろうか。
まぁ、休むだけなら薄くしている気配の濃度を戻せば、あいつ等がイオを察知して逃げ隠れした時のように、近づいてくる事も無かったかも知れない。ただ、それだと訓練には為らないからな。
まぁ、明らかに中途半端な気配が漏れていた為に、あの猿共も夜中に襲撃して来たんだろうな。もっと気配を消すことが出来ていれば……襲撃も無くなっていたか、その数を減らしただろうから、本当に訓練不足と言ったところだろう。
「とは言っても、連日連夜訓練する訳にも行かないからな……今日以降だと何時呼び出しが来るか解らないから、ダンジョン前拠点に戻っておくか。幾分かはマシになってる筈だし、後は街から出張してる人に見てもらうしかないか」
本当に時間が無いのが残念だが、こればかりは仕方が無い。入谷さんの指定した日程がキリギリだったからな。とりあえず、簡易拠点の片付けをして戻りますか。
ダンジョン前の拠点に戻ると、其処には大量の魔石を積み上げながら議論する、入谷さんと守口さんの姿が確認出来た。
「分配も一度は持ち帰り相談する方向で良いと思うんですけどね」
「確かにそうかも知れないが、我々も少し持っておきたいのだよ。魔法や爆弾として使うのに必要だからな」
「そうかもしれませんが、キング相手に使った魔石を持ち出したのは私達ですから、その分は先ず差し引いてですね……」
交渉にかなり熱が入っているみたいだ。此処は戻って来たという事を伝えにいくのは後回しでいいか。
先ずは、猿から取り出した魔石を魔石保管庫に入庫しておく。その際に魔石の数は監理している人と一緒にチェック。魔石は重要な物資で数の間違いがあると大変なので、数人でチェックをする体制だ。
「猿系の魔石だね。彼等の素材は如何したんだい?」
「食用にはなりませんし、武具の素材にもオークが大量に入った現状だと必要ないですから、魔石だけもらって、後は確りと処理しておきましたよ」
「なるほどね。まぁ、モンスターの死骸を処理したモノって、新種の植物の栄養源になるからね……其のまま放置すると、色々と面倒な事になるけど」
そうなんだよな。奴等の亡骸って放置すると、虫系モンスターの温床になるんだよな。
前に、ゴブリンの拠点を殲滅した時だけど、魔石を取った後にゴブリンを一箇所に集めておいて、その後に火葬でもしようとしたんだけど、油が無くさらに違うモンスターの奇襲があり、処理を忘れたパーティーがあったんだよね。
その時、ゴブリンの死骸の山が虫系モンスターの温床となって、虫型モンスターが大量発生。その討伐にかなり苦労した事があった。
それ以来、モンスターの死骸は絶対に処理するべし! っと、協会で合言葉になっているほどだ。
「あの虫モンスターは本当……頭が痛かったからね。街側にもその話はしたんだけど……理解してもらえるかどうか悩ましいね」
あの、大量に量産されている虫を討伐する苦労は、やってみないと解らないからな。そもそも、ダンジョンだとそう言う風に虫型モンスターが湧く事は無いはずだから、幾ら三十層まで潜っている人達でも、見たことが無いんじゃないか?
あの……ハエっぽいモンスターを相手にしようと思ったら、虫系ダンジョンでも見つかってないと、お姉さんが言ってたしな。
あの空中機動やらその量やら……本当にありえない! と叫びたいレベルだったモンスターだ。出来れば、もう二度と見たく無いけど……人が外で生活できるようになれば、奴等も増えそうで怖い。処理せず放置する人とか出てきそうだしな。
「まぁ、現状は問題無いし! なるべく色々な人に知らせておくしかないけどね」
出来れば少量で実験でもしてもらって、其れを全ての人に見てもらうのが早そうだけど……グロいと言うか、そんなの見たくないよな。まぁ、今は認知度を増やしていくしかないだろうね。モンスターの死骸は確りと処理するべしって。
そんなやり取りをした後に、入谷さん達がいた方向へと戻ると、どうやら話し合いは一応終ったらしく、今は和やかにお茶を飲んでいた。
「おや、白河君戻りましたか」
「ただいま戻りました。まぁ……大分勘は取り戻したかな? マシには為ったと思いますよ」
「それは上々ですね。とはいえ、まだ物資は用意出来てないのですが、どうしますか?」
「そうですね。守口さんにお願いがあるんですけど」
「お? どんな話だ?」
守口さんが話を聞いてくれる姿勢を取ってくれたので、隠密行動について、元・自衛隊の人からみてどんな感じか指摘して欲しい旨を伝える。
「おー……そんな事か。それだったら、今回同じ任務をこなすメンバー全員を見てやるぞ。実際……オークの拠点が有るとすれば面倒な事に為りかねないからな」
「……其れは助かりますが、他のメンバーに関しても宜しいんですか?」
「気にするな。この件は我々の安全も兼ねているからな。また、オーク共が強化されてこちら側へと向かって来たら、実に迷惑な話だろう? それなら、調査協力共に拠点襲撃にも手を貸すぞ?」
「なるほど……利害が一致という事ですね」
其処からは、また入谷さんと守口さんによる、トンネルの先をどう調査するかの話し合いとなった。
そして、俺と共に村の調査部隊と言える影山さん達も、物資が届くまでの間、彼等から色々と教えを受けて、かなりのレベルで技術を高める事ができた……はず。
まぁ、教えてくれた人達も満足していたので問題は無いだろう。とはいえ、まだまだ付け焼刃と言えなくも無いからな、実際にモンスター相手に使ってみて解る事もあるはずだ。
そして、全ての物資が届いたため、最後の作戦会議をし、調査へと乗り出す。
まぁ、作戦と言っても、如何行動するかという事なんだけどな。
見つかったトンネルが全部で七個。その内二つは俺達が既に潰している、瘴気の入り口とオーク地上拠点だから放置。
残りの五つのうち、俺がソロで一つ、街側からの派遣組みで二つ、影山さん達で二つを調査。
そして、トンネルの先にオークの拠点が在るならば、出来るだけ調査、難しいなら即撤退。絶対怪我人を出さないように、と其れぐらいの話だった。
正直オークぐらいなら潰せそうな気もするが、上位がいる場合や数がかなり多い場合もあるだろうから、報告優先という事だろう。実際……村に襲撃してきたオーク達の数は異常だった訳だし。
まぁ、準備と訓練はしっかりやった後だからな、後は現地で行動するのみだ。
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